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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第197話:凍てつく極地にて

 
前書き
どうも、黒井です。

今回よりXVのストーリーが始まります。 

 
「南極?」

 事の発端はサンジェルマン達より齎された情報であった。重要な話があるからと言う理由で弦十郎達銃後の人間だけでなく颯人や奏達も居る中で、サンジェルマンが開口一番口にした地名がそこだった。

「えぇ。局長……アダムがティキを用いて為そうとしていた事。私達は最初、それを人類を支配と言う楔から解き放つ事と聞かされていた。尤も、それは私達を乗せる為の謳い文句でしかなかった訳だけれど……」

 パヴァリア光明結社瓦解後に新たに組織された錬金術師協会。その局長となったサンジェルマンは、散り散りになりそうだった錬金術師の多くを纏め上げ錬金術を正しい方向で使う為の運営をしつつ、嘗てアダムが行おうとしていた事の詳細をカリオストロ達と共に調べ上げていた。
 嘗ての期待の新人として組織に貢献していたアリスを交えての情報の精査の結果、彼女らはアダムがひた隠しにしていた真実の一端をようやく掴んだのだ。

「その事に関しては、もういいさ。それより、南極がどう関係しているんだ?」

 自責の念に駆られていたサンジェルマンに、弦十郎は優しく声をかけて宥めながら続きを促した。

「そうだったわね。そもそもの話、私達と行動を共にしていたティキと言うオートスコアラーは、惑星の運行を観測し記録したデータをもとに様々な現象を割り出す為に作られたもの。私達はそれを神の力を顕現させる為に利用していたの」
「地上に鏡写しとなったオリオン座を見つけ出したのも、その機能によるものです」
「私達もティキがそれ以上の目的の為に作られたとは思っていなかったのだけれど、残された僅かなデータを解析した結果、ティキの中には南極の一地点を示すデータが残されていた事が分かったの」

 そう言いながらサンジェルマンはコンソールの一つにデータチップを挿入し、キーボードを操作して正面のモニターに南極の地図を表示する。広大な南極大陸、その一点に何を示しているのかは分からないが赤いマークが表示された。

 その場所にあおいはそれが何処なのかを即座に補足した。

「ここは、南極大陸でも有数の湖、ボストーク湖。付近に位置するのは、ロシアの観測基地となります」

 あおいの説明に、しかし響は険しい顔になった。何しろ南極大陸と言えば一年中雪と氷に覆われた不毛の大地。湖と言われても、上空からの衛星写真で見る限り見えるのは雪景色だけである。

「湖ってどれ? 一面雪景色なんですけど?」
「その雪景色の殆どがボストーク湖さ。正確には、氷の下に広がってるんだけどね」
「地球の環境は一定ではなく、度々大きな変化を見せてきました。特に近年、その変動は著しく、極冠の氷の多くが失われています」

 朔也の説明にエルフナインが続けた様に、地球の環境はその長い年月の間に大きな変移を見せてきた。顕著なのは恐竜が生息していた時代だろう。あの時代は今に比べて酸素濃度も高く、地球全体の気温も今よりずっと高かった。近年地球温暖化が騒がれているが、太古の恐竜時代に比べれば現代はずっと涼しい時代と言えるだろう。
 とは言え、その涼しい時代に適応した現代社会にとって環境の変動はただ事では済まされないのも事実であるが。

「まさか、氷の下から何かが出てきたって訳じゃないよな?」
「そんなクリス、モンスターパニックとかの映画じゃないんだから」

 そんな話を聞いたからか、クリスが冗談交じりにそんな事を呟き透がそれに笑って答える。本人達は本当に冗談のつもりで言ったのだが、しかし了子から返ってきたのはそのまさかであった。

