ニンジャ・イン・ザ・ファンタジーⅥ
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白き極光編
第1章
フィルス・バトル・オブ・ケモノガハラ
列を為して魔列車へと乗り込むドマ王国の亡霊達。
その中に家族を…愛する妻子の姿を見つけてしまったカイエンは、踏み出し、歩き出し、そして駆け出していた。
「ミナ! シュン!」
無情。
カイエンの呼び声も虚しく、全ての霊が乗り終えた魔列車の扉は閉ざされ、汽笛と共に車輪が回り始める。
「…待って…待ってくれ…」
走り出す列車を追い、ホームを走る。
だが、帝国陣地への討ち入りから魔列車での激戦までの戦いの連続で蓄積した疲労が、その足に重石を付ける。
「ミナ…ミナ! シュンっ!」
悲痛なその声が届いたのか。
後部車輌から女性と少年が顔を覗かせた。
「拙者は……拙者は…! お前達を…!」
その後に何を紡げば良いのかはカイエン自身にも分からなかった。
「守れずすまなかった」か?
「決して忘れない」か?
それとも…「愛している」か?
言葉がパズルめいて散らばり、口は動くが声として外へ出る事は無い。
「あなた」
そんなカイエンの頭の中へ直接響くような女性の声。
「あなたの妻として生きれて…私はとても幸せでした。ありがとう」
カイエンの脚が鈍る。
「パパ! ぼく、これからも剣のお稽古がんばって、ママを守るから! だから…パパもがんばって!」
カイエンの脚が止まる。
遠ざかる列車。
愛する妻子の笑顔をカイエンの目に焼き付け、その姿は霧の向こうへと消えて行った。
「………」
カイエンはしばらくその場に座り込み、動く事が出来なかった。
マッシュ、シャドウ、ディグニティ…その場にいる誰も、今の彼の背中へ掛けるべき言葉を持ち合わせてはいなかった。
「…憎しみは消えぬ」
彼は立ち上がった。
瞳に決意を宿し。
「だが、最後の瞬間まで拙者を案じてくれたミナとシュンの想いに報いる為にも…それだけではいかんのだな…」
カイエンは刀を抜く。
赤黒い煌めきを放つ刀身を霧が濡らす。
「拙者が為すべきは復讐にあらず。ドマの惨劇を決して繰り返さぬ為にこそ力を振るわねばならぬのだ。ドマの、ドマだけの為に振るう刀は…もはや捨てた!」
血糊の如き赤い光が、水滴によって洗い流されるかのように剥がれ落ち、白銀の刀身が姿を現す。
「我が刃、世界の為に! …陛下、拙者がそちらへ参りますは、まだ先になりそうでござる」
亡き主君、同胞へ心中で詫びたカイエンは、堂々たる足取りでマッシュ達の元へと戻る。
「お待たせ致した。南へ参ろう、マッシュ殿」
「…もう、大丈夫なのか?」
マッシュは聡い男だ。
ドマ壊滅からの怒涛続きの状況に妻子との別れ…並の精神力では正気ではいられないはずだと分かっている。
「お気遣い、感謝致す。しかし、このようなところで足を止めていては、妻にも息子にも顔向け出来ませぬ」
その瞳に、生気が。活力が満ちている事を感じ取ったマッシュは頷いた。
一行は森の中を進む。
地面をよくよく見れば、草の薄い道らしい物が見える。
「魔列車の言った通りだな。これを辿って行けば南へ抜けられる!」
互いの手違いとは言え、魔列車にも申し訳無さはあったらしく、彼(?)はマッシュ達に森からの抜け出し方を教えてくれたのだ。
その通りの道順で進むと、やがて木々の間隔、葉の密度がが広くなり、そして陽の光が降り注ぐ平野へと抜けた。
「よっしゃー!」
「…確かに南側へ出たようだな」
シャドウは太陽の位置と、森の向こう側に顔を見せている崖などを観察し、地図と照らし合わせて南への脱出が成功した事を確認した。
「…待て。何か聞こえないか…?」
「これは…水音でござるな」
マッシュとカイエンは顔を見合わせた。
「「バレンの滝!」」
