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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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AXZ編
  第194話:アダムの慟哭

 
前書き
どうも、黒井です。

今日は3月3日のキャロルの誕生日と言う事で、午前中にキャロル誕生日記念の話を投稿しているので、まだ読んでない方はそちらもどうぞ。 

 
 新たな姿となった颯人のウィザード・インフィニティ―スタイル。それを見て真っ先に声を上げたのは、今正に彼らと対峙しているレギオンファントムであった。

「エキサイティングッ! ファントムとなる運命を乗り越えたその心、改めて切り刻ませてもらうぞッ!」

 レギオンファントムがハルメギドを構え、颯人達から離れた場所で振るう。あの距離からでも奴は狙った相手を切り裂き、生み出した亀裂を使って相手の中へと入り込む事が出来るのだ。

「フッ!」

 鋭い斬撃が颯人と、彼女の傍に居た奏に襲い掛かる。それを彼は咄嗟にその身を挺して彼女を守るように動いた。抱き寄せるようにして奏を引き寄せ、その背でレギオンファントムの斬撃を受け止める。

 その光景に離れた所から見ていた響達の口から悲鳴が上がった。

「あぁっ!?」
「あの野郎、また……!?」
「ッ! 待て立花、雪音ッ! よく見ろッ!」

 あのままでは颯人の中にレギオンファントムが入り込んでしまう。そう危惧した響とクリスが咄嗟に援護に向かおうとしたが、遠くから注意深く観察していた翼は直ぐに違和感に気付いた。颯人が全くダメージを負った様子が無いのだ。
 何かが可笑しいと思う間もなく変化が起こる。何と今まで彼女達を苦しめていた、レギオンファントムの作り出した亀裂が何事もなかったかのように消えたのである。

「ッ!?」

 今までこの技を破った者など誰も居なかったので、レギオンファントムも同様を隠せない。それでも奴は諦める事はせず、もっと直接的に刃に魔法を乗せて彼を切り裂こうと飛び掛かった。大上段からの振り下ろし、それを見た颯人は咄嗟に奏から離れると、真正面から鎧でそれを受け止めた。

「ぬぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 喰らえば恐らく鎧どころかその下の彼自身も切り裂かれて、下手をすれば致命傷となりかねないと思わせる程の斬撃。しかし軍配は颯人の方に上がった。レギオンファントムのハルメギドは、ウィザードの鎧に当たった瞬間、鎧には一切傷が付かず逆に薙刀の刃が根元から折れてしまった。

「ば、馬鹿なッ!?」
「フッ! ハッ!」
「がっ!?」

 あまりの事態に唖然とするレギオンファントムを、颯人は蹴りを二発喰らわせて引き剥がした。

 その光景にサンジェルマン達も言葉を失っていた。

「な、何だあの鎧はッ! あの硬さ、ダイヤモンド……いや、それ以上なワケダ。まさか、アダマントッ!?」
「はぁっ!? 嘘でしょッ? 錬金術でも再現できた事のない代物よッ!」
「でも、あの硬さ……間違いないわ。あれはアダマントよ」

 錬金術師として様々な鉱石の知識もある彼女達は、即座に颯人が身に纏っている鎧が何で出来ているのかを見抜いた。だがそれは現在表の世界で広く知れ渡っている鉱石は勿論の事、彼女達錬金術師ですら未だ再現に至っていない存在であった。故に、彼女達は目の前で広がる光景を信じられずにいたのだ。

 そんな驚愕の視線を受けながらも、颯人はレギオンファントムとの戦いに決着をつけるべく更なる力を発揮した。

「来い、ドラゴンッ!」

 颯人が一声かけると、彼の中から結晶で出来たような半透明に輝くドラゴンが飛び出した。ドラゴンが飛んだ後の軌跡には光の粒子が舞い散り、それが一か所で集まる場所にドラゴンが入り込むと集まった光が一瞬宝石の原石のようになり弾けた。
 そこにあったのは人振りの剣。ハンドガードが炎の様に赤い刃で出来た、白銀の剣を颯人は手に取った。

 その剣……『アックスカリバー』を手に取った颯人にレギオンファントムが残った方の刃で斬りかかる。

「オォォォォッ!」

 振り下ろされる薙刀を、颯人はハンドガードの刃で防ぐ。そして力尽くで振り払うと、反撃の一撃をレギオンファントムの体に叩き込んだ。

「ハァッ!」
「ぐっ!?」
「フッ! ハッ!」
「がっ!? ぐぉっ!?」

 立て続けに3回切り裂き、体勢を崩したレギオンファントム。しかし即座に反撃しようと振り下ろした薙刀は颯人に片手で受け止められ、振り回された挙句がら空きの胴体に刺突を喰らわされた。