「残念ながら、そのまさかなのよね~」
「え……嘘?」
「マジか?」

 まさかの展開に、クリスと透だけでなく颯人達も目を丸くする。驚く彼らを納得させるべく、あおいが正面のモニターにある写真を映し出した。
 それは尻尾の先端の毒針が赤く染まった、氷漬けの黒いサソリであった。

「先日、ボストーク観測基地の近くで発見されたのが、この氷漬けのサソリです」
「照合の結果、数千年前の中東周辺に存在していた種と判明。現在では絶滅していると聞いています」

 モニターに映るサソリは氷漬けとは言え随分と保存状態が良いように見える。南極の氷の中にサソリが居たと言うだけでも驚きなのに、それがとっくの昔に絶滅した中東に居る筈の種であると言う事がこの事態の不可解さを助長していた。

「何故、そんなものが南極に?」
「詳細は目下調査中……ですが、額面通りに受け止めるなら、先史文明期に何らかの方法で中東より持ち込まれたのではないでしょうか」

 あおいの出した結論に、誰もが思わず閉口し難しい顔になる。そんな中で真っ先に口を開いたのはこの男であった。

「そういや、ボストーク湖って言えば、嘘か誠かロシアの調査チームが氷の下で怪物に襲われた……なんて都市伝説もあったよな?」
「あ~、あったわねそんな話。ロシア当局はその説を否定してるけれど……」
「事実は異なるのでしょうね。少なくとも、調査チームは確実に何かと遭遇しそして犠牲者も出した。ただ、それを公にすれば確実に混乱を招くでしょうから隠蔽したと言ったところかしら」

 それはつまり、やはりあの氷の大地の下には何かがあると言う事の証左でもあった。

 話がちょっぴりオカルト方向に動こうとしているのを察したからか、壁に寄りかかって話を聞いていた輝彦が彼らを窘めた。

「サンジェルマン、結論から話してくれ。アダムは南極のその地点を調べてどうしようとしていたんだ?」

 輝彦の言葉に、話が脱線しつつあることに気付きサンジェルマンは小さく咳払いをして気を取り直すと本題を切り出した。

「失礼。皆は、アダムが自分を作りそして捨てたアヌンナキへの復讐を企てていた事はもう知っているわよね?」
「本人がそう言ってたな。不完全な俺ら人類に代わって、この星の支配者になって見返そうとしてたって」
「そう。でもそれは全てでは無かったの。アダムの本当の目的は、この星の支配者としての地位を盤石にする為、嘗ての支配者であった神を完全に抹殺する事」




「即ち、時の彼方より浮上する棺の破壊ッ!」




 サンジェルマンの言葉に颯人が険しい顔で視線を巡らせる。時の彼方からの浮上……それはつまり、過去から現代に何かが蘇ると言う事にも聞こえるからだ。
 その蘇るものと言うのが嘗てこの星を支配していた神と呼ばれる存在なのだとすれば……本当に蘇った時何が起こるかは想像も出来ない。

 奏は思わず気になって、その神と呼ばれる存在の事をサンジェルマンに訊ねた。

「サンジェルマン達は、その神……とやらについて何か知ってる事は無いのか?」
「ごめんなさい。こればかりは情報が全く得られなかったの。ただ、あの場所に棺があると言う事だけは確実よ」
「つまり、次の作戦は南極にレッツゴーって事か」
「そう言う事だ。現地では不測の事態も予測される。作戦開始までの1週間、角印は準備を怠らないでほしいッ!」

『『了解(デス)ッ!』』

 こうして颯人達の次なる目的地は、人類最後の秘境の一つである南極となるのであった。





 そして現在、彼らS.O.N.G.の本部潜水艦は、雪と氷に覆われた大地に接近していた。

「到達不能極周辺の磁束密度、フラクタルに遷移ッ! 脅威レベル、3から4に引き上げッ!」
「算出予測よりも大幅にアドバンスッ! 装者、並びに魔法使い達の現着と、ほぼ同タイミングと思われますッ!」

