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蒼と紅の雷霆

作者:setuna
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雷鎖:第八話 五連弾道飛翔体群

 
前書き
ZEDΩ.のことは好きですよ。
ただしそれはそれ、これはこれ。
確かにメビウスのこと考えれば仕方ないとこはあれど、やり過ぎたよ 

 
きりん達がカミオムを治龍局に迎えたその頃、某国の某所にて。

「…以上が、レイラの第七波動を通じて視た、かの国での出来事です」

「報告ありがとう、システィナ。それにレイラも、長い間の情報収集本当にお疲れ様。」

「ん(こくり)」

少年の言葉に少女が頷く。

「それにしても“暴龍の出現”か。俺達もうかうかしてられないな…これも、あの子の影響か。せめて皇神は、もう少し情報や技術を提供して、他国に協力を要請してくれたら良いんだけど。」

「第七波動に関わる技術は、他国に対する大きなアドバンテージ。いくら一族によって隠蔽体質が多少改善されようと皇神も、全容を簡単に明かしはしないでしょう。その一族も皇神の破壊暴龍の件で多忙を極めているようです。」

「破壊暴龍の件も含めて、国を守り続けている英雄に対して良くもまあそんな非礼が出来るもんだ…手を取り合う、何てのは時間の無駄か…もうそんな悠長なことは出来ないな。下手をしたらあの子のことは一族すら知らない可能性がある。過去の負の歴史に振り回されているのは同情するけどね…」

「暴龍の調査結果件ですが…弱体化、或いは無意識の状態であればレイラの電子の踊精(サイバージーン)で制御出来るようです。流石に破壊暴龍クラスの暴龍は不可能なようですが」

「…こっちの手札(カード)は揃ったってことだね、後は、あの子に辿り着くだけか。ま、何にせよ乗り込んでいくしかないな。レイラ、目星は付いてるかい?…“希望の子”の。」

