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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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人間交差点

『……先日アメリカ、EU、赤道連合、日本の首脳陣が2週間ほど前に秘密裏に会議を行っていた可能性が高いことが分かりました。この4つの勢力はISを保有する最も大きな勢力であり、これらの秘密裏の会議となればかなり重要度の高いものと思われますが、未だに4つの外交関係者は関与を否定しており事実確認は取れておりません。しかし情報としては非常に信頼の置ける筋からの………』

「う、嘘……」

 私の手からテレビのリモコンが滑り落ちる。その拍子にボタンが押されたのか、テレビの映像が途切れた。
 それを付け直す気力もなく私は自分のベッドの上にポスン、と座り込んでしまう。

 このタイミングでの4勢力の会議なんて……あの福音のことしかない。
 そしてそれに赤道連合が含まれているということは……
 考えうる最悪の展開が頭の中に広がっていく。
 あれって多分まだ機密だったし……完全に情報漏洩の罪が私にかかってくる。ってことは良くて投獄? 下手すれば銃殺なんてのもあり得る。

 このまま帰らないとか……無理だよね。

「あ……れ?」

 頬に何かが伝うのを感じて手で拭う。そこにあったのは小さな雫だ。そのまま私の視界はドンドン塞がれて行く。

「あれ……あれ……?」

 覚悟なんてしてたはずなのに……どうあっても責任を果たすって、守るんだって意気込んでたくせに! なんで……!

 自分が無力になるのが… 


 自分がいらないと言われるのが…


 友達と会えなくなるのが…


 死ぬのが…


 こわい……コワイ………怖い………!

「う……ひっぐ…」

 止めようと思うのに次々に目から涙が溢れてくる。
 私はその場に蹲って誰もいないのに隠すように両手で顔を覆っていました。箒さんがこの場にいないのだけが唯一の救いです。

トントン

 と、こんな誰にも会わせられない顔の時に誰かが尋ねてきました。
 一体誰が……

「おーい、箒、カルラ。いるかー?」 

「い…ちか……さん?」

 こ、このタイミングで一番会いたくない人に……!
 女性関係に疎いくせに人の機微に鋭い人なんて本当に一番会いたくない人なんですけど!

 そこまで思って気付いた。先ほどまで止まらなかった涙が止まってる?
 はあ……これも一夏さんの力なんでしょうかね。まったく……
 私は立ち上がると扉越しに一夏さんに話しかける。

「はい、なんですか?」

「お、いたか。ってどうかしたか? 声が震えてるぞ?」

「気にしないでください」

「そ、そうか?」

「それよりも、箒さんに何か用ですか?」

「あー、うん、いや。そうじゃなくてだな。実は……」

 何故か急に一夏さんの口調が真面目なものになり……

「カルラ、付き合ってくれ」

…………………

………………

……………

…………

………

……




「…………………はい、構いませんよ」

 一瞬フリーズしかけた頭を回転させてそうとだけ答えた。

「? 今の間はなんだったんだ?」 

「気にしないで下さい」

「よく分かんねえけど付き合ってくれるんならまあいいか」

 天然ってレベルじゃないですねこれ。箒さんいなくて本当に良かったです。誰か一人でもいたらまた巻き込まれてしまいますからね。

「いやー、助かったよ。皆明日帰る準備と部活で相手がいなかったんだ」

「私がいつも暇みたいな言い方はやめてください」

「あ、悪い。そんなつもりじゃ……」

「いいです。気にしてませんから」

 やっぱりISの訓練ですよね。ですよね。分かってますよもう。本当に……

「じゃあ30分後に第2アリーナに来てくれ」

「はい、分かりました」

 ドアの前から一夏さんの気配が消えるのを確認してからその場にへたり込んでしまいます。
 はあ、なんていうかあの人を見てると……どうでもいいような気がしてきます。
 世界で唯一(・・)ISを扱える男性。一夏さんが出てから世界では当然男性向けにISの適正試験を行ったようですが結果は見ても分かるとおり該当者0。
 その重圧なんてなんのその。ううん、というよりも元々感じていないのかもしれない。国という枠に捕らわれないで純粋に自分の為に……人の為に動いているからかもしれない。
 私達代表候補や国家代表はあくまでも国のためという名目で動いてる。どうあってもそこに人の感情が入ってくるからやったことに後悔も出てくるし、やりたくないこともある。
 そういう面では一夏さんが少し……羨ましいかな……?

