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ニンジャ・イン・ザ・ファンタジーⅥ

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白き極光編
第1章
  スケアリー・スケアリー・クリーピー・エクスプレス

 爆発。
 また爆発だ。
 青白い光線が空気を裂いて伸びる度に爆発が起きる。

「敵が落ち着きを取り戻しつつある。包囲されるぞ」

 魔導アーマーに搭乗した帝国兵…に扮したシャドウがマッシュへと声を掛けた。

「やべっ…おい、とりあえず一緒に来い! ここから逃げるぜ!」

 マッシュは眼下のサムライが乗りやすいように魔導アーマーのアームを下げる。

「し、しかし拙者は主君の、仲間の…家族の仇を討たねば…!」

「…ここで帝国の下っ端を何十人か倒してあんたが死んだら、その人達の無念を晴らせるのか? そんなもん、帝国にはなんの痛手にもならねーぞ」

「そ、それは…そうでござるが…」

「やるんなら帝国そのものをぶっ倒そうぜ、サムライさん」



 積載された物資や機器を蹴散らしながら、2機の魔導アーマーが走る。

「それじゃドマは本当に…」

「…僅かな生き残りがニケアへ脱出したのみでござる」

 やや窮屈ではあるがマッシュの操縦する魔導アーマーに相乗りしたカイエンは、沈痛な面持ちで告げる。

「信じられねぇ…そりゃ確かにあいつを見た時に嫌な予感はしたけど…けどよ…!」

「それが帝国だ。敵国となれば一切の容赦はしない連中だ。世論云々も、最終的に帝国が世界を統一すれば関係無いって考えだろうさ」

 マッシュもシャドウも変装に使った帝国兵の服を脱ぎ捨て、カイエンと共に脱出を図っている。

「先に話した通り、船は脱出に使用した物を除いて全て破壊し申した、すまぬ」

「仕方無いさ、俺らも船を欲しがってるなんて、そっちは知る由も無いんだから。しかしそうなるとどうしたもんかな…」

 3人は当初想定していた、ドマで船を借りてナルシェへ向かうという計画が頓挫し、方針変更を余儀無くされていた。

「北は海、東は断崖、西のドマも船は無し…南へ行くしかないだろう」

「南には迷いの森と呼ばれる森林地帯が広がっているでござる。足を踏み入れた者は妖の類に惑わされると言われ、地元の人間は近付かぬが、そこさえ抜ければバレンの滝に出られるでござるぞ」

 シャドウが地図を持ってはいたものの、やはり地理に詳しい現地の人間であるカイエンの案内を得られたのは大きい。

「バレンの滝か…水量にもよるがモブリズという村の近くまで下る事が出来るはずだ」

「よし、それで行こう!」



「…迷った!」

 魔導アーマーを乗り捨てた一行であったが、彼らは現在進行形で霧深い森の中に立ち往生していた。

「磁石も効かんとはな」

 シャドウは針が不規則にあちこちを指す方位磁石を手に溜め息を吐く。

「しかし、インターセプターがいてくれて良かったな。おかげで水場には辿り着けた」

 マッシュが撫でようとしたが、インターセプターは歯を剥き出して唸る。

「こいつの嗅覚はその辺の犬とは訳が違う」

 シャドウの表情は窺えぬが、声色には僅かに相棒の有能さへの誇らしさが混じって聞こえる。

「あとはせめて方向が分かれば…ん? おい、あの霧の奥…なんか黒いの見えないか?」

 マッシュの指し示した先には、確かに目を凝らせば黒い鉄の塊のような物がうっすらと見えた。

「…あれはもしやドマ鉄道? 戦火に焼かれず残っている車輌があったとは!」

「鉄道の車輌か…ひょっとしたら帝国の攻撃前に城を離れてたドマの人が隠れてるかもしれないぞ。南へ逃げる前に寄って確認しよう」

 仮に生き残りがいるならば、自分達の脱出に同行させた方が良いだろう。
 そう判断したマッシュ達は方向感覚を狂わせる森の中、列車を視界から外さないように近付いて行く。
 意外にもさほど時間は掛からずに列車の停車していた駅のプラットホームに到着。
 仄かな錆臭さが漂うホームには一切の生気が感じられず、それは漆黒の車輌も同様だった。

