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蛮人と思えば

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第五章

 日本軍の将は使者から将らしく鷹揚だが礼儀正しい態度で受け取った。李は彼の横にある兎の形の見事な兜を見た。
 李はその兜を見つつふと彼に問うた。
「宜しいでしょうか?」
「?御主は」
「使者の方の従者の一人です」
 こう身分を偽って名乗る。
「名を李と申します」
「李と申すか」
「はい」
 明ではよくある名前なのでここでは真実を言ってもよかった。
「左様です」
「そうか。そちらも名乗ったからにはな」
 この日本軍の将も応えて己の名を名乗ってきた。その名はというと。
「加藤清正という」
「加藤様でございますか」
「そうじゃ。御主達とは敵になるがな」
 こう前置きしながらも彼、加藤清正は李に述べる。
「宜しくな」
「はい、それでは」
 使者達は清正の前に両膝をつき控えている。そのうえで清正に応えた。
 このやり取りから清正はその文を開き一読してからこう使者に言った。
「見事な詩じゃな」
「本朝の詩です」
「よい詩じゃ」
「本朝の詩もおわかりになられるのですか」
「我等の間でも明の詩はよく謡われる」
 清正は使者に対して述べる。
「読むだけでなくな」
「では加藤様も」
「つたない詩じゃがよいか」
 清正はまずはこう使者に事前に告げた。
「それでも」
「はい。それに」
「それにか」
「出来ればそちらの国の詩も頂きたいのですが」
「ははは、下手でもよいか」
 清正は日本の詩も見たいという使者に幾分苦笑いを浮かべて述べた。
「我等の詩なぞ大したものではないぞ」
「それでも宜しければお願いします」
「左様か。ではまずは明の詩じゃな」
「お願いします」
「ではじゃ」 
 清正は筆と硯を持って来させそのうえで紙に自身の詩を書いた。そのうえでその詩を使者に渡したのである。
 その詩を見て使者も李も他の者達も思わず唸った。
「これは」
「かなりよいのではないか」
「うむ、下手だとは言うが」
「それなりに詠んできた者の詩ぞ」
「そうした詩じゃ」
 清正が詩についてそれなりに造詣があることがわかった。少なくとも詩を全く知らない者の詩では断じてなかった。
 それどころかよく出来ている。それで彼等も唸ったのである。
「ただの武人ではないか」
「よく見れば気品もある」
 自分達の前に座る清正もあらためて見て言う。
「ではやはり」
「それなり以上の者か」
「文についても」
「ではじゃ」
 彼等だけで話すそこにまた清正が言ってくる。
「次は本朝の詩じゃな」
「はい、お願いします」
「それでは」
「和歌でよいか」
 清正はその謡う詩はそれでよいかと確認した。
「それで」
「和歌?」
「和歌といいますと」
「だから本朝の歌でじゃ」
 清正は微笑みながら和歌と聞いていぶかしむ顔になった明の者達に対してまた述べた。 
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