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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【第一部】新世界ローゼン。アインハルト救出作戦。
【第2章】第一次調査隊の帰還と水面下の駆け引き。
   【第4節】ヴィヴィオの気持ちと双子の決断。



 こうして、新暦95年の4月下旬、時空管理局は大急ぎで「第二次調査隊」の編成に取りかかりました。
 しかし、どうやら現地の魔導師たちは普通に話をしても聞いてくれる相手ではなさそうなので、アインハルト執務官を救出するためにも(交渉を始める以前の問題として、まず「対等の立場」に立つために)今度は『いざとなったら、格闘戦でも王国軍を圧倒できる』だけの人材を揃えて行く必要があります。
 なおかつ、新たな司令はそれらの人材を上手に束ねることのできる人物でなければなりません。現場の局員が暴走して相手に多くの人的被害が出たのでは、将来的に新世界との「平和的な交流」ができなくなる恐れがあるからです。
【今回は〈バルギオラ事変〉の時のように「いきなり高圧的に」物事を要求する、という訳にもいきません。なるべく向こう側の「固有の事情」も尊重したいのです。】

 そこで、4月28日、〈中央評議会〉は突如として、八神はやて(39歳)に「白羽の矢」を立てました。
 はやては、84年3月の「提督」就任に加えて、91年の3月には「准将」の地位に就いており、今では一般大衆からの人気も高く、多くの人々から「生きた伝説」とまで呼ばれています。
【それ以外にも、「歩くロストロギア」だとか、「空飛ぶ一人要塞」などと呼ばれています。……何だか、もうほとんど「人間あつかい」されてないんですが。(笑)】

 要するに、〈中央評議会〉は、『これで、メディアの関心が人気者の「八神はやて個人」の方に集中してくれれば、その方がむしろ「不都合な真実の隠蔽(いんぺい)」に役立つだろう』と考えたのです。

【なお、『准将の副官が尉官のままでは、どうにも「釣り合い」が取れない』などといった理由もあって、91年のうちには、シグナムとヴィータも三佐に昇進「させられて」いました。
 二人とも前線で戦っている方が好きなので、なのはと同じように、ずっと一尉のまま昇進の話は辞退し続けていたのですが、やはり、なのはと同じように(そして、なのはよりも先に)『断り切れなくなった』という状況です。
 それ以来、形式上は、シグナムは准将直属の「空戦・独立機動部隊」の部隊長を務め、ヴィータもまた同様に「陸戦・独立機動部隊」の部隊長を務めているのですが……実際には、二人とも自分の部隊の指揮を、普段は副長に「丸投げ」にしています。
 ちなみに、「空戦・独立機動部隊」の副長は、なのはも「太鼓判」を押すドストラム・ジェグーリオ二等空尉。「陸戦・独立機動部隊」の副長は、12歳の頃とは外見的に「全くの別人」と化したミウラ・リナルディ二等陸尉です。】

 実のところ、あの〈ゆりかご事件〉からおよそ20年が経過した今もなお、管理局内の改革は、まだ「道半ば」といったところでした。
 伝統的な「海と陸(本局の次元航行部隊と各世界の地上本部)の対立」の方は、多少ながらも緩和されつつあるのですが、いざ、〈本局〉内部の問題となると、まだまだ守旧派の抵抗は根強く、改革も全く思うようには進んでいません。
 また、「守旧派」と「改革派」の対立に関して、〈中央評議会〉は表面的には中立を装っていましたが、評議員の多くは(将軍としての個人的な権益を維持するためにも)裏ではこっそりと守旧派の後押しをしている、といった状況です。
【一方、技術部は同じく中立を装いながらも、裏では改革派の方を支持しています。主に、予算の配分に対する考え方の違いという「大人の事情」によって。(笑)】

 また、〈中央評議会〉は書面の上では「具体的な計画と人事のすべて」を八神准将に一任したのですが、実際には、彼女の御座艦(ござぶね)〈ヴォルフラム〉は先月の下旬からずっと改修中で、まだ当分は身動きが取れません。
 これは、普通ならば、『提督として誰か特定の艦長を指名し、その艦と乗組員をそのまま使う』という形式を取らざるを得ない状況です。
(当然ながら、そうなると、あまり自由な人選はできません。)
 しかも、管理局の次元航行部隊では、新暦91年に「第一支局」を開設して艦隊の一部を南方に移した結果、今も〈本局〉では慢性的に艦船がやや不足しており、今すぐ自由に動ける何隻かの艦はすべて、艦長も乗組員も守旧派の艦ばかりでした。
〈中央評議会〉はそれを知っていて、あえて八神提督を指名したのです。
(八神提督のもう一隻の艦〈グラーネ〉も、今は別の重要任務に就いているので、今回の任務には使えません。……まあ、それでなくても、あちらは元々が小型艦なので、人員の搬送には全く適していないのですが。)
【なお、第一支局に関しては、また第二部で詳しく述べます。】