「おーい、誰かいないかー?」

 マッシュが声を張り上げるが応える声は無く、広い森の中に木霊するのみだ。

「…やはり迷いの森に近付く者などおらぬのでござろうか…」

「諦めんのは早いぜ、車輌の中に息を潜めてるのかも。調べてみようぜ」

 そう言うとマッシュは客車の手動ドアをガタガタと横へスライドさせる。

「マ、マッシュ殿! そんな不用心な!」

 その時だった。

「お待ちなさい」

 シャドウにすら気付かせず、彼らの背後には1人の女性が立っていた。
 それだけでも彼女が只者ではない事を窺わせ、一同は跳び退さって距離を保つ。
 そこにいたのは、乳白色の修道服を纏う透き通るような白い肌の女性だ。
 ウィンプルの下からは艶のある黒髪が覗き、茶色の瞳がマッシュ達を見据えていた。

「この森には今なお救われぬ魂が彷徨っています。どうか彼らの静寂を乱さないであげてください」

 修道女は両手を握り合わせ、祈るように頭を下げた。
 どう見てもドマ出身の者ではない。

「そういうあんたは何者だ。俺はマッシュ。えぇと…旅のモンクだ。そっちの2人は…お供だ」

 帝国の手の者でないとも言いきれない以上、素性を全て明かす事は得策でないと判断し、名前以外の全てを偽った。

「…非礼をお許しください。ドーモ、はじめまして、ディグニティです」

 祈りの姿勢のまま、修道女…否、女ニンジャはアイサツした。

「先に申し上げます。私はガストラ帝国とは無縁です」

「…なんでここにいる?」

 マッシュの問いに、ディグニティは顔を上げる。

「…先の帝国の暴挙は、一瞬にして膨大な命を奪いました。私はドマで膨れ上がった魂達の歩みを追い、彼らに安らぎが訪れるように祈ろうとしたまでです。私には祈る事しか出来ないのですから」

 マッシュも人を見る目はある。
 真っ直ぐに曇り無く見つめるディグニティの瞳には、嘘や偽りの意は込められていない。

「そうか。そりゃ結構な事だけど…俺達にも色々あるんだ。ここに生存者がいないか確認したらすぐ森を出るから勘弁してくれ」

 敵意を解いたマッシュは改めて客車へ向き直って、とうとう中へと足を踏み入れた。

「マッシュ殿!」

 後を追ってカイエンとシャドウ、そしてインターセプターも乗り込む。

「お待ちなさい! 話を…」

 何を訴えたいのか、ディグニティも彼らを追って客車の中へ。
 直後。

「うわっ!?」

 扉が独りでに閉まり、車内のランプが点灯した。

「…開かねぇ!?」

 取っ手に手を掛けて開けようとしても、立て付けの悪さや錆の有無では説明出来ぬ固さと重さでびくともしない。
 蹴破ろうとするものの、逆にマッシュの脚へ全ての衝撃が返る始末である。

「ど、どうなってんだ!?」

「…私は彷徨える魂を追って来た…と言ったはずです。そのような怨念の行き着く先にある列車が普通の列車とは思えません」

 ディグニティのその言葉に、カイエンはハッとした表情を浮かべ青ざめる。

「も、もしや…魔列車! 噂でしか聞いた事が無かったでござるが、死せる者の魂を冥界へ運ぶとか…」

「…ちょっと待て。それに乗ってる生きた俺達はどうなっちまうんだ?」

「…普通に考えれば、その冥界とやらに亡霊ども諸共に連れて行かれる事になるだろうな」

 シャドウは異様なほど落ち着いた声色で淡々と現実を突き付けた。

「冗談じゃねぇぜ! 俺にはまだやんなきゃならねぇ事があるんだ!」

 そんなマッシュの決意表明を嘲笑うかのように、魔列車の汽笛が鳴り、車体の動き出す震動が走る。

「くそっ、停めるっきゃねぇか! 先頭車輌に行こう! 列車の形してる以上は動力止めりゃ停車すんだろ!」

「それに賭けるしか無いでござるな…」

「良いだろう」

 3人は頷き合って最後尾車輌から前へ進む事に決める。

「…ようやく旅立つ事の出来る魂を脅かすなんて…」

「降り掛かる火の粉以外には構うつもりは無ぇから安心しろ! あんたも来い! 犠牲者達を弔うにしたって、自分も幽霊になる気は無いんだろ?」

 霊達を安息へ導く列車を騒がせるマッシュ達へ渋い顔を向けるディグニティだが、彼女にもまたやらねばならぬ事が残っているのも事実。
 やむ無く頷き、後に続いて歩き始めた。



