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武士

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第三章

「頑張って来いよ」
「そうしていいんですね」
「当たり前だろ。確かにあんたがいなくなるのは痛いけれどな」
 茂平は若いながら立派な工員だった。その彼がいなくなることは工場としては痛手だ。だがそれでもだというのだ。
「兵隊さんになるんならな」
「それならですか」
「お侍になってこいよ」
 工場長も笑顔でこう言う。
「いいな、頑張ってな」
「はい、そうなってきます」
「ああ、頑張れ」
 こうした話をしてだった。工場長も茂平の背中を押してくれた。
 茂平はそれを受けて実際に教導団を受けた。その結果は見事合格だった。その合格を受けて実際に教導団に入ってだった。
 厳しい訓練と教育を受けた。しかし彼はその中で目を輝かせて言うのだった。
「わし、お侍になったんだな」
「ああ、そうだよな」
「これでなったんだよな」
 同期の一人にこう話すのだった。
「そうなったんだよな」
「そうだろうな。けれどな」
「けれど?何かあるのか?」
「ああ、お侍になってもな」
 それでもだとだ。こう言うのだった。
「最後までそうでいられるかどうかだろうな」
「最後までか」
「敵に背j中を見せたら、いや卑怯なことをしたらな」
 それならばだというのだ。その同期はこう茂平に話していく。
「侍、武士じゃなくなるからな」
「卑怯か」
「御前元々百姓の出だよな」
 同期は今度はこう茂平に問うた。彼の生まれについてだ。
「そうだよな」
「ああ、そうだよ」
 その通りだとだ。茂平も同期に答える。
「三重、四日市の近くのな」
「だよな。俺だって静岡で蜜柑をやっていたよ」
 つまり彼も百姓だったというのだ。米と蜜柑の違いはあるが。
「二人共百姓だな」
「その百姓が武士になれたな」
「ああ、なれたけれどな」
 だがそれでもだというのだ。
「なれたのは兵隊になったからか?」
「この教導団に入ったからじゃないんだな」
「身分はそうかも知れないさ」
 そうした意味ではそうかも知れない。しかしそれだけではないというのだ。
「けれどそれだけでないだろうな。俺だって最初は兵隊になれば武士だって思ってたさ」
「ところがそれがか」
「違うだろうな。心が武士にならないと駄目なんだよ」 
 彼はこう言うのだった。茂平に対して。
「武士になるにはな」
「心か」
「武士道っていうだろ」
 同期はここでこの言葉を出した。武士道というものを。
 その言葉は茂平も確かに聞いた。それでこう言った。
「じゃあ俺も武士道を進むか」
「そうするべきだろ。武士になりたいんならな」
「そうか。武士は心か」
「文武二道な」
 この言葉は教導団でもよく言われた。軍人、陸軍でも海軍でもその二つを修めてこそ真の軍人だと教えられてきている。
 だから今茂平は考え込んだ。そしてこう言ったのだった。
「よし、じゃあな」
「本当の武士になるんだな」
「そうなる。俺はなる」
 強い輝きを放つ目での言葉だった。
「絶対にな」
「なるか。絶対に」
「その為にここまで来たんだ」
 学び鍛え教導団にも入った。それならばだというのだ。
「それなら最後までなるな」
「武士になるか」
「ああ、なる」
 茂平はその決意を再び同期に話した。そしてだった。 
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