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ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
  第四十一話 特殊魔法の存在

「それで、なんなんだ。あの魔法は?」

テリュス達をルシフェルが撃退し、リメインライトが消えたのを確認したソレイユは開口一番でルシフェルに尋ねた。それに対してルシフェルは苦笑いをしながら答える。

「あれは特殊魔法の一つだ。お前なら知ってると思ったんだが、どうやら知らないみたいだな」

「おれを何だと思ってやがる・・・それで、その特殊魔法ってのはなんだ?」

「それじゃ、魔法の特別講義としますか・・・魔法には実は二つの種類がある。初期から選ぶことのできるのを基本魔法、特別なことをすることで覚えられる特殊魔法(エクストラ・スペル)といわれる二つの魔法にな」

飛行には滞空制限があるため、地上に降りてからルシフェルの魔法講義が始まった。

「その特殊魔法(エクストラ・スペル)ってのはいくつかに分類される。強化魔法(エンチャント・スペル)、複合魔法(マルチ・スペル)、最上級魔法(ハイエンド・スペル)、と分けられるわけだが、最近はこれについてはあんま知られてない」

「なんでだよ?」

「・・・・・・使い手があんまいないからな。それに簡単に習得できるものでもないしな」

「・・・ふぅーん。ちなみに聞くが、それぞれの魔法の効果ってのはなんだ?」

何かをごまかすように言うルシフェルにソレイユは探るような視線を向けるが、無駄と思いすぐにやめ、気になったことを質問した。

「まず、簡単な最上級魔法から行くと、これはただ単に基本的に覚えられる魔法より強力な魔法ってだけだ。次に、複合魔法っていうのは、一つの魔法で複数の属性を持つ魔法のことだ。さっき俺が止めをさすのに使った黒い雷なんかがそうだな。最後に強化魔法についてだが、これは習得者に色々な効果をもって強化させることのできる魔法だ。強化の内容は、自身に対しての属性耐性の強化、武器に対しての属性攻撃の付加、同属性魔法の詠唱短縮の三つだ」

「また、いろいろすごい特典がつくな、チートもいいところだろ・・・それで、強化魔法のそれぞれの効果の内容は?」

「大前提として、魔法というからにはちゃんとした属性が決められている。それで、だ・・・まず、自身に対しての属性耐性の強化だが、これは強化魔法に設定されている属性に耐性ができるということだ。例えば、闇属性が10割で設定されている強化魔法があったとすると、闇属性の攻撃は10割カットされるということだ」

「ノーダメージじゃないか・・・」

理不尽な数字を聞いたソレイユだが、ルシフェルは首を横に振る。

「もちろん極端な数字だ。ないわけではないが、少なくとも、俺のは違う・・・次に、武器に対しての属性属性の付加だが、通常の武器には魔法というものはない。武器はただの物理攻撃でしかないってのがこのアルヴヘイム・オンラインの決まりだが、強化魔法を使えばそれに魔法攻撃を付与することができる。例えば、片手剣を持つものが闇属性10割の強化魔法を使用したとすると、通常の片手剣で行った攻撃に加え、その攻撃力から算出された物理属性が闇属性に変換され、その10割分が攻撃に上乗せされる。つまり、相手に与えるダメージは―――攻撃速度、ヒット位置、スキルから算出された物理ダメージ+そのダメージを魔法属性に置き換えた属性ダメージとなるわけだ。だが、残念ながら魔法にはこの効果は付加されない」

「されたらチートってレベルじゃ済まないだろ・・・」

「まったくだ。最後に、同属性魔法の詠唱短縮だが・・・例えば、闇10割の強化魔法を使って、闇属性の魔法を行おうとすると、その詠唱は短縮される。その短縮率は10割の強化魔法を使っているため、10割短縮・・・というか破棄される。その際には、通常では言わなくてもいい魔法名を言う必要がある」

「はい、センセー・・・質問がありまーす」

「はい、ソレイユ君!」

その場のノリなのか、ふざけているソレイユとそのノリに合わせるルシフェル。結構相性がいい二人である。

「複合魔法の際はどうなるんだ?」

「それも例えを使って見てみると・・・火3割、闇7割の強化魔法があるとしよう。その強化魔法を用いて闇属性の魔法を使おうとする場合、7割分しかカットされない。したがって、残り3割分の詠唱は必要となってくるわけだ」