「必殺! オーラキャノン!」

 輪郭の変化し続ける真っ黒な霊体が一行へ飛び掛かるが、マッシュの両掌から練り上げられた聖なる気功が放たれ、その影を貫く。
 元より不定の形だった亡霊は霧散し消滅。
 ディグニティはその残滓に安寧がもたらされるよう、祈りを捧げた。

「(や、やりづれぇ…)」

「(御霊を悼む心自体は見上げたものでござるが…)」

 こうも敵意を持って襲い来る悪霊が跋扈する場で、撃退する都度鎮魂の祈りを捧げられては、仕方無いとは思いつつもマッシュ達も落ち着かない。
 と、その時だ。
 青白い衣を纏った亡霊が、一行の前に立ちはだかった。

「また出やがったか!」

 マッシュは聖気を込めた拳で殴ろうとするが、突然前に出たディグニティがそれを制した。

「…この魂からは生者への憎しみや妬みを感じません」

 その言葉通り、その霊はただこちらを見ているだけで、危害を加えるような素振りは微塵も無い。
 訝しむカイエンが、その霊を観察する内、ふとある事に気付いた。

「お主…もしやドマの者か…?」

 霊が纏う衣の隙間から覗くのは、紺色をしたドマ王国軍の甲冑だったのだ。
 視線を落とせば、左の腰には刀も一振差しているのが見える。

「…カイ…エン…どの…」

 霊の服装がどういった原理や理屈で構成されているのかは不明だが、カイエンがそれをドマ兵と認識した瞬間、亡霊の白い衣が霧のように消え、左半身に生々しい大火傷の痕を残すドマのサムライへと変化した。
 先の帝国軍によるドマ城攻撃の折、敵ニンジャ、サンバーンによって致命傷を負って戦死したドマ兵だ。

「お、お主はセイラン…!」

「カイエン…殿……貴殿は…まだ…早い…戻られよ…」

 顔も左側は爛れている為かその口の動きは緩慢で、紡ぐ言葉もまた然り。

「…すまぬ…拙者が至らぬばかりにお主も死なせてしまった…あまつさえ…陛下もドマの民も…!」

 カイエンは何も護る事が出来なかった己の不甲斐なさを思い出してか、戦死した同胞へ頭を下げ、その肩を震わせる。
 マッシュ達には、その背中を見守る事しか出来ない。

「…カイエン…殿…私は…未熟、故…死んだの…です」

 霊はカイエンを気遣うように彼の肩へ右手を置く。
 実体は無いはずであるが、そこに確かに何かが触れている感覚をカイエンの肉体は感じ取っていた。

「すまぬ…すまぬ…! 拙者は必ずや帝国を打ち倒し…お主らの仇を討つ!」

 カイエンは戦火の犠牲者と直に対面した事で、帝国への復讐心が再燃した。
 その怒りと憎しみに燃える背中を、ディグニティは眉をひそめて見つめていた。

「それは…徒に憎しみを連鎖し、憐れな魂を増やすだけなのではないですか? 復讐に復讐を繰り返せば、後に残るのは凄惨な…」

「それぐらいにしておけ」

 彼女の言葉を制したのはシャドウだった。

「理屈や理想で全て丸く収められるほど、感情…心という物は単純ではない」

「しかし…」

「…シャドウ殿、この者の言い分にも理はある。しかしそれを頭で分かっていても、拙者が前へ歩むには成し遂げねばならん事なのでござる」

 カイエンの真剣な眼差しに、ディグニティは困惑した。

「取り戻せぬ過去より未来を見ねばならぬは道理。されど過去もまた己を形作る要素である事もまた事実。それがそなたの言う魂達へ、拙者自身がつけるケジメなのだ」

「………分かりました、これ以上は言いません。ですが1つだけ。貴方のその瞳…私は似た瞳を知っています。復讐の念に囚われ、自分を含めた全てを焼き尽くさんばかりに燃え続ける瞳です」