そう、ついに最初の目的地であるバレンの滝へ辿り着いたのだ。
「滝の脇は長年水流に削られた事によって天然の階段状になっている。水量が平常通りならばそこを降りられるはずだ」
「なぁに、いざとなったら飛び込みゃいいさ。むしろそっちのが早いかもな」
マッシュは既に飛び込む気満々にスクワットを始める。
「…そうか。ともあれ俺の道案内はここまでだ」
シャドウはインターセプターを伴い、踵を返す。
「シャドウ! 助かったぜ、ありがとな!」
マッシュの屈託無い笑顔に、頭巾の奥に覗くシャドウの表情が一瞬柔らかくなったようにカイエンには見えた。
「…私も、ここで失礼します。もう少しこの辺りで鎮魂の祈りを捧げるつもりです」
「そっか…気を付けろよ。帝国軍も森を抜けて追って来るかもしんないからな」
ディグニティは頷き、おもむろにカイエンへ向き直る。
「カイエン=サン。魔列車ではあなたの心を鑑みる事も無く当たってすみませんでした。…あなたの剣が、悲しい戦いの連鎖を断ち切り、理不尽な死が訪れない世界への道を切り開いてくださると…ご家族との最後の会話を見た今なら信じられます」
「いや、拙者こそ頑なで。お主の期待に応えられるよう、努力すると約束致す」
カイエンの言葉に頷いた乳白色の修道女は、上品な所作で1歩下がり、2人へオジギした。
「オタッシャデ」
「あんたもな! …さて、と」
立ち去るディグニティの背中を見送ったマッシュは、滝へと近付く。
凄まじい音を立て、それに見合う水流の勢いに息を飲む。
「ああは言ったけど…やっぱ少しばかり身震いしちまうなコレ」
「しかし、マッシュ殿のお仲間とナルシェで合流するとなれば、ともかくここを降りてモブリズを目指さねば」
しばし逡巡した2人であったが、結局行かねば始まらぬと意を決し、呼吸を合わせて同時に滝壺目掛け飛び込み、水の流れの中へと消えて行った。
「ニンジャ?」
一面の平原。
森を背にして築かれた砦の最奥で、報告内容に眉を動かした男は…ニンジャだ!
ダークオレンジの甲冑部分と、それを覆う白い布部分から成るニンジャ装束を纏い、『火』という漢字を象ったメンポが一際目を引く。
「確かか。クラミドサウルス=サン」
「へぇ、間違いなく! “交渉”に行った連中をあしらうあの身のこなし、チンケなバウンサーじゃあり得ませんです。まず間違いなくニンジャかと!」
報告する者もまたニンジャ!
痩せ型のヒョロリとした体躯を茶色のニンジャ装束で覆い、爬虫類めいて鼻から口までの部分が突き出た鋭角的なメンポを着けたニンジャだ!
「村の連中、野良ニンジャを雇って調子に乗ってるようですな。どうします、アーソン=サン」
“火”のニンジャの傍らに控える者もまたニンジャ!
サイバネ兜と開閉機構付きメンポ、首から下の緑色のニンジャ装束は、装甲は少なく可動性重点。
兜の頂点からは内蔵LEDによって扇状のホログラフィが展開され、“質”“問”の2字が浮かぶ。
「そのニンジャの実力も未知数ですし、ここは下の連中をけしかけて…」
「それで、そいつらが死んだら次の兵隊はどう補充する気だチェインボルト=サン」
アーソンと呼ばれたニンジャの視線が鋭くチェインボルトを射貫き、彼は動揺してアグラ姿勢が崩れる。
「奴らはクローンヤクザとは違う。いくらでも使い捨てられる訳ではない。我々の目的を忘れるな」
「う…ス、スミマセンっ!」
立ち上がり、なおも威圧的な目を向けるアーソンへ、チェインボルトはドゲザ。
ホログラフィには“謝”“罪”の2字。
「川の増水が落ち着いたら、手勢と物資を手土産に帝国へ帰順する。急激な勢力拡大に伴って人員の不足している帝国は、我々を軽視は出来ぬ。そう言う話だっただろう」
「ハイっ! その通り! その通りで!」
チェインボルトは繰り返しドゲザ謝罪。ブザマ!