「その際のスペルワードは?」

「それもウインドウで見れば確認が取れることになってる。最後に付け加えるが、強化魔法を使っている最中は常にMPを消費するから気を付けろよ。途中でキャンセルはできないからな。それから、当然のごとく強化される対象は自分のみだ。以上が魔法についての特別講義だ。何か質問はあるか?」

「なら、一つだけ・・・その魔法を習得するにはどうしたらいい?」

ソレイユの質問にルシフェルは一瞬だけ表情を硬くしたが、すぐにいつもの表情へと戻り首をかしげた。

「・・・さぁ、な。それは俺にもわからん」

「わからんって・・・あんた使ってたじゃないか」

「気が付いたらいつの間にかあったんだよ」

「・・・ふぅーん。まぁ、いいや」

嘘だとわかりながらも、特に深く聞くことはソレイユはしなかった。
それから二人はウンディーネ領が近くにある湿地地帯である程度Mobを狩ったり、時々襲ってくるウンディーネのプレイヤーを蹴散らすなどしていた。その際、インプ領主であるルシフェル中心に狙われていたことから

「領主だからって狙われすぎじゃね?」

「俺はモテるんだよ」

「なら本気でも見せてやれよ」

「おいおい、そんなことしちまったら世の中の俺のファンが卒倒しちまうよ。だから俺はファンのために手を抜いてるんだよ」

「でも、黄色い声くらい上がってもいいだろ?」

「声が出ないほど俺が魅力的ってことだろ」

などという冗談が戦いの最中に交わされていた。それを聞いたウンディーネたちは余裕な二人に腹をたてたが、あっけなく蹴散らされていった。

「そう言えば、お前はこの後どうすんだ?」

時刻は六時を回るところだった。メニューウインドウを開き、時間を確認したソレイユは唸りながらルシフェルに言った。ちなみに、今二人は領地に戻るために飛行中である。

「う~ん、と・・・俺は領地に帰ったら落ちるよ」

「そうか、そのあとはログインすんのか?」

「するつもりだけど?」

「なら済まないが俺はこの後は入れないから、気を付けてな」

「了解」

会話している間に領地についたため、ソレイユは宿に行くため、ルシフェルは領主館へと赴くため、二人は領地の入り口で別れた。その後、ソレイユは昨日と同じく宿に入り、寝転がってログアウトしていった。



麗しのお姉さま方はどうやら外食をなさるようなので、とソレイユは簡単に食事を済ませると、シャワーを簡単に浴び(その際、風呂を沸かすのを忘れない)、再びナーヴギアをかぶり妖精郷へと舞い戻っていた。

「ホントにルシフェルの奴はいないんだな・・・」

フレンドリストを確認すると、ルシフェルはログインしていなかった。

「まぁ、いろいろ教わったし・・・何かあったら後日に聞けばいいか・・・」

そんなわけで、ソレイユはアルヴヘイム・オンラインにログインしてから初めてソロで狩りに出るのであった。先ほどルシフェルと狩に出るときのようにソレイユが岩でできた高い塔に歩を進めると、途中で見知った顔を見かけた。

「あれ、レヴィアさんじゃん。こんばんわー」

「ああ、お前か。昨日ぶりだな」

ずいぶんと軽い挨拶を述べるソレイユだが、レヴィアは特に気にした様子はない。共に向かう先が高い塔であるということを知ると、二人は歩きながら話に花を咲かせる。会って間もない中とは思えないほど仲のいい二人である。いつの間にか、塔のロビーについておりそこから魔法陣エレベーターで最上階に行くとレヴィアが改めて口を開いた。

「さて、あたしはこれから狩りに出かけるんだが、お前はどうするんだ?」

「とりあえずソロかな。教わったことも復習したいし、何か発見があるかもしれないからな」

「そうか・・・まぁ、キルされないように気を付けろよ」

「ああ」

そういって、ソレイユは竜の谷がある砂漠地帯のある北西の方へ、レヴィアはウンディーネ領がある北の方角へと飛んで行った。



「竜系のMobばっか・・・」

竜の谷にて狩りを続けること一時間が経過し、大体あたり一帯のMobを狩り終えるとボソッと呟いた。夕食前にルシフェルと狩りに行ったところは湿地地帯だったため、カエル系のMobがわんさかいたのだが、こっちはこっちで竜系のMobばっかりであった。