 あ、よく考えたら私第2形態型のISと模擬戦闘するの初めてかな。
 まあ第2形態に移行してるIS自体が少ないっていうのもありますしね。赤道連合、EU、アメリカ、ロシア、中国なんていうIS国家でもいませんし、開発国の日本でさえ一夏さん以外は一人だけ。
 これは一応チャンス……なんでしょうか?

 あー……こういう時もデータ取りをしようとしてる自分って……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 30分後、第2アリーナ

 目の前には第2形態移行した『白式』を纏った一夏さんがいます。

「では時間制限無しの一本勝負……で本当にいいんですか?」

「おう!」

 一夏さんが右手の『雪片』を構える。左手の『雪羅』は展開せず爪状のまま、ですか。判断は間違ってませんね。
 実弾兵器しかない私相手に『雪羅』のシールドは意味がありませんから。

 それにしても見れば見るほど引き込まれそうな白ですね。
 翼のような4機のスラスターが余計それを際立たせていて、まるで天使みたいです。

「それでは……」

 私は右手に『イェーガン』を、左手に『オーガスタス』を展開して構えます。

「リベンジさせてもらうぜ」

「冗談きついですよ? 模擬戦全敗中の一夏さん?」

「うぐっ! 結構きついな」

「嘘じゃないでしょう?」

 一夏さんは1学期中、同じクラスの代表候補生全員と模擬戦をしてその結果全敗を記しています。相性とか稼働時間を考えれば当然の結果ですけどね。

「今日は負けねえ! てか槍だけでいいのか?」

「人の心配するなんて10年早くないですか?」

「む……後悔するなよ」

「ええ、稽古をつけてあげますよ」

「行くぞ!」

 一夏さんが刀を構えたのを見て私は盾を前に出して槍を右側から突き出すように構える。

「はあああああああああああ!」

 それを見た一夏さんが気合の声と共に飛び出してきた。
 うん、やっぱり早い。3割増とか見てたけどもう少し早いかな。3割5分くらい。
 でも想像を超える速さじゃない!

 身体半分だけ左に移ることで最初の攻撃を避ける。
 振り返りざまに振られた刀身に合わせて盾を構えて『雪片』を受け止める。
 高い金属音が鳴り響くけど重さはそれほど左手に掛からない。

 そのまま私は左手を力任せに押し返すことで一夏さんを体ごと吹き飛ばし、その身体に向けて槍を突き出す。

「はあ!」

「ぐ!」

 一夏さんは崩れた体勢から無理やり身体を宙に浮かべ、地面と身体を水平にすることで回避。
 悪くないです。でもそれは槍にとってはあまりいい回避方法じゃないんですよね。
 私が突き出した右手を振り下ろすことで槍を一夏さんに叩きつける。

「ちぃ!」

 それを見た一夏さんがウィングスラスターを吹かしてギリギリのところで槍を避けた。
 そのまま距離を取るように空中へと飛翔していく。
 うーん、追ってもいいんですけどここは待ちましょうか。第1形態の『白式』ならまだしも第2形態になってからは機動力では負けてしまいますし翻弄されるのが落ちでしょう。
 それに相手から距離を取ってくれたんですから……

 私はそう考えて槍と盾を地面に突き刺すと腰部の『ハディント』と『エスペランス』を引き抜いた。

『おい! 使わないんじゃなかったのか!?』

「そんな条件つけてませんよ?」

 勝手に自分でルールを作ってもらっては困ります。私は使わないなんて一言も言ってないんですから。
 それをみて慌てて急接近してくる一夏さんに向けて引き金を引く。

「……早すぎですね…!」

 第1形態のときはまだ当たっていたのに散弾でも当たらない。せめて私にセシリアさん並の射撃スキルがあったらなあ。
 左右に機体を振りながら一夏さんがさらに加速した。

 ふむ……
 一夏さんが接近しきる前に私は両手の銃を上空に放り投げて地面に刺してあった槍と盾を再び手に取る。

 『雪片』が振るわれてくるのを、盾で防ぐのではなくしゃがむ事で避ける。私の頭の上ギリギリを刀が通過して一瞬後に風を切る音が響き渡った。一夏さんはそのまま私を通過して距離を取ると……

―『白式』のブースターにエネルギー集中を確認―

 来る!