「とは言え、だ。村の連中をこのままにもしておけん。誰にも間違いはある。無知故の増長もな。だが、それは時として取り返しの付かぬ破滅をもたらす事も教えてやらねばな」
アーソンはクラミドサウルスへ向き直る。
「ニンジャは1人か」
「へぇ、少なくとも結構な騒動の中で出張ったのはそいつだけです」
「よし、ではスクワッシャー=サンとデキュリオン=サンを召集しろ。手下も全員だ。5人のニンジャの圧倒的数的優位を以てそいつを叩き潰す。分かったかチェインボルト=サン」
「ハーっ!」
クラミドサウルスとチェインボルトが早足で退室し、アーソンも肩を回してウォーミングアップする。
1時間後、砦の前には200人ほどの武装した男達が並んでいた。
これが彼らの手勢。
この辺り一帯にちらほら点在していた野盗達を、アーソンらは武力で従え糾合したのである。
無論、チェインボルトら他ニンジャもアーソンがそのカラテを以て傘下に加えた者たちだ。
「アーソン=サン。スクワッシャー=サン、デキュリオン=サンの手勢も並びやしたぜ」
クラミドサウルスが報告する間にも、眼下の集団に別の集団が合流し、隊列を整えている。
部下が300人を越えると、アーソンはスクワッシャー、デキュリオンにそれぞれ50人付け、ここ獣ヶ原へ侵入する者がいないかを見張る支砦を築かせた。
それを今ここに集結させたのだ。
「これよりモブリズへ向かう。ニンジャを殺し、村の人間も何人か見せしめにする。だが殺すのは年寄りにしろ。若者は貴重な労働力だ」
「へへぇっ!」
「うむ。イヤーッ!」
アーソンとクラミドサウルスは、手摺に手を掛け跳躍!
盗賊達の群れの眼前へと着地した。
「我々5人のニンジャで村のニンジャを殺す! 貴様らは見せしめに使えそうな年寄りを何人か引っ捕らえろ!」
「「オーッ!!」」
剣、槍、手斧。
各々の武器を高く掲げ、盗賊団が行進を始めた。
「ドーモ」
「ドーモ」
2人のニンジャがアーソンの前に立ってオジギし、アーソンもそれに返礼する。
1人は重厚な鉛色ニンジャアーマーとフルフェイスメンポを纏うスクワッシャー。
もう1人はニンジャ装束の上から金属のブレストプレート、ガントレットを身に着け、口元を布で覆ったニンジャ、デキュリオン。
「スクワッシャー=サン、デキュリオン=サン、報告は聞いているな?」
「はい」
「囲んで警棒で叩く。どんなニンジャか知らんが、実際死ぬであろう」
デキュリオンは両の拳を打ち合わせ笑う。
「油断するな。ニンジャはニンジャだ」
アーソン、チェインボルト、クラミドサウルス、スクワッシャー、デキュリオン。
5人は頷き合うと、盗賊達の後に続いて歩き出した。
「ドーモ、モブリズの皆さん」
整列した盗賊達の最前列に立ったアーソンが、モブリズの村人達へ洗練されたオジギを繰り出す。
「あなた方ムシケラが、たかだか野良ニンジャ1匹雇っただけで勘違いし、我々の要求を断ったと聞きました。せっかくこちらが穏便にも作物と金品の徴収だけで済ませていたのにです」
アーソンは大仰な身振りと口調で、さも否があちらにあるかのように村人達を非難する。
「故に今日は立場の違いを改めて教えに参った次第です。これより…」
「話が長いなアーソン=サン」
「!?」
村の入口近くに追加で建てられたらしき家屋の扉が開き、大柄の男が姿を現した。
優に200cmを越えるであろう身長、さらには広い肩と太い首によってがっしりとした体躯が強調されている。
黒い短髪と四角い顔立ちは無骨な印象を与える。
