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ああっ女神さまっ 森里愛鈴 ―天と地をつなぐ翼―

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21-1 スクルド版 Satisfactory

 
前書き
『Satisfactory』は、Coffee Stain Studiosによって開発された、2019年からアーリーアクセスを開始し、2024年9月11日に正式リリースされた一人称視点の工場建設ゲームです。当初はEpic Games Storeで公開され、その後Steamでもリリースされましたが、正式リリースと同時にコンソール版(Xbox Series X|S、PS5)の発売も告知されました。




 

 
 工場をつくり、効率を追い求め、惑星をまるごと機械仕掛けに染めていく――。
 そんなゲームがある。名を「Satisfactory」。
 通常ならFICSIT(フィクシット)社の一社員として未知の惑星に送り込まれるはずだが、今回の案内役は違っていた。
 七人が降り立ったのは、灼けるような陽炎の立つ砂漠。背後に岩山をいただく荒涼の地である。
「ここが初期ステージ。名称は“岩山と砂漠”」
 声を響かせたのは、半透明のホログラムとして姿を見せるC2だった。
 本来ならA.D.A.システムの役割を代わりに務めるようだ。
「本来であれば企業FICSIT(フィクシット)社の派遣社員として降下します。ですが、今回の仕様はスクルド様によるカスタム版です」
「つまり?」愛鈴が問い返す。
「通常のルールを基本としつつ、資源の再生や機械の挙動など、一部が調整されています。安全性は……保証しません」
 C2はきっぱりと言い切った。
「スクルド社」と描き替えられた看板にピースサインをするスクルドの顔。
「なんかムカつく」
 七人は視線を交わし、さっそく言い合いになる。
「やっぱ草原の方が簡単だったんじゃないの!?」アカネが頭を抱える。
「敵は少ないし、火力置くスペースだっていっぱいある。悪くない」理沙は腕を組んで砂漠を睨む。
「でも水が……発電を考えると不足すぎるわ」ユリが冷静に指摘した。
「岩山もカッコいいし、砂漠って竜っぽい」瑠璃がぽつりとつぶやく。
「舞台としては挑戦的でいいと思う」ユズリハは静かに頷いた。
「効率? もう真ん中にドカンと置けばいいじゃん!」楓は笑って言い放つ。
「メイプルは相も変わらず」理沙(サリー)が肩をすくめる。
「……結局バラバラだね」愛鈴がため息をもらした。
 しばしの押し問答の末、全員が折り合いをつける。
――ここを拠点にする。砂漠と岩山。困難があろうと、まずはここから始めよう。
 七人はそれぞれ息を整え、目の前の荒れ地を見渡した。
 こうして、スクルド仕様による工場建設の物語が始まった。
「ちょっと待って、あれって……湖じゃない?」
 愛鈴が指さす先、陽炎の向こうに青みを帯びた影が揺れていた。砂漠の真ん中に、あり得ない水面のきらめきがある。
「ほんとだ! やったー!」アカネが声をあげ、両手を振る。
「なるほど、水が近いなら発電計画も見直せるな」理沙は腕を組んで頷いた。
「でも距離はあるわ。資源ラインとどう繋ぐか、後で頭を抱えることになる」ユリが冷静に現実を突きつける。
「湖か……いいじゃない。舞台に水が映えれば、工場も美しくなる」ユズリハは目を細めて呟いた。
「……竜が喉を潤せる場所だ」瑠璃がぽつりと口にする。
「湖リゾート工場だな! 絶対カッコいい!」楓はすでに妄想の世界に飛んでいた。
 C2が淡々と補足する。
「湖の存在を確認。水源として利用可能ですが、供給量は無限。ただし、置けるポンプには限りがあります。大量発電には不十分です。なお、この岩山を一つ越えると……その先は海です」
「……海?」
 七人は顔を見合わせ、思わず息を呑んだ。