 つまり……これは、表面的には『第一次調査隊の司令は守旧派だったから、今度の司令は改革派から』という至極単純なバランス重視の人事のようにも見えますが、実際には、〈中央評議会〉は「第二次調査隊もまた失敗すること」を前提として、『司令が再び守旧派となった第三次調査隊に花を持たせる』といった筋書きを想定しているのです。
(もし第二次調査隊が成功したら、その時には、艦長らの功績の方を過大に評価すれば良いのです。)
 おそらくは、『その失敗で「改革派の筆頭」である八神准将のイメージダウンをも(はか)れるのなら、それこそ一石二鳥だろう』とか、『彼女がもう一度、6年前の〈バルギオラ事変〉の時のような無茶をやらかしてくれれば、今度こそ彼女を合法的に処罰することができる』などといった考え方なのでしょう。
【実は、もうひとつ「裏」というか、「さらに悪辣(あくらつ)な思惑」もあったのですが……その話もまた「第三部」でやります。】

 そこで、八神准将は、技術部が新たに建造した実験艦〈スキドブラドニール〉の使用を決断し、即座に指名を受諾すると、大急ぎでその出航準備を進めました。
 これは、〈中央評議会〉にとっては(その実験艦が、すでに完成しているとは聞いていなかったので)全く予想外の展開です。
 とは言え、一度、文書で正式に『すべてを一任する』と言ってしまった以上、今さらそれを取り消すこともできません。端的に言って、『相手を陥れようとして、みずから墓穴を掘った』という形です。
 しかし、実際に、この実験艦の「武器系統および内装」はまだ全く出来てはいないのですから、技術部も決して『上への報告義務をあからさまに(おこた)っていた』という訳ではありません。
 八神准将としても、『行き先が「軌道上にまで届く攻撃能力」をまだ全く持っていない世界ならば、「丸腰の」(ふね)で行っても別に大丈夫だろう』という考え方です。
(はやてにとっては、『本当にいざとなったら、自分自身が「主砲」になれば良い』というだけの話なのです。)


 そして、4月29日、各種メディアはまたもや管理局に乗せられて、『新世界での戦闘行為も想定される中で、あの「生きた伝説」が一体誰を選抜するのか?』などといった報道特集を組み、一般世間も早速その話題で盛り上がってしまいました。
 しかし、「下馬評」では必ず名前の挙がる、なのはやフェイトや元機動六課のフォワードメンバーたちは(さらには、元ナンバーズやルーテシアたちも)実際には、今は総員で「もう一つの大事 件」(テロリスト集団の暗躍)の方を秘密裡に担当しています。
 そして、実は、八神准将が「裏から」それら四つの小部隊のすべてを指揮していたのですが……それはまだ管理局の〈上層部〉にすら「秘密」の話です。

 そこで、八神提督は、ミッド地上の各陸士隊から格闘の得意な(最低でも陸戦Aランクの)陸士たちを招集して、全く新たな「臨時の部隊」を一から編成することにしました。
(今回は、機動六課が解散した後に、はやてが長らく『個々の案件ごとに別個の小規模部隊を指揮していた』という経験も、よく()かされることになりそうです。)
 無論、准将の権限をもってすれば士官を招集することも不可能ではなかったのですが、いきなり士官が出向してしまうと、その部隊の通常業務に支障が出てしまう恐れがあるので、そこは自重して「招集の対象」は一般の陸士から陸曹までに限定します。
 また、当然ながら、守旧派と(えん)のある人物は慎重に排除して、なるべく「喜んで」引き受けてくれそうな人物ばかりを選抜します。
 常識的に考えれば、このような面倒な作業には相当な時間がかかるはずなのですが、驚くべきことに、八神提督はわずか一両日中にこの選抜作業を完了しました。
 少数精鋭主義で、5月1日には合わせて10個の部隊に属する15名の男女を指名し、各部隊長には彼等の出向を要請します。
 そして、当人たちからの指名受託も各部隊長からの出向許可も、また一両日中にすべて出揃いました。いずれも八神提督が見込んだ人材だけあって、指名を辞退するような者は一人もいません。