男は大きな両手を合わせてアイサツした。
「ドーモ、アーソン=サン。インターラプターです」
「なっ…イ、インターラプター=サン!?」
打って変わって動揺するアーソンの様子に、インターラプターと名乗った大男は目を細める。
「うっ………ド、ドーモ、インターラプター=サン。アーソンです」
「チェインボルトです」
「クラミドサウルスです」
「スクワッシャーです」
「デキュリオンです」
アーソンを皮切りに、他のニンジャ達も慌ててオジギや合掌でアイサツする。
「イ、インターラプター=サン…」
「何故ここに…?」
「あれほどのニンジャも死んだと言うのか」
ニンジャ達が口々に騒ぎ始める。
彼らは元ソウカイヤ、元ザイバツ、そして元アマクダリニンジャの混成集団であるが、それら全てにこのインターラプターは名を知られている訳である。
「…黙れっ!」
アーソンが一喝。彼らは一斉に口をつぐむ。
「…インターラプター=サン。我々の邪魔を? シックスゲイツ最強のニンジャ戦士と言われたあなたが?」
「ヤクザクランとの折衝担当のアーソン=サンだったな。その問はイエスだ。俺はこの村に恩義がある」
アーソンとインターラプターがカラテの構えを取り、チェインボルト達もそれに倣う。
「…フ…フッハハハハ! ならば死んでいただくしかありませぬ! 恐れるな! ここにいると言う事は…インターラプター=サンとて死ぬのだ!! 故に殺せるっ!! イヤーッ!」
「「「イヤーッ!」」」
ニンジャ達は同時にインターラプターへ飛び掛かる。
彼は慌てる様子も無く、着ていた作務衣を脱ぎ捨ててブラックベルト(黒帯)を締めた胴着めいたニンジャ装束を露にし…鼻から下を覆う鬼めいた牙付きメンポを装着した! コワイ!
「イヤーッ!」
まず飛んで来たのは身軽なクラミドサウルス!
両手にニンジャダガーを握って斬り掛かるも、ブレーサー付きのインターラプターの裏拳で叩き折られ、本人も吹っ飛ばされる!
「グワーッ!」
「オノレーッ!」
次に襲い掛かるはデキュリオン!
古代ローマカラテ5つの構えが1つ『鷹の構え』から爪先を狙った体重を乗せての踏みつけで動きを封じんとす!
しかし、逆に踏み込んだインターラプターは、膝を曲げて身を沈めると、その場で宙返りと共にキックを放ち、デキュリオンの足を跳ね上げる!
これは伝説のカラテ技、サマーソルトキック!
「グワーッ!」
「取った! デン・ジツ! イヤーッ!」
“放”“電”の2字を投影したチェインボルトが、腕からの電撃を放つ!
しかし、着地時に地面を蹴り上げたインターラプターによって砂が巻き上げられ、電撃が逸れる!
さらに、視界の乱れの隙を突いた右ラリアットを顔面に食らい、頭から突進していたチェインボルトは半回転!
「グワーッ!」
「インターラプター=サン、覚悟っ! イヤーッ!」
姿勢を低くして突進するアーソンの拳が燃焼を始める。
拳撃の接触した対象を超自然の発火現象によって焼き殺す残虐なるカトン・パンチだ!
チェインボルトを殴った姿勢のままだったインターラプターは、このパンチを…避けた! 美しいアーチ状のブリッジ回避!
勢い余ってその上を飛び越すアーソンへ、容赦無き膝蹴りを見舞う!
「グワーッ!」
「俺が決める! イヤーッ!」
最後は重厚なるスクワッシャー!
重量級の装甲に覆われた腕による、上段からのハンマーめいた振り下ろし!
さしものインターラプターも、これをまともに受ければ背骨が粉砕され実際死ぬ!
