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色々一発ネタ

作者:七織
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「神」のみぞ知るセカイ

 
前書き
前から書きたかった一発ネタ。三千字程で短いのでいつか加筆したい。 

 
「検査入院、か」

 ふと呟いた言葉は虚空に消えた。
 他に誰もいない広い病室。VIP待遇なこの部屋の中で鳴海歩はふと呟いた。
 あの戦いが終わって暫く。一度倒れた。クローンとしての欠陥が出始めたのだ。
 状態を知るためという今回の検査入院。検査が終われば直ぐにでも退院できると言われたがきっとまた直ぐに倒れるだろう。そしてここでの生活が始まるというわけだ。

 白で埋められた清楚な部屋を見て歩は思う。自分はかつての役目を果たした。次の状態に移った。だからまだ死ぬわけには行かない。あと数年は生きられるだろう。だがその後は? 決められた未来を思い、けれど静かな安息を感じ歩は苦笑する。
 悔いはある。あのバカとはあれっきり。会ったら笑って嫌味ごとでも言ってやろうかと思っているのに消息がとんとつかめない。
 生きること。それが歩に課せられた役目。それを全うする為に足掻かなければならない。
歩は希望を示すと約束したのだから。

手持ち無沙汰でピアノの楽譜を書く。歩の趣味だ。
そう言えばあの少女に弾いて欲しいと言われていたことを思い出す。あの学校で、カノン・ヒルベルトとの戦場で弾いたがあの少女個人の為に弾いいたことは結局一度もない。火澄との学校生活の中、他の人の為には弾いいたというのに。ついおかしくて小さく笑う。
そんなことを思いながら手を進めていると病室の扉が開き看護婦が入ってくる。

「成海様、配達物が届いています」
「ああ、済まない」

 看護婦が出て行ったのを見て届けられた手紙の差出人たちを眺める。
 知り合ったブレードチルドレン達からたまにこうやって手紙が届く。生きて運命に抗う歩に自分たちも頑張っていると、抗って生きているのだと知らせるように。

「爆裂ロリータ、か」

 差出人の名を見て呟く。嫌がっていたハズなのに調子のいいことだ。こんな物騒な名前なのに配達員は気にしないのだろうかと歩は思う。
 手紙の束を探り、ある一つのそれに歩の手が止まる。
 というよりはその差出人に。

「地獄より、ね。また物騒だな全く」

 誰だか見当もつかないがこいつらは本名を書くという習慣がないのだろうか?
 そう思いながら歩はその手紙の封を切る。

「何々……『この度は神と呼ばれるあなた様の力を借りたくこのように手紙を送らせていただきました。あなた様の力を見込んで私どもの手助けをしていただきたく存じます。どうか力を貸していただけないでしょうか神様。駆け魂隊室長;ドクロウ』」

 全く知らない名前だが不思議ではない。世界に散らばるブレードチルドレン。その全ての名前をまだ把握しているわけでもない。
 何より相手は歩のことを神だと知っている。そのことを知っているのは兄貴の関係者か、ブレードチルドレンかのどちらか。疑う余地はない。
 見てみれば手紙の最後には了承か拒否か丸を付けるよう用意されている。
 こんな丸に意味はないが、と楽譜に使っていたペンを回しながら思う。自分には彼らを救う義務がある。抗ったものとして、今抗おうとしている者たちを救わなければならない。非常に面倒だが、それが今の歩の役目だ。
 こんな手紙一つに了承すればその役目が果たせるなら簡単だ。
 溜息一つ。その思いで歩はペンを動かす
 了承、に丸を。

 瞬間、光が走る。

「な!?」

 驚愕の声を上げる歩をよそに光は強くなる。強い光に歩は目元を覆う。
光は歩の首へと向かい、収束して形をなす。
 ふと首元に感じた違和感に歩は手を伸ばし、“それ”に気づく。

「首輪……? 何だこれは」

 小さな首輪だ。それが首にかかっていた。手で探るが繋ぎ目など見つからない。まるで接合されているかのように表面はどこもなだらかだ。

(まて、考えろ。考えるんだ。こんな事普通にはありえない。罠だったのか? だがどう見ても只の手紙だった。まるで魔法のようで……バカか俺は。そんな事あるものか。運命や神なんてモノがあっても魔法なんかあるわけないだろう。地獄からだからって悪魔が送ったとでも言いたいのか俺は?)

