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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第4部
ネクロゴンド
  虫の知らせ(ナギ視点)


 気がつくと、オレは一人、荒野の中に立っていた。

――どうしてこんなところに? 他の仲間は?

 あたりを見回しても、仲間どころか人の気配すらない。ユウリ、ミオ、シーラ。あいつらは一体どこにいる?

 いや、今のオレはオレじゃない。青いマントに青灰色の鎧。鏡がないので分からないが、身につけている装備品を見る限り、この姿はユウリだ。

 オレ――いや、ユウリは何かの気配に気がつくと、距離をとるため走り出した。だがその前に、離れようとするユウリより早く間合いをとったそいつ(・・・)は、ユウリの背後に回り込み、瞬時に殺気を放った。

「!!」

 首元に、殺意を込めた冷たい感触が走る。相手は相当の手練だ。下手に動けばユウリの命はない。だからって、夢の中のオレがどうこうできるわけでもないのだが。

 相手は得物をユウリの首元に向けたまま、ユウリの肩にかかっている鞄を取り上げた。そしてすぐに、その鞄をあさっての方に放り投げた。なぜか鞄の落下地点には溶岩が流れており、鞄は溶岩の中にあっさりと落ちた。

 オレは愕然とした。だってあの鞄の中には、回復アイテムや聖水などの道具はもちろん、不死鳥ラーミアを復活させるのに必要なオーブも入っているんだ。それが溶岩の中に落ちてしまったらどうなるか――。考えなくても分かることだ。

 オレは手も足も出ない状態で、その状況を黙って見守ることしかできなかった。その後背後の相手はユウリに何かを話しかけていたが、呆然と立ち尽くすオレの耳には届かない。

――そして、ろくに状況も飲み込めないまま、世界は暗転した。

 真っ暗な世界に落とされ、次に目が覚めたときには、今度は地下深くの洞窟に立っていた。

 今度はオレ自身の姿だ。じゃあさっきのは何だ? 別の夢なのか?

 辺りを見渡すが、オレを襲った奴は見当たらない。仕方ないので先を歩いていくと、前方に人影が見えた。

――あれは、シーラ?

 人影は、後ろを向いてしゃがみ込んでいるシーラだった。だがさらにその奥に、横たわっている人影が見える。その瞬間、背筋がぞわりと総毛立った。

「!!」

 そこに横たわっていたのは、ミオだった。血の気はなく、まるで眠っているかのように微動だにしない。

「ミオ!!」

 オレは即座に彼女に駆け寄ると、体を揺り起こした。けれど、どんなに体を揺すっても、彼女の目が覚めることはなかった。

「うう……、ミオちん……!! どうしてこんなことに……!!」

 一方シーラは、オレがそばに来ていることにも気づかず、ただただ涙を流している。オレはあらん限りの声を出してミオに呼びかけた。

「おい、ミオ!! 起きろ!! なあ、シーラ!! 一体何があったんだよ!?」

 だがオレが何度も声をかけても、ミオは起きなかった。そうこうしている間にも、みるみるうちに体は冷たくなっていく。

「おい、バカザル。これは一体どういうことなんだ」

 後からやってきたユウリも、信じられないような顔をしてミオを見下ろしている。けど今は、こいつに構ってる場合じゃない。

 すぐにオレはミオの心臓に耳を当てた。すると――。

「息、してない……」

『!!??』

 ミオの死を察した瞬間、オレは目の前が真っ暗になった。他の二人もこれ以上言葉が続かず愕然としている。

「嘘だろ……? なあ、目を開けてくれよ、ミオ!!」

 オレがどんなに名前を呼んでも、ミオの目が開くことはなかった。ひんやりと暗い洞窟に、オレの慟哭だけが聞こえていた――。



「うわあああああっっっっ!!!!」

 絶叫とともに、オレはベッドから跳ね起きた。
 船室の窓を見上げると、昇ったばかりの朝日が顔をのぞかせている。

――なんだ、夢か……。

 ホッと一息ついてから、自分が寝ていたベッドが汗で濡れていることに気がついた。そしてオレは、さっき見た夢の内容を頭の中で再確認した。

 最初は草木の生えない荒れた土地に、ユウリの姿で走っていたオレは、突然背後から何者かに襲われ、オーブの入った鞄を奪われた挙げ句、それを溶岩の中に放り込まれた。そのあと場面が代わり、洞窟内で倒れているミオを発見した。彼女に意識はなく、次第に体が冷たくなり、しまいには――。

