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ああっ女神さまっ 森里愛鈴 ―天と地をつなぐ翼―

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21-3 スクルド版 Satisfactory

 ユズリハが発電所予定地の地図を指し示した。
「石炭発電は設置さえできれば、あとは無人でも動く。だからこそ最初の舞台設計が肝心よ」
 皆が地図を覗き込み、ざわめく。
「候補は三つだね。崖の上の湖、川沿いの石炭ノード、そして川の中」ユリが冷静にまとめる。
「湖に作れば水は安心。でも高低差がきついぞ」理沙が眉をひそめる。
「川沿いのノードなら資源は近いけど、スペースが狭い」アカネが腕を組む。
「川の中は……舞台としては映えるな」ユズリハが目を細めた。
「竜なら水に潜っても大丈夫」瑠璃がさらりと口にする。
「いや、そもそも潜る発電所ってどうなの!?」愛鈴が慌ててツッコんだ。
 C2が冷静に補足する。
「水源は無限です。ただしポンプ台数に制限があります。どの選択肢でも、汲み上げ効率と搬入ラインを考慮する必要があります」
 ユズリハは静かに告げる。
「――では決めましょう。どこに建てるのか。この舞台の灯を、どこでともすかを」
 ユズリハが全員を見回し、静かに告げた。
「発電所の建設は三人で十分。ユリ、瑠璃、アカネ――任せます」
「了解。材料の管理は私がやる」ユリが即座に頷く。
「力仕事はまかせろ!」瑠璃が資材の箱を軽々と担ぐ。
「わーい!土台並べるの楽しい!」アカネは既にコンクリ片手に走り出していた。
「じゃあ残りは探索班ね」愛鈴がザッパーを握り直す。
「うん。鉄や銅の追加ノードも気になるし、墜落ポッドを見つけたらワンチャン新技術が来る」理沙がにやりと笑う。
「舞台を広げる幕間、ということだな」ユズリハが頷く。
「竜なら匂いで資源を探せる」瑠璃がさらりと口にする。
「もう建設組に集中して!」愛鈴がツッコミを入れた。
 そうなると自然とユズリハが中心になってくる。
「建設班はここで石炭発電を稼働。探索班は周辺資源の確保と危険生物の掃討をお願いします。効率を最大化するため、分担は必須です」
 七人は二手に分かれ、それぞれの持ち場へと歩み出した。
 砂漠に工場の灯がともるまで、あと一歩。
 瑠璃が地図を覗き込み、ぽつりと口を開いた。
「……で、発電機は間を空けて並べる。後ろから水をパイプで通せばいい」
「え?」アカネが目を瞬く。
「ん? ん?」愛鈴と理沙も首を傾げる。
 ユリがすぐに理解して頷いた。
「つまり、前は石炭ベルト用、後ろは水のパイプ専用。正面と背面で分ければ、詰まらない」
「おおー!それならいける!」アカネがぱっと笑顔を見せる。
「舞台袖に通路を設けるようなものだな。合理的だ」ユズリハが静かに言った。
「竜なら一度に飲んで吐き分ける」瑠璃がさらり。
「いや、それを基準にするのやめて!?」愛鈴が即座に突っ込んだ。
 C2がホログラムを操作し、シミュレーションを映し出す。
「瑠璃様の案が最適です。発電機を一定間隔で配置し、背面に水配管を通す方式。これで効率的に稼働します」
 仲間たちは顔を見合わせ、ようやく方向性を固めた。
 砂漠に並ぶ巨大発電機群の姿が、少しだけ現実味を帯びて見えてきた。
 鉄骨フレームに囲まれた建設現場。発電機の基礎が並び、ユリが端末を見ながら眉をひそめていた。
「燃料は石炭だから、コンベアーを通せばどうにでもなる。でも問題は水ポンプ……五台分に何基必要かがわからない」
 アカネがパイプを抱えながら「え、そんな細かいとこ今気にする?」と不満げ。
 ユリは真面目な顔のまま、「設計段階で誤ると再配置で時間を食うの」と返す。
 そこで瑠璃が口を開いた。
「んー……五台なら、二基もあればいいんじゃないかな」
 肩に鉄骨を担ぎながらも、声は軽い。
「根拠は?」とユリ。
「ないよ。試してみればいい。トライ・アンド・エラー。だめならやり直せばいい」
 あっけらかんと瑠璃が答えた。
 アカネが「おー、それ賛成!」と手を挙げる。
 ユリは小さくため息をついて、端末に計算式を打ち込んだ。
「……まあ、確かに。まずは二基でやってみましょう」
 発電機五台が並び、石炭コンベアーが唸りを上げて稼働する。ユリがモニターを凝視しながら、隣に並んだポンプ二基の出力を確認した。
「……動いてる。水量、足りてる……!」
 アカネが目を丸くして跳ねる。
「マジで!? 二基で十分なの!?」
 瑠璃は鉄骨を降ろしながら、どこか誇らしげに肩をすくめる。
「ほらね。やってみりゃわかるんだよ」
 ユリは観測データを何度も見返し、苦笑混じりに。
「……理論値では不安定だったのに。瑠璃、あなたの勘は侮れないわね」
「よっ!ドラゴンセンサー!」
「やめてよ、そういうの」
 しかし発電機のランプが緑に光り、拠点に低い振動が伝わった瞬間、皆の胸に達成感が広がった。

