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帝国兵となってしまった。

作者:連邦士官
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27


 こちらが作った野戦陣地から見える目の前の麗しのイスパニア共同体の首都への偵察のために、わざわざ敵からもわかるようにかなりの出力で防殻を小さく密度を高くしながら、こちらの塹壕の大地に立つ。

 「きれいな町並みだな。それに‥‥。」
 そして、辺りを見渡す。話に聞いていたよりはこぢんまりとした海洋拠点として必要な機能を詰め込んだように見える都市が狙うべき場所だ。イルドア軍の死体でデコレーションしてある。死体を野ざらしにするとは‥‥宝珠の映像記録にも残しておく。

 その都市だが、中世に作られた城塞を基盤にして出来た都市だけあり、立派で近代の塹壕や土嚢に囲まれて更には旧式の戦車だろうか?それに土嚢とコンクリートをかぶせて作ったような即席のトーチカが並んでいる。それなりに遠くであるはずのこちらの塹壕の前に出て、よく見ていると俺の目の前に巨大な土埃が立つ。いきなりなんだ!これは‥‥あちらの要塞砲か?いや違うな、それにしてはズレすぎている。固定された大地からの砲撃でこんなにずれるわけがない。それか、よほど素人をかき集めたのか?

 「ジシュカ中佐!今、航空偵察部隊より伝令!敵側の沖合に旧式戦艦と弩級戦艦などを確認、更に水上機母艦6隻を確認!特徴から連合王国のドレッドノート級とフッド級、フォーミダブル級、ネルソン級、ルーシーのガングート級2隻だと思われるとのことです!補助艦、輸送艦も多数!これは‥‥待ち伏せです!」
 砂煙が晴れる。確かによく見ると沖合に黒い点が見える。あれら一つ一つが戦艦なのか!?それは置いといても、いや、今の状態はおかしい。俺がわかる範囲でしかないが、それでも奴ら連合王国の目的は、旧大陸を起点とした覇権維持のためにハートランドを抑えているルーシーと帝国の余力を削るために戦い合わせることだろう?

 自らが演出した講和会議のために。待てよこの異常なまでの抵抗、まさか、進軍速度が早すぎて連合王国の第一弾の撤退戦に被ってしまったのか、それとも敵の増員!?こうなっては決断は早い方が勝つ!兵は拙速を聞くも、いまだ巧の久しきを睹ざるなりだ。それにしても兵士たちはまだ、俺の呼び名は中佐のままなんだな。まぁ、ある程度事が大丈夫になったらやめるからいいが。

 「きゅうりが贅沢の国のブリキの艦隊が慌てて撃って来たところ見るとまったく相手も予測してない遭遇戦だろう。そうだな、よし、わかった。この浮足立っている敵を討つべきだな。敵艦航空攻撃部隊にはまずは輸送艦を中心に叩かせろ!俺の予想が正しければそこに敵の陸上部隊がいる。それを守るために相手の動きは遅くなる。あれらが撤退にしろ援軍にしろ陸に上がる前に叩いてしまえば、ただの武装がない客船と同じだ。自分の身で母なる海を全身で感じたならばこちらにお礼を言いたくなるほどスッキリとするだろう。こちらの陸はなんとかするからリーデル達に水上艦を徹底的に叩けと伝えてくれ。」
 そう俺が告げるのと同時に更に塹壕の近くに至近弾が飛んでくる。脳裏に勘が走るこれは当たりはしない。

 相手はこちらが動かないように押さえつけるための砲撃をしているだけだ。牽制球は時にランナーを先に進ませることを彼らは理解してないのだろう。

 また砂埃が飛ぶ。それにこの精度ならば、まだ相手は観測機を飛ばせてないのだろう。これは逆に勝機なのだ。死中に活を有りだ。

 「これでは、中佐!危ないです!相手は戦艦の砲撃ですよ!待っていれば秋津島からの援軍が来ます!焦る必要はありません!」
 ヘルメットを押さえながら一人の兵士が、俺を塹壕の中に入れようとする。まだ大丈夫なのに心配のし過ぎだ。感覚が澄み渡っているならば当たりはしないのは当然だ。奴らは釣瓶うちをしているだけで当てる気はない。制圧射撃に怯えては何もできない。そうなのだ。怯える意味はないのだ。何があったら彼らが勝てるものか!そんなことはもう過ぎ去った。過去というものだ。あれらに出来るのは時間稼ぎ、勝利は決まったのなら次は賽を投げるだけだ。

 「何をいっている!防殻があるから平気だ!それに奴らの都市を見てみろ。大して野砲が並んでいない。機銃もだ。欺瞞だな。戦艦隊すらなんとかしたならば塹壕だけだ。制空権はこちらにある。まだ当たりはしない。落ち着け、イルドアとの一戦で消耗したのはイルドアだけではないらしい。こちらの勝利は揺るがないというものだ。」
 遅れてきた敵の偵察機か爆撃機がいる。対戦車ライフルを近くの兵士から取り上げ、狙いを定めた瞬きで相手の避ける方を考える。避けるだろう位置に撃ち込む。敵は火を吹き旋回しながら墜落した!

 「見たか!これが勝利する証だ!総員着剣!これより、作戦を開始する。」
 塹壕につけた機関銃を持ち上げ、弾をばらまきイスパニア側の航空機を撃墜する。それでいい。勘に従うとやはり来た。

 大きな音、これに慣れてない兵士たちが怯えだす。

 「落ち着け!この音は秋津島の突撃ラッパだ!後ろは秋津島がなんとかしてくれる!前に突き進め!」
 それを許さないとばかりに砲撃が撃たれたがそれで終わりだ。リーデルたちが艦隊を魚礁へと変換している。火を吹く海、辺りがより明るくなる。すべてはタイミングがいい。

 「行くぞ!」
 落ちていた鉄板を振り回して円盤のように投げる。魔力の強化もあり、吹き飛ばし敵の少ない野砲が爆散する。飛ぶための術式の分も今はこちらに回しているので力が増す。爆裂式を撃ち込み敵の足止めをする。

 「チェストぉ!」
 叫びながら秋津島義勇軍が走っていく、機銃掃射で次々に倒れるはずなのにも関わらず土嚢とどっかから持ってきたのか絨毯を縄で巻いたようなもの持って走っている。襲い来る銃弾、こちらとは違う方向からのため、向こうのほうが都市に近い。

 それでもやはり、次々に兵士たちがなぎ倒される。秋津島兵がそれらを無視して走り抜ける、その間に出る死体を無視している。先頭の兵士が秋津島の負傷した兵士を担ぎ大声で叫んでいる。

 「南無三!」
 そして、数人の兵士と負傷した秋津島兵が塹壕に近づくと強烈な魔力反応、連続の自爆と続く秋津島兵が叫んでいる。

 「仏説摩訶般若波羅蜜多心経‥‥。」
 般若心経!?いきなり何を?そして別のところから、「南無八幡大菩薩!」と聞こえてきたかと思うと秋津島兵ごと巻き込んだ砲撃が始まり、負傷した秋津島兵が逃げ回るイスパニア兵士に抱きつくと手榴弾で自爆する。

 サーベルを使い、次々に袈裟斬りをする誰かがいる。そして、死んだ兵士から次々にサーベルを奪うと何回も切っては奪い、そして近づいてきた兵士の手首や肘をへし折り、指で相手のライフルからボルトを奪うと首も回してへし折り、相手の耳を引きちぎり喉仏を指でえぐり相手の口に指を引っ掛けて投げ飛ばす異常者がいる。そして、和弓にダイナマイトをつけて射ちまくっているやつもいる。それも迫撃砲と砲撃の中で秋津島とは一体?怖っ。

 「まぁ、気にしなくていいだろう。」 
 というかアレ人間か?アクション映画から来たんじゃなかろうか?向こうが派手にやってくれる分、こっちが手薄だ。それと敵もあちらを叩こうとこちらが手薄に‥‥。

 「開門!!!」
 相手の都市から聞こえて来た。そして、スコットランド・ザ・ブレイブみたいな曲。そして、中から現れた赤いコートの連中と共にそれがブリティッシュ・グレナディアーズに変わり、掲げられた旗と前時代的な戦列歩兵がやってくる。クレイモアを振り回す男が何人もの秋津島兵をなぎ倒す。ベルセルクじゃないんだからどうなってるのだろうか?

 裏手の門から出てきたのだろう部隊もやってくる。両者掲げてはいけないだろうに本国の旗を掲げている。つまり、死ぬ気なのだろう。それか、こちらを皆殺しにできるだけの自信があるのか?

 『中佐!』
 無線からの声とそれに続く爆音が鳴り響く後方からは、怒りの日の音。そちらを見るとイルドアの国旗と帝国の国旗。ヘスラー達だ。それと共に義勇兵の旗がなびかせ戦車以外にも突撃砲などもやってくる。自走砲もだ。

 一種の戦争芸術かもしれない、砲撃が奏でる序曲1812年のような音楽だ。撃たれた鉛玉が相手の陣地を削り取る。しかし、それでもひたすらに最前線の秋津島兵は雄叫びを、鬨を、ウォークライをあげている。声が作り出す音楽だ。声と砲撃音が織り成す協奏曲は一つの都市を都市から瓦礫へと変える。本来ならばそれほどの威力もない戦車砲も集中運用されると話が別だ。一発では砕け散っても土嚢と城壁に衝撃は残る。衝撃を連続で与えればそれが楔になるわけだ。その中でも平然と白兵戦を継続する秋津島兵はなんだろう?恐怖しか感じない。

 そちらが注目されるからこちらはフリーハンドのはずだった。しかし、聞こえてくるのは空気を揺らし、大地を揺らすような「「「ypaaaaaaaaaaaaaa!!!!」」」だけだ。人の洪水が大地を洗い流さんとばかりにやってきている。こちらを目掛けて。後ろにいる二人で運んでいる迫撃砲弾の箱から弾を取り出すと安全ピンを外し4回投げる。そして、地雷をフリスビーのごとく投げ、腕力と握力が作る放物線は命を刈り取る形を見せる。

 こんなことばかり上手くなる。俺は単なる一般人なのに。誰のために戦うわけでもなく、自分でもない。ただ流されるだけの存在なのだ。だからこそ、歴史は大河ならばせめて犠牲者は減らすべきだ。目の前のことをやっていけば或いは。

 「敵は怯んだ!飛翔!」
 飛行術式で地上と上空と立体的に隊列は切り替わる。それでも空の上を行進している変わり者も見受けられる。ここで終わらせれば長い戦いも終わるのだ。そうすれば兵士たちは家族のもとに帰れる。上が決めたことなのだから、彼らを帰す義務があるのは前線の士官だろう。

 最後とばかりに帝国兵は音を鳴らす。この音楽はホーエンフリートベルク行進曲だ。皆が口々に「大王様!」などと叫ぶ、中には「十字軍が来た!」と騒いでるやつもいる。なにかをキメたのか?止してくれ。

 「フリードリッヒなどおそるるに足らず!我らこそが真の帝国軍だ!我々の大遠征を言うならば現陛下はアレクサンダーの生まれ変わりである!各員奮戦せよ!勝利の歌は我らにあり、敵に敗北の味を教えてもらおうではないか!わざわざ、遠くから来た観光客様だぞ!ジョンブルはコミーと仲がいい。ふざけてるのはやめてもらおうか!」
 支配力ガバガバの荷台国家の連合王国とルーシーにさよならだ。お前らの国家って権力基盤がサスペンションつけてない馬車ぐらいだろう。ルーシーはともかくとして、連合王国の命は高い。彼らは間違いなく知的階級だろう。それを捕虜などにできれば植民地支配するための貴族がなくなり、更にいえばジェントリ層が多いとすると大貴族とそれ以外の対立構造も狙える。

 ルーシー達は戦車による蹂躙をし、連合王国狩りを始める。フォックスハントだ。銃口を連合王国軍に向けようとした瞬間に脳裏に直感走る。これは!

 「なんだ!」
 とっさに魔導刃を展開すると見えたのは眼帯の男。

 「闘争を楽しめ!カイザーの飼い犬!」
 サーベルを魔導刃で受けるが、違和感がある。こいつのサーベルは片腕だ。隠していた腕からハンドガンをこちらに撃とうとするがタネがわかってるマジックほど簡単なものがない。つま先に魔導刃を展開し蹴る。

 腕よりも筋肉の多い足による魔導刃はときに一撃の威力を秘める。しかし、それは届かなかった。腕をそいつは犠牲にし、こちらの体勢が崩れたところでサーベル斬りつけると思いきや、回転させるように投げつけてきた。俺の帽子が真っ二つになる。

 「少しはやるようだな。ジャガイモ。お前の名前は?おっと、私の名前はエイドリー・カルトン・ディ・フィアルト。貴族をやらせてもらってる。そしてお前を殺す者の名だ。」
 中世の騎士のような名乗りをする。正直、気に入らないな。その上、飛んできた槍を構えて止まる。こいつ、強い。圧倒的な力を感じるがしかし。

 「戦いを楽しむような野蛮人には負ける訳にはいかないな。フリードリヒ・デニーキン・ジシュカ。単なる兵士だ。」
 こちらにも味方から武器が来るが‥‥何故、秋津島刀!?横を見ると投げてきた兵士が顔を輝かせている。いや、決闘とかしねぇから!?なんで、イスパニアの空で決闘するとかマカロニ・ウェスタンか?ドン・キホーテ的な失望もなにもねぇよ。

 「ほう、得物はそいつか。確か、カタナ。良質なカタナは魔力が乗りやすいと聞く。しかし、パイクの前では無意味。人類史は射程の歴史だぞ。小僧。」
 いや、お前の持ってるのもパイクより短い2mと少しぐらいの槍だろう。しかし、やるしかない。

 「お手合わせ願おう。アンクル・フィアルト卿。」
 槍と刀の戦いだが地上とは違い、360度全てに攻撃の余地があるのが空の上。であるならばより、射程は暴力と言える。

 こうやって時間を稼いでいるうちに秋津島兵が都市に入ってくれればよいが正直、勝てる気配がない。この爺さんの目は澄んでいる。純粋な戦闘狂に俺は勝てるかわからない。

 遠くから喚声鳴り響く。その距離と時間も二人で置き去りにし、武器を握り合う。これは戦争ではなく死合だった。

 遥かなるイスパニアの空はそれでも青さを俺と爺さんに見せている。この悠久の時を刻むがごとく、二人は刃を向け合う。まるでうぶな恋人たちの睦言とそれは似ていた。

 
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