状況判断! 膝蹴りで脚を振り上げた勢いを殺さず連続バック転回避!
スクワッシャーの腕が地面にクレーターを穿つ!
「…馬鹿な…全て捌いただと…」
前転着地でダメージを軽減したアーソンが立ち上がり、周りを見渡す。
「ヌゥーッ…! こ、これがシックスゲイツ最強のカラテ…」
スクワッシャー。
「グランドマスター、サラマンダー=サンと互角に打ち合ったと言うワザマエか…!」
チェインボルト。
「悪い事は言わん。これまでに徴収と称して奪って行った物を返し、村の者達へ謝罪しろ。そうすれば命までは取らんぞ」
インターラプターは両手の砂を払いながら立ち上がり、無法者達へ最後の警告を行う。
「チッ…貴様ら! いつまで傍観者でいる! このニンジャは我々が相手をする! 貴様らは村だっ! クラミドサウルス=サン、貴様はインターラプター=サンが相手では力不足! 奴らと共に村を!」
ニンジャのイクサの壮絶さに呆気に取られていた盗賊達へとアーソンが指示を飛ばす。
彼らは何人かの仲間がアーソンによって生きながら松明めいて燃やされる様を見せられているのだ。
慌てて武器を握り直し、クラミドサウルス先導の下モブリズの村へ殺到する。
村民達も農具を手に抵抗の構えを見せるが、数の差は歴然だ!
「イヤーッ!」
「グワーッ!?」
その時!
先頭を行くクラミドサウルスの側頭部へ、屋根から飛び降りた人物のドロップキックが突き刺さる!
クラミドサウルスは3人ほどの賊を巻き込み倒れ伏す!
キックの反動で宙返りし、アンブッシュを決めたその男…ニンジャは盗賊達の行く手を阻むかのように真正面に着地!
即座に両手を合わせてアイサツした!
「ドーモはじめまして! プリンセプスです!」
痩躯ながらも無駄無く筋肉が付いた引き締まった肉体。
ベリーショートの金髪に碧眼の端正な顔立ち。
古代ギリシャ人のエクソミスめいたニンジャ装束を纏った、若い男だ。
「アバッ…く、くそっ…! この俺を…!」
素早く起き上がり、折られていない方のダガーを構えるクラミドサウルスを、プリンセプスは怪訝に見下ろす。
「ん…貴様、見覚えがある。確かイグゾーション=サン派閥の…なるほど、クラミドサウルス=サン。耳に覚えがあるはずだ」
「何…ならばザイバツニンジャか! ならばなおさら負けられん! イヤーッ!」
ザイバツ・シャドーギルドは元々、所属するグランドマスターの派閥争いによって強い競争意識が下のニンジャには植え付けられている。
クラミドサウルスにはプリンセプスに見覚えが無い以上、対立する別派閥だったのだろう。
燃え上がった対抗心が、クラミドサウルスを駆り立てた!
「古代ローマカラテ…『獅子の構え』」
プリンセプスは落ち着いて腰を落とし、両手の指の第1、第2関節を曲げながら掌を下向きにしつつ腕を前へと伸ばした。
クラミドサウルスはその伸ばされた腕の手前でサイドステップを踏み、左側から首筋を狙ったダガー攻撃を仕掛ける!
しかし、『獅子の構え』はまさに上半身を狙う攻撃へのカウンタースタイル!
「イヤーッ!」
左手手刀をクラミドサウルスの右腕へ叩き付け、自身の腕に沿って受け流しつつ身体を半回転させて相手の側面へ回り込む!
そして、左手でクラミドサウルスの肩、右手で上腕を掴むと、無慈悲に肩を脱臼させた!
「グワーッ!?」
「イヤーッ!」
ダガーを取り落とすクラミドサウルスの後頭部へ、さらに追撃の回し蹴り!
「グワーッ!!」
「唸れ! 古代ローマカラテ!! イヤーッ!!」
プリンセプスは大きく跳躍すると、右腕を弓めいて引き絞りながら地面へ突っ伏したクラミドサウルス目掛け落下!