 オペレーターである朔也とあおいの報告を耳にしつつ、弦十郎は正面のモニターに映し出される状況を睨む様に見ている。その斜め後方には、同じようにモニターを見ている慎次が居た。

「情報と観測データを照合する限り、棺とは、やはり先史文明期の遺跡と推察されますが……」
「……むぅ……」

 慎次の言葉に、弦十郎も喉の奥で唸り声を上げる。出来れば事が起こる前に到着したかったのだが、どうやらそれは叶わないらしい。

 そして事態は更に大きく動き出す。

「ボストーク氷底湖内のエネルギー反応、飛躍ッ! 数値の上昇、止まりませんッ!」
「何かが出てくるわよ……皆、気を付けてッ!」




 氷の大地の下で起こる異変が感知されていた頃、南極上空を2機のヘリコプターが飛行していた。迅速に現場に向かう為、颯人達を乗せたヘリである。
 その内の片方のヘリの側面の扉が颯人と奏の手により開かれる。扉が開いた瞬間雪と冷気を伴う風が機内に入り込み、あまりの寒さにS.O.N.G.の制服に身を包んだ響が震えあがった。

「さぶい~ッ! しばれる~ッ! 何処の誰だよッ!? 南半球は夏真っ盛りとか言ってたのはッ!」
「デース……ッ!」

 颯人達が乗るヘリの隣を飛行する機も既に扉が開かれており、切歌が響同様寒さに身を震わせていた。

「しゃーないよ。南極が熱かったら今頃氷が全部溶けて大問題だ」
「夏だって寒いのが結局、南極だッ! ギアを纏えば断熱フィールドでこのくらい――」

 その時突如ヘリの進行先の氷の下から、赤い光が点に向けて伸びていく。光は氷の大地の上空を覆う分厚い雲を吹き飛ばし、隠れていた太陽の光を冷えた大地に降り注がせた。
 念願の温かな光が降り注いでいる筈なのに、彼らの精神は驚愕のあまり震えあがった。

「中々どうして……心胆寒からしめてくれる……」
「あ、あぶね~……あと少し先に進んでたら全員お陀仏だったな」
「……ん? 皆さん、下見てくださいッ!」

 全員が雲を突き抜け天へと昇っていった光の後を目で追う中、透は一足先にその閃光の出所へと視線を向けていた。そしてそこから、光を追う様に氷を突き破って出てくるものを見て声を上げた。

 それは一言で言えば、黄金の亀の様な何かであった。尤も亀と言うのも例えばの話であり、実際にはボールか何かに首と手足が生えたような不格好な姿をしていた。

「あれが……あんなのが浮上する棺? 切ちゃん……棺って、なんだっけ?」
「常識人には酷な事、訊かないでほしいのデスッ!」
「相手は大昔のセンスで作られた代物だ。現代人の俺らとは感性が違うんだろ?」
「何時だって、想定外など想定内ッ! 行くわよッ!」

 あまりと言えばあまりな光景に、ガルドですらちょっと現実逃避しそうになったがマリアの一喝で気を取り直す。装者はギアペンダントに手を掛け、魔法使い達は指輪を指に嵌める。

〈〈〈ドライバーオン〉〉〉
〈〈〈プリーズ(ナーウ)〉〉〉

「ほんじゃま、タネも仕掛けもないマジックショーの開幕と行くかッ!」
「飛び切り熱いの頼むぞッ!」
「はいよっと」

 颯人と奏が軽く拳をぶつけ合い、ヘリから飛び降りる。それに続く様に仲間達も次々とヘリから飛び降りながらその身に戦う為の鎧を纏った。

「「「変身ッ!」」」
〈フレイム、プリーズ。ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!〉
〈チェンジ、ナーウ〉
〈マイティ、プリーズ。ファイヤー、ブリザード、サンダー、グラビティ、マイティスペル!〉
「Croitzal ronzell Gungnir zizzl」