 そう言ってディグニティはカイエンの瞳の奥まで射貫くかのようにじっと見つめる。

「カイエン=サン、どうか己を見失わないでください。憎悪に囚われれば人は鬼となり、何もかもを喪った末に嘆き、悔いる事となります」

「肝に銘じておこう」

 カイエンは頷き、ドマ兵の霊に頭を下げてから歩を進めた。

「あんた変わってるな。1人は知ってたけど、善良なニンジャってのもわりといるもんなんだな」

 隣に立って彼女に語り掛けたマッシュだったが、ディグニティは首を横に振った。

「私は善良ではありません。むしろ一般的なニンジャよりもさらに邪悪です」

 そう呟いた瞳は悲しげだった。

「ニンジャソウルが私に与えたジツはダマシ・ジツの一種。私は相手の思想や行動の矛盾を突いて諭す事で精神を折って屈服させ、傀儡めいて支配下に置いてしまうのです」

 カイエンに倣って一行は歩き出し、周囲の霊に敵意が無いかに神経を張り巡らせながらディグニティの話に耳を傾けた。

「実際私はこのジツによってモータル、ニンジャの別無く数多の者をザイバツの奴隷に落としてしまいました。それが大きな悲しみを広げると分かっていたはずなのに」

「ザイバツ…ソルヴェントも言ってたが、確か…ニンジャ至上主義…だったか?」

 少し驚いたような表情を見せたディグニティだが、すぐにまた悲しみを湛えたそれに戻る。

「私以外のザイバツニンジャを知っているのですね。ええ、ロード・オブ・ザイバツの下、選ばれた高位ニンジャによる下位ニンジャとモータルの支配…ニンジャ千年王国の実現を掲げていた組織です」

「ニンジャによる支配ねぇ…」

「優れた統治者による支配と庇護は永遠の幸福と安寧を実現させる…そんなはずは無いのに、あの頃の私はロードのご意志に絶対的な正しさを信じて疑っていませんでした。今にして思えば、何故あれほどに盲目的になっていたのか分かりません」

 魔列車の無限に続くかのような天井を見上げ、嘆息する。

「キョート城への侵入者と対面し問答した私は、その者の魂に宿る底無しの怒りと憎しみに恐怖し、自ら命を絶ちました。そして、この世界で目覚めた時、私に残っていたのはザイバツ時代の己の行いへの後悔だけでした」

「…後悔、か」

 ポツリとシャドウが呟いた。

「はい。モータルを人とも思わぬザイバツニンジャの暴虐…ソウカイヤとの度重なる抗争…そこに数え切れない悲しみが溢れているにもかかわらず、私はそれがロードの選択故に正しいものであると容認していたのです」

「それがあんたが自分を邪悪って言う理由か?」

「ふふ…善人の皮を被り、身内の悪行を是とし、他者の悪行は糾弾する…これを邪悪と言わずなんと言いますか? 無自覚の悪意ほど邪悪なものなど無いではありませんか」

 自嘲の意を込めた微笑みに、マッシュは掛ける言葉をすぐには出せなかった。

「今の私は贖罪と…今度こそ正しく人の心と魂に安息をもたらす事が出来るよう、困窮する人々への支援と、戦火に焼かれた魂が旅立てるように祈る日々を送っています」

「…戦いという行い自体をそこまで忌避する理由はそこにあるわけか」

 シャドウは思うところがあるのか、彼女の話に相槌や反応を見せている。
 この表情の見えぬ暗殺者にしては珍しい事だ。

「あんたが戦いを嫌うのは分かった。けど、今こうしている瞬間も、帝国の野望の為に苦しむ人も、奪われる命もいる。戦いを正当化するつもりは無いけどさ…今を生きる命を守る為には、拳を握って剣を取らなきゃならない選択も必要なんじゃないか」

「…ええ、頭では分かっているのです。言葉で、理想で全ての人が理解し合えればどれほど良かったでしょう。でも、それが出来ない…人が人であるが故に」

 極めて高い知性を持ちながら、愚かとしか言い表せぬ行動を歴史の中で幾度と繰り返した生き物、それが人間だ。
 異なる思想を持つ者が隣り合えば、それだけで争乱を生む。
 なんと不完全で未熟な生き物なのだろう。

