車椅子の大統領
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第一章
車椅子の大統領
甲子園球場の江夏豊と田淵幸一の始球式を観てからだった、昔からの虎キチである堀田藤吉八十過ぎの老人である彼は中学生の虎キチ根室寿に一塁スタンドで試合がはじまるのを前にしてこんなことを言った。
「投げられてよかったな」
「江夏さんがですね」
「車椅子に乗って出ただろ」
「随分痩せていましたね」
「かなり弱ってるって聞いてたけれどな」
「はい、僕もです」
寿は堀田に真顔で答えた。
「あそこまでです」
「弱ってるとはだな」
「思っていなくて」
それでというのだ。
「心配でした、ですが」
「投げられてよかったな」
「そう思います、やっぱり長生きして欲しいです」
「レジェンドの人だしな」
「尚更ですね」
「これからも阪神のレジェンドとして生きて欲しいな」
「そうですよね」
試合前にこうした話をした、そしてだった。
寿は試合が終わってから神戸の家に帰り妹の千佳に江夏豊の今のことを話した、すると千佳も神妙な顔で言った。
「北別府さんも最後の方はね」
「車椅子だったか」
「癌でね」
残念そうに語るのだった。
「そうだったわ」
「どうしてもね」
寿は苦い顔で話した。
「身体が衰えて」
「歩きにくくなってね」
「車椅子のお世話にもなるよ」
「そうなることもあるわね」
「仕方ないよ、誰だってね」
それこそというのだ。
「身体を悪くするよ」
「歳を取ったら」
「若くてもね」
「身体を壊したら歩きにくくなって」
「車椅子のお世話にもなるよ」
そうなるというのだ。
「本当にね」
「私達もなのね」
「大統領だって」
その国の国家元首一番偉いとされている者でもというのだ。
「なるよ」
「大統領なら凄い手術やお薬で何時でも歩けないの」
「医学にも限界があるよ」
真面目にだ、寿は千佳に答えた。
「だから歩きにくくなることもあって」
「大統領も」
「車椅子に乗ることもあるよ」
「そんな人いたの」
「いたよ」
実際にというのだ。
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