そしてその背中へと投槍めいたパンチを突き刺した!
鋼鉄の盾すら貫くとされるジャベリン・パンチ!
「アバーッ!!」
哀れクラミドサウルスは背骨を折られ、海老反りめいた体勢のまま痙攣し…。
「サヨナラ!!」
しめやかに爆発四散!!
華麗な反転ジャンプで離脱したプリンセプスはゆらりと立ち上がり、その爆風に目を細めた。
「ザイバツ無きこの世界で、私は他のどんな思想にも左右されない、己だけの道を往くと決めたのだ。ザイバツ時代の政争を引きずった貴様は敗れる運命にあった」
蜘蛛の子を散らすように逃げる盗賊達を追う事はせず、入口方面へと目を向けた。
「イヤーッ! イヤーッ!」
スクワッシャーが両腕を遠心力に任せ振り回す!
アーソンはそれをインターラプターがかわすタイミングで仕掛けるが、カラテ練度の差からか紙一重でスカされてしまう!
チェインボルトは少し離れた位置からデン・ジツでの援護を試みるも、元々彼のデン・ジツは専用のドローンを中継点とする事で命中精度を上げるジツなので、この距離では見当違いの方へ飛んで行く!
ではデキュリオンは?
彼は既に顔面にセイケン・ツキを食らい、家屋の壁にへばり付く肉片と化している!
「ハー…ハー…」
スクワッシャーが肩で息をする。
彼のニンジャアーマーは攻防共に優れる超重量級装備だが、それ故に動けば動くほどに本人の疲労蓄積もヤバイ級だ!
インターラプターを挟んで立つアーソンとスクワッシャーは、アイ・コンタクト。
チェインボルトにもアーソンが首を振って合図を送る。
「…避けられるか!? イヤーッ!!」
チェインボルトは両手から最大出力の放電を行う!
なるほどこれほどの規模ならば、狙いをつけるまでもない!
インターラプターは電撃の軌道を予測し、素早いバックステップでこれをかわす!
そこへ! 電撃に巻き込まれる事も厭わずスクワッシャーが突進し、さらにアーソンも接触タイミングが同時になるよう調整し躍り掛かった!
「ヤバレカバレか。ならば」
インターラプターは肘をL字に曲げた両腕を前へ出し、手の甲を正面へ向ける。
さらに脚も爪先をやや内側へ向けて膝を落とした奇妙な中腰姿勢!
「っ!? まずい! 止まれスクワッシャー=サンっ!!」
アーソンが叫ぶも遅かった。
スクワッシャーは重力に逆らわずに両腕を振り下ろし、インターラプターをトマトめいて潰しに掛かる!
「フンハーッ!!」
インターラプターはそれを凝視し、奇妙なシャウトを高らかに上げた。
「…なっ…なんだ…これは…」
スクワッシャーのその腕は振り下ろされる事無く空中で静止…否、僅かに振動したまま動かない!
そう、インターラプターの仕業だ!
これこそはインターラプターが修めたザムラ・カラテのカラテ振動技術を派生させた、絶対防御の構え『カラダチ』!
自身に向けられた打撃に対して発生した反発力をカラテ振動させ、その力場に手足を磁石めいて固定する拘束技だ!
「頑丈なアーマーだが…砕かせてもらう」
動けぬスクワッシャーを尻目に、インターラプターは背を向ける…否! まるで背を向けているかの如く上半身をほぼ真後ろにまで捻っているのだ!
これぞインターラプターのパワー、その全てを一撃に圧縮する最大奥義、『タタミ・ケン』なのだ!
アーソンは助けに入れない! 巻き込まれるからだ!
「ヤメロー! ヤメロー! インターラプター=サンやめてくれ! 同じソウカイヤの…」
「ハイィーーーッッッ!!!」
捻った上半身を戻す勢いのままに、カラテを込めた右腕がスクワッシャーへ吸い込まれる。
「アバーッ!!」
ニンジャアーマーは粉々に砕け散り、打撃と同時に叩き込まれた圧縮カラテ衝撃波によって、スクワッシャーはペットボトルロケットめいて射出され、その直線上にいた盗賊達がボウリングのピンめいて撥ね飛ばされる! ストライク!
