ジプシークイーン
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第一章
ジプシークイーン
俺は今悩んでいた。何について悩んでいるかというと。
大学で同じサークルのツレにだ。サークルの飲み会の中で話した。
場所は居酒屋だ。そこの四千円での食べ放題飲み放題のコースで大ジョッキでぐびぐびやりながらだ。俺はそいつにぼやきながら言った。
「彼女いねえんだよな」
「ああ、それは見ればわかるよ」
すぐにだ。座敷の席の向かい側にいるツレが俺にこう言ってきた。
「一発でな」
「何だよ、わかるのかよ」
「だからこの飲み会に来たんだろ」
今の飲み会に来ているのは野郎ばかりだ。サークルの中で彼女いない組ばかりが集って飲んでいる。一回生から四回生まで見事にだ。そんな奴が集ってる。
その中でそいつは焼き鳥を食いながら俺に言ってきた。
「そうじゃねえのかよ」
「まあそうだな。正直なところな」
「彼女いないからここで飲んでな」
「憂さ晴らしだな」
「どうなんだろうな」
俺は自分のつまみの鳥の唐揚げを食いながらまたぼやいた。
「本当にな。彼女な」
「欲しいのかよ」
「出会い。ねえのか?」
俺はまた言った。
「俺にもな。それこそ女優みたいな美人さんとな」
「いきなり無茶言うな」
「どうせできるならそんな美人の方がいいだろ」
俺は半分以上やけっぱちになっていた。彼女が欲しくてだ。
「だろ?本当にいないのかよ」
「そんなに彼女欲しいのかよ」
「ああ、欲しいな」
俺はまたツレに言った。ここで大ジョッキのビールがなくなったので店の人におかわりを注文してからまた言った。
「誰かいねえのかよ」
「出会いねえのかよ」
「あってもそこまでいかねえんだよ」
「まあこれは縁だからな。縁ならな」
「縁なら?」
「その縁について聞けばどうだよ」
ツレはカルピスチューハイを飲んでいる。何でも関東じゃこれはカルピスサワーって呼ぶらしい。随分洒落てて飲んでも酔いそうにない軽い名前だ。
「どういった出会いがあってどうすればいいかな」
「それを聞いてその通りに動けばか」
「彼女だってできるだろ。どうだよ」
「そうだな。じゃあ誰かに聞くか」
「そういうのだったら占い師がいるからな」
ツレは俺が今まで縁のなかった職業の人を話に出してきた。
「ほら、駅前にな」
「占い師がいるのかよ」
「いるだろ、ほら夜になると片隅にな」
「そういえばいたか?」
話をふられてだ。俺は自分の記憶を辿った。その結果だ。
俺の記憶の中に一つ検索されて出て来た。それはというと。
「婆さんの占い師だったな」
「ああ、水晶玉占いのな」
「あのそのまま魔女やってるみたいな婆さんか」
「あの人に占ってもらったらどうだよ」
「じゃあそうするか」
ツレの話を聞いてだ。俺は少し考えてから答えた。
そのうえでこの日はしこたま飲んで食って腹は満足させてからだ。俺は駅前に向かった。家に帰るついでにそこに寄ったという意味もあった。
それで駅前の片隅を見るとだ。そこには。
黒く長い服、本当に魔女みたいな服を着て帽子を被っている。それが三角の淵の長い帽子でそれもまた魔女のそれみたいだった。
その魔女を見てだ。俺は一人呟いた。
「何かあの人ならって感じだな」
占ってもらえそうだと思った。それでだ。
その黒い服と帽子の人に言った。ここまでは婆さんだと思っていた。
だが声をかけて返って来た返事はだ。こうしたものだった。
「お仕事でしょうか」
「あれっ、婆さんじゃねえのかよ」
「祖母でしたら仕事場を変えました」
そうだとだ。若い、俺より二つか三つ年上の感じの女の声が返ってきた。
「それでここは私が」
「あんたの受け持ちになったのかよ」
「はい、そうです」
こう俺に言ってくる。けれど顔は見えない。帽子の淵に隠れてだ。
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