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冥王来訪

作者:雄渾
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第三部 1979年
新元素争奪戦
  翻意 その2

 
前書き
 真壁(まかべ)零慈郎(れいじろう)を出すことにしました。 

 
「なんだ、あの機体は……」
 ゼオライマーから降りたマサキと美久は、小型トラックで迎えに来た鎧衣とともに滑走路を後にしようとしたときだった。
 超低速で接近する戦術機は空中に制止した後、そのまま垂直降下を始めた。
押し寄せる熱風と轟音から避けるべく、滑走路上にいた作業員たちは一斉に退避し始める。
「美久、機種は!」
 幌を外してむき出しになった後部座席にいたマサキは、美久にそう訊ねた。
彼女に搭載された推論型AIの中にある膨大な情報の中に、目前の機体があると考えての事だった。
「該当する機種は、データに存在しません」
 美久がそんな声を絞り出したとき、マサキは絶句したままだった。
白銀の機体は、脚部を広げると難なく接地を成功させた。
 すると胸部にあるハッチが跳ね上がる形で開き、管制ユニットがせり出してきた。
簡単な縄梯子が展開され、目を引くような赤い強化装備を着た搭乗員が下りて来た。
単座機で、搭乗員は一名だ。
頭部をすっぽりと覆う気密装甲兜を脱ぐと、長身の美丈夫が現れた。
 男とも女とも取れる、眉目秀麗な顔立ち。
 体の線が出る強化装備が、比較的細身な体を、より強調している。
男装の麗人と言われれば、思わず信じてしまいそうになるほどだった。
 マサキと美久を見つけた相手は、こちらに近づいて来た。
教本に描かれたような、実に見事な敬礼をした後、こう告げてきたのだ。
「近衛軍の真壁(まかべ)零慈郎(れいじろう)中佐です。
帝都より、お迎えに参りました」
 大胆かつ丁寧な物言いに、マサキは返礼した後、こう言い返した。
「貴様に訊ねたいことは山ほどある。
まず、あのロボットだ。日の丸が付いているが……」
「F‐15イーグル。
本年、米国で開発されたばかりの新型機です」 
 函館空港に来た新型の戦術機は、F‐15イーグルだった。
米国マクドネル・ダグラスの新型機で、対外有償軍事援助(FMS)を通じて購入した4機のうちの2機である。
近衛軍に配備され、試験運用を兼ねて三沢から飛来したものだった。
 
 それから30分ほど後。 
マサキ達は、函館空港にほど近い喫茶店に居た。
 冷房のよく効いた店内には、4人の他は客らしい客はいなかった。
マサキは煙草をふかしながら、これから真壁に聞く内容を決めかねていた。
「真壁君と言ったね。
ずいぶん若く見えるが、君は何歳だね?」
 中佐と聞いたが大分若く見える。
それまで黙っていた鎧衣は、神妙な面持ちで尋ねた。
「1947年生まれ、今年で32歳になります」
 現代の制度では、士官学校を普通に卒業しても、30代前半で中佐になるのはあり得ない。
将軍に近い有力貴族の子弟から構成される近衛軍なら、その線もあるか。 
ここは、一つ確かめてみることにするか。  
 マサキは息を飲んだ後、納得しかけた様子で、言葉を発した。
「つまり、御剣の側近か」
「その通りです。
本事件は、既に城内省の管理下にあります」
 マサキは、純粋な恐怖心を覚えた。
怯えを察知したのか、真壁は続けた。
「警戒する必要はありません」
「とにかく説明してくれ」 
 マサキは言葉を切ると、タバコに火を点けた。
「本来ならば、作戦に関わる木原博士と氷室さんにも事情をお話すべきですが……
一言では説明できない大人の事情がありまして、としておきます」
「ほう」
 鎧衣は、嘲笑したような顔色を見せた。
この男の本音がどこにあるかを知っているかのような態度だった。
 普段はポーカーフェイスの諜報員が、不敵の笑みをたたえている。
その様子を見て、マサキは半ばあきれるような表情を浮かべた。
情報屋というのは、分からん存在だと。


 
 マサキたち一行は、亡命を希望する参謀総長を連れて、東京の市ヶ谷基地を訪れていた。
参謀総長と彼の護衛役である女秘書はソ連の軍服姿のまま、目隠しをされて、東部軍司令室に案内された。  
 部屋の中には、既に司令官の他に、通訳と記録を取るタイピストが待っていた。
ドアを閉めた後、赤軍参謀総長と女秘書は、ようやく黒い帯状の目隠しと手錠を外された。
「ソ連が、G元素を狙うために月に特別攻撃隊を送ったとは……
本当なのか」
 目隠しを解かれた参謀総長は、返答する。
会話はロシア語で行われ、その場に通訳が同席した。
「ほ、本当です。
私が、参謀本部に、その作戦の原案を書かせました」
 東部軍司令は、感情を抑えた声で返した。  
「うむ。
嘘をついてるようには思えんが……」
 帝国陸軍参謀本部は、ソ連赤軍が単独での月面攻略を行う可能性も考慮していた。
地球の衛星軌道上に宇宙艦隊を展開している以上、G元素劫掠(ごうりゃく)の手段として核攻撃も辞さないと。
「今度の米軍の月面攻撃に乗じて、再度G元素の奪取を計画しております」