 考える歩の前で光はもう一つ、収束し形を成す。
 段々と収まっていく光の中、歩に声が届く。
 
「あなたが神? 思ったより普通の人間みたいじゃない」

 最初に見えたのは大きな鎌。漫画に出てくる死神みたいな、人など簡単に殺せそうなデス・サイス。
 次に髪。腰にまで届きそうな長さの、窓から入る光に照らされサラサラと煌く絹糸の様な紫紺の髪。
 勝気そうな目。可愛いというより綺麗と言える端正な容姿。ドクロの髪飾り。天女のような羽衣。
 見たこともない少女が一人、歩の前にいた。そして口を開く。

「私の名前はハクア・ド・ロット・ヘルミニウム。首席卒業の駆け魂隊一等公務魔。悪魔よ。あんな手紙にオーケー出すなんてバカじゃないの? まあいいわ。これからバディとしてよろしくね“神様”」

 そういって少女は手を伸ばす。
 まるで三文劇。馬鹿にしたようなセリフ。突っ込みどころ満載のそれに、けれど歩は何も言えなかった。
 胸に手を当て酷く自信満々に言う彼女の姿に圧倒され、それだけがひとつの世界のように思えた。
 まるで正義や悪に憧れる思春期のような少女は人が見れば残念な子に思われるだろう。けれど余りに堂々している彼女は自分が正しいと信じきった重病患者。
 ああ、ここに相応しいな。なんて病室を見回して歩は嘆息する。
 神がいるなら悪魔がいてもおかしくない。実際にそんな相手と、そして悪魔の息子と渡り合ってきた自分が否定するわけには行かない。

 悪魔の子を救うのが神たる自分の役割というのなら、暫しこの少女の寸劇に付き合うのも仕事だろう。
 だから今自分がすべきは少女の舞台に上がり踊ること。寸劇を完成させること。
 
「ああ、よろしく頼む」

(かみ)少女(あくま)の手を取った。




既に終わった物語。始まる物語。
ここに地は終わり今新たな海が始まる。
 組むは神と悪魔。演じるは救世主。刃の傷を持つ子たちの傷の治療。
 悪魔が付いた悪魔の子達。その抉られた傷は極大の空虚を生む。
 救うは悪魔の子。救われるも悪魔の子。踊るは神の紛い物。
 短い命を燃やし、青年は役目を果たす。



「なあ、あいつ元気でやってるかな。どうしてもあいつの顔が浮かんでダメなんだ。私はダメな弟を持っちまったよほんとさ」

「爆弾で死んじゃうのって一瞬なんですよ。あっけないほどに簡単に肉片になっちゃいます。何度も、何度も、何度も。少し疲れちゃいました」

「オレの兄は、本当に満足に死んでいけたのだろうか? 止められたのではないかと、そう思ってしまう。抗うと決めたのにピアノが弾けないんだ」

傷に魅入たられた悪魔の子達。今再び、神は彼らと戦う。




「お久しぶりです歩さん。来ちゃいました」

 かつての相棒と今の相棒。崩れゆく体を動かし、青年は義務でもなく責務でもなく、己が感情で動く。
 それは全ての精算。この時は失われると理解しながら、動くことを止められない。

「何であんたがそこまでするのよ!? 裏切られたんでしょ! 捨てられたんでしょ!! ……もっと、もっと自分を大事にしてよ。お願いだから。何で、何でそんなにあんたは……」
「悪い。それは男の子の秘密だ」

 青年の全てを知り少女は叫ぶ。あんまりだと。
 いずれの時を動かすため、青年は音符を描く。
 綴られた楽譜はいつかの為。いずれ会うその時、あいつの為だけに聴かせる音。
 彼だけが知るセカイを。たとえ片手になっても、弾ける音を。



 螺旋×神のみ 「神のみぞ知るセカイ」




 運命がまた動く。







 coming すまない 
 

 
後書き
本物の神様がログインしました、というクロスオーバー物。

ハクアにするかエルシィにするか悩んだ。ぶっちゃけどっちでも美味しいと思ってる。
ただ色々感情出すためにハクアの方がいいかとおもって書いた。

 
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