 飛び降りながらウィザードに変身した颯人にシンフォギアを纏う奏。その奏のガングニールだが、依然に比べて外観に変化が起こっていた。
 まず目を引くのが元々黒かった足全体を覆うレギンスが白に変色している点だろう。奏のガングニールは響のそれと比べて、露出は少なく上半身は白が目を引くのに対して下半身は大部分を覆う黒いレギンスが目を引いていた。それが上下ともに白を基調にした事で全体的に纏まりが出来たように見える。
 そして次に目を引くのが、お腹周り意外を覆っていたボディースーツがノースリーブとなり肩から上腕の部分の素肌が露わになった。その一方で白いジャケット状の部分が腰のさらに下の所まで伸び、裾が太腿の半分近くに届くほどになっていた。

 これらの変化はアダムとの最後の戦いの後に起こった変化であり、他の装者達同様奏のシンフォギアもリビルドされたのだろうと言うのが了子の見解であった。

 装いを新たにした奏より先んじて、颯人は開幕一番に棺へと向け突撃しながらウィザーソードガンでスラッシュストライクをお見舞いした。

「まずはご挨拶ってな!」
〈キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ! フレイム! ヒーヒーヒー! ヒーヒーヒー!〉

 魔法の炎を刀身に纏わせての斬撃。並大抵の相手であれば容易く溶断出来るほどの熱量を持ったその斬撃を、しかし棺と呼ばれるそれは巨体に反して貧相とも言える程に細い片腕で真正面から受け止めてしまった。

「止めたッ!?」
「とは言えまだ序盤ッ! 気持ちでは負けてないッ!」

 普通に必殺の一撃を容易く止められた颯人ではあったが、受けた衝撃は少ないのか即座にそれ以上の追撃はせずに一度棺から離れた。あの巨体相手に力比べで勝てると思うほど彼も馬鹿ではない。
 そしてその判断は正しかった。颯人が距離を取るとその瞬間棺の頭部の口に当たる部分に赤い光が灯り、マズいと彼らが散開すると先程まで彼らが居た場所を雲を突き破ったのと同じ赤い閃光が薙ぎ払った。閃光が凪いだ場所は大きな爆発を起こした後怪しい光の柱が立ち、その光の柱が形になったかのように不気味な光を放つ氷が出現していた。

「なんなんだよ、あのデタラメはッ!? どうするッ!?」
「どうもこうもッ! 止めるしかないじゃないッ!」
「観測基地にはまだ人が居るッ! これ以上先に進ませる訳にはいかないッ!」

 透の言う通り、ボストーク観測基地にはまだ調査隊の人々が残っている。今彼らは必死に持ち出せる資料を持ちながら避難しようとしている最中であり、このまま棺に暴れられては彼らにも被害が出てしまう。

 そうはさせじと、装者と魔法使い達は一斉に棺への攻撃を開始した。

「「えいッ!」」
[α式 百輪廻]
[切・呪りeッTぉ]

 切歌と調の斬撃コンビが丸鋸と大鎌の刃を飛ばす。しかし棺はその見た目に反して軽快に動き、体を大きく上空に飛ばす事で2人の攻撃を回避してしまった。
 予想以上の機動力。しかし飛行の為の装備も何もないのに空中に飛んだのはハッキリ言って悪手であった。

「もらったッ!」
〈クアトロマジック、ブラストストライク!〉

 棺が空中に逃れると、それを待っていたかのようにキャスターに変身したガルドの4つの属性を含んだ砲撃が放たれる。強烈な砲撃は、しかしそれだけで棺を粉砕するには至らなかったがそれでも体勢を大きく崩す事は出来た。

 空中で変な力が加わった事でしっちゃかめっちゃかな回転をする棺。響はその棺に飛びつくと、一本背負いの要領で氷の大地に向けて投げつけた。硬い氷が棺自体の重量と響に投げられた事によるエネルギーで砕ける。
 そこに更に追い打ちでクリスがスカートアーマーから小型ミサイルを一斉に発射した。