「ぐふっ!? く、このぉぉっ!!」

 破れかぶれになってレギオンファントムが斬りかかるが、迫る斬撃を颯人は冷静に弾きお返しとばかりに何度も切り刻む。その斬撃は、今まで殆どダメージを与える事が出来なかったレギオンファントムをあっという間に傷だらけにするほどの鋭い一撃であった。

「フンッ! ハッ! そら、よっ!」
「ぐぉぉぉぉっ!? くッ! ハァァッ!」

 颯人の度重なる斬撃で大きく距離を取らされたレギオンファントムは、距離が離れたのをいいことにその場から魔力弾を放ち颯人を攻撃した。恐らくはメデューサ達が使うバニッシュストライクにも匹敵するだろう一撃。しかし颯人はその一撃を、手にした剣ではなくその鎧で受け止め完全に無効化してしまったのだ。鎧に直撃した魔力弾は四散し、彼の周囲で弾け彼と奏を照らすだけに留める。

「な、にぃ……!?」

 自分の攻撃が何一つ通用しない事に、レギオンファントムも言葉を失った。

 一方同じくそれを別々の場所で見ていた、輝彦とアリスは興奮を抑えきれない様子で声を上げた。

「やはりそうだ……間違いない、あれはインフィニティ―スタイルッ!」
「インフィニティ―? 輝彦、それはどう云うものなの?」

 珍しく興奮した様子の輝彦に、サンジェルマンが詳しい事を訊ねた。それに真っ先に答えたのは、本部で同じくこの様子を見ているアリスであった。

『実は、受け継がれている指輪の製法の中で唯一名称以外の記述が存在しない指輪があったんです。それがインフィニティ―スタイル』
「特筆すべきは見ての通り、あの圧倒的な防御力。数少ない記述からの知識だが、あれはファントムの魔力が結晶化したアダマントストーンによるものに違いない」
『尤も確認できるだけで僅か数件しか散見されないので、必ずしもあれがインフィニティ―の力であるとは断言できません。何しろあの力は、自身の内に存在する魔力……即ちファントムの力を完全に制御化に置いた状態ですから、個人差で能力に違いがある可能性もあります』

 交互に今の颯人の力を分析する輝彦とアリス。その勢いに若干気圧されそうになるサンジェルマン達だったが、兎に角今の颯人が尋常ではない位の防御力を持っている事は分かった。

「だが、それだけの防御を実現するには相当の魔力を消耗するワケダ。だとすればあの姿、あまり長時間維持する事は不可能では?」
「いや、そうでもない。言っただろ? 今の颯人は魔力を完全に制御化に置いている。つまり、使用した魔力はそのままあいつ自身が再吸収・還元する事が可能なんだ。つまり……」
「つまり……実質無制限に魔法を使いまくれるって事ッ!?」
「なんと……!」

 無論、失われた魔力が回復する訳ではないので完全無欠と言う訳にはいかないが、少なくとも普通に戦っていれば彼は魔力の消耗を気にすることなく戦う事が出来た。

 圧倒的防御力とそれを支える半永久機関じみた魔力。それを自在に駆使して戦う彼の姿は正しく希望を担う魔法使い。

「今、颯人は自身の魔力の全てを100%使いこなせる、全ての魔法使いを凌駕する域へと達した。最早今の颯人に、敵は居ないッ!」

 輝彦の声が高らかと響き渡る中、颯人は左手を再びハンドオーサーの前に翳した。

〈インフィニティ―!〉

 ベルトから音声が響き渡り、颯人が構えを取った。次の瞬間、颯人が目にも留まらぬ速度で動き一瞬でレギオンファントムを切り裂きながらその背後へと回った。

「うぉっ!?」

「は、速ッ! 何あの速度ッ!」
「何が起きたのッ!」
「なんか、颯人さんだけ早回しで動いてるみたいデスッ!」

 切歌の見立ては概ね正しい。インフィニティ―スタイルの能力は先程輝彦達が述べた圧倒的防御力と自信の魔力の再吸収による無制限の魔力、そして今の時間干渉による高速移動。以前颯人と戦ったグレムリンも同様の能力を持つ指輪で彼を翻弄したが、彼はそれと同じ事をより少ないコストで行う事が出来るようになったのである。