 そう思った瞬間……一夏さんの体が消える。文字通り消える!
 これが……

「『二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション)』……!」

 『瞬時加速』の最中に更に『瞬時加速』を行うことで爆発的加速を生み出す技術。多数のスラスターが増えた『白式』だからこそ可能になった一夏さんの切り札。
 第3世代ISが出来るまでこれを可能とした人は唯一人、織斑千冬その人のみ。ただ……
 来る方向さえ分かっていれば対応できないわけじゃない!
 私が目の前に盾を構えると同時に右手の『イェーガン』を地面に突き刺し、足で地面をしっかりと捉えて、その上で更に『アドレード』を地面に突き刺しスパイクの代わりにする。

 そして……

ゴガァン!

「っあ!」

「ぐあ!」

 とてつもない衝撃と共に私の体が構えた盾ごと吹き飛ばされる。
 『二段階瞬時加速』の全体重を盾で受け止めたせいで身構えていた上半身が思いっきり吹っ飛んだ。『アドレード』を刺した足だけは少し下がったけどその場を動かない。
 対する一夏さんは自身の突進力を全て盾に受け止められた苦痛の声を上げたのが聞こえた。

 声の位置、特定。距離、零距離!

 それを確認した私は勢いで一緒に抜けた『イェーガン』を一夏さんに向けて投擲した。

―『白式』エネルギーemptyを確認―

 か、勝った……

「くっそぉ! また負けかよー!」

 静かになったアリーナに一夏さんの声が響きました。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 少し休憩してから私と一夏さんは再びISを展開してアリーナの中央に集まっています。

「くそ……結局一学期中には勝てなかった」

「その分成長スピードがおかしいんですよ。一夏さんは」

「そうか? うーん……」

 自分じゃ分かってないんですね。そもそも機体だけ強くなってもISは強くなるわけじゃないですからね。

「とりあえず今日の反省点ですね」

「おう、よろしく頼む」

 一夏さんと映像データを共有して問題となる部分を一時停止しながら再生していく。

「まず一夏さんは待ちが足りません」

「待ち?」

 映像を止めて私に向かってくる『白式』を映し出します。

「はい。一夏さんは良くも悪くも攻めて押し切るタイプです。『白式』の特性上それはしょうがないことかもしれませんが、それは相手が乗ってきたらの場合です。先ほどの私みたいに待ちを主流にされると自分から自滅します。あそこは『零落白夜』を切って回避に専念すべきです」

「あー、確かにあそこで変にシールド削られたもんな」

「そして『瞬時加速』が一番問題ですね」

「おう、それは俺も思ったが……」

「一夏さん、瞬時加速って誰に習いました?」

「ああ、あれは千冬姉からだな」

 織斑先生から? あ、そう言えば鈴さんとの試合の最中にそんなこと言っていたような……

「その時何か注意されたこと、ありませんでした?」

「あ、ああ。通用するのは一回だけって……」

「理由分かります?」

「ばれやすいからだろ?」

 瞬時加速はその加速の強さゆえに一瞬溜めが必要という予備動作があります。それ故に一度使えばその予備動作でばれてしまう可能性が大きいし、相手に警戒させてしまう。そういう面ではこの解釈は間違っていません。ですけど。

「もう一つ、曲がれないってことですよ」

「え? あ、そういえばシャルがそんなこと言ってたな。無理に曲がろうとすると骨が折れるから気をつけろって」

 うーん、それもありますけど解釈が全然違いますね。

「それもありますけど、今回のように盾を構えられるとそれで終わりなんです」

「あ、そうか」

「結局相手に突っ込んでスピードで切るのが一夏さんの戦法ですから、前面に盾を押し出してしまえばそれで防げてしまうんです。さっき私がやったので理解したでしょう?」

「ああ、すごい驚いたよ。いきなり目の前に壁が出来たかと思ったからな」

「後折角『雪羅』に荷電粒子砲がついてるんですからもっと活用しないと」

「て言っても今までこれ一本でやってきたせいで中々慣れないんだよ」

 そう言って一夏さんは右手の『雪片』を持ち上げて見せてきました。

「じゃあ夏休み明けは射撃武器の特訓ですね」

「マジか」

「マジです」

 一夏さんが露骨に嫌そうな顔をした。
 まあ接近戦だけの今でさえかなり過密な訓練スケジュールでしたからね。これに射撃も加わるとなるとそれはもうひどいことになりそうです。特に先生方が張り切り過ぎそうで。特にセシリア先生の個人授業が……