スクワッシャーはそのまま地平の彼方へ吹っ飛び、人知れず爆発四散した。
「これで残りは3人…いや」
インターラプターの耳は、スクワッシャーのそれと時を同じくして村の中から聞こえた爆発音を捉えた。
「2人だ。どうする?」
アーソンとチェインボルトは並び立つ。
絶対的な強さを信じていたはずのニンジャが瞬く間に3人も討たれ、手下の盗賊達はパニックに陥って転げ回るように散り散りに逃げる。
さらに、村の中央広場からはプリンセプス!
もはや彼らに数的優位などどこにも無い!
「くっ…何故だ…何故あなたはそこにいるっ! インターラプター=サン!!」
アーソンは叫ぶ。
「ソウカイヤの力と非情さの象徴! ソウカイ・シックスゲイツ! その中でも最強と呼ばれ、ザイバツ始め多くのソウカイヤの障害を抹殺して来たあなたがっ!! 何故ちっぽけなムシケラ共のヨージンボーなどとチンケな事をしているのだっ!!」
それはかつて憧れ、縋った存在への失望か、絶望か。
インターラプターはその言葉を一言一句噛み締めるように黙って聞き、そして頷いた。
「…確かにな。俺はデッカーとしても、ツジギリストとしても…そしてニンジャとなってからも多くの命をこの手に掛けて来た。善悪の別無く。そんな自分に耐えられなくなって、俺はソウカイヤから逃げ出したのだ」
そう語るインターラプターは、カラテの構えを解いた。
「だがな、アーソン=サン。そんな俺のどうしようもない人生を、こう言ってくれた男がいたのだ」
デッカーとして「ネオサイタマを守るため」。
ヨージンボーとして「キャンプを守っている」。
「尊い仕事だ…と。今なら分かる。たとえ血塗られた手であっても、何かを守る為の戦いをする意志を失ってはならない。人間の心を捨ててはならんのだ」
「ニンジャは奪う者だ!! 守る者ではないっ!!」
「それは誰が決めたのだ。ニンジャソウルのもたらす殺人衝動…全能感…それに振り回されているだけじゃないか」
アーソンはなおも食って掛かろうとした。
だが、身体が動かない。
体力ではない、気力が身体を動かさぬのだ。
「う…くっ…」
「チェインボルト=サン。退け、アーソン=サンを連れて」
チェインボルトは何度も頷く。頭上に“降”“参”の2字を浮かべて。
アーソンはチェインボルトに肩を借りてよろよろと村を去って行った。
「…良かったのか」
プリンセプス。
「また来たならその時に終わらせる。これ以上この村を血で汚したくない」
イクサを終えたインターラプターは、空を見上げる。
「…感謝する、ニンジャスレイヤー=サン。過去の罪は消えないが、俺は今…胸を張って生きている」
その時だ。
「私がいない間に一悶着あったようね?」
壊れた村の囲いを見やりながら、1人の美女が外から入って来た。
モデルめいた長身、長くしなやかな脚、ぬばたまの長髪、1点の曇りも無き美貌。そのバストは豊満であった。
だがその身に纏うのは、そんな美貌には見合わぬ他の村民達と大差無い安っぽいシャツと足首の出るズボンだ。
そしてその両肩には、2人の男性を抱えていた。
「ドーモ、コヨイ=サン。まぁ多少な。…それは?」
「漂流者。川を流れて来たのを、あの子が助けたらしいわ」
「あの子供か…また逃げたのか?」
インターラプターは、メンポを外しながら肩を竦めて溜め息を吐く。
「ええ。私が近付いたらさーっとね。だからとりあえず、こっちで引き取る事にしたの」
コヨイと呼ばれた女性は、持って帰った“荷物”を示すように肩を揺する。
金髪のモンクと、黒髪のサムライを。
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