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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第4部
商人の町
  ルカとの再会


 町の中心部にある劇場から少し離れた路地を歩くこと十数分。人の往来がまばらになってきたところで、町長の家らしき建物が見えてきた。

 周囲を緑の木々で囲ったその家は、先ほど訪れたルカバーク劇場の建物に比べたら小さいが、それでも三階建てのレンガ造りの外観は見るからに立派で、この町で最も上に立つ者が住むにはふさわしく思えた。

 早速玄関の扉の前に立ったユウリが、目の前に備え付けられているノッカーに手を伸ばし、扉を叩く。するとほどなく、扉の向こうから足音が聞こえてきた。

 ガチャリ、と控えめな音を立てながら扉を開けたのは、見知らぬ男性だった。

「どちらさまですか?」

――え、誰!?

 おそらくこの場にいた四人が皆思っていただろう。だけどさすがに口に出すわけには行かず、唖然としながら立ち尽くしていると、男性のほうから訝しげな表情で声をかけてきた。

「あのう、どうかされましたか?」

 その一言に、ようやく私は我に返った。

「あ、えと、突然お邪魔して申し訳ありません。はじめまして、私は町長の姉で、ミオ・ファブエルと申します」

 慌てて自己紹介をすると、不審な目で見ていた男性の顔が僅かに和らいだ。

「ああ、町長のお身内の方でしたか。確かに目鼻立ちがよく似ていらっしゃる。それで、ルカ様に何の御用ですか?」

「はい。実は町作りを頑張っている弟のことが心配でこちらに来たんです。お忙しいのは存じておりますが、どうか彼に一目だけでも会わせてくれませんか?」

 私は両手を顔の前で組み、不安げに眉を寄せながら男性に詰め寄った。そんな少し芝居がかった態度が功を奏したのか、男性の警戒心が更に薄らいだ。

「それはなんと健気な……。本来なら事前に面会の約束を取り次がなければ会うことはできないのですが、町長の身内となれば会わせないわけには行かないですね。どうぞ、中へお入り下さい」

「あ、ありがとうございます!」

 男性は謙遜した返事を返すと、快く私たちを家の中へと案内してくれた。

 中は広々としたエントランスホールになっており、天井には立派なシャンデリアが吊り下げられている。周囲には大きな採光窓が規則的に並んでいるため、中はとても明るかった。左右にはそれぞれ二階へと続く階段があり、さらに奥へと続いている。まるで貴族の洋館だ。

「ルカ、私たちに会ってくれるかな」

「まあ、ここまで来たら、会えねえって選択肢はねえだろ」

 きっぱりと言い放つナギの言葉に、それもそうかと私は納得した。

「ふん。もしルカが俺たちを拒絶しても、地の果てまで追いかけるけどな」

「なんか物騒なこと言ってるけど!?」

 劇場を出てからここに来るまでの間も、私たちはルカがディランさんと同じように不自然に値段を釣り上げているお店に立ち寄った。そのどこもが他の町より何倍も高い金額で商品を売っているのだ。そして店主に聞いたところ、皆が口を揃えて言ったセリフが、『町長に言われてやった』とのことだった。

 これにはユウリも苦い顔をするしかなかった。彼が目をかけている我が弟は、この一年の間に随分とお金に執着してしまったようである。

 この時点で彼がルカをどう思っているかはわからないが、少なくとも私はショックだった。同じ稼業であるお父さんの後を追うのではなかったのか。目先の利よりお客さんや自分が取り扱う商品のことを第一に考えるお父さんとは、まるで真逆なのではないか。

 階段を上がり、奥へ進む。突き当たりのひときわ立派な扉の前まで来ると、前を歩く男性の足が止まった。

 男性はこほん、と軽く咳払いをすると、コンコンと扉をノックした。

「失礼します。ご主人様、お客様がいらっしゃいました」

「……入ってもらって」

 一瞬の間の後、扉の向こうから聞き慣れない声が聞こえた。男性が扉を開けた瞬間、それが声変わりで大人っぽい声になったルカなのだと気づいた。

「ルカ……?」

「あ、アネキ……!? それに、皆さんまで……」

 およそ一年ぶりに会う弟は、声だけでなく背丈や顔つき、雰囲気までが大人びていた。まだ彼は十三歳のはずだが、もうすでに少年とは呼べないほど落ち着いた雰囲気をまとっていた。