「後は……エネルギー配分ですね。飛ばしすぎです」

「うぐ……面目ない」

 スピード3割増しに荷電粒子砲も加えて消費エネルギーは50%増。瞬時加速も加えれば7割り増しですね。燃費悪すぎて実戦投入なんて出来ませんよこれ。

「長期戦に持ち込まれたら自滅しますよ? もう少し配分考えないと。夏休み明けたらそこら辺もですね」

「カルラはシャルと同じくらい的確だからきついんだよな……」

「何か?」

「ナンデモアリマセン」

 想いっきり笑顔で答えたつもりなのに一夏さんは何故か顔を引きつらせてしまいました。何ででしょうね。

「ではそこら辺も踏まえてもう一度……」

「一夏! 時間が空いたから相手になるわよ!」

 私がもう一度誘おうとした時、アリーナの入り口辺りから鈴さんの声が響きました。どうやら帰り支度終わったようですね。

「んー、じゃあ私も準備があるのでここまでで」

「あ、ああ。ありがとうなカルラ。助かったよ」

「ふふ、どういたしまして。ではまた夏休み明けにお会いしましょう」

「少し寂しくなるな」

 天然……

「では」

「一夏!」

 私がアリーナの出口に行くと、入れ替わるように鈴さんがアリーナに入って行きました。今完全に私のこと目に入ってませんでしたね。まあ変に絡まれるよりは全然いいんですけどそれはそれで寂しいというか……
 私はいつもどおり更衣室でISスーツを脱ぎ散らかしてシャワールームに入り、汗を流してから部屋に戻ります。
 部屋にまだ箒さんは戻っていなくて、私の帰る為の荷物だけがその場にあります。実はもう準備終わってるんですよねー……

「はあ」

 私は頭だけISを部分展開して一つの映像ファイルを映し出す。
 それは先ほどまでの一夏さんと『白式』の映像データ。多分これが福音戦以降取られた最新のデータ。二段階瞬時加速を出来るというのも福音時には分からなかった正真正銘世界に出回っていない映像です。

「……何してるんでしょうね。私は」

 削除っと……

 その選択で映像データが消える。私の未来を握る……データを。

 一つ貸しですよ? 一夏さん。帰ってきたら返してもらいますからね。なーんて思ってみたりして……
 さて、帰国の準備をしましょうか。

『コンコーンっと』

「え?」

 荷物を整理しようとした時、扉の外から声がしました。そしてそのすぐ後に4回ノックが聞こえます。
 こんなことするのはのほほんさんくらいしか思いつきませんけど声が全然違いましたし……そもそもあんな声の人いましたっけ?
 そう思いながらも画面で外の様子を確認します。そこにいたのは肩にかからない位の色は綺麗な淡い青色の髪を持った瞳の赤い……ってあれ?

「簪……さん?」

 じゃ、ないよね。眼鏡かけてないし雰囲気が全然違う。そもそもネクタイの色が黄色だからこの人は2年生。ん? 2年生って今授業中じゃないの? それ以前になんで一年生の寮に?
 えっと、とにかく名前聞かないとですね。私は扉を半分だけ開けて確認します。扉を開けるとそこには簪さんに似た人と……その後ろに鮮やかな黒髪を三つ編みにし、眼鏡をかけた凛とした女性が立っていました。こっちは……ネクタイが赤だから3年生ですね。
 上級生二人が何の用でしょう? どちらもあったことはないと思うのですが……

「えっと、どちら様でしょう?」

 私がそういうと簪さんに似た女性は明らかに肩を落としたようにフラフラと眼鏡の女性の方に倒れこみました。

「虚ちゃん……私って知名度低いのかな……」

「今年は挨拶を行えなかったのでしかたないかと。後どさくさに紛れて胸を揉まないでくださいお嬢様」

「んー、お嬢様はやめてほしいなー」

「私から離れてくれたら善処しましょう」

「しょうがないにゃー」

 3年生の名前はどうやら(うつほ)さんらしい。でもこの人いきなり人前で胸を揉み始めるとか……この簪さんに似ている人、なんというか色々規格外。
 そんなことを考えているとその当人の顔が目の前にありました。私は驚いて思わず後ずさってしまいます。

「んー、かわいー♪」

 ケタケタとまるで子供のように笑うその人はどこから取り出したのか右手の扇子を広げて私に見せるように広げました。その扇子の和紙の部分には大きく『可愛いは正義』と書かれていて……いつ書いたんですか!?