「マッシュ殿、どうやら先頭車輌が近いようでござるぞ」

 カイエンの言葉を受けて足下へ意識を向けると、確かにそれまでの客車よりも震動が大きい。
 自前の動力を持たない客車を複数牽引する先頭の蒸気機関車は当然馬力が大きく、それだけに連結している後部車輌へ伝わる震動もかなりのものなのだ。
 機関部の鼓動をより強く感じ、床に手を触れたマッシュはここが先頭車輌含め3輌目ほどと当たりをつけた。

「よっしゃ! とにかく停めちまえば降りる隙だってあらぁ! …お?」

 意気揚々と2輌へ移ろうとしたマッシュだったが、その視界に不穏な影。
 ここまでにも何度か遭遇した亡霊だが…数が明らかに多い!
 輪郭がぼやけているのではっきりした数は分からないが、20はいるだろう!

「おいおいおいおい…! 最後の関門ってわけかよ!」

「…突破するしか方法は無いようだな」

 シャドウは油を塗った忍者刀に着火して水平に構える。
 物理的な攻撃は霊体に通用しないが、どうやらマッシュの気功と同様に炎による攻撃も有効らしい。

「逃…ガ…サ…ン」

「逃ガ…サン…」

 ボロボロの白布の隙間から、脈動する黒い腕が伸ばされ、生者達を怨嗟のままに引き込もうとする。

「ぬぅ…! 彼らも元を辿れば犠牲者…斬るのは気が引けるでござるが…許せ…!」

 カイエンは全身に滾る気迫を刃に走らせ、迎撃の構え。
 だが、突然マッシュ達の合間をすり抜けて4つの影が前へと飛び出した。
 それらは皆布を脱ぎ捨てて刀を抜き放ち、亡霊達へと打ち掛かったのだ。

「ま、まさか…セイラン! それにコチ、クンプウ、ノワキ!?」

 彼らは皆、先の帝国軍との戦いで落命したサムライ達だ。

「カイエン…殿…!」

「往か…れよ…!」

「我、ら…既に…ならば…!」

「託し…ま…す…!」

 やはり彼ら自身も実体ではない為か、その刀は亡霊を見事に斬り裂いて霧散させる!

「お主達!」

「は、や、く…!!」

 さらに後方からも亡霊の気配が迫り、彼らは2人がそちらへと身を翻した。
 魂となってもなおその技の冴えは衰えず、数の不利などものともせず斬り伏せて行く。
 進路を遮る亡霊の壁を中央から左右へ断ち割り、前方への道が開かれた。

「…マッシュ殿! 参ろう!」

「あ、ああ…! あんたら! ありがとう!」

 マッシュは相手が幽霊であろうと礼をせずにはいられなかった。
 誇り高きドマの英霊達は、生き残ったカイエンに良き仲間が出来た事に安堵したような表情を浮かべ、押し寄せる亡霊の群れを押し留めた。



「はぁっ…はぁっ…ど、どうなる事かと思ったぜ…あのサムライ達大丈夫かな?」

「ふぅっ…皆ドマが誇った精鋭でござる、心配は無用」

 マッシュ共々肩で息をするカイエン。
 彼自身、自分達の為に道を斬り開いてくれた同胞を案じないわけではないが、それを口にする事は彼らの誇りを踏みにじる行いに等しい。
 故にマッシュ達を安心させる意も兼ねてただ信じている旨だけを口に出した。

「さて、と…ここが機関室だよな…なぁカイエン、停め方分かるか?」

「うむ…拙者もドマ鉄道と間違えはし申したが、よくよく見ればさらに古い型の機関車…拙者が機械に疎いのもあるが、これはさすがに…」

「ボタンやレバーが沢山ありますね…どれをどうすれば良いのでしょう?」

 マッシュ、カイエン、ディグニティは顔を突き合わせて唸った。
 だが、悩んでいる間に冥界とやらに連れて行かれるかもしれない。

「………」

 その時だった。
 おもむろにシャドウが室内のボタンなどを操作し始めたのだ。
 テキパキと操作をこなすシャドウに一同はポカンとした表情だったが、彼らが正気に戻る前にシャドウが振り向いた。

