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冥王来訪

作者:雄渾
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第三部 1979年
反ソ連合結成
  外交特権 その3

 
前書き
 すいません。
今回は短めです。 

 
 NSDAPの副総統ルドルフ・ヘスは、自室で何時ものようにベットに横たわっていた。
 彼は、ニュルンベルク裁判で有罪判決を受けた7名の戦犯の最後の囚人だ。
西ベルリンのシュパンダウ区ヴィルヘルムシュタットにあるシュパンダウ刑務所に服役していた。
 かつてここには同様の判決を受けた6名の戦犯がいたが、既に出獄が許され、残るはヘスのみとなっていた。
 独房の一つへ、暮夜密かに向かう一群がいた。
男たちは、独居房の鍵を開けると、ベットに横たわる老人をたたき起こした。
「囚人7号、出ろ」
 入ってきたフランス軍憲兵の姿を認めたルドルフ・ヘスは、自分の置かれた状況を理解した。
何時もの身体検査だろうと。
 ヘスは囚人服のまま、浴室に連れ出された。
沐浴と散髪を終えた後、マイゼルのソフト帽にヒューゴ・ボスのスーツに着替えさせられる。
そして目隠しと手錠をされたまま、車に乗せられた。
(注:マイゼルはドイツで200年近く続く帽子メーカー。ヒューゴ・ボスは、同名のデザイナーが創業したドイツの高級スーツブランド)

 既に高齢と病気のために弱っていたヘスに、抵抗する気力はなかった。
1960年代の頃であれば、激しく抵抗し、周囲を困惑させたであろう。
 車が止まると、ヘスは後部座席から降ろされた。
目隠しと手錠を解かれた彼は、ここがテンペルホーフ空港であることが信じられなかった。
 大勢の出迎えの人々も、ヘスを驚かせていた。
 子息のヴォルフ、1947年以来の親友で回顧録の出版に協力してくれたユージン・K・バード米陸軍大佐。
戦後久しく会っていなかったヴィリー・メッサーシュミット、囚人仲間でもあったカール・デーニッツ提督。
 何よりもに驚いたのは、側に留まった車から翩翻とする日章旗の存在であった。
かつての同盟国がなぜという疑問もあったが、自由の身になった彼にとってそれはどうでもいい事だった。

 ニューヨークの国連本部前に、防弾装甲仕様のリムジンが止まった。
車種は黒塗りのメルセデス・ベンツ・W100で、中に乗るのは国連総長のワルトハイムである。
 トンプソン短機関銃を構えたニューヨーク市警の制服警官が巡回した後、美人秘書と共に総長は本部ビルに入った。
いくつもの厳重な保安検査(セキュリティーチェック)を受けた後、事務総長室に入った。
 部屋に入ると既に灯りが煌々と燈してあり、いつもと様子が違うことが分かった。
そして机の上には、長いコートを着た男が腰かけており、タバコをふかしながら彼の事を見ていた。
 部屋の中には、彼の他にトレンチコート姿と裃姿の東洋人それぞれ3名。
あとは背広姿の白人の老人が2名、その他にはミンクのロングコート若い女だけだった。
「何だ、貴様は」
 ワルトハイムは、東洋人の青年に訊ねた。
護衛官たちが、一斉に前に出る。
「国連の未来に憂慮を持つ男さ」
 東洋人の男は周囲の喧騒がまるでなかったかのように話を続けた。
護衛官たちが一斉にFN ブローニング・ハイパワーを男に向ける。
「私が撃てと命じたら、どうなる」
 ワルトハイムは、不敵の笑みを浮かべた。
しかし東洋人の男は焦らなかった。
「お前たち、例の物をみせてやれ」
 彼の声に、男たちは一斉に上着を脱ぎ去る。
それと同時に、体に巻き付けられている無数の薬包紙筒が目の前に現れた。
 帽子姿の男が、ワルトハイムに問いかけた。
手には、すでに火のついた導火線が握られている。
「事務総長、我々の体に巻き付けたTNT火薬は、国連本部を破壊しますぞ」
 ワルトハイムは、それまでに見せたことのないほどの狼狽の色を顔に表した。
「うおぉ」
「皆で、御一緒に、地獄に参りましょうか!」
 そこにいたのは、既に国連総長ではなかった。
命乞いをする哀れな中年の男であった。
「わ、わかった」
 一斉に護衛官たちは拳銃を下に置く。
彼等と秘書を部屋から追い出した後、ワルトハイムは東洋人の男に訊ねた。
「要件はなんだね」
「お前と話したい人物がいてな……」
 東洋人がそういうと、それまで座っていた老人の一人が立ち上がった。
ワルトハイムは、その容姿を見て、驚いた。
相応の年嵩(としかさ)を経てはいるが、NSDAPの副総統が目の前にいたからだ。