「会長、お戯れはその辺にしてください」

「そう? しょうがないわね」

「会長?」

「なんだかんだと聞かれたら!」

「…………」

 私の呟きにその人がいきなり声を上げて虚さんがそれを可愛そうな人を見るような目で見つめています。えっと……頭がお花畑な人でいいんでしょうか?

「もー、虚ちゃんノリが悪い! 本音ちゃんだったら絶対ノってくれるのにー」
 
「早く本題に入りましょう。豪州代表候補のカルラ・カストさんでよろしいですね? 私は布仏 虚といいます。このIS学園の生徒会会計を務めているものです」

「は、はい」

 虚さんが右手で眼鏡を抑えながら自己紹介してくれました。
え、生徒会会計の人が会長って言ったってことはもしかして……

「そして私がIS学園の生徒会会長、更識(さらしき) 楯無(たてなし)よ。よろしくね、カストちゃん」

 やっぱりこの人が生徒会長さんだったんだ。あれ、更識……って。

「もしかして簪さんのお姉さん?」

「あ、簪ちゃんの友達? いやー、それは嬉しいねえ」

「会長」

「分かってる分かってる。そんでねカルラちゃん。少し頼みごとがあるんだけどいいかしら?」

 生徒会長が直々に私に頼みごと?

「えっと、内容によりますけど……」

「うむ、素直でよろしい。単刀直入に言うけどさっき一夏君と模擬戦していたわよね?」

「え!?」

 一体どうやって見ていたんでしょう。センサーでアリーナに誰もいないのは確認済みですし2年生と3年生は授業中だったはずですけど。
「普段行いがいいと先生には疑われないものなのよ」

「え?」

「仮病ってやつ。後は生徒会権限ってやつでいたる所に隠しカメラを」

 こ、心読まれました!? なんなんですかこの人! って隠しカメラってええ!?

「仮病は本当ですが生徒会にそんな権限はありません。使用済みのアリーナの監視映像を見ただけです。隠しカメラなんてありませんからご安心を」

 楽しそうに笑う楯無会長の横で虚さんがまた溜息を吐いて訂正しました。

「その時当然録画したわよね? 『白式』の第二形態の戦闘データと戦闘映像」

 その声を聞いた瞬間にゾクッ、と背中に寒気が走りました。声のした方を見ると先ほどと変わらない綺麗な笑顔を浮かべた楯無会長がいます。でも目が笑っていない。真紅に近い瞳は私が嘘を言おうものなら全て分かるぞと言っているようです。
 それ以前に……正直な返答以外許さないというオーラというか、うまく言葉にはできませんがすごい威圧感を放っています。

「は、はい」

「それね、消して欲しいの」

「け、消しました。さっき全部……」

「あら? 何故かしら?」

「な、何故って……」

「貴重な第4世代相当、しかも第2形態移行状態の稼働データなんて早々手に入るものじゃないわ。それに加えて相手はあの一夏君。消す理由は一切ないとお姉さんは思うんだけど?」

 この人……笑顔が怖い……さっきの無邪気な笑顔というよりは威嚇する笑顔ですね。
「確認したいならデータならお見せします。私のISを預けてそちらでチェックしてもらっても構いません。とにかくデータは消しました。」

「ふーん、そっか。ならいいわ」

「ふえ!?」

 楯無会長はそう言うと先ほどのやんわりとした顔に戻りました。私は訳が分からなくて変な声を出してしまいました。

「いやー、IS学園は世界各国からの干渉を禁止されてるじゃない? だから一国だけそういうデータを持ち帰られたら困っちゃうの。他の国全部にもそのデータ公表しなくちゃいけないし、色々面倒でしょ? だから確認だけ、ね」