「うりゃぁぁぁぁッ!」
[MEGA DETH PARTY]

 無数のミサイルの着弾により、棺が爆発の炎と煙に包まれる。だが落下しつつあるクリスの前で黒煙を突き破る様にして棺が顔を出すと、ミサイルを発射した彼女に顔を向け砲撃の準備をし始めた。

「効かないのかよッ!?」
「クリスッ!」

 自力での飛行が出来ない通常のギアでは、放たれる砲撃に対抗する手段がない。そんな彼女の危機を、ライドスクレイパーに跨った透が寸でのところで救った。耳に届いた彼の声にクリスはアームドギアを収納して手を伸ばし、伸ばされた手を透が掴んで彼女をその場から素早く移動させた。直後赤い砲撃が放たれ、素通りしていった砲撃は何もない大地に直撃し不気味な氷のオブジェを作り出した。

 その後も装者や魔法使い達を相手に大暴れする棺。その様子を本部の発令所で弦十郎達も見ていた。
 棺と言うにはあまりにも攻撃的なその様子に、慎次はあれが本当に棺なのかと疑問を抱かずにはいられなかった。

「接近する対象を苛烈に排撃……こんなものを、果たして棺と呼ぶべきでしょうか?」
「いえ、ある意味ではあれも立派に棺としての役割を果たしています」
「古代エジプトじゃ、王家の墓を荒す不届き者に対する呪いを掛けた、なんて話もあるくらいだしね~。ましてや相手は神、神の遺体を守る為なら、あれくらいの防御機構はあっても不思議じゃないんじゃない?」
「攻撃ではなく防衛……不埒な盗掘者を寄せ付けない為の機能だとしたら、どうしようもなく棺と言うより他あるまい」

 であるとするならば、あの棺に眠っているのは了子の言う通り本当に神の遺体であると言う事になる。そしてアダムは、それが何時か再び蘇ると確信し排除する為に神の力を求めた。
 ならば、あれを回収する事は本当に正しい事なのかと不安を抱かずにはいられない。弦十郎は思わず壁際の輝彦の方に視線を向ける。見れば彼は彼で正面のモニターを険しい表情で睨んでいた。どうやら彼もまた、このまま棺を制圧した後にその中身を暴く事に対して少し懐疑的であるらしい。

 その時、2人の目が合った。弦十郎と目が合うなり、輝彦は無言で小さく頷く。
 それが意味している事を理解し、弦十郎は喉の奥で小さく唸った。

――もしもの場合は、こちらの独断で中身の処分を決めた方が良さそうだ――

 1人棺の始末に関して思考を巡らせていると、現場では状況に変化が起こり始めていた。

「司令、棺に新たな動きがッ!」




 突然、棺の表面に無数の棘の様な突起が出現したかと思ったら、それが全方位に射出される。最初それは砲撃では対処できない彼らに対する対空迎撃のような物かと思ったが、それは半分正解で半分不正解だった。

 射出された突起は空中で蜂の様な機械に変形し、毒針に当たる部分から緑色に光る光線を発射してきたのだ。
 あっという間に周辺上空を覆いつくす迎撃機を前に、颯人は仮面の奥で顔を顰めた。

「かッ! 面倒な奴だな、自前の砲撃だけでなくお供まで居やがるとは」

 周囲を飛び回る迎撃機に対し、仲間達がそれぞれ独自の方法で反撃する。響は最初空中に飛び上がり1機1機殴ったり蹴ったりしていたが、流石に数が多くて一つ一つ潰していたのでは埒が明かないと思ったのか脚部のアンカーを伸ばしその衝撃で空中回転しつつマフラーを使って周囲の迎撃機を纏めて切り裂いた。
 切歌と調は巧みに連携し近付く迎撃機を切り裂き、クリスなどは持ち前の広範囲への攻撃能力を活かしガトリングで空中を薙ぎ払い飛び回る迎撃機を次々と撃ち落としていく。