 これ以上のことは言葉にしたくない。オレは慌てて頭を振った。

 だが、この夢は普通の夢ではない。普通の人ならただの夢で終わるところだが、いかんせんオレはジジイの代から続く予知夢を視る家系だ。これがただの夢かそうでないかの区別は本能でわかる。

――あいつらに伝えたほうがいいのだろうか。

 いや、ユウリやシーラはともかく、ミオには伝えちゃいけない気がする。前者はともかく、後者はミオの生死に関わることだ。自分が死ぬ未来を知れば、きっとあいつは思い悩むことだろう。

「――よし」

 オレはベッドから降りると、すぐに着替えて部屋をあとにした。

 とはいえ、今は夜が明けてからまだ間もない時間帯だ。この時間に起きているのはトレーニングをしているユウリしかいない。正直陰険勇者と一対一で話すのは気が重いが、こんな重大なことをオレ一人で抱える方がもっと辛かった。相変わらずシーラは昨夜も船の連中と遅くまで酒盛りをしていたようだし、きっと誰よりも遅く起きてくるに違いない。それまで我慢できないと悟ったオレは、そのまま甲板に出ることにした。

 オレがちょうど甲板に着いた頃には、眩しいほどの朝日が船全体を照らしていた。その片隅でひたすら剣を振っている勇者を見つけると、やや重い足取りで近づいていった。

 オレの気配に気づいた途端、顔をしかめる陰険勇者。ちくしょう、オレだってお前と話すのなんか嫌なんだよ。それでもオレは自分の使命のために、あらゆる不平不満を飲み込んでお前のもとに来たんだ。

 仕方ない。ここはオレのほうが大人な対応だってことを見せつけてやるしかない。

「なあ、ユウリ。ちょっと今いいか?」

「断る」

 あああああ、マジでぶん殴りてええええ!!

 ……という心の叫びを、オレはひたすらに咀嚼して飲み込んだ。よし、よく耐えた、オレ!

「大事な話なんだ。今朝、予知夢を視た」

「――!」

『予知夢』という単語に、さすがの勇者も興味深げに反応を示した。ていうか、そんな大事な話ぐらいでないと、お前はオレの話に耳を貸さないのか。

 オレはユウリに夢の内容を話した。相変わらずムカつく顔をしていたが、何か思うところがあるのか、ユウリは顎に手を乗せたまましばらく考え込んでいた。

「その夢、お前はどう思った?」

「どう、って?」

 素直に聞き返すオレに、ユウリは黙ったままオレをじっと睨みつけた。その目は今にも魔物を攻撃せんばかりに殺気を放っていた。いや、聞き返すくらい別によくねえか?

「もしその夢が本当に起こるとして、俺が持っていたオーブを狙っていた奴に心当たりはあるか?」

「そ……、そんなことわかんねーよ! ただそういう夢を視たって伝えたかっただけなんだからよ!!」

 オレが反論すると、ユウリは呆れたようにため息をついた。

「お前が見た夢なんだから、お前が一番その夢を理解しなきゃならないだろ。お前はその夢を見て、どんな未来になると感じたんだ?」

「それは……」

 悔しいが、こいつの言う通りだ。今朝の夢は、オレが視たからこそ意味があるのではないか。その夢をオレがどう感じたかで、未来を変えることができるんじゃないのか?

 オレは目を瞑り、今朝の夢をもう一度思い返した。

 そもそもなぜユウリは一人だったんだ? それにオレが言うのも何だが、レベルの高いこいつが敵に背後を取られるなんて、信じがたい話だ。

「あのとき、ユウリが一人だけだったのが気になる。その間オレたちは、どこにいたんだろう?」

「俺が一人なのは大した問題じゃない。戦いになればそういう状況になるのは十分あり得る。それよりも、俺が背後を取られることのほうがあり得ない」

 うんまあ、お前ならそう言うと思ってたぜ。

「鞄を奪われたって言ってたよな。それなら、対策のしようはある」

「オーブを奪われないようにすることができるってことか」

「ああ」

 まあ、こいつとシーラの頭があれば、きっとなんとか出来るんだろう。

「それよりももう一つの夢の方だ。あいつが倒れている夢を見たっていうのは、一体どういうことだったんだ?」

 ユウリの問いに、オレはもう一度夢の内容を思い返して……、首を横に振った。

「もう一つの夢のミオのことは、正直今朝の夢だけじゃほとんどわからない。洞窟の中で倒れて、オレが駆けつけた時にだんだん体が冷たくなって、そこで目が覚めたから。――でも」