 愛鈴たちが進んでいた岩壁の壁に、不自然な裂け目が開いていた。
楓が先に駆け寄り、懐中ライトを突っ込む。
「見て!横穴だ!」
 そこには見慣れぬ光景が広がっていた。
 足元一面に、群生する巨大なキノコ――傘は淡い光を放ち、辺りを幻想的に染めている。
 さらに壁際には、ピンク色に脈打つ未知の鉱石の塊がいくつも張り付いていた。
 理沙は即座に端末を起動し、測定データを見て目を細める。
「……未知の成分反応。希少資源の可能性大。でも――」
 次の瞬間、耳をつんざく甲高い羽音。
 暗闇の奥からスティンガーの群れが飛び出してきた。
「くっ!」
 愛鈴が咄嗟にライフルを構える。弾丸が羽音を切り裂くが、数が多すぎる。
 楓は「うわっ、こっち来た!」と慌ててバッシャーを振り回し、危うく突き刺されそうになる。
 理沙が怒鳴る。
「全員下がれ!乱戦は不利!」
 C2のホログラムが肩に浮かび、淡々と告げる。
「戦闘評価――危険度S。撤退を推奨します」
 洞窟はキノコの光と銃火の閃光で赤く染まり、横穴はたちまち修羅場と化した。
 スティンガーの群れを何とか退け、息を切らしながら横穴を見直す。
 理沙がピンク色の鉱石をライトで照らし、慎重に観察した。
「……あれは多分、未加工石英ね。いずれ必要になるはずだけど、今はまだ放っておいていいでしょう」
 愛鈴が頷く。
「確かに、ラインも用途も整ってないし。今は手を出すべきじゃない」
 C2が追補するように告げる。
「さらに奥に反応――SAM鉱石も確認されました。ですが、これも同じ。現段階では用途不明、採掘は非推奨です」
 楓は悔しそうに拳を握った。
「せっかく見つけたのに、持ち帰れないの?」
 理沙が首を振る。
「情報さえ持ち帰れば十分。無理して消耗するのが一番の損失よ」
 愛鈴は横穴の幻想的な光景を一度振り返り、小さく息を吐いた。
「……じゃあ、いずれまた来よう。その時は準備万端で」

 洞窟から退避した探索班に、ユズリハの落ち着いた声が響く。
『建設班、どうなっていますか』
 ユリの声が即答する。
「石炭発電所を、5台動かしたよ」
 一瞬の沈黙の後、ユズリハが柔らかく言葉を返す。
『……それは朗報。舞台の灯が、確かにともったということですね』
 愛鈴は泥だらけのライフルを見下ろしながら、ほっと息を吐いた。
 理沙が端末を閉じ、淡々と報告を添える。
「こちらは横穴を発見。未加工石英とSAM鉱石を確認しました。ですが、いずれ必要になるまで放置でいいでしょう」
 ユズリハ『理解しました。建設と探索、どちらも前に進んでいます。――この調子で続けましょう』
 洞窟の暗闇と、建設現場の振動が、一本の通信で結ばれる。 
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