 最後の問題は、同行する執務官ですが……八神准将は、ちょうど数日前からミッドの実家に戻って休暇を取っていたヴィクトーリア・ダールグリュン執務官(33歳)を指名しました。
 なお、ヴィクトーリア(陸戦だけならば、Sランク)の補佐を務めるエドガー(35歳)とコニィ(29歳)もすでに陸戦Aランクは取得済みで、武装隊での階級は「陸曹長に相当」ということになっています。
 ヴィクトーリア執務官は即日、三人一組での指名を受託し、翌4日には早くもエドガーやコニィとともに〈本局〉へ向かったのでした。


 一方、ヴィヴィオ(26歳)の子供は、母親のお腹を蹴ることも少なく、一部では『今ひとつ元気の無い子供だ』と心配されたりもしていたのですが……ヴィヴィオ自身は自分や子供のことよりも、むしろローゼンに独り置き去りにされたアインハルトのことの方が心配で、心配でたまりませんでした。
 4月26日の晩に、例の話を聞いて以来、ヴィヴィオは日課だった棒術の練習も休んで、もうずっと沈んだ表情を続けています。
 カナタもツバサもイクスヴェリアの分身も、セインもファラミィもユミナもヴァスラも、何とかして彼女の気持ちを(なご)ませようと努力はしたのですが、やはり、それほど上手くは行きませんでした。

 そして、新暦95年5月6日の正午(おひる)すぎのことです。
 ヴィヴィオは、ふと書斎の通信設備から特別回線を使って〈無限書庫〉の方へ連絡を入れた拍子に、ユーノ司書長から『一般にはまだ内緒の話だけど、第二次調査隊は早ければ明日の夕刻にも出航する予定らしいよ』と聞かされました。
 そこで、彼女はユーノ司書長との通話を手短に終えると、発作的に今度は大急ぎで八神提督へのプライベート回線を開きました。
 提督が〈本局〉にいる時には随分と待たされることが多いのですが、今回は意外にも一発でつながります。実は今、提督はたまたま、私物を取りに(?)ミッド地上の自宅に帰って来ていたのでした。
 そこで、ヴィヴィオは懸命に訴えます。
「無理を承知でお願いします! 私も一緒に連れて行ってはもらえませんか?」
しかし、これには、さしものはやても困った表情を見せました。
「いや……気持ちは解るんやけどな、ヴィヴィオ。管理局の規定としても、さすがに『臨月を迎えた妊婦』を、多少なりとも危険性のある場所へ連れて行く訳にはいかんのや」

【というのは、ヴィヴィオを納得させるための「表向きの理由」で、実際には、カリム総長の側に、ヴィヴィオを教会本部に留めておきたい「本当の理由」があった訳ですが……その話も、また「第二部」でやります。】

 すると、ヴィヴィオの背後に控えていたカナタとツバサが、愛する姉の苦しんでいる様子を見かね て、『ならば、代わりに自分たちが』と名乗り出ました。
「だって、提督! 兄様はボクらの『家族』だヨ! だったら、姉様も母様たちも動けない今、代わりにボクらが助けに行くのは、むしろ当然のことなんじゃないの? 家族って、そういうものでしょう?」
「提督も、昨年の『カルナージでの合同訓練』で、私たち二人の能力については、もうよく御存知のはずです。それに、私たちには、実際に『潜入捜査』の経験もあります。たとえ兄様や姉様の件が無かったとしても、私たちはただ単純に『能力的に適任』だと思うのですが……いかがでしょうか?」
 もちろん、カナタもツバサも『何とかして姉の心労を(やわ)らげてあげたい』という気持ちの方が中心なのですが、もう一つの理由としては、二人とも、ここ教会本部に来てからすでに一か月あまりが経ち、騎士団本部の直営地の中にずっと閉じこもり続けている毎日に、そろそろ耐え切れなくなって来たようです。

「まあ、確かに……ローゼンやったら、テロリストが来る心配も無いやろうし、私も『怪しまれずに潜入するには、もう何人か「小児(こども)のような姿をした局員」もおった方がええんかなあ?』とは思うてたけど……」
 それを聞くと、カナタはすかさず、こう勢い込みました。
「だったら、もうボクらで決まりじゃん!」
「えっ? あの……カナタ? ツバサ?」
 ヴィヴィオは思わず心配そうな声を上げましたが、二人の12歳児は自信ありげに、明るくこう言ってのけます。
「姉様は、そんなに心配しないで下さい。母親がそんなに気をもんでばかりいては、お(なか)の子供に(さわ)りますよ」
「そうそう。だから、姉様は安心して待っててヨ。兄様は必ずボクらが無事に連れて帰って来るからサ」