 光の軌跡だけを残して次々と切りつけていく颯人に、レギオンファントムも思わずその場に膝をつく。そこで颯人は徐にアックスカリバーを上下逆に持ち替えた。

〈ターンオン!〉

 持ち替えるとその見た目は剣から斧へと姿が変わった。尤も実際に変形した訳ではなく、上下が入れ替わった事により印象が変わった程度のものでしかない。しかし元から上下を持ち替えて入れ替えることを前提にした見た目のアックスカリバーは、印象ががらりと変わり赤い刃を持つ重厚な斧と化した。

 そのアックスモードとなったアックスカリバーを颯人はレギオンファントムに振り下ろす。魔法の効果が切れたのか、それとも高速移動はカリバーモード時限定なのか通常の速度で迫る颯人をレギオンファントムは立ち上がって迎え撃つ。

「ハッ!」
「ムンッ!」

 颯人が振り下ろす斧をレギオンファントムが薙刀で受け止めようとする。しかし斧での一撃は先程の剣の一撃に比べて遥かに重い。斬る、と言うより破壊に特化した斧での一撃は、レギオンファントムの薙刀を弾き防御を崩されたれた所に強烈な一撃を何度も叩き込まれた。

「うぐっ!? ぐぉっ!? ぐぁぁぁっ!?」

 赤い刃が次々とレギオンファントムの体を傷付けていく。そして殊更に力を込めた一撃でレギオンファントムが大きく吹き飛ばされると、颯人はアックスモードのアックスカリバーの左側についたハンドオーサーに左手をタッチさせた。

「さぁ、幕引きだ」
〈ハイタッチ! シャイニングストライク!〉

 アックスカリバーのハンドオーサーに左手をタッチさせると、アックスカリバーが虹色に輝きだした。颯人がその状態で斧をバトンの様に振り回すと、何と回転するごとに斧自体が徐々に大きくなっていきあっという間に彼の身の丈を超える程の大きさとなった。

〈キ・ラ・キ・ラ! キ・ラ・キ・ラ!〉
「ハッ!」

 輝きながら大きくなったアックスカリバーを手に、颯人はその場で大きく跳びあがった。レギオンファントムがそれを目で追う中、彼は上空から大上段に巨大化した斧を振り下ろす。

「おぉぉぉぉ、ハァァァァァァァァッ!」
「う、うぉぉっ!?」

 振り下ろされる光輝く斧を前に、レギオンファントムは回避も防御もする間も無く唐竹に切り裂かれる。

「ぐぉぉぉぉぉっ!? あぁぁ、エ……エキサイ、ティン、ぐぁ……」

 脳天から真っ二つに切り裂かれたレギオンファントムは、断末魔の叫びを残して爆散した。それと同時に響を拘束していた亀裂も完全に消え、解放された彼女は颯人と奏の元へと走り寄った。

「颯人さんッ! 奏さんッ!」
「よ、響ちゃん。心配掛けたな?」
「いえ、元に戻ってくれて良かったです! ね、奏さんッ!」
「あぁ、全く、心配掛け過ぎなんだよお前は」

 そう言って颯人を小突く奏だったが、その顔には溢れんばかりの笑みが浮かんでいた。

 束の間、和気藹々とする颯人達を離れた所から見ていたワイズマンは拳を握り締め体を震わせていた。折角最高の絶望の瞬間が見られると思っていたのに、待っていたのはこれだ。望んだ結果、望んだ光景が見られなかった事にワイズマンは子供の様に怒りを露にした。

「~~~~、あんな面白味のないもの…………ッ!」

 ふとワイズマンが上空を見上げれば、そこには先程響から解き放たれた神の力がまだ行き場を失った状態で漂っていた。その神の力が、突然一か所に集まり出す。

 そこには、空間に空いた穴から出た人形の片腕……即ちアダムの片腕に神の力が集まっているのが見て取れた。

「よし、良いぞ……! 今度こそ、神の力を、僕の手に……!」

「……フフッ!」

 それを見たワイズマンは、仮面の奥で笑みを浮かべた。

 大方アダムは、この乱戦の最中に隙を見て神の力を回収するつもりだったのだろう。ただ戦いがあまりにも激しく、迂闊に動けば逆に邪魔が入ると思い何も出来なかっただけなのだ。だが今、颯人がレギオンファントムを倒した事で周囲が一時的にだが静かになった。今の内に神の力を回収しようと、彼は遂に行動を起こした。

 それは悪くない考えだったが、同時に悪手でもあった。彼は多少リスクを冒してでも、全員の意識が別々の方へ散っている間にさっさと神の力だけを回収してしまうべきだったのだ。

 全ての神の力がアダムの左腕へと集まった。それに彼が歓喜していると、その傍へ転移したワイズマンが神の力が宿った左腕を掠め取る様に奪い取った。

「ご苦労だったな、アダム? だがこれはお前のような完全と言う名の失敗作には無用な代物だ。私が貰おう」
「貴様ッ!? また僕から奪うのかッ!?」
「ハッ! 人形は人形らしく、生者の道具として使われたまえよ。あの時の様にね」