「ん(こくり)」

「如何致しましょう?皇神が展開しているバリアは非常に強力。暴龍の件もあって正面切っての入国は難しいかと。」

「研究させていたAPF弾頭があったでしょ?あれなら、バリアを突破出来るはずだ。」

「…なるほど、織り込み済みだったのですね。調整と配備を急がせましょう」

「ありがとね、システィナ。研究チームには、俺から断りを入れておくよ。」

「いえ、全てはZEDΩ.様のご意思のままに…」

某国にて不穏な会話があったことなど知らないきりん達はカミオムの治龍局入りを喜び、翌日の朝にきりんお手製の朝食が置かれた。

白米・味噌汁・納豆・漬け物・卵焼き・焼き魚・海苔と言ったこの国の朝食代表の献立であった。

納豆と漬け物は苦手な人は食べなくて良いとの事だが、ソウとGVとパンテーラは見た目に依らず、納豆と漬け物…梅干しも綺麗に完食した。

「まあまあだな」

「「御馳走様でした」」

「ふええ…3人共、納豆も梅干しも綺麗に食べちゃった…」

シロンは納豆と梅干しが苦手で手を付けなかったが、あっさりと完食した3人に感嘆した。

「昔は動物を焼き殺して食ったことがあるからな」

「雑草をお湯でふやかしたのも食べたことあるし」

「飲み水が泥水だったこともありますしねぇ」

「「「ストリートチルドレン時代は満腹になったことなんて一度もなかった(からな/からね/ですし)」」」

「ごめんなさい」

シロンは3人の口からまるで世間話のようなノリで出たヘヴィな言葉にシロンはすぐに謝罪した。

「「「?」」」

シロンの謝罪に不思議そうにする3人だが、BBは胃もたれを起こしたような顔をしている。

世間話のようなノリで言って良いような言葉ではないからだろう。

微妙に重くなった雰囲気の朝食を終えて治龍局としての業務をしていた所にシロンが慌てて駆け寄ってくる。

「み、みんな大変!大変だよぉ~!ミサイルが5発!この国に接近中!!」

その言葉に全員がモニターに向かうとその言葉が事実だと理解させられる。

「ミサイル?この国は国防結界だとかに守られてるんじゃなかったか?」

「あの結界は生半可な能力や兵器では突破は出来ないはずです」

カミオムがこの国を守る国防結界“神代”のことを言い、パンテーラもかつてのエデンの騒動でその結界の厄介さを身を以て知っている。

「そ、それが、結界を擦り付けちゃったみたいなんだ!」

「何だってぇ!?」

「ほう、特殊なミサイルか」

シロンの言葉にBBが驚愕している隣で茶を啜り、きりんのデスクから秘蔵の芋羊羹を取り出して齧るソウ。

「今、国境警備隊が迎撃を試みてるけど、不思議な“力場”に遮られて、攻撃が逸らされちゃうみたい…」

「その“力場”ってのが、結界を無効化してるのかな…って、あんた何勝手に食べてんの!?後でこっそり食べようと思ったのに!!」

「ふむ、まあまあだな」

きりん秘蔵の芋羊羹の味は中々良かった模様。

「人の楽しみを奪っといてその感想!?」

掴みかかろうとするきりんをかわしながらシロンに歩み寄るソウ。

「落ち着け小娘…これは、これからするミッションを遂行するためのエネルギー補給だ。シロン、ミサイルのリアルタイム座標を割り出せ。出来るか?」

「押忍…僕の第七波動を使えば出来ると思うけど…どうするつもり?」

「肉体を電子に変換し、空間転移をする。言ってみれば長距離雷霆煉鎖だと思ってくれれば良い…」

「そうか!僕とテーラなら座標さえ分かればワープや空間の直結で向かうことが出来る!」

「なるほど、それならば!」

「ミサイルにワープで直接乗り込むってのか!?ぶっつけ本番で!?」

「ライトニングスラッシュとライトニングアサルトを長距離にしたような物だ。大体のことは何時もと変わらん」

「そうだとしてもミサイルは、常に高速で動いている。仮にワープが可能だったとして、座標計算にミスがあればタダでは済まないんだぞ?」

レクサスが万が一のことを考えるがソウは余裕を崩さない。

「俺にはカゲロウがある。それにいざと言う時は鎖環の封印を破って暴龍となれば良い。暴龍状態ならばミサイルなど豆鉄砲に等しい」

ソウは鎖環の制御下に置かれているが、その気になればその封印を力ずくで破ることも可能だ。

「確かに暴龍状態のあんたならミサイルの直撃を受けても平気だろうけど…」

寝起きの状態でも圧倒的な力を放っていたのだから、万全状態の破壊暴龍の力ならばミサイルなど確かに豆鉄砲だろう。

「と言うわけだシロン、やれ」

「ううぅ~簡単に言ってくれるなぁ、もー。やるけどさぁ…」

あまりにもソウが平然としているのでシロンも落ち着きを取り戻し、ミサイルの座標を割り出し始める。

「なら、私も行くよ!あんた達なら出来るでしょ?1人くらい連れてくなら。」

「お前は留守番していろ小娘」

「あんたはともかくパンテーラが暴走したらどうすんの?それに…あんた達にだけ良い格好はさせないよ!」

万が一パンテーラが暴走したらソウの意識はパンテーラに向けられてしまう。

少しでも成功確率を上げるためにきりんもソウ達についていくつもりだ。

「やれやれ…ただし、メインで戦うのは俺だ…お前は俺達から離れるな?“きりん”」

「っ!うん!」

きりんの度胸を認めて名前で呼ぶことにしたソウ。

初めて認められたと思ったきりんは喜ぶ。

「あっ!でも私の羊羮食べたの許さないからね!?」

「これからミッションへ向かう俺を労おうと思わんのか?羊羮1つでミサイルをどうにか出来るなら上等だろう」

「はむ…っ…あ、美味しいです」

芋羊羹をパンテーラに食べさせると中々美味しいらしい。

「ああ…っ…限定品の芋羊羹がぁ…っ!」

「今度何か奢ってあげるから…」

兄夫婦に芋羊羹を食い尽くされたきりんを哀れに思ったGVは戻ったら何かを奢ってやろうと決めた。

シロンが座標を割り出したのでソウ達はワープをしてミサイルに乗り込む。

「よし、ミサイルに到達したぞ」

破壊暴龍のイマージュパルスを装備しているので最初からソウが戦える。

『本当に紅き雷霆や蒼き雷霆や夢幻鏡って反則級だよね。ちょっと引いて良い?』

「勝手に引いてろ、シロン。こちらソウだ、無事にミサイルに取り付いたぞ」

『良かった~、ワープが上手く行って…』

『大丈夫だよ、心配をかけたね』

安堵しているシロンにGVが優しく言うと気配を感じて全員が目付きを鋭くする。

「後はミサイルを破壊するだけだ。今から上空で花火にしてやろう。丁度餌も出迎えてくれたようだしな」

「皇神の能力者め!ここから先へは行かせんぞ!」

「失せろ、塵(ゴミ)共」

“餌”認定されたミサイルの防衛をしている者達も、配備されているメカも雷撃鱗ロックオンで補足され、ライトニングスラッシュで一網打尽にされ、離れている敵にはロックオン放電で撃墜する。

