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利休風流

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第二章

「御主がいなくなtってはわしも困る」
「お気遣い有り難うございます」
「では養生をせよ」
「温泉にでも行ってですか」
「温泉はよい」
 秀吉も好きだ。だからこそ弟にも勧めるのだ。
「だからまた行ってじゃ」
「養生をですか」
「充分にせよ。よいな」
「はい、それではまた」
「二人で行こうぞ」
 弟への愛情を絶え間なく見せもしていた。
「よいな」
「そうしましょう」
「さて、それではじゃ」
 秀吉はあらためて弟に言った。
「随分と寒いというのにな」
「朝早くに来ることですか」
「余計に寒いわ」 
 秀吉は苦笑いを浮かべて言うのだった。
 足元には霜があり一歩踏み出す度にそれを踏みしめる音がする。
 所々白くなりあちこちに雪さえ残っている。草木には葉もなく白く枯れておりそこにも霜が見える。
 その冬の朝の中で秀吉は秀長に話す。
「これが風流なのかのう」
「利休殿が言われるには」
「寒いだけではないのか」
「そのうえで利休殿のお屋敷に向かわれる」
「何を用意しておると思う」
「それがしにもわかりませぬ」
 それは秀長にもだというのだ。
「どうにも。ですが」
「それでもじゃな」
「まことの風流があるとのことです」
「まことのじゃな」
「ですからここはです」
「御主の言うことなら間違いはあるまい」
 秀吉は誰よりも彼を信じていた。だからこそこうも言った。
 そのうえで二人で利休の屋敷に向かう。屋敷に入ると黒の見事な着物を着た利休が出迎えてきた。
 利休は深々と頭を垂れてこう言ってきた。
「ようこそおいで下さいました」
「まことの風流を見せてくれるのじゃな」
「はい」
 その通りだと答える利休だった。
「既にそれは用意しております」
「左様か。それではじゃ」
「屋敷の中にお入り下さい」
 利休は礼儀正しく秀吉と秀長に告げた。
「私の風流を御覧になって下さい」
「それではな」
 秀吉も利休の言葉に頷き秀長と共に彼の屋敷の中に入った。
 利休は二人を畳の広い部屋に案内した。その部屋は障子を完全に開け秀吉達の場所から見て右手には庭が見える。冬の庭だった。 
 やはり雪が残っており草木も枯れて葉もない。白い霜が降りそこには生きている息吹はない。秀吉はその庭を見て利休に問うた。
「これが風流か」
「左様です」
 その通りだというのだ。
「これがです」
「寒いだけではないのか」
「確かに寒いです。ですが」
「しかしと申すか」
「御覧になって下さい」
 その庭をだというのだ。
「如何でしょうか」
「寒さではなくか」
「いえ、寒さと共に」
 こう秀吉に言うのである。
「見て頂きたいのですが」
「ふむ。寒さはかなわん」
 秀吉は袖、みらびやかな金と白の絹の服の中に両手を入れてそこで腕を組み言った。
「だが。この庭は」
「どうでしょうか」
「悪くないのう」
 己で見たものを偽ることなく言った言葉だった。
「白がよいわ。そうじゃな」
「そうじゃなとは」
「冬の庭は昼に見るよりこちらの方がよいな」
 ふとこう思ったのである。 
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