「竜の谷って名前に偽りなしって感じだな」

愚痴ではなくこのフィールドの感想を素直に述べると、入手したアイテムを確認するためにメニューウインドウを開く。もちろん飛行状態ではなく地面に足をついて、だ。不用意に飛行していて滞空時間が過ぎてしまい、谷底に真っ逆さまなどというのはまっぴら御免こうむりたいのは誰だって一緒だろう。

「鱗とかはあんまり高く売れねぇだろうしなぁ・・・、空中戦闘に慣れはしたが・・・あんまいい収穫はなさそうだな・・・」

入手したアイテムが芳しくない状態にどうするか迷っているソレイユ。このまま狩り続けてもいいアイテムが出ないのなら時間の無駄であるし、一応サラマンダー領が近くにあるためここにサラマンダーが来ないとも限らない。だからこそ迷っている。このままここで竜狩りをしながらサラマンダーをも狩るのか、今日はもう引き上げるかを。

「どうすっかね・・・ん?」

どちらにするか決めかねていると、ふと気になる音が聞こえてきた。その音源を探るように耳を澄ませながら歩いていくと、人ひとりが入れるくらいの小さな洞窟、というよりも横穴があった。

「風が通ってるってことはこの奥に何かしらがあるんだよな・・・?」

考えても仕方がないのでソレイユは横穴に入っていく。進むにつれ、外から明かりが届かなくなり暗闇があたり一帯を支配するが、インプであるソレイユに暗闇はあってないようなものなので臆せず進んで行く。少しの間、狭い道のりを歩いていくと大きく開けた場所、いわゆる大空洞に出た。その大空洞の中を吹き抜ける風が、細い悲鳴のように響き渡り恐怖心煽る。

「よくできてるなぁ・・・」

しかし、そんなことお構いなしに辺りを見回しながら、ソレイユは奥へと進んで行く。ごつごつととがった岩が目立つが、Mobも出てこない洞窟だった。腑に落ちないような表情で道に沿って歩いていく。どうやら、洞窟は地下につながっているらしく、下り坂のようになってきた。さらにそれを下っていくと、空けたところに出た。円状に空いているその空間の中心部には何やら巨大な竜の巣らしきものがあり、その巣の中で宝箱を護るようにして寝ている竜がいた。

「・・・・・・テンプレだな、ってツッコめばいいのか?」

一人でごちっているソレイユだが、ここまで来て戻る選択肢はソレイユの中にはなかった。いざ、開けた空間に足を踏み入れると、案の定寝ていた竜は眼をさまし寝起きに大きな咆哮を上げた。

「まっ、期待外れじゃないことを祈るぜ・・・」

その言葉と共に刀を納刀したままで地面を勢い良く蹴り、ソレイユは竜へと突っ込んでいく。



竜との戦闘開始から一時間が経過して、ようやく竜は討伐された。円状に空けた空間には、大火力の炎で焦げた跡や爪で抉られたと思われる跡が多数残っている。それが戦いの激しさを物語っていた。

「ふぅ・・・期待以上だったな・・・」

一息つき悲痛な雄たけびを上げながらポリゴン片になっていく竜を見つめたまま、率直な感想を述べた。竜の姿が完全に消えるとソレイユは巣の中心に鎮座している宝箱へと歩を進める。

―――それはかつては誰しもが求めていたもの。

「さてさて・・・何が入ってるのやら・・・」

―――ソレイユは知らなかった。そのアイテムがどれほどのものなのかを。

いざ宝箱を開けてアイテムを取り出してみると首を捻ることになった。それほどまでに聞いたことのないアイテムだった。

―――ソレイユは知らなかった。それがもたらす効果がどれほどのものなのかを。

「なんだ・・・これ・・・?」

―――【それ】は、このアルヴヘイム・オンラインにおいて求める者が限りなく多くいるにもかかわらず、入手難易度から多くの者が諦めざる終えなかったもの。

実体化させてみると、それは本の形をしたアイテムだった。どのようなことに使うのか、まったくと言っていいほど思いつかない。

―――故に高い実力を持つ者のみ手にすることがでるとされたアイテム。

「えっと名前は、と―――」

―――その名を

「ぐりもわーる?」

―――【グリモワール】といった。
 
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