***




 嘗て、アダムとワイズマンには交流があった。(かね)てより神とされた存在、アヌンナキへと複数する為に。

 だが計画を進めて数百年が経つ頃、偶然にも出会ったワイズマンはそんな彼を諭したのだ。

『真の完璧など存在しないさ。今君は、自身の境遇を憂い、理不尽に怒りを覚えている。本当に完全無欠であれば、それすらも受け入れられるのではないかね?』

 ワイズマンのその言葉は、当時のアダムにとって青天の霹靂であった。またく予想もしなかった言葉。完璧であるが故に至らなかった考えを諭され、その時のアダムは感動すら覚えていた。

 それから彼らは幾度か交流した。生憎と魔法使いと錬金術師の確執は当時から大きく、あまり表立っての交流は出来なかったがそれでも当時アダムはワイズマンを……明星 明宏の事を世界で唯一の友人だと思っていた。

 だがその友情は、最悪の形で裏切られた。

 ある日アダムはワイズマンに真の賢者の石の情報を齎された。多くの人々を集め、その想いの力を一つにする事で生み出される万能の結晶。それがあれば、アダムが望む存在にもなれるのではないかと。
 自身が人形である事に当時のアダムは未練など無かったので、彼は喜んでこれに賛同した。彼は当時自身について来ていた者達をワイズマンが指定した場所に集め、その者達の想いを魔法で凝縮し賢者の石を作ると教えられた。

『大丈夫なのかい、そんな事をして? 簡単じゃないよ、想いを集めるのは』
『何、心配はいらないさ。想いを一か所に集める、ただそれだけの事。そこに不利益など起こらないよ』

 その時のアダムは盲目的にワイズマンの事を信じてしまっていた。だから気付かなかった。彼が胸の内で、アダムの事を嘲笑っていた事を。

 結果、アダムが集めた人々は自身の内側の魔力の暴走を抑える事が出来ずその身を砕き散らされ、絶望と苦痛の果てに命を落とした。残されたのは嘗て人々だったものと、彼らの忘れ形見の様に輝く一つの魔力を帯びた宝石だけ。

『ふむ、素質ある者を集めた訳だが……結果はこれか。まぁ、これが手に入っただけでも良しとするか』
『こ、これは……どう言う事なんだッ!? 言ったじゃないか、彼らは大丈夫だとッ!? なのに彼らはッ!?』
『あぁ、己の力を制御できればね。そうすれば彼らは魔法使いとなり、死ぬような事は無かったんだ。こんな事になってしまって、残念だよ』
『……騙したのか、僕を……自分の目的の為だけにッ!?』

 嘗てない怒りに震えるアダムを、ワイズマンは手にした賢者の石を弄びながら鼻で笑った。

『ハッ、この程度の演技にも気付けないなど……完璧が呆れるな。いや? 完璧だから、か? 成長の余地があれば、或いは気付けたのかもしれないがな』
『貴様ぁぁぁぁぁぁッ!!』

 自身を嘲笑うワイズマンに、アダムは激昂し黄金錬成を放った。それ自体はいとも容易く躱されたが、その際に出来た隙を突く形でアダムはワイズマンの顔面を思いっ切り殴りつける。

『グッ!?』
『貴様は、貴様だけはッ!?』
『チッ、人形風情が……!』
『死ねぇぇぇぇぇッ!!』
『チィッ!?』

 アダムの全力の錬金術に、当時のワイズマンも堪らずその場から姿を消した。後に残されたのは焦土となった大地と、その中で煌々と輝く賢者の石のみ。アダムはその賢者の石を手に取ると、握り潰さんばかりに力を込めつつ誓いを口にした。

『許さない……許さないぞ、魔法使い……! いや、明星 明宏……! 貴様の様な悍ましい血族、僕が何時かこの世から消し去ってやる……!』




***




「させないよ、邪魔建てはッ!」
「くッ!?」

 アダムは嘗ての恨みを晴らすが如く、錬金術でワイズマンを振り払った。その際にワイズマンの手から神の力が宿った左手が離れ、空中で形を変えていった。

 それを見て、真っ先の動き出したのは響であった。

「あれはッ! オォォォォッ!」

 響は即座にあれが神の力を宿したものであると気付き、それを止めるべく飛び上がった。響が神の力に迫るのを見て、アダムはそれを防ごうと錬金術を放つ。

「近付けないよ、君だけはッ!」
「困るね、それを壊されるとッ!」

 アダムと同時にワイズマンも魔法を放つ。奇しくもこの瞬間だけは、ワイズマンとアダムの利害が一致してしまった。我先にと奪おうとした神の力を、響により粉砕されては元も子もない。