 愛鈴が指差した先に揺れる青い光は、やはり湖だった。砂漠の大地にあり得ないはずの潤いが、そこに確かに存在していた。
「ほんとに水だ!」アカネが跳ねるように叫ぶ。
「これなら発電に回せる」理沙も目を細める。
 C2が冷静に告げる。
「補足します。この惑星の湖や海は、供給量に限界はありません。実質的に無限の水源です。ただし、ポンプ設置台数には上限があり、汲み上げ量は制約を受けます」
「無限なのに制限ありって……ややこしいな」愛鈴が首を傾げる。
 そのときユリがセントパッドを操作し、別ウィンドウを開いた。
「……Wikiによると、この世界の資源は枯渇しないってなってるよ。水も含めて基本は無限。ただし効率や運搬方法で悩むのは変わらない、って」
「なるほど。じゃあ、なくならない代わりに頭を使えってことね」愛鈴が苦笑をもらす。
「頭使うのは任せる! 私は掘って斬って運ぶ!」アカネが拳を振り上げた。
 湖のきらめきは確かに希望を示していた。だが同時に、これから待ち受ける「工場建設」という試練の深さも暗示していた。
 ユリは画面を指先で切り替え、淡々と告げる。
「とりあえず、軌道エレベーターを立ててフェーズ1を超えないことには始まりませんね」
「フェーズ?」アカネが首を傾げる。
「企業への納品目標の区切り。ここを超えると、作れるものが一気に増える」理沙がすぐに食いついた。
「舞台でいえば、幕が上がる瞬間だな」ユズリハが納得するように頷く。
「エレベーターか……竜が登る塔みたい」瑠璃はぽつりと呟く。
「ロマンはあるけど、まずは材料集めね」愛鈴が草束を抱え直した。
 ユリがセントパッドを覗き込みながら呟いた。
「まずは、燃料をどうにかしないと」
 画面をスワイプして、生産ツリーを開く。
 葉や木を加工してバイオマス。
「……えーと。固体バイオ燃料がその上にあるね」
 C2がすぐに補足する。
「正解です。草や木から精製できる“固体バイオ燃料”は、序盤の安定した電源になります。効率はバイオマスの約四倍。これで炉や採掘機を安定稼働させられます」
 アカネは両手を腰に当てて笑った。
「よーし! これで草刈り地獄から卒業だな!」
「卒業って言っても、材料はやっぱり草なのよね……」愛鈴が抱えた草束を見下ろし、苦笑する。
「でもこれでやっと“燃料として使える形”になった。工場を動かす第一歩よ」
 ユリは淡々とまとめた。
 C2が新しいレシピを提示した。
「まずは採掘機Mk.1と製錬炉を設置してください。これで鉄と銅の基礎ラインが形成されます」
 大地に唸りを上げて稼働を始めた機械から、鉄鉱石と銅鉱石が吸い込まれていく。炉が赤熱し、最初のインゴットが吐き出される。
「……やっと“工場っぽい”のが始まったって感じだね」愛鈴が小さく微笑む。
「これこれ! こっからドカーンだろ!」理沙が拳を突き上げた。
「でもまだ地味……」アカネは口を尖らせる。
 C2が続ける。
「製作機と組立機――このゲームではおなじみの中核設備です。単一素材から製品を生むのが製作機、二種以上を組み合わせるのが組立機。ここから本格的な工場計画が始まります」
 ユリがメモを取りながら頷いた。
「鉄板、棒、ネジ……銅はワイヤー。基本の部品がやっと出揃った」
 ユズリハは流れるベルトを見つめ、静かに言葉を落とす。
「舞台に血脈が通った。遅い流れでも、確かに形を成しつつある」
 ベルトコンベアが鉱石を運び出す。
 速度は遅い。Mk.1の限界。それでも、最初の一歩に違いはなかった。
「……コンベアが遅いのは仕方ないか」愛鈴が苦笑する。
「でも動き出した。ここからは積み重ねるだけだ」
 C2が機械群を見回しながら静かに言った。
「基本、このゲームはスクラップ&ビルドですよ。本工場はまだまだ先です」
 インゴットを吐き出す炉の熱気が揺れる中、皆が顔を見合わせる。
「せっかく作ったのに、また壊すんだ……」アカネがため息をつく。
「でも、それが効率化の道ってことだな」理沙はにやりと笑った。
「無駄を重ねて最適解に近づく。ある意味で演劇のリハーサルと同じ」ユズリハが冷静に言葉を添える。
 C2はさらに補足する。
「後は土台を敷けば場は安定します。皆さん、頑張って」
 その声に七人はそれぞれの道具を握り直した。
 まだ始まったばかり。けれど確かに、工場は動き出そうとしていた。
「土台? わりと早いうちに実装されてるな」
「材料は、コンクリートと鉄板か」
 ユズリハが口を開いた。
「AWESOMEショップにクーポンを入れないと、手に入らないものもあります」
「なにそれ?」アカネが首をかしげる。
「つまり――余ったり、いらないものを処理すると代わりに“クーポン”が支払われるのよ。そのクーポンを集めれば、新しい部品や特別な道具を手に入れられる」
「いらないものがお金になるってことか! ゴミ屋さんみたいだな!」アカネが笑う。
「……ただの廃棄じゃなくて、価値を循環させる仕組みね」ユリが冷静に書き留める。
 ユズリハはさらに続けた。
「あとはM.A.M.――モジュラー分析機。墜落した機体や未知の素材を解析して、新しい製造品を研究できる装置です」
「おおー! 未知の技術ゲットってやつか!」理沙の目が光る。
「……でも結局、地味に探索しないといけないんでしょ?」愛鈴が小さく笑った。
 ん? と湖の対岸を見て。
「あったじゃん」
「舞台裏を歩くのもまた舞の一部です」ユズリハは穏やかに言った。
 ユリがセントパッドを操作しながら読み上げた。
「M.A.M.の建設条件……強化鉄板5、ケーブル15、ワイヤー45。これなら手作業でも頑張れば揃えられるわ」
「おおー! じゃあ作れるじゃん!」アカネが勢いよく声を上げる。
「いや、強化鉄板ってけっこう面倒だぞ」理沙が眉をひそめた。
「鉄板とネジの組み合わせ。序盤の労力としては重いわね」ユリは冷静に補足する。
 C2が頷くように言った。
「それでもM.A.M.は、研究と発展への第一歩です。未知の素材を解析することで、新たな道具やレシピが手に入ります」
「舞台を広げるための小さな投資、ということね」ユズリハが静かに言葉を落とす。
「竜なら力ずくでこじ開けられるけど……」瑠璃がぼそりと呟く。
「そういうゲームじゃないって!」愛鈴が慌てて突っ込んだ。
 M.A.M.のランプが点滅し、初回の研究が完了した。
「……んん?」ユリが画面を覗き込む。
「結果:鋼鉄のネジ」
「はああ!?」アカネが叫ぶ。
「スク姉、これバグだろ!」愛鈴が思わず声を上げる。
 C2が無表情で答えた。
「スクルド様の仕様ですよ」
 ユズリハが眉を寄せる。
「そもそも、鋼鉄はまだ作れません。鋼鉄インゴットの精錬設備すら開放されていないはず」
 理沙がニヤリと笑う。
「でもネジの効率は段違いだぜ。鋼梁5本からネジ260個――鉄で作るより圧倒的に安い!」
「え、そんなに!?」楓が目を丸くする。
「普通の鉄ネジは棒からしか作れないからね。鋼鉄が入れば一気に楽になる」ユリが冷静に頷いた。
 瑠璃は首を傾げながら呟いた。
「……竜の爪より多い数を、一本の梁から削り出すなんて」
 愛鈴は頭を抱えるしかなかった。
「……だから言ったのに、スク姉が調整すると絶対こうなるんだって」
 C2は表情一つ変えずに返す。
「スクルド様仕様です」
 ユズリハが首を振った。
「そもそも、鋼鉄はまだ作れません。インゴットを精錬する設備すら開放されていないはず」
 ふと視線が集まる先――楓が何食わぬ顔でパネルから手を離していた。
「えへへ……なんか“承認”って出てたから押しちゃった」
「お前かーーっ!」全員が一斉に叫ぶ。
 理沙は興味津々にパネルを覗き込み、笑う。
「でもこれ、解禁できたらヤバいな。鋼梁5本からネジ260個だろ? 鉄の何倍も効率いい!」
「だからまだ作れないってば!」愛鈴がツッコミを入れる。

