あかぬいろかは
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
あかぬいろかは
前書き
二筋樋✕亀甲。直接描写はないけどほんのりエロ。
暖かい褥で亀甲は目をさました。柔らかく甘い薫りは、すぐそばで眠っていたはずの『彼』の残り香。
「二筋樋…?」
気だるい身体を起こせば、雪見障子をあげて月夜が照らす椿の庭を眺めている姿がある。普段は凛々しく着こなす青いシャツも白いネクタイも外し、白いジャケットを肩羽織りにした半裸というラフな格好。
刀剣男士の嗜好品として万屋街で簡単に買える疑似煙草を、ゆったりとした仕草で吸っている。
「起きたか。来いよ」
熱のこもる身体を起こして亀甲は、乱れていた寝巻を正し枕元に置かれた眼鏡をかけてからゆっくりと二筋樋に歩み寄った。普段は煙草を吸わない亀甲ではあるが、座っているだけで色香を放つ二筋樋に魅入られるようにそばに座る。
「分けてもらってもいいかな」
「構わない」
月夜の薄明かり、閨で2振りきり。差し出された煙草を亀甲が口にすると、華奢な顎を掴んで引き寄せ、二筋樋は火を直接渡した。
お手本のようなシガーキスに、亀甲の白皙の頬が朱に染まる。
「手慣れてるんだね」
「ノーコメントだ。口を割らせるのは得意だが、こちらから口を割るようなヘマはしない主義だからな」
口内に広がるミントフレーバーを、ふーっと吐き出す。
「ふふっ。そういうところ、嫌いじゃないよ」
しばらく黙って、庭を眺めながら一服する。ひとときの熱情の後だとは思えないほど穏やかに、静かに。
不意に亀甲が、二筋樋が腰に提げている手錠に触れる。
「これ…使ってくれないかな。そういうの興味あるんだけど」
「駄目だ。閨での手荒な真似は好まない」
「飾りなの?せっかく持ってるのにもったいない」
「そうじゃない。お前には使いたくないだけだ」
少し不愉快そうに眉根を寄せて、二筋樋は煙草を消した。灰皿から、名残のように煙がたゆたう。亀甲はややきょとんとして、それから噴き出した。
「おまわりさーん。僕でーす」
「まったく」
亀甲の手から煙草を奪って灰皿に捨てると、機動の高さをいかして畳に押し倒す。動きに遅れた肩羽織りの白いジャケットが畳に落ちる音を亀甲は、意外なほど落ちついた気持ちで聴いた。
「手荒な真似は好まないといっただろう?」
二筋樋の瑠璃色のまなざしが、閨でしか見せない甘さに揺れる。絶世の色香に亀甲は、驚くのも忘れてしまう。それは二筋樋も同じで、亀甲の持つ薄紅色の瞳に熱が灯る様子を初めて目にしてハッとした。
手荒な真似は好まないと言ったそばから、めちゃくちゃに抱きたくなるような色気に酔わされる。すんでのところで深く息を吐き、己を律した。
「すまない」
静かに呟いて二筋樋は、組み敷いた態勢から亀甲を解放した。
「謝らないで。1回抱いたらもういいのかな?」
「そういうつもりじゃない」
立ちあがって、畳に落ちていたジャケットを拾うと肩で羽織った。
「……風呂へ行く。先に寝ていてくれ」
それ以上何も言わずに二筋樋は、部屋を出ていった。切なそうに目をそらした亀甲の視界に、置き去りにされた青いシャツが残されている。
手にすると、煙草の移り香であるミントフレーバーがふわりと薫った。
「……っ」
黙って亀甲は、そのシャツを抱きしめた。
風呂場の手前に、喫煙用のちょっとした小部屋がある。先客がいて、二筋樋は足を止めた。
「山姥切、長義……?」
昔々、政府機関で知り合った仲。監査官と、捜索官として。俗にいうブラック本丸へ踏み込む際に、先陣を切るのが二筋樋のいた部署だった。
「…二筋樋貞宗か。珍しいな、ラフな格好とは」
白いジャケットを肩で羽織っただけの半裸、普段きっちりと装備しているベルト式のホルスターも外した姿。
「ちょっと訳ありでね。」
「まあ、一服どうだ?」
長義のほうから、煙草を勧められる。二筋樋が1本もらうと、流れるような仕草で火をつけてくれた。
「お堅い監査官殿にしては意外だな。少しは大人になったのか」
「まあね、そこそこやれなきゃ政府機関を渡っては行けない」
「違いない」
大人の会話は、それ以上は互いに踏み込まない。先に煙草を消したのは、長義だった。余韻のように、溜め息と同じ長さの煙を吐きだす。
「さて。もうひと仕事してくるかな」
「こんな深夜に、まだ働いてるのか?」
「月末だからね、書類処理は売るほどあるんだ」
行こうとするのを二筋樋は、手をとって止めた。
「なあ。…《助け》が必要なら呼んでくれ」
その言葉に、普段は冷静な長義がまなざしを揺らす。過酷な任務の中で助けを、かりそめといえど情事として二筋樋に求めてしまっていた若い傷を開かされる。
「この本丸では、そういう事はありえない。では、失礼する」
突き放すように手を振りはらい、薄灰色のマントに軽く風をはらみながら長義は喫煙室を後にした。まなざしが揺れたのは一瞬だけで、その瞳に若草色が燃え立ったのが伺えた。
本科と写しの、写しの色。
写しといえども傑作で、まったく侮れない男の陽炎。
ふう、と二筋樋は息を吐いた。過去を蒸し返すような真似はしたくなかったが、少しからかってみたくなっただけだった。
煙草を消して風呂場に向かう。深夜にしては賑やかな中へ入ると太鼓鐘たち短刀が数名いて、広い湯船でお湯をバシャバシャやりあってはしゃいでいた。
「こーら、湯船で遊ぶのはよくないぞー」
警察官らしく割って入ると、一斉に『あっ…』という雰囲気に静まった。
「遅い時間でもあるし、静かにな」
「「「はーい」」」
《END》
ページ上へ戻る