 場面は変わって、米国カリフォルニア州ロサンゼルス。
そこにあるノースアメリカンの本社では、ある資料の分析が行われていた。

「主任、こいつをどう思いますか」
 青焼きの図面を前に技師の一人は、横に座るハリソン・ストームズに問いただした。
「なんだ、いきなり」
 ハリソン・ストームズは、ノースアメリカンの社員で、アポロ指令船の設計・建造管理に携わった航空技術者だ。
 技師の一人が広げた図面は、ドイツ語で書かれており、ソ連で使われる印刷の形式だった。
「ゼオライマーは、辛うじて納得できる技術の範囲です。
ですが、その設計思想は完全に異質ではありませんか」
 ストームズは、タバコに火を点けた。
「それは……確かに根本から戦術機と構造が違うが。
それが何故、設計思想の話になるんだ」
 険しい表情で図面を見つめる技師に対し、ストームズが問い返す。
技師は青焼きの図面の一部分を指した。
「主任は少し勘違いされているみたいですね。これをご覧ください」
 それは、前腕部の関節の構造が詳しく記された図面だった。
1978年の1月に西ドイツのハンブルグ港で陸揚げした際に、シュタージの工作員が写真撮影した物から起こしたものである。 
「この機体は、BETAとの戦闘を想定して設計されたものではないでしょう。
恐らくゼオライマーと同程度の機体、あるいは通常兵器と戦う事を想定して設計されていると類推できる点です。
合衆国ですら、想定していない設計思想や能力が、この機体には備えられているのです」
 ストームズは鼻白んだ。
何を分かり切ったことを言っているのだと。
「それだけではありません。
後継機のグレートゼオライマーには、不自然な接続や内部スペースが存在するという事です」
 言いながら技師は、手早く別の図面に取り換えた。
今度の図面は、日本語と英語で書かれており、形式は日本の官庁に提出するものだった。
「内部スペース?」
「ミサイルランチャーらしきものが……」
「つまり、核かね」
 技師の突飛な発言に、ストームズは困惑しながら、何とかそれだけを口にする。
彼は決して、愚鈍な人間ではないが、流石に核ミサイルを搭載するとは想像の埒外だったのだ。

「新技術ばかりに、目が向いてしまいますが……
木原博士の奇妙な点は、我々が持っていない概念を成熟した状態で世に送り出している点です。
博士が設計したとされる次元連結システムなど、そうでしょう。
異なる空間からエネルギーを転送させて、機体を運用しようなんて、想像できても実行できませんし……
何より実用化までに、どれだけの予算と時間が掛かるか、想像も付きません。
ですが、1977年7月7日に甘粛省に現れた段階では、既に機体が整えられていて、即時稼働できるだけのシステムが出来ていた。
この際、はっきり言いましょう。
木原博士は、本当に我々と同じ世界の人間なのでしょうか」
「木原マサキという男が、化け物だとでも言うのか」
 技師の真剣な表情に、ストームズは言い返した。
ストームズの言葉に、技師は肩を竦めて答える。
「もしそうなら、人類は終末を迎えるかもしれませんね。
別な化け物の力に頼って、宇宙怪獣と戦ってる訳ですから。
でも案外、そうかもしれませんよ?」
「どう言うことだね」
人類に敵対的な異星起源種(BETA)が居るなら、友好的な異世界人がいてもおかしくないんじゃないかってことです。
どっちにしても、木原博士には気をつけた方が良いでしょうな」
 今一つ理解できていないストームズに対し、技師は真剣な表情で告げる。
「人間の姿形をしていても、彼が私達と同じ論理で動いているとは限らないという事です。
もし彼の逆鱗(げきりん)に触れてしまって、我等の敵になられてしまった……」
 逆鱗とは、龍の顎の下に1枚だけ逆さに生えている鱗のことである。
この鱗に触れると龍が激怒して人を殺すことから、君主や目上の人物の怒りを買う事を指す言葉である。
 技師は、ゼオライマーの圧倒的な力を前にして、そう答えるしかなかったのだ。
「それはそれで、恐ろしいという事です」
 ハリソン・ストームズは、1960年代後半の月面奪還作戦の苦い記憶を思い起こしていた。
3年にわたる月面戦争で、少なからぬパイロットや部下たちを死なせてしまったからだ。
 天のゼオライマーの援助なくして、人類はこれほど早くBETAを地上から排除は出来なかったろう。
ただ気になるのは、木原とゼオライマーは、扱いを間違えれば、人類を滅亡に追い込みかねない力を持つという点だ。
 ストームズはタバコに火を点けながら思った。
月面攻略が終わった後、いずれは米国と木原の対決は避けられないと考えるのであった。 
 

 
後書き
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