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帝国兵となってしまった。

作者:連邦士官
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29

 良いか悪いか傷はすぐに治ってしまった。一応と言うことで経過観察として、首都の軍病院に送られた。検査結果は全て、医者からは「問題がなさすぎるのが問題だ。健康と一言で済ませるには憚られるほどの優良体。世界大会に出れるほどだ。」と言われてしまうくらいに完治をしていた。3日間の検査入院の後に、退院する前に手続きがあるからと余計に1日も時間を持て余す結果になり、リハビリがてらに病院内を歩いてみる。

 いくら時間が余っているからと言って国民の麦が出しているとんでも新聞ばかりを見ていたら気が滅入る。

 今回のイスパニア戦役で出た怪我人の多くが帝国側に輸送されている。帝国はクリーンだと宣伝したいのだろうが、いうほどクリーンなのか?クリーンだといいけども。

 廊下の窓から外を見ると3月なのに桜が蕾をつけかけている。秋津島から贈られた桜はここに植えられていたのか。帝国からは月桂樹とライヒオークと言われるナラの木を返したそうである。友好の証なのかは知らないが今回の件で帝国に留まっている秋津島人達がそれを見るためか屯していた。

 「春か。」
 春というよりも体感に暖かみがないのは病院の色彩なのか石の街である帝国という地域だからであろうか。というかアイツら、勝手に火鉢と茣蓙を用意してるが良いのだろうか?まぁ、監督する立場にはないからほっとこう。

 気を取り直し、廊下の窓から病室側に目を向けた。

 病室を見ると病室前のネーム(現代なら個人情報の観念から無くなったモノ)に見慣れた名前、中を見ると大部屋にはあのモーズレリィーか横たわっていた。あとタバコ臭い(この世界だと一般的に病室でタバコを吸う者が後を絶たない。)後々に聞いた話だが彼は貴族だからと士官用の個室を用意されたらしいが信念に基づいてに入るのを許さなかったようだ。

 「久しぶりだな。」
 モーズレリィーはこちらの声に気付いて敬礼をするが辞めさせる。そもそも義勇兵に敬礼させる正規兵とか外聞悪すぎるだろう。向こうは現当主で、今の俺であるジシュカは地方の小さな土地の地主の息子であるから立場が違う。

 この数年、向こうから来た手紙や軍の情報などからは、この体の親は地主は地主だが政治的に些か不安定で、グーツヘルシャフト的なモノからでたユンカー的な何かと自由主義改革派と中央政府の中間で板挟みにあっており、基本的に俺の活躍とされているもので中立を保てていると聞く。とはいえ、東寄りの地主にしては総人口約2500人程度の自治体で昔から領主や地主をしながら林業と農業と小さな鉱山と中央からの支援で受けた工場などで暮らせてるらしく、小さな土地の維持のためにカツカツで人口が減らないように工業投資をしながらも、農地や林業にも投資せざるを得ないので中流程度の暮らしをしているのがわかっている。

 軍艦が常に這いずり回ってるトロピコのような状態でいつ変わるかもままならないらしい。

 だから、いつ地主の息子から没落するかわからない存在とモーズレリィーのようなちゃんとした爵位が決定していて資産家でしっかりした家柄とは全然違う。

 「もう兄弟みたいなものじゃないか、上も下もないはずだ。」
 そう言うとモーズレリィーは苦笑をした。

 「なら、兄弟に紹介したい友人がいる。ここの病院であったのだが、あちらにいるのが友人のジョルジュ・オーウェンだ。作家らしい。傷が治ったら二人で連合王国の体制を良い方向に変えたいと思っている。オーウェン、この人がかの有名なジシュカ大尉だ。」
 大尉じゃもうないがどうでもいい。そうなのか。だが知らん。よくやればいいだろうに連合王国を変える前に連合王国が植民地から帰れと追い返されるのが早そう。

 「なるほど。貴方があの‥‥。では聞きたいことがありますが、あなたが書いた国民皆保険と国民年金、全国民に対する選挙制度、比例選挙などは実現可能だと思いますか?」
 それは出来るだろやっていたし。なんだと言うんだ?脳に紅茶でも回ったのか?

 「出来る。やるならばきっと簡単なことだ。」
 そう答えたら、オーウェンは「なるほど。もし著書が書けたならそちらに送ります。」とまた答えて終わりになった。病室から出るときには外で騒いでいた秋津島軍人の一部が病室の前にいて、宴会に引っ張られる形になってしまったのだ。

 騒がしいのも嫌いではない。そこで座って桜を見ていると桜の花びらはひらひらと空を舞う。帝国の石畳と少し灰色の空、そこに生える桜のコントラストは80年代から90年代のアニメを思い出させる。芝生の上で茣蓙を敷いて火鉢を置いて、傘を広げてる野点か?軍服で茶を点てている不思議な光景にくらくらした。

 「抹茶か。」
 用意された茶菓子を見るとパン・デ・ローが置いてある。それ以外にもクルミなどのナッツをはちみつでコーティングした菓子などがあった。それらを食べながら見る帝国の桜は別世界を感じた。

 一通り終わったあとに一人の男が近づいて来ている。そちらを見ると痩せぎすの印象を受ける長身痩躯の面長で色白、長髪の男がいた。服装から見るに秋津島の憲兵隊だろう。手袋を嵌めており五芒星の模様がついている。異様な雰囲気をまとっている。が、イスパニアで見たチェスト秋津島の光景からするとまだ普通だ。

 「秋津島憲兵隊所属、甘藤正憲大尉です。これからよろしく。」
 こちらの返事を見る前にそんな長身の彼は俺の視界から消えた。一体何だったんだろうか?もしかして、気の所為だったのか?兎も角としてそれで病院での時間つぶしは終わった。

 現場復帰とされたのだが、だからといって普通の仕事に戻れるわけがなく、今回の戦時国債の広報活動等に付き合わされる予定で、それ以外にも秋津島との友好のパーティなどの予約の話が沢山ありどうもしようがない。身動取れなくなるんだろうなと思いながら退院の書類にサインをした。
 
 退院後に基地に向かうが色々な用事や式典等が入り、次々に呼ばれてばかりで俺は断ろうにも断りきれない。逆転の発想で長々とした呼ばれごとにばかり顔を出すことにした。帝国人はその点は理知的で約束を重んじすぎる傾向があり、先に約束が入っていたのならば多少身分の差は無視してそちらを優先してくださいとなるわけだ。

 リーデルも足を治したあとにリハビリと称して、無我夢中で空を飛んで追撃をしていたらしく、多大なる戦果からダイヤモンド柏葉剣付銀翼十字勲章の受勲をされたと言われている。イスパニア戦役での全体のリーデルの戦果を資料で見たが、戦艦5隻撃沈、戦艦1隻大破、巡洋艦3隻大破無いし撃沈、駆逐艦8隻撃沈、その他補助艦50隻大破ないし撃沈、対空砲68門、列車砲6両、装甲列車9両、装甲車120台以上、戦車(自走砲などを含む)80両、航空機19機撃墜、トーチカ37基、捕虜基地解放などそれ以外にも並んでいたがあいつ本当に人間か?掃討戦全てに参加している。一日に17回出撃して雷雨の中、爆撃機が出撃出来ないと言われた為に爆撃機用200キロ爆弾を背負って急降下強襲で敵司令部破壊、パイロット不足のために爆撃機を操縦をして、急降下爆撃により敵列車砲破壊などありえない文字しか書いてなかったので見なかったことにした。

 それでも、断っていたのだがバークマンによる凱旋式には出なければならず、周りの士官たちが馬に乗る中、一人最先頭で飛ぶ羽目になった。手綱は握れるが一応、安静にしてということだから飛ぶということらしい。飛べなくなったら後方の車に乗れと言われていた。

 「この感覚は‥‥。また来たか!狼狽え弾など!」
 大通りに差し掛かると嫌な予感がしてバークマンやモーゼルなどが乗る車に飛び乗ると近くのビルから放たれた弾丸を防殻術式を展開しつつ、魔導刃で弾き返した。予感や勘はよく当たっていたほうだが、それでも最近は尖りすぎている。

 「流石だな准将。なぁ、大丈夫だろうといっただろう?モーゼル将軍。後は狐狩りだな。」
 バークマンのその言葉と憲兵隊なのだろうか?一斉に街に展開する。

 「ただいま、対象を確保して参りました。」
 黒髪の小太りの男がそう言うと手を叩き、憲兵隊が公衆の面前に犯人を投げ出す。

 「そうか結構。」
 再び、凱旋式が再開されたのだが、後の調べで、ものの十数分で捕まった犯人は国内の独立派民族主義者であり、持っていた銃がやはり、偽装されたイルドアの歩兵銃や白樺ではなくクルミで作られたルーシーの歩兵銃。連合王国だろうが奴らのやり方は執拗で陰険で同時に大陸の殆どを掌握することになった帝国を叩き潰したいのだろう。特にドードーバードなど海峡や地中海の拠点に近くなった帝国軍を。


 凱旋式の立食パーティーの横であのイスパニアのメンツが集まり、テーブルを囲みながら今回の件を話し合った。
 「これは警告だな。確定した連合王国の仕業とは言えない。なぜならイスパニア戦役でいくらのこれらの武器が出回り、消息不明になったと思う?兵士たちもだ。これ以上手を出せば殺すという連合王国なりのお上品なやり方だ。帝国も一枚岩ではない。今は勝っているから一枚岩に見えるだけだ。勝利の美酒の恩恵を受けれなくなれば民衆は容易に国家を捨てる。大衆性とはそういうものだ。」
 モーゼルがそう言っていた上にヘスラーなども顔色一つ変えずに「良くあることです。」と流しているのがイスパニア戦役の参加者だ。まあ、考えてみればスナイパーや自爆などはイスパニア戦役ではよくあった。

 そして、イスパニア戦役後に交流として残った秋津島人の中で帝国内に道場を開いたものも居たらしくライヒ流秋津島示現タイ捨忍術なる狂った道場を聞いた。

 その間にも呼ばれてしまった。前と同じようになんかよくわからない地方周りや時間がかかりそうな事を優先して受ければ様々な雑事は跳ね除けられる。准将となったが大佐なんかよりも暇で受け持つ部隊がない。賄賂ではないが戦勝を祝い、アイスワインや貴腐ワインなどが運ばれてくる。縁談の話も持ち上がったが俺はあいにく、この国に長く居る気はないから断った。スピーチをしては永劫回帰のように繰り返す。イスパニアから来た故郷を焼かれた市民団からはエーデルワイスが送られたりもした。

 新生のイスパニア王国連邦と帝国は軍事同盟を締結。原作と大きく変わったのはイルドアとの相互不可侵条約と独立保証、経済協定などだ。その場にも呼ばれてバルブと握手をする写真を要求された。それにダキア公国は帝国の後ろ盾のもとに帝国式立憲君主制に変わり、帝政ダキアに変化し、帝国型議会政治も始まっている。それに伴いダキアの掃除と言われる貴族や大地主や資本家などの権力の規制が行われて、権力基盤の中央集権化も強固となり帝国も紐付き援助で良くなっていった。今や天然ガスや石油、石炭の多くをダキアから買い付けているために帝国の生命線と言われていて、ダキアを守るためにルメリアを成敗すべきであるという論調も国民の麦の会の新聞に書いてあった。

 イスパニアについても新たな名前に変わり、立憲君主制イスパニア連邦帝国と呼ばれる奇っ怪な国家と成り果てた。こちらとも帝国は軍事同盟を締結し、大陸間軍事・経済などの協定により帝国サイドと呼ばれている。

 そんなこんなで残り大戦まで2ヶ月もある。であるが、俺はレルゲン大佐に呼ばれていた。彼もどうやらイスパニアの戦後支援の関係で昇格したらしい。そして、帝国軍はというとターニャ・デグレチャフが書いたとされる無制限飽和攻撃論を採択した。大量の攻撃と兵士で敵の防衛限界まで攻撃し、突破した後に反転し、攻撃をする。同時に後ろからやってきた戦車を打撃力として挟み撃ちをするということらしく、イスパニアの戦訓から有用とされて、これらにより士官学校の首席に選ばれた。

 「後はターニャに任せればいいな。」
 入った部屋を見るとレルゲンはまだ来ていない。レルゲンを待つ間に俺は粉コーヒーを落として飲んだ。角砂糖も前線に出ればデザートなのにこんなにある。砂糖と香辛料を巡って小隊や中隊規模で取り合うくらいだ。それが士気にかかわる。賢狼がいる香辛料の行商の時代と戦争中はそう変わらないのだ。

 「准将!大変です!これを!」
 走ってきた伝令兵が中央参謀部を走り抜ける。晴れ渡る空の元に一報が届いた。レガドニア協商連合軍事訓練として40万人を国境に集めつつあると。

 「だから、どうしたというのだ?まだ時間はある。君もコーヒーを飲むかね?想定の範囲内だ。」
 俺はそう答えるとコーヒーのカップの底に残った砂糖の残りをスプーンで掬って口に入れた。甘味だ。体に悪い味がするがそれもまた味だ。

 「君はやはりそうなのだな。」
 そう声をかけてきた主であるレルゲンとその後ろにいるモノクルの男性ゼートゥーアがそこにはいた。 
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