リフターに乗っている者達は断末魔を上げて、そのまま落下していくが助けてやる義理はない。

『ソウ、そこから中に入れそうよ!』

モルフォが出入り口を発見して指差す。

「どうやら普通のミサイルではないな…ミサイルを改造したのか…?まあ、破壊するからどうでもいいが」

内部に侵入し、内部にいた敵を殲滅しながら進むと奥に見慣れない装置を発見する。

「何でしょう?これは…?」

『報告にあった、不思議な力場ってのを発生させてる装置みたいだね。僕の第七波動で計算してみたけど、どうもそのミサイル…核とか火薬じゃなくて、防御に使ってる力場を拡大して周囲に被害を出すフィールド弾っぽいよ!』

『なら、この装置を破壊すればミサイルを無効化出来るんだね。兄さん、装置を破壊しよう』

「いや、ミサイルごと破壊した方が早い」

シロンの言葉が正しいのならこの装置を破壊すればミサイルは無効化される。

GVに促されたソウは装置よりも内部で放電し、ミサイル全体に雷撃を叩き込んで破壊する。

『ミサイルの撃墜を確認!急いで隣のミサイルに向かって!』

「心配は無用だ。」

爆発直前に隣のミサイルに取り付き、ミサイル内部に向かうとミサイルを内部から破壊された光景を見せられたからか兵士達が慌ただしく出てくる。

『ブースターのアンロックを確認!切り離される前に急いで先に進んで!』

ブースターが切り離されていくが、ご丁寧に敵がいるので移動に不便はないが、かなりの勢いで切り離されている。

『ブースターがどんどん切り離されようとしてる!急いで駆け抜けて!』

「慌てるなシロン、冷静さを欠いては敵の思う壺だ。」

ロックオン放電とパンテーラの援護攻撃で敵を殲滅し、内部に侵入するとそのままミサイルを内部から破壊し、きりんが錫杖内でガッツポーズを取る。

『よっし!これで2つ目!』

「ソウ、急いで次のミサイルを!」

「ああ」

マッハダッシュを駆使して次のミサイルに取り付くとまた敵が出現し、ブースターが切り離されていく。

『兄さん、またブースターが切り離されていくよ!』

「やれやれ、ご苦労なことだ」

マッハダッシュを駆使しながらのロックオン放電ですれ違い様に敵を撃墜し、ミサイル内部に侵入する。

『何とか内部に入れたわね…』

「暴龍の力で破壊しても良いんだが、流石にあれは威力がありすぎるからな」

モルフォの言葉に対して、暴龍の力をミサイルに叩き込めば簡単に終わるが、流石に暴龍の力をこの規模のミサイルにぶつけては大惨事になりかねないので自重するソウ。

ミサイルを内部から破壊するとシロンからの通信が入る。

『ミサイルは残り2発!着弾まであまり時間が残ってない…!急いで!』

「そうか、ならばもう少し本気で行くか。お前達!ついてこい!」

「『『『了解!!』』』」

メインで戦っているのはソウだが、離れてしまっては集中放火を受けてしまう上に交代が必要な場合に対応出来ない。

ただ蹴散らされている敵の数を考えるとそんな心配は不要そうだが。

ソウは次のミサイルに取り付き、内部に侵入しようとするがそれを阻止するかのようにブースターが一斉に切り離されようとしている。

『ブースターが一気に切り離されようとしている。敵も必死か!!』

「全く、無駄な努力を。ご苦労なことだな」

ライトニングスラッシュとロックオン放電を駆使して敵を殲滅しながら内部に侵入し、ミサイルを破壊する。

『次で最後のミサイルよね!?』

『うん!みんな頑張って!』

モルフォの確認にシロンが同意するとマッハダッシュで最後のミサイルに取り付く。

「このミサイルで最後か…全く、一体どこの馬鹿だ?頭のネジが飛んでいるとしか思えんな」

「それは酷いなぁ。君らの国の国防結界を突破するにはこうするしかなかったんだよ」

「ん?」

声がした方向を見上げるときりんと同い年くらいの赤髪の少年と、どこかかつてのシアンを彷彿とさせる金髪の少女が上空で見下ろしていた。

少年は上空に光球を作り出すと暗かった周囲を照らす。

『わわっ!急にお昼になっちゃった!?』

「慌てるなシロン。どうやらこのミサイルは貴様らの仕業か…貴様のいる国では他所の国にミサイルでの入国が流行っているのか?」

「勘違いさせて悪いけど、これはミサイルじゃなくて、俺達を運ぶ輸送機なんだ。…ま、ミサイルの流用だから半分は正解だけど…この国は強力なバリアに護られている…あれを突破するには、こうする他なくてね。手荒な真似になったのは悪いが、今回は入国したかっただけさ。今頃、脱出した俺の仲間も先に降りた輸送機から上陸しているはずだ…それと、名乗るのが遅れたね、俺はZEDΩ.“ATEMS”のリーダーさ。」

「ATEMS…知らんな。それにしても普通に手続きをして正式に入国すれば良いものを。茶くらいは出したぞ?」

「はは、この国のお茶か。異国の嗜好品には少し興味はあるけど俺達は観光のために来たんじゃないんだ…ここで目的を明かしても構わないけど、君達“治龍局”に邪魔されても困るしな」

「何故俺達のことを知っている。皇神は基本的に外部との接触はないはずだが?」

全く会ったことのないZEDΩ.が自分達の所属を理解していることに引っ掛かりを覚えた

「君らの活躍は、俺の仲間の第七波動…」

少女の背後から暴龍を復活させてきた第七波動が出現する。

「それは暴龍を復活させた。モルフォに似た第七波動…なるほど、暴龍の復活はあなた方の仕業だったのですね」

「そう、この“電子の踊精”を通して君達と暴龍の戦いを視させてもらっていたよ。多国籍能力者連合…エデンの巫女」

「っ!」

『エデンって、大昔に壊滅したテロ組織…まさかパンテーラは』

多国籍能力者連合エデン。

それはきりんが生まれるよりも前に存在した無能力者に迫害された能力者が集まった組織。

かつてこの国を攻めたが、何者かによって鎮圧された記録があった。

『…そうだよ。テーラは昔、この国を攻めたエデンのリーダーだった。それをかつての僕と兄さんが止めたんだ…』

『ええ…!?』

つまりソウとパンテーラは敵同士だったのだ。

万年新婚夫婦と言っても過言ではなく、普段の長年連れ添った夫婦の仲睦まじい2人を見ていると、とてもではないが信じられないのがきりんの本音だ。

『色々あったんだ…今は何も聞かないで欲しい…』

『……分かったよ。無理して聞こうとはしないから』

『ありがとう』

きりんの言葉にGVは感謝する。

大昔の出来事とは言え、昔の戦いの記憶はあまり思い出したくはないからだ。

「取り敢えず…貴様らが俺達の仕事を増やしていたのは分かった。業務執行妨害で少し痛い目に遭ってもらうとしよう。だが、俺とて鬼ではない。さっさとそこの足手まといの小娘と役立たずの第七波動を逃がすんだな。」