「それでは、私はこれで失礼します」

 男性が静かに部屋から出ていくと、この場には私たち四人とルカだけになった。

「るーくーん!! 久しぶりーっ!!」

 扉が閉まると同時に、シーラが唐突にルカに駆け寄り、思い切り抱きついた。シーラに抱きつかれたルカは、どうしたらいいのかわからずあたふたしている。

「何だよお前、しばらく見ない間に随分立派になっちまったじゃねーか!!」

 シーラに続いてナギも、ずかずかとルカに近づくやいなや、彼の背中をバシバシと叩いた。その衝撃で、ルカはゲホゲホと大きく咳き込んだ。

 ゴキッ!!

 ルカの背中を叩いたナギの後頭部を、後ろからユウリがげんこつで思い切り殴った。そして昏倒したナギを踏んづけながら(ヒドい)、ユウリはルカを見据えて彼の眼の前まで近寄った。

「あ、ユウリさん、お久しぶりです! 相変わらずお元気そうで……」

 ビシッ!!

「いてっ!?」

 挨拶を交わそうとしたルカのおでこを、突然ユウリが指で弾いた。割と本気だったのか、彼のおでこが瞬時に赤く腫れ上がる。

「??」

 わけもわからずいきなりデコピンされ、ルカの頭の上にハテナマークが浮かぶのが見えた。そんなことなどお構いなしに、怒りの形相でまだ自分の背丈に追いついていないルカを見下ろした。

「この馬鹿!! 一回頭を冷やしてこい!!」

 ユウリの怒声が部屋中に響いた。けれど、当のルカは呆然としながらユウリを見返すのみであった。

「ええと……すみません、ユウリさん。何のことかわからないんですが……」

 するとユウリはこれみよがしにため息を吐いた。

「この町の町長を尋ねたらお前だと聞いたが、本当にそうなのか?」

 ユウリの態度が気に触ったのか、ルカの表情が一変した。

「……そうですけど、何が言いたいんです?」

「一年前と比べて随分変わったな、お前は」

「!!」

 次第に険しくなるルカの顔を見もせず、ユウリは部屋をキョロキョロと見回した。

「グレッグはどうしたんだ? てっきりあいつが町長になるのかと思っていたが」

「グレッグさんは……、もうここには来ませんよ」

『!!??』

 ルカの衝撃的な発言に、四人はしばし言葉を失う。

「もうここに来ないって……、一体どういうことなんだよ!?」

 語気を荒げるナギが、ルカに詰め寄る。しかしルカは目の前のナギではなく、どこか遠くを見るように目を細めた。

「グレッグさんとは考え方が合わなかったんです。だからこれからはおれ一人でこの町を支えていくんです」

 その淡々とした口調は、以前のルカとは全くの別人のように見えた。一年の間に、人はこんなにも変わってしまうのかと疑ってしまうほどであった。

 ユウリもまた、険を含んだ顔つきでルカの前に立った。

「ならグレッグは今どこにいる?」

「さあ……。三日前にここを出ていったきり、見てませんけど」

『!!』

 その言葉に、私だけでなく他の三人も愕然とした。

 信じられなかった。口は悪いけど、人に対する思いやりは、私たちきょうだいの中では人一倍あったはずだ。心根の優しい弟が、そんな薄情なことを言うなんて、とても信じられなかった。

「……」

 まるで他人事のように話すルカに、私はディランさんの頼みを訴えるべきか悩んでいた。以前のルカならばきっと私たちの言葉を素直に聞き入れてくれるだろう。けれど今目の前にいる彼は、あの頃とは違う。きっとこの一年の間、町を発展させるために相当な努力をしてきたのだろう。それも、考え方がこれまでと変わるくらいに。

