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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
  第四節 闖入 第二話(通算97話)

 
前書き
ルナツー。
それはL2ポイントを周回する小惑星だった。
連邦軍はそれを要塞化し宇宙拠点としていた。
出撃するサラミス改級巡宙艦《ボスニア》。
捕捉された《アーガマ》は……君は刻の涙を見る―― 

 
 存外、呆気なく《アーガマ》を捕捉できたチャン・ヤーは罠を疑った。発見が余りにも容易すぎたからだ。普通ならばミノフスキー粒子による電波障碍によってレーダーが使えず、ミノフスキーレーダーによる位置推定が関の山だからだ。つまり、現在敵も味方もミノフスキー粒子を撒布していないということになる。罠を疑うのは当然であった。

 さらに、噂に聞くブレックス・フォーラが艦隊指揮を執っているのなら、単艦ということは考えにくいこともあった。反政府軍の陣容は分からないが、随伴艦は少なくとも二隻はいるだろう。戦隊規模ならば僚艦が二~四隻である。サラブレッド級が旗艦ならば、最低でも僚艦がサラミス級二隻として、二個中隊機動歩兵二四機の戦力だ。直掩を除いても十六機は攻撃小隊として出撃可能だ。

「やはり、《アレキサンドリア》と合流してからの方がよくないか?」
「何怖じ気づいてんのさ、各個撃破のチャンスじゃないか」

 物事はそれほど単純ではない、と言いたいところだが、ライラの意見にも一理はある。だが、賭けるには情報が少なすぎた。索敵範囲に僚艦がいないからといって、来援がないとはいい切れない。

 チャン・ヤーは腕組みして考え込んだ。

 こちらの戦力は六機、単艦ならば彼我比は敵が満載として最大で二対一。ライラ隊なら互角に持ち込めるかも知れない。

「考えたって始まらない。アタシは出撃()るからね」
「まぁ、待て。この状況なら、貴様の小隊だけ先行して、というのは危険だ」

 チャン・ヤーが副長に合図するとメインスクリーンに相対航宙図が展開する。赤い光点が《アーガマ》、青が《ボスニア》、黄色が《アレキサンドリア》である。まだ戦闘は始まっていないが、《アレキサンドリア》の追撃を嫌ってどこかで《アーガマ》が仕掛けるのは明白だった。

「恐らく、サラブレッド級には二隻の僚艦がある。サラミス級だとは思うが、正規軍だ。ジオンの残党どもとは訳が違う」

 今度はライラが考える番だった。如何に強い敵と戦うのが趣味といっても、部下の命を粗末にすることはない。自分だけなら必ず帰ってこられる自負があるが、部下の命は可能な限り失わせたくない。つまり、圧倒的不利な状況になりかねないかどうかだ。

「アンタが予想した敵僚艦の現在位置は?」
「索敵範囲には艦影なし……ということは合流ポイントは地球軌道の手前だろうな。フライパスの前には合流するだろう」

 ならば奇襲しかないと、ライラは肚を決めた。勘という根拠のない自信ではあるが、敵の戦力は決して多くない。軍事常識を盾に奇抜さをアピールするような策戦を立てるということ自体がそれを物語っていた。

「アタシとライル、カークスが先行する。直掩はジェイムス。ゲタが無いのが痛いな。場合によっちゃ、ジェイムスたちに後援してもらうよ」
「無いものはない。決まりだな」

 一撃離脱戦法である。

 最大戦速で突入し、ライラ隊を射出、主砲一斉射して安全距離を確保する手筈だ。丁度、追撃する《アレキサンドリア》とは《アーガマ》を挟んで反対側になる。上手くすればフライパスの芽を摘める。

「にしても、敵の船足が遅い……」
「恐らく襲撃部隊を何がなんでも回収したいんだろう」
「お宝でも抱えてるってのかい?」

 クイックイッと人差し指でライラを近くに呼ぶと、何事か呟いた。

「なんだって? 盗られた!?」
「声がデカい」
「うるさいね……そりゃ、連中が慌てる筈だ。マヌケにも程があるじゃないか」

 呆気にとられた顔で、嘆息にも似たため息混じりで洩らした。なにがエリート集団だと言わんばかりだ。

「それともうひとつ。潜入したのは所属不明機――見たこともない新型だったそうだ」
「どっちも新型の発表会かい?  景気のいい話だねぇ」

 チャン・ヤーが肩を竣めた。

 連邦軍はティターンズ設立以後、予算をそちらに取られており、《ボスニア》には標準装備のフライトユニットである《シャクルズ》すら回ってこない状況だった。新型と聞いて嫌みのひとつも言いたくなるライラの気持ちはチャン・ヤーにも理解できた。ライラたちが搭乗する《ジム・カスタム》はまだ新型の部類であるが、制式採用からすでに三年が経っている。「特徴がないのが特徴」といわれる総合的な性能向上機だ。これとてようやく配備された機体である。

「落ち着け。ジム・カスタムだっていい機体だろうに」
「カスタムが駄目だなんて、言ってやしないよ。R型より反応速度もいいしね。でもね、ティターンズの専用機――クゥエルがありゃあね」

 それは無理というものだった。ティターンズ専用に開発された《ジム・クゥエル》は現在ようやくティターンズ全軍に配備が終了したばかりであり、次期主力機が制式採用されなければ連邦軍には一機たりとも回ってこないだろう。

「無茶言うな。カスタムが貰えているだけありがたいと考えなくちゃな」

 チャン・ヤーの言う通りではある。だが、露骨な予算配分の不均衡や人選の不公平は反感を育ててしまうのだ。が、それ故に擦り寄る者が多いのも確かである。

「連中が捕り逃した奴等を捕まえれば、連中の鼻を明かせる」

 やれやれ……という顔でチャン・ヤーはライラを見た。これがなければライラはとうに佐官に上がっているだろうに、とさえ想っている。それは恐らく真実だろう。だが、ライラ自身は気にもしていなかった。目の前の戦いが彼女の生き甲斐であり、愉しみなのだ。 
 

 
後書き
ライラはホントいいキャラです。
チャン・ヤーの皮肉屋ぶりも好きです♪ 
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