“足手まとい”と“役立たず”と罵倒されたレイラはピクリと反応し、電子の踊精は不快そうに顔を歪めた。

「ほう、本体は喋るどころか表情すら変えられんのか?ならば人形か欠陥人間か」

『この…っ!』

嘲笑と共に叩き付けられた辛辣すぎる罵倒に電子の踊精が怒りを露にするが、ZEDΩ.がそれを制する。

「挑発に乗っては駄目だ。君はレイラと一緒にみんなと合流してくれ。」

ZEDΩ.は気付いていた。

パンテーラが冷徹な獲物を見る目で電子の踊精を狙っていることに。

もし彼女の前進を許せば確実にタダでは済まない。

「ん(こくり)」

ZEDΩ.はレイラと電子の踊精を宥め、仲間と合流に向かわせるとZEDΩ.は炎の翼を羽ばたかせながら降り立つ。

「レイラとルクシアを見逃してくれたのは感謝するよ。でも先程の発言は許せないかな?」

「ほう?他国にこんな物を撃ち込もうとする奴にもそんな情があるのか?まともに喋れもしない欠陥品をどう呼ぼうが俺の勝手だ」

次の瞬間、炎の矢が飛んできたがソウはそれを最小限の動きでかわす。

「ふん、少しはマシな顔になったな。先程の澄ました顔より遥かに好印象だぞ」

ZEDΩ.の表情は余裕そうだが、目にははっきりと分かるくらいに怒りが宿っている。

仲間のために怒れるZEDΩ.は決して悪人ではないのだろうが、やられっぱなしは性に合わない。

「まあ、これ以上の会話は要らんだろう。だが、せっかくこの国に来てくれたんだ。挨拶くらいはせんとな」

「…っ!?」

それを聞いたZEDΩ.はとてつもない悪寒を感じた。

ソウは右手首を左手で掴むと右手に力を収束させていき、右手が変異していく。

ZEDΩ.は目の前の光景に我が目を疑う。

ソウの右手が変異し、巨大化していったかと思えば巨大な口のような物が開き、形がはっきりとしていく。

「それは…っ!?」

「迸れ、紅き雷霆よ。龍の砲口に集うは破滅の雷、咆哮と共に放たれるは紅き閃光、哀れな愚者を終焉へと導け。」

「暴龍の…顎!?」

ソウの右手が破壊暴龍の顔を形作り、破壊暴龍の口に考えるのも馬鹿らしいと考えるくらいの雷撃エネルギーが収束していく。

「これは軽い挨拶だ。受け取れ、ワールドカタストロフィ」

破壊暴龍の口から放たれた極大の雷砲。

「くっ!?」

その凄まじい規模にZEDΩ.は全力で回避するが余波で吹き飛ばされ、国防結界を貫通して雷砲はそのまま直進し、宇宙へと飛んでいく。

あらゆる物を防いでくれるはずの国防結界を容易く貫通したのを見たきりんもGVもパンテーラもモルフォもZEDΩ.も、敵味方関係なく破壊暴龍の力の凄まじさを思い知った。