 そんな彼のやり方に異を唱えることを、私は躊躇っている。気づきたくないのだ。彼が私が思っているのとは違う形で、変わってしまったことに。

 お互い妙な沈黙が続く中、先に口を開いたのはユウリだった。

「俺はお前に期待していた。お前が作る理想の町を、俺は楽しみにしていたんだ。だが、この町の店や劇場の責任者から話を聞いて考えが変わった」

 そう言ってユウリは、重い溜息を一つ吐いた。

「今のお前は金を稼ぐことしか考えていない金の亡者だ。グレッグの意思も軽んじて、町の人に負担をかけさせる。そんなお前が、よく町長などと名乗ってられるな」

 きっぱりと言い放ったその言葉は、すべて私がルカに言いたかったことだった。ユウリに自覚はないだろうが、私の代わりにユウリが代弁してくれていた。

「……用事はそれだけですか?」

「何?」

「それを言うだけのためにおれのところに来たのなら、帰ってくれませんか? おれも色々忙しいので」

「お前……!!」

「今度町の中心部にモンスター格闘場を建設しようと計画してまして、今からその打ち合わせにいかなきゃならないんです。わざわざ来てくれたのはありがたいのですが、お引き取り願えませんか?」

 突き放すように言い放つルカの言葉に、今まで冷静でいようとした私の心が破裂した。

「ルカ!! せっかく皆がルカに会いに来てくれたのに、そんな言い方ってないんじゃないの!?」

 私の言い方が癇に障ったのか、ルカはきっと私を睨みつける。

「……別に頼んでないし! ていうか、おれが今までどれだけ努力してきたか知らないくせに、こういうときだけ姉貴ヅラするなよな!」

「!!」

 彼の口から、そんな言葉が出てくるなんて――。私が一番聞きたくなかった言葉だった。

 だけどここで涙を流すわけには行かない。私は落ちそうになる涙を必死に堪えた。

「ルカがどう言おうと、私はルカの姉だよ!! 姉が弟を心配するのは当然でしょ!! なんなの? 格闘場って!! それって、グレッグさんが理想の町をつくるのに必要なものなの!?」

「うるさいなあ!! グレッグさんとは考えが合わなかったって言ってるだろ!! 理想と現実は違うんだ!! 町を発展させるためには、理想ばかり追い求めてちゃダメなんだよ!! 何にも知らないくせに、偉そうなこと言うな!!」

 激昂したルカは、机の上にあるベルを取って思い切り鳴らした。すると間もなく先程案内してくれた男性が部屋に駆け込んできた。

「ルカ様! 何事ですか!?」

「悪いけど、この人たちを追い出してくれ」

『ルカ!!』

 私たちの抗議も虚しく、ルカは私たちに背を向けると、それきり振り返ることはなかった。一方男性はルカの言いつけに従い、私たちを無理やり部屋の外へと押し出そうとした。

「ルカ!! まだ話は終わってないよ!! ルカ!!」

 いくら叫んでも、ルカは耳を貸さなかった。こちらを振り向くこともしなかった。かつてともに旅をしてきた思い出が、一瞬にして色褪せて消えてしまいそうに感じた。

「おい、待てよルカ!! お前、このままでいいのか!?」

「るーくん!! お願い、あたしたちの話を聞いてよ!!」

 ナギとシーラも必死で呼びかけるが、男性に阻まれて身動きが取れない。私も抗おうと手を伸ばすが、横から伸びてきた手に腕を掴まれた。

「行こう。これ以上いても、時間の無駄だ」

 私の腕を掴んでいるユウリの低い声が、室内に重く響いた。

「お前の姉は、お前のことを心配してここまで来た。もちろん俺たちもだ。その思いを今、お前は土足で踏みにじったんだ」

 吐き捨てるように言うと、ユウリは私の手を引いて身を翻し、自らルカの部屋をあとにした。ナギとシーラもこれ以上は何も言わず、黙って私たちのあとについて行った。

「……もうあなたたちと話すことはありません。帰ってください」

 そのとき、ルカがどういう顔をしていたのかわからない。振り向きたくても、その時ルカがどういう表情をしているのか怖くて、振り向くことができなかった。
 
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