 そんな中で颯人はコピーの魔法で次々と自分自身を増やしまくり、周囲に向けガンモードのウィザーソードガンを向けた。

〈コピー、プリーズ〉
〈〈コピー、プリーズ〉〉
〈〈〈〈コピー、プリーズ〉〉〉〉
『数には数で対抗ってなッ!』

 8人の颯人による一斉射撃。元々連射が利くウィザーソードガン、それも相手を追尾できる弾丸が次から次へと放たれ、空中を羽虫の様に飛び回る迎撃機を逃さず撃ち落としていった。

 それでもこの数を前には焼け石に水程度の効果しかなく、しかも大本である棺からはまだまだ迎撃機が放たれる。

「ダメだ、本体を叩かないとどんどん出てくるッ!」
「群れ雀なんぞに構い過ぎるなッ!」
「ならば、行く道をッ!」
「切り拓くぞッ!」

 翼が『千ノ落涙』で棺に向かうまでの道中の迎撃機を撃ち落としていく。さらにそれに続く形で、雷属性の魔法をエンチャントさせたガルドの攻撃が降り注いだ剣を支点に周囲に伝播し、棺に向かうまでの道中で邪魔になる迎撃機を一掃した。

『拓けましたッ!』
「よっしゃ! 響、マリア、行くぞッ!」
「はいッ!」
「はぁぁぁぁぁッ!」

 邪魔者の居なくなった氷の大地の上を、奏と響、そしてマリアの3人が駆け抜ける。そして一気に跳躍して接近すると、響は右の、マリアは左の、そして奏は手にした槍を変形させドリルの様に回転させると、棺に向け一気に突撃した。

「最速でッ! 最短でッ!」
「真っ直ぐにッ! 一直線にッ!」
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 3人の合わせ技が、強固な棺の人間で言う胸元に位置する宝石のような部位に直撃する。これまで如何なる攻撃にも耐えてきた棺であったが、そこは他の部位に比べて殊更弱いのかそれとも3人の攻撃がそれだけの威力を誇っていたのか、宝石のような部分が音を立てて砕け散った。
 その光景に翼が思わず声を上げる。

「効いているッ! それだけだッ!」

 あからさまな弱点らしき部位にダメージが入った事に、成し遂げた3人が笑みを浮かべる。
 だが次の瞬間、まるで目覚めたかのように棺が動き出したかと思うと飛びあがって空中に居る3人をハエでも叩き落すかのように氷の大地に叩き付けた。

「「「うわっッ!?」」」

 氷の大地に叩き付けられる3人の姿に、颯人を始め他の者達が次々と集まってくる。その彼らに向けて、棺が砲撃準備をしているのが翼の目に映った。

「来るぞッ!」
「間に合えッ!」

 放たれる砲撃を咄嗟にクリスがリフレクターで防ごうと前に出た。が、そこで通信機からアリスの声が響いて来た。

『颯人ッ! その砲撃は埒外物理による砲撃ですッ! 通常の防御では防ぎきれませんッ!』
「ッ! チィッ!」
「退けクリスッ!」
「あぁっ!?」

 アリスからの通信を聞いた瞬間、颯人は前に出て奏は痛む体に鞭打ってクリスを後ろに引っ張った。
 その直後、棺から放たれた砲撃が彼らの姿を包み込んだ。 
 

 
後書き
と言う訳で第197話でした。

奏のシンフォギアですが、本作ではアダムとの戦いで彼女のギアもリビルドされました。何時までも初期ギアの形状のままだとあれだったんで。外見的には響のギアに少し近付いた感じです。XDUで何時か奏のリビルドギアも出るんじゃないかと期待してたんですけど、それが出る事もなくサ終してしまったのが残念です。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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