 ソファーに腰かけたマサキは、コーラを片手にその様子を静かに聞いていた。
司令室に来てから、押し黙っていた口を初めて開いた。 
「なるほど、漁夫の利を得ようという訳か」
 赤軍参謀総長は、ロシア語で答えた。 
「ソ連赤軍は、大乗り気だ」 
 マサキは、氷で味の薄くなったコカ・コーラを一口飲む。
通訳の返答を待たずに、彼は参謀総長の言葉をせせら笑った。
「何がおかしい」
 ロシア人の参謀総長には、この東洋人特有の笑みは気色悪かった。
ロシアの文化では、必要のない時に笑う事はなく、つくった笑顔は「形式的微笑」と呼ばれ、忌避された。
マサキのみせた笑みは、偽善、裏がある、腹を明かしたくないといった悪い兆候ととらえたのであった。
 マサキは満面に笑みを湛えて、答えた。 
「愉快な話だ」
 マサキは一人きり笑ってから、真面目な顔になって、その部屋にいる者たちに訊ねた。
「こんな人間を信用できるか?
露助どもは、俺の事を欺こうと散々と謀略を仕掛けてきたのだぞ」

「ああ……」
 マサキの一言に、参謀総長の表情が強張ったまま、凝固した。
だらけた格好でタバコを吸い、軍服を着崩している東洋人の瞳を見る。
「俺は、こいつらの仕掛ける謀略に事あるごとに乗せられてきた」
 東部軍司令は、いかにも困惑した表情で、マサキを見つめた。
マサキは、このチャンスを逃してはなるものかとばかり、話を続けた。
「約束を破る露助どもの事は信用できん!」 
 国際法違反を繰り返す、独裁国家の悲哀(ひあい)か。
先の大戦以降、友邦諸国さえもだまし討ちにし、国際社会を欺いた我がソ連は万全の信頼を得られていない。
 参謀総長は、テーブルの上にあるテーカップを取る。
杯に注がれた、すっかり温くなった紅茶を舐め、口内の苦みを堪能した。
「なにせ、樺太をだまし取られたからな」
 露悪的な言い方をするマサキからは、どことなく自信のような物が見受けられる。
「なんですって」
 参謀総長の脇に居た女秘書は、素っ頓狂な声を出すも、慌てて両手で口を押えた。
「じゃあ、どうすればいいのよ」
 女秘書が明らかに困惑しているのを見て、マサキは愉快そうに答える。
「お前の態度を見ていると、退屈しない」
 その一言に、女秘書は色をなして怒った。
その様子を見ながらマサキは、ふてぶてしく笑った。
「そんなに騒ぐなら、勝手にやればいい」
 再び沈黙が訪れる。
参謀総長は、呆れ半分、怒り半分といった顔色でマサキを見つめ返した。

「とりあえず、彼らの事をもう少し調べたい。
今、ソ連の特別攻撃隊の事も調査している」
 そこに報告を持って来た下士官がやって来た。
「司令官、どうやら本当のようです。
極東のスヴォボードヌイ基地からソユーズ宇宙船が発射されています」
「何ッ!?」
 司令官は声のした方に、視線を向けた。
マサキの人を見下すような態度が、彼の気に障っていたのも関係しているだろう。
「木原君、あんまり人を疑うもんじゃないよ。
私は、最初からこの人を信用していたんだ」
 男は、重苦しい部屋の雰囲気から逃れるべくケントの封を開けた。
ケントは、世界初のアセテートフィルター付き紙巻煙草で、大女優オードリーヘップバーンが愛したたばこでもある。
 発売当初は健康を考えたタバコとして全世界的にヒットし、口つきタバコの文化があるロシアでは今でも人気のタバコだ。
「第一、この人は逃げる際に監視要員を殺してる。
いくらGRUでも、仲間は殺さないよ」
 男は言葉を切ると、煙草に火を点けた。
バニラフレーバーを混ぜたバージニア種のタバコ葉と燃焼補助剤を混ぜたさや紙が燃える匂いが部屋中に広がる。
「だが……」
 マサキは、勿論納得したわけではなかった。
敵を騙すにはまず味方から、という古典的なやり口をロシア人がしないわけがない。
ただその現場を見ていないので、完璧な確証がないだけである。  
 芝居好きのロシア人の事だ。
見え透いた田舎芝居で、俺の事を騙そうとしている。
 考えすぎという事もない、だろう。
紫煙を燻らす男の姿を見ながら、マサキもまたタバコに火を点けるのだった。 
 

 
後書き
 ご意見、ご感想お待ちしております。
 あと誤字報告などあれば、お待ちしております。
作者自身もそこまで目が回らないので、ご報告いただければ、幸いです 
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