 もう用は済んだとばかりに楯無会長が理由を話し始めます。データ確認しなくていいんでしょうか? それとも本当に嘘が分かるとか。

「大体分かるわよ」

 う、また読まれました。

「ふふ、日々精進ね。カルラちゃんも出来るようになるわ。じゃ、色々あると思うけど頑張ってね」

「お騒がせしました」

 それだけ言うとお二人は去っていきました。あの人が生徒会長か……何ていうかすごい人でしたね。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「会長、よろしかったのですか?」

「んー?」

 IS学園1年生用寮内の廊下を楯無と虚が歩きながら言葉を交わす。

「いいのよ。多分嘘ついてないし、それに音声録音してるでしょ?」

「ええ、それはしておきましたが」

「それでいいの。後は轡木さんに報告して今日のお仕事は終了」

 寮から出て2人は遊歩道に出て目的の人物の下に向かう。しばらく歩きながら辺りを散策していると一人の用務員が雑草を取っているところだった。
 楯無はその用務員に近づくと友達のように声をかける。

「こんにちは、轡木さん」

「おお、会長さんか。どうじゃ調子は」

 その用務員はそう言いながら手を止めて立ち上がって首からかけているタオルで汗を拭う。麦わら帽子の下の白髪が目立つが、温和な顔立ちの壮年の男性。轡木(くつわぎ) 十蔵(じゅうぞう)が彼の名前である。誰にでも優しく人当たりのいい彼は厳しい先生が多いこの学園内で生徒たちから「学園の良心」と呼ばれて親しまれている。

「頼まれたこと聞いてきたわよ。虚ちゃん」

「はい、こちらが音声データです」

「うむ、確かに。悪かったの、こんなお使いさせてしまって」

 虚が楯無に促されて懐からボイスレコーダーを取り出し十蔵に手渡した。

「奥さんへはしっかり渡しておいてくださいね?」

「む? はは、こりゃ失礼。しっかり渡しておくよ」

「では失礼します」

 IS学園は他国の干渉を許さないがそれを運営する人物は必要である。所謂理事長的な立場にいるのはこの十蔵の奥さんである。そのため生徒会から忙しい理事長に直接会えないときはこうやって旦那の十蔵の方に連絡を付けてもらうというのが一般的……と一般生徒から見れば思える。
 だが実際はこの十蔵こそがIS学園の実務関係全般を取り仕切っている人物なのである。用務員という立場は学園生徒からの裏表のない声を聞くに最適な立場であり、学園の改善点や不審な点がないかどうかを探るのには絶好の隠れ蓑なのである。

「ああ、そうそう。会長さんに連絡が来てるぞ」

「へ?」

 十蔵の言葉に楯無が不安そうな声を上げた。何か嫌な予感がしたのだろう。頬には滅多に見ることのできない冷や汗が見える。

「もしかして……あの人?」

「うむ、もしかしなくてもあの人だ。返信を待つと言っていたぞ」

「…………」

「会長? あの人とはもしかして」

「虚ちゃん……私にその名前を口に出させないで……」

「ああ、やはりロシアのエリ……」

「やめてー!」

 虚が出そうとした名前に楯無が本気で口を塞ぎにかかる。端から見ればいつもの会長の行動なのだろうが虚と十蔵から見ればこれほど取り乱す楯無を見れるのはこの人の名前が出るときだけだ。
 更識楯無は自由国籍権を持ったロシアの国家代表である。当然IS学園内では唯一の国家代表であり、自由国籍権を持っているとはいえロシアの国家代表には変わりなく、立場上はロシア軍所属になっている。その上司というのが楯無は非常に苦手なのだ。

「とはいえ遅らせると後が怖いですよ」

「分かってるわよ……はあ……」

 虚に促されて楯無は通信機を取り出して相手に秘匿通信で連絡を取る。しばらくいくつかの暗号を通した後に出た相手に対して楯無は緊張した口調で言葉を発した。

「お待たせしました、エリヴィラ・イリイニチナ・ニコラエワ中佐」 
 

 
後書き
今回もオリキャラの名前が出ていますが正式に出るまでは少々お待ちください。

楯無のキャラってこんなんで大丈夫でしたっけ……
誤字脱字、表現の矛盾、原作流用部分の指摘、感想、評価等などお待ちしてます 。 
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