 鉄鉱脈の上に据えた採掘機が、ようやく稼働を始めた。
 ゴウン、と動き出す音と同時に、砂煙を巻き上げて何かが突進してくる。
「な、なんか来た!?」アカネが声を張り上げた。
 突っ込んできたのは、猪めいた異形――ホッグだ。
「スク姉! やっぱり変な調整してるでしょ!」愛鈴が叫ぶ。
「仕様です」C2が冷静に返す。
「いや普通に湧きますから」
 迫る獣に、全員が慌ててザッパーを構える。だが火力不足は目に見えていた。
 そのとき、ユズリハが前へと踏み出す。
「鈴! いくわよ!」
 彼女の手に握られていたのは、電撃を纏う一振り――ゼノ・バッシャー。
 Wikiによれば普通に作れる武器のはずだった。だがその刃は、雷光を纏って唸りを上げる。
「……ちょっと強すぎない?」愛鈴が目を丸くする。
 C2が淡々と補足した。
「スクルド様特注版です。通常よりも威力が強化されています。なお、異性生物も強化されてます」
「だから余計なことを……!」愛鈴が頭を抱えた。
 静寂。息を整えながら、ユズリハは涼やかに笑った。
「初舞台は、成功ね」
「……スク姉仕様じゃなければ、もっと苦戦してたよ」愛鈴が苦笑を漏らす。
 C2は無表情のまま告げる。
「スクルド様の仕様です。討伐完了。ホッグは序盤によく湧きます。以後もご注意を」
 全員が一斉に叫んだ。
「普通に!?」
「仕様なのか、いいのかそれ?」
 その足元に、光を帯びたカプセルのようなものが転がっていた。
「なにこれ?」アカネが拾い上げる。
「ドロップアイテム。肉と……あと素材が少々」ユリが即座に解析する。
「食べられるの!?」楓が身を乗り出す。
「加工すれば回復薬の材料になります。あと、そのままでも燃料になります」C2がさらりと補足した。
「……竜の餌みたいだ」瑠璃が小さく呟く。
「いや絶対そのまま食べたら腹壊すでしょ」愛鈴が苦笑する。
 理沙は肉片を掲げてにやりと笑った。
「敵を倒せば資源も増える。悪くないじゃん!」
 愛鈴はその素材のカプセルを見下ろし、眉をひそめた。
「……スク姉め、また余計なもの足したな」
「レア度はどんなものかな」
「そこらに湧いてる敵だし期待は薄いね」
 楓と理沙。

 小さく吐き出したその呟きが、次なる混沌の予兆になった。
――こうして最初の戦闘は終わり、七人の前には“工場と戦いの両立”という新たな課題が横たわった。
「次はブレードランナーが欲しい」 
 

 
後書き
10月26日 19:00 
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