 だがアダムとワイズマンの魔法と錬金術は、間に入った颯人により防がれてしまった。

「おっと! させないぜ、あの子の邪魔はなッ!」
「くッ!? この、邪悪な血族がッ!? お前まで邪魔をするのかッ!?」
「あぁするね。少なくともお前や、お前の隣に居る奴にこいつが渡るくらいならなッ!」

 颯人の言葉に漸くアダムは、自身の隣に居るワイズマンと自分が同じ事をしていた事に気付いた。こんな奴と歩調を合わせるなど冗談ではないと言わんばかりに、アダムはワイズマンを振り払う。

「退けッ!? この鬼畜生がッ!?」
「ヒトデナシが何を言う、人形風情」

 アダムとワイズマンが勝手に争い始める。それを呆れた目で見ながら、颯人は背後で響が神の力を粉砕するのを見届けた。

「オォォォォォッ! ハァッ!」

「ッ!? しまった!?」

 響の雄叫びにアダムが上を見た時にはもう遅い。響の拳が神の力の宿った腕を粉砕した。神殺しの力を持つ響の一撃を前に、神の力は再生する事叶わず神の力そのものも形を留める事が出来なくなり霧散していった。

「あ、あぁっ!? あっ!?」

 アダムは散っていく神の力を少しでも集めようとするのか手を伸ばすが、既に消滅が始まっている神の力は何物に留まる事もなく消えていく。その光景にアダムは絶望し、膝をついた。

「また……失った……また、邪魔された…………何故? どうしてだ……なんで完璧な筈の僕が、こんなに失敗ばかりを繰り返すんだッ!?」

「そりゃ、お前が完璧じゃないからだろ」

 慟哭するアダムに、颯人が静かに声を掛ける。その声にアダムはゆっくりと顔を上げ、自身を見下ろしてくる彼の顔を見た。

「何……」
「完璧なんてこの世に存在しねえんだよ。一見完璧に見えても、それは一側面からのものでしかねえ。完璧じゃないから、皆集まって互いの足りない部分を補うのさ」

 颯人の傍には何時の間にか奏が居た。彼は隣に立つ愛する彼女をそっと抱き寄せ、自分は1人ではないという事を実感すると共に強調する。
 それをアダムは逆に嘲笑った。

「言うじゃないか、知った風な口を。だが分かってるのかい? その男の祖父は、とんでもない裏切り者なんだよ? 君も何時か裏切られる。その時君は――――」
「知った風な口利いてんのはどっちだよ」
「何だと?」

 颯人を面と向かって罵倒するアダムに対し、奏は怒りすら覚える事は無かった。何も知らず、知ろうとせず己の価値観と認識だけでしかものを見る事が出来ないアダムを、いっそ憐れんですらいた。

「ほら、やっぱり完璧じゃないじゃないか。何も知らない、知ろうとできない。そんな奴が颯人の何を語れる? 颯人の爺さんがワイズマンだったから、だから何? そんなの、颯人がアタシを裏切る保障になりはしない。アタシはお前なんかよりもずっと颯人の事をよく知ってるんだ。馬鹿にすんじゃないよ」

 ただ静かに颯人への愛と信頼を口にする奏を前に、アダムは次の言葉が出て来なくなった。反論したいのに反論が頭に思い浮かばない事に、彼はただ奥歯を砕けんばかりに噛み締めるしか出来ない。
 その様子にワイズマンは、大きく溜め息を吐き全てに興味を失ったようにその場に背を向けた。

「はぁ…………もういい。ここにても仕方がない。帰るぞ、メデューサ」
「……はっ」

「あ、待て……!」

 輝彦達が止める間もなく、ワイズマンを始めとしたジェネシスの魔法使い達はその場から姿を消した。後に残されたのは装者と魔法使い、サンジェルマン達錬金術師を項垂れるアダムのみ。全てを失ったアダムを、サンジェルマン達ですら憐れむ様な目で見ていた。

「あれが全てを失った者の姿、か」
「もっとスッキリするものが見れると思ったけど、案外そうでも無かったわね」
「ま、お陰で溜飲は下がったワケダが」

 今まで散々利用され恨み辛みもあった筈のサンジェルマン達が見つめる中、降り立った響がアダムへと歩み寄り手を差し伸べた。

「アダムさん……私達、話し合いませんか?」
「はっ?」

「お前、マジか