「機関室内で出来る作業はこれで全部だ。後は外側からの操作だ」

「す…すげぇじゃんかシャドウ!」

「よもやこんな古い機関車の扱いに精通しているとは…!」

「シャドウ=サンはこういった乗り物などに興味が…?」

 3人はそれぞれに驚きと称賛を送ったが、シャドウはペラリと古ぼけた紙を突き出した。

「いや、インターセプターが操作マニュアルを見つけて来た」

「なんで冥界行きの魔列車にそんなもんが普通にあんだよ!」

 思わずツッコミを入れたマッシュであったが、ともあれ停車の手段は見つかったので良しとする。

「えっと…機関室での操作を終えたら、煙突部分の停止スイッチを押す、か」

 肉体労働担当と言わんばかりに送り出されたマッシュが機関車の屋根へと上がり、煙突の脇にあるスイッチへ手を伸ばす。

《だ》

「ん?」

《れ》

「声?」

《だ》

 それは脳に直接響くような、男とも女ともつかぬ声。

《わたしの…運行を…》

 突然の急制動!

「うおぉっ!?」

 何か不可思議な力も相まって、マッシュだけでなく彼を見守っていたカイエン達も前方へと投げ出される!

《妨げるのは誰だぁぁぁっっっ!!!》

 線路へと倒れ込んだ一行へ、汽笛を鳴らした魔列車が速度を上げて突っ込んで来た!

「おいおいおいおいおい!!?」

 4人は慌てて走り出す。
 山を跳ね回って鍛えたマッシュ、暗殺者として尋常ならざる身軽さを有するシャドウ、白兵戦闘の天才たるサムライのカイエンは勿論の事、最も不安だったディグニティも腐ってもニンジャであり、しっかり3人に追随する。
 ちなみにインターセプターもシャドウの隣を疾走している。
 森の中を走る線路上を全力で駆ける4人だが、どういうわけだか左右へ逃れる事が出来ない。

「どうなってんだ! 魔列車の仕業なのか!?」

「分からんが、このままだと轢かれて終わりだ…ぞっ!!」

 シャドウは振り向き様に手裏剣を2枚、魔列車へ向けて投擲する。
 どうやら本体にはオカルティックな防御能力は無いらしく、鋼鉄のボディに刺さりはしなかったものの表面に傷が入った。

「さすがにあの重厚な車体に刃物は通らないか」

「感心してる場合かよ! 刃物が駄目なら…こいつでどうだ! 必殺、オーラキャノン!」

 線路上を走りながら両手に気力を流し込んだマッシュは、振り返ってバックステップを繰り返しながら、魔列車目掛け“気”を放つ。
 レールに沿って走る列車が避けられるはずも無く、正面からこれを受け止める形となった魔列車は、声ならぬ悲鳴を上げる。

「お、効いてる…!? もしかして中にいた亡霊連中と同じか!?」

 マッシュの練り上げる気功は、負念を浄化する『聖』の性質を持ち、恨みや憎しみ、妬みといった負念、邪念で構成された亡霊の類には特に効力が大きい。
 その他にも『死』は『聖』と相反する性質の為、スケルトンなどの死してなお活動するアンデットモンスターにも有効打となる。
 どうやら魔列車の素体はドマ鉄道以前の古い蒸気機関車のようだが、亡霊モンスターと同様の存在へと変質しているらしく、『聖』攻撃を受けて明らかにダメージが入っている。

「効くのが分かったのは良いが、都度気を練らなきゃならないから連射は出来ない! なんとかアイツの速度を抑えてくれ!」

「無茶を言う」

「イヤーッ!」

 文句を言いながらも車輪目掛け手裏剣を投げるシャドウと共に、ディグニティもスリケンを投擲する。
 しかし魔列車もさるもの、被弾で緩んだ車輪を切り離して前方へ射出し、予備の車輪を展開する事で被害を抑えた。

「車輪はお任せを! 必殺剣・空っ!!」

 他3人より後ろに回ったカイエンは左手で刀の鞘を、右手で柄を握って瞼を閉じ、背後から迫る大質量の金属の塊に意識を集中する。
 そしてそれが自身に直撃する刹那、刀を抜き放って車輪の回転に沿うかのように滑らせる。
 本来であれば自身に襲い掛かるはずだった衝突のエネルギーを反射し、衝撃波として魔列車へと返したのだ。
 これには魔列車も無事とは行かず、破損した車体から金属部品が剥がれ落ち始める。

「ナイスだぜ皆! トドメの…オーラキャノンだぁっ!!」

 速度の落ちた魔列車へ、渾身のオーラキャノン!