 それを聞いて、はやてもふと考えました。
(よぉ考えたら、カリムの話やと、ホンマに教会にいてもらわなアカンのは、ヴィヴィオだけなんやし……まあ、別にええのか。)
 はやては、ヴィヴィオや双子たちの側からは見えない場所にいるリインに念話で指示を出し、今「使用中」のものとは別の通信機を静かに操作させます。
「……それなら、一応は保護者の了解も取っとこか?」
「八神提督! 今、ママたちと連絡、つくんですか!?(吃驚)」
「極秘捜査の最中やから、普通には連絡、つかへんやろうけどな。ん~。まあ、これはいわゆる、その……『将軍特権』ちゅう奴や」
【くどいようですが、『はやてが今、フェイトやなのはたちの部隊をも「(かげ)で」指揮している』というのは、まだ当分は高町家の娘たちにも秘密の話なのです。】

 そんな会話の(かたわ)らで、リインからの文字通信による「打ち合わせ」は速やかに完了しました。
(ヴィヴィオたち三人には予想もできないことでしたが、実際には、ここから先のセリフは、はやてもなのはもフェイトも、おおよそ「台本どおり」のものとなります。)

「と言うても、音声通信だけやし、留守録モードになっとるかも知れへんけど……あれ? なのはちゃん! 今、ええんか?」
「うん。今こっちはもう夜で、ホテルの中なんだけど、『明日からの作戦』に備えて今日はもう早目に休もうかなぁ、なんて思ってたところなの。ところで、どうしたの、はやてちゃん。この回線を使ってるってことは、何か緊急の御用事?」
「ん~。まあ、緊急っちゃ緊急なんやけど、そっちのお仕事の話や無くてな」
そう言って、はやては(ヴィヴィオたち三人にも納得できるように)一連の状況を手短に説明しました。
「う~ん。そういうことなら、いいんじゃない? 二人とも、行っておいで」
「ちょっ! なのは! そんな簡単に!」

 カナタ《あ。やっぱり、ホテルではフェイト母様も同室なんだ。》
 ツバサ《配偶者なんですから、やっぱり、その方が自然なんでしょうねえ。》

「フェイトちゃんは、ちょっと心配し過ぎだよ。はやてちゃんが一緒なんだから、大丈夫だってば」
「いや! もちろん、私だって、はやてを信用してない訳じゃないけど!」
「それに、はやてちゃん。今の話だと、今回は八神家の皆さんも、みんな一緒なんでしょ?」
「うん。仕事では久々の『大人(おとな)8人』全員集合や」
「いや……。そういう問題じゃなくて、カナタとツバサはまだ……」
「フェイト母様! ボクらだって『もう』12歳なんだヨ」
「それに、母様たちは9歳の時には、もう管理外世界の地球で命がけの危険な仕事をされていたと(うかが)っておりますが」
「ううっ!」
 これも想定内の反応でしたが、事実なので、フェイトは何も言い返せません。(笑)

「そりゃまぁ、確かに、ボクらは母様たちほどには優秀じゃないけどサ」
「聞いた限りでは、『命がけ』というほどの危険な仕事でもないようです」
「そうや。基本的には、ちょぉ乱暴な人たちと話を付けに行くだけやからな」
「それに、フェイトちゃん。ヴィヴィオはともかく、カナタとツバサをこのままにしておいたら、きっとそのうちに何かをやらかして、教会の人たちにも迷惑をかけちゃうだろうと思うよ」
「「ううっ!」」
 そのとおりなので、カナタとツバサは何も言い返せません。(笑)

「解ったわ、なのは。……それじゃあ、二人とも! 行くのは良いけど、本当に気をつけてね」
 フェイトがひとつ大きく溜め息をついてから、そう言うと、カナタとツバサは喜んで、息もぴったりに元気な声を上げました。
「「はいっ!」」
「提督の言うことをよく聞いて。あまり調子に乗らないようにね」
「「解りました!」」
「ほな、今すぐシグナムとアギトを迎えに行かせるわ。カリムの方には私から話を付けとくから、二人は今から二時間以内にお出かけの準備を済ませてな。服装は普段着のままでええから」
「「はい!」」

 そこで、はやてはヴィヴィオの心配そうな顔を覗きこむようにして、言葉を続けます。
「それから、ヴィヴィオもそんなに心配せんでええよ。アインハルトも、別にそれほどヒドい目には()うてへんはずやから」
「……そうなんですか?」
「まあ、私の考えが正しければ、の話やけどな。きっと間違うてへんと思うよ」
「それじゃ、はやて。ウチの子たちのこと、よろしくお願いね」
「ど~も。お世話をかけます。(笑)」
「うん、任せといてや。二人も、そちらのお仕事、頑張ってな」

 こうして、一連の通信はおおよそ「はやての考えた台本どおりに」終了したのでした。


 
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