 一呼吸置いて、オレは言葉を続ける。

「逆にそうなる前に防ぐことができれば、きっとミオの命を救えるはずなんだ。もしかしたら、前に視た予知夢の中に、ヒントが隠されていたのかもしれない」

 そこまで考えて、オレはあることに気がついた。確か随分前にも、似たような夢を視たんだった。

「そういえば、ずっと前にどこかの草原にオレたちが立ってた夢を視たんだ。そのときにいたのがオレとシーラとお前の三人で……、ミオだけがいなかった」

「その状況はまだ現実にはなってないんだよな。なら、今の夢と合わせて、これから起こるかもしれない未来だという可能性は十分にある」

 その言葉に、背中にじんわりと嫌な汗が伝い落ちる。ユウリ一人しかいない夢と、ミオだけがいない夢。二つの夢はどこか似ている状況であるが、不安が大きいのは圧倒的に後者の方だ。

「……今朝見た夢と、前に見た夢。その二つの夢を見て、どう思ったんだ?」

 さらにユウリはオレに尋ねてくる。ていうか、こんなにこいつと話すのは、初めてかもしれない。

「考えたくはないけど、両方ともミオの生死に関わることだと思ってる。どっちが先の話かはわかんねーけど。でも、オーブのこともそうだが、オレは決められた運命をぶち壊す覚悟は出来てる」

「……要するに、運命を変えるつもりなんだな」

 険しい顔でオレを見据えるユウリに、オレは自信を持って頷く。

「オレの旅の目的は、お前らを正しい道に導くことだ。運命がオレたちをそうさせないってんなら、とことん抗って、オレたちが納得できる運命をこれから作り出すつもりだ。……だからユウリ、オレの言葉を信じてくれ」

「……」

 いくら気に食わない奴だろうと、これだけは信じてほしかった。訴えるように目の前の勇者を見返すと、突然奴は口を開いた。

「お前の考えはわかった。……シーラが起きたら三人で話し合うぞ」

「!!」

 それは、『信じる』って解釈していいんだよな? 

「あ、でも、オーブの件だけでもミオに相談してもいいんじゃないか?」

 けれどユウリは首を横に振った。

「オーブと鈍足女の件が無関係とは限らないだろう。それに中途半端に隠し事をしても、そのうち誰かがうっかり喋るかもしれないだろ」

「へえ? 例えば賢い勇者様でもうっかり口を滑らすことがあるってことですかね〜?」

「……」

 どうせ反論されると思って皮肉たっぷりに言ってやったのだが、何故か奴は言葉を詰まらせた。

――なんだよ。調子狂うじゃねえか。

 変な空気になり、オレは乱暴に頭をかきむしった。

「あーもうわかったよ! とにかく一度シーラを呼んで話し合おうぜ。オレはシーラを起こしてくる」

 そう言って、この場から逃げるようにこの場を去った。よくわかんねえけど、一応あいつも人の血が通ってるんだ。きっとミオに心配をかけさせたくないんだろう。

 オレはその足ですぐにシーラの部屋に向かった。願わくば、ミオが起きる前にあいつと話をしたい。そう思っていたからか、無意識に早歩きになっていた。

「おーい、シーラ! 起きてるか?」

 ノックと同時に声をかける。だが、予想通りというか、全く反応はなく、聞き耳を立てても物音一つしなかった。

――仕方ない。気は進まないけど今は非常事態だ。

 オレは懐から盗賊の鍵を取り出すと、扉の鍵を開けた。

 解錠したことを確認すると、すかさずドアノブに手を回し、扉を開けた。

「なあシーラ、これからユウリと話が……」

「きゃああああああ!!」

 ドゴッ!!

「ぐはああっっ!!」

 シーラの悲鳴とともにオレの顔を直撃したのは、大きめのワイン瓶だった。

「何勝手に鍵開けて入ってきてんの!? 信じらんない!! バカ!! 変態!!」

 寝起きのシーラはワイン瓶の他にも、鞄や枕、ウイスキーの瓶など次々にオレの方へと投げてきた。

「落ち着けよ、シーラ。今朝予知夢を視たんだけど、それについて今からユウリと話を……」

「いーから出てって!! 乙女の部屋に無断で入るなんてサイテーだよ!!」

「ワイン瓶振り回す奴のどこが乙女だ!!」

「……ヒャダルコ!!」

 カキーーーーン!!

――そこから先のことは、ほとんど覚えていない。だが、この一件でオレは学んだ。寝起きのシーラを怒らせたらとんでもないことになるのだと――。 
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