《オォオオオオォオォ……!! おのれ…我の…運行を…妨げるなど…許さぬ…!!》

 金属の軋む音を鳴り響かせながらも、魔列車はなおも執念で車輪を動かさんとする。

「待て! 待て待て待て! 俺達はお前の冥界? 行きとかを邪魔する気は無いんだ! 間違えて乗っちまったから降りたかっただけなんだよ!」

《……なんだと?》

 マッシュの言葉を受け、ようやく魔列車が蒸気を吐きながら停車する。

「邪魔するどころか、むしろお前の仕事は世の中に必要だと思ってる! けど俺達にはまだやる事があるから、俺達まで冥界とやらに連れてかれたら困るんだよ!」

《…………よかろう。本来私に乗った者は例外無く冥界へ運ぶが、これ以上壊されても困る。特例としてお前達は次の駅で降ろしてやろう…》

 さすがに魔列車は魔物の類としてもその知性は最上位に位置するようだ。
 すったもんだはあったものの、交渉の叶う相手である事はマッシュ達にとって不幸中の幸いだったと言えるだろう。
 次に向かう駅で新たな霊魂を乗せた後に冥界へ向かうので、そのついででマッシュ一行を降ろすと魔列車は言う。
 そのまま降ろさずに冥界へ連れて行くのではとの疑念もあったが、曰く、『死』と言う偽る事の出来ない事象に関わる存在として、嘘を吐く事は出来ない…との事である。

「まぁ、これ以上ややこしくしたくないしなぁ」

 客車へ戻ったマッシュ達は、座席に座って魔列車に揺られていた。
 ちなみに亡霊達の足止めを買って出たドマの英霊は、マッシュ達が戻った際に全員健在であり、カイエン達が解放される事を悟ると満足げに姿を消した。
 汽笛、そして減速の気配。

「…到着したようですね」

 ディグニティが呟きながら顔を上げると、退屈を持て余していたマッシュは大きく身体を伸ばして立ち上がる。

「うーーー…っと、やっと降りられるぜ」

 一行が客車の扉の前に立つと、自動的にスーッと開く。
 乗った時と同じような、霧深く立ち込める森の中のプラットホームにマッシュ達は降りて、そこに地面がある事を確認するかのようにしっかりと足を踏みしめる。

「ふーっ、こんな薄気味悪い森の空気さえ今はありがたみを感じるな」

「改めて生と命に感謝を捧げなければなりませんね」

 深呼吸するマッシュと、両手を組んで祈るディグニティと対照的に、シャドウとカイエンは周囲の状況確認に努めた。

「似てはいるが違う駅らしいな」

「そのようで。…む?」

 気配。
 そちらへ目を向ければ、深い霧の中から続々と人影が現れ、魔列車へと乗り込んで行くのが見える。

「あの服装は…ドマの人間…だった者か。なるほど、先の毒による犠牲者達を迎えに来たか…」

「………」

 シャドウの言葉を受け、カイエンは悲壮な表情でかつての同胞達の列を見守る。
 …これほどの人々を自分は護れなかったのだ。
 彼らは途切れる事無く霧から現れては客車へと消えていく。

「これが…この人々が帝国の暴挙…その結果なのですね…」

 いつの間にかディグニティはカイエンの隣に立ち、冥界へ向かう霊魂達へと祈りを捧げていた。
 せめてその魂に安寧が訪れるようにと。

「…っ!? あ…あれは…!?」

 霊魂達の列を見送っていたカイエンは、その中に見覚えのある姿を見る。
 青白い顔色となってなお、穏やかで優しい気性を表すかのような表情の女性と、その隣を歩く利発そうな少年だ。

「…ミナ…シュン…」 
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