「ほう、避けたか。流石は蝿のような素早しっこさだ」

「くっ!何が軽い挨拶だ…!最初からクライマックスじゃないか…!」

直撃は避けたものの余波ですらZEDΩ.の防御を貫通し、戦う前からボロボロである。

「減らず口を叩ける余裕はあるようで何よりだ。30%の出力で死なれても拍子抜けだからな」

「あれでまだ全力じゃないのか?はは、笑えるくらいの化け物だねあんた」

「褒め言葉として受け取ろう。さて、2発目だ。今度は40%だ、避けられるか?」

無慈悲に向けられる龍砲。

龍の口に収束していく雷撃エネルギーにZEDΩ.の表情は険しくなる。

「くっ…!」

想像以上の暴威にZEDΩ.は顔を険しくするが、向こうから生き残ったATEMSの兵士達がZEDΩ.を援護しようと向かってくる。

「ZEDΩ.様ーーー!」

「ZEDΩ.様をお守りしろーーー!」

「待て!来るな!逃げ…」

「失せろ」

ATEMSの兵士達に一切の容赦もなく向けられた龍砲。

暴龍の口から放たれた先程以上の規模の雷砲はATEMSの兵士達を飲み込み、一瞬で蒸発させる。

それを見たZEDΩ.は絶句するが、彼の冷静な部分が撤退のチャンスだと促す。

ZEDΩ.は散ってしまった兵士達に詫びながらこの場を離脱した。

「チッ、逃げたか。良かったな貴様ら…貴様らの命にも僅かだけ意味があったぞ」

右手を元に戻すと呆然としていた4人を正気に戻し、最後のミサイル…輸送機を破壊して帰還するのであった。

オフィスに戻ると犬の姿に戻ったソウの肩を掴むときりんは必死の表情で叫んだ。

「お願い!あれはもう絶対に使わないでっ!!この星の地形が変わりかねないから!!お願いだから!ぜーーーったいに使わないでっ!!!」

「…何故だ?」

「当然の反応だと思うよ…兄さん」

「ですね…」

『うん…』

一部始終を見ていたGV達も同意していた。

「…ううむ、やはり刺激が少し強すぎたか」

「刺激とかそう言う問題じゃないっての!!」

後にSPスキル“ワールドカタストロフィ”は使用厳禁を言い渡されるのであった。

それからしばらくはATEMSの動向を探りながら普段の業務をしているとアリスとサクラ…そして彼女達の後継者である女性と側近の女性がオフィスに訪れた。

「アリス、サクラ…それからお前達は…」

「私の名はブレイド、お初にお目にかかる。あなたがアリス様の父上か」

「私の名前はイソラと申します。アリス様のお父様と会えるなんて光栄です」

「ブレイドとイソラ…ああ、アリスから話は聞いている。アリスの後を継ぐのとアイドルのダブルワークは大変かもしれんが頑張ってくれ」

「ああ、私もアリス様には多大な恩がある。私の全てを懸けて返していくつもりだ」

「はい、アリス様のためにもファンのためにも全力を尽くします」

「(僕の蒼き雷霆が反応している…まさか彼女は…)」

GVの蒼き雷霆が反応しているのでサクラの方を見ると視線の意味を理解したサクラは頷いた。

「さて、皆さん。各地でATEMSと言う小鼠の目撃情報が出ているのは知っていると思いますが、場所は4ヶ所…」

アリスが全員の端末にデータを送ると目撃のあった場所が表示される。

「この場所…メガフロート、ワタツミも?物流を混乱させるつもりなのか…!?」

「いえ、レクサス。恐らく…連中の狙いは封鍵でしょうね」

「宝剣?皇神が使っている宝剣のことかいアリス?サクラ?」

「…叔父様、皇神…正確には裏八雲が鋳造している宝剣は、“封鍵”の技術を応用した量産品です。簡単に言えば宝剣のオリジナル…封鍵は全部で4本…小鼠の狙いは封鍵でしょうね。あれも一応宝剣のオリジナルだけあって第七波動の強化も出来ます。」

「未だに宝剣の技術は他国には未公開ですから、宝剣の技術欲しさに封鍵(オリジナル)を求めている可能性があるかもしれません。」

皇神の隠蔽体質はアリス達によって幾分か改善されたが、組織が復活していく度に隠蔽体質も復活し、実質的支配者のアリス達ですら知らない情報もある。

なのでサクラの推測は当たりかもしれないし、ハズレの可能性も有り得る。

「封鍵を奪われるとどうなる?」

裏八雲に所属しているきりんにソウが尋ねるが、きりんは困った顔を浮かべる。

「分からない…元々はこの国の龍脈を制御して、霊的守護を高めるために造られた物だって聞いてる。けど、龍脈は長い時をかけて安定してるし、今更あれを抜いたって、すぐにどうこうなるなんてことはないはず。」

「だが、ミサイルなんて物を撃ち込むような連中だ。良からぬことを企ててるには違いねぇ」

「その通りです、カミオム。私達を虚仮にしたATEMSと言う小鼠には少々痛い目に遭ってもらうとしましょう。私の側近もそちらに向かわせます。協力して愚かな小鼠に制裁を、生死は問いません。終わり次第彼らの国にも制裁を与えましょう」

優しく微笑んでいるが怒りで紅き雷霆がバチバチしており、きりんは少しだけATEMSに同情する。

「(アリスさんのおっかないとこって絶対にソウ譲りだよね)

「アリス様、落ち着いて下さい」

「すまない、我々はこれで失礼する」

イソラとブレイドがアリスとサクラと共に退室する。

「全面戦争にならなければ良いがな」

「止めて、それアリスさんの怒り具合から洒落にならないから」

取り敢えず、業務を再開した治龍局の面々であった。

「僕も今回の件で鍛え直すことにしたよ。」

今回のミサイル騒動で多少の不安を覚えたGVは自分の訓練に力を入れようと思ったようだ。

「へえ、GVなら今のままでも充分だと思うけど」

「そうはいかないよ。ZEDΩ.は見たところ最上位の第七波動能力者。今の蒼き雷霆でどこまで対抗出来るか分からない」

「どうするつもりですかGV?」

「昔使っていた攻撃型スキルを鍛え直そうと思う。手数は多い方が良いからね、イメージはしていたけど結局会得する機会が無かったスキルもあるし。以前使っていた吼雷降と霆龍玉は当然として新スキルとして広範囲攻撃の全てのEPエネルギーを攻撃に使う雷霆解放と電撃の分身を作り出す電影招雷が使えるようになりたい。」

「それって、昔大流行したレトロゲームの主人公の強化形態が使う必殺技のギガクラッ✕✕(ピー)と敵から奪った武器のソウ✕(ピー)ボディ?」

「シロン、それを言ってはいけないよ。懐かしいけども」

昔、ジーノに勧められて飛び飛びながらそのシリーズをやったり、オウカが読んでいた小説がそのレトロゲームのノベライズ作品だったことに驚いたのはGVの秘密だ。 
 

 
後書き
トライアングルエディションの雷霆解放は鎖環のGV交代のあれが元ネタだけど電影招雷は何が元ネタなんだろ。

今回のソウのオリジナルSPスキルはフォルテGSのバニシングワールドが元ネタ。

因みにルクシアが前に出てたら爪のシアンよろしく、鏡に囚われて粉微塵にされてATEMS編完!!でした。 
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