合コンでは何もなくても

　　　　　　　　　　　　　　　　合コンでは何もなくても
　この日の合コンは深沢正史郎にとってはどうということはないものだった、相手は見付からなかったが飲んで食べることが出来てだ。
「よかったの」
「そうか？お前相手見付からなかっただろ」　
　彼を合コンに誘った会社の同期はどうかという顔で応えた。
「だったらな」
「いや、お店のお料理もお酒も美味しかったから」
　細面できりっとした眉に切れ長の大きな目が印象的な整った顔で言葉を返した、背は一七六程で痩せていて黒髪を波立つ感じでセットしている。
「それでね」
「いいのか」
「満足しているよ、ただ向かいの人は」
「ああ、廣澤さんだったか」
　同期は深沢の言葉に応えて言った。
「廣澤綾子さんな」
「あの人印象に残ってるよ」
「取引先のＯＬさん達との合コンだったけれどな」
「何かね」
「じゃあ話せばよかったか」
「いや、ついついお料理とお酒が美味しかったから」
　深沢はここでもこう言った。
「よかったよ」
「そうだったんだ」
「うん、それでね。ただあのお店には合コンじゃなくて」
「行きたいんだな」
「またね。美味しかったからね」
　こう同僚に言うのだった、それで実際にだった。
　後日彼はその店に仕事が終わってから一人で行った、だが店の前に行くとそこで黒髪を耳が隠れる位の高さでうなじから顎まで斜めにカットしている切れ長の奥二重の目で細く長い眉に赤い小さな唇を持つ長身のスタイルのいい女性がいた、膝までのダークグレーのタイトスカートとスーツといった服装だ。
　その彼女とばったり会ってだ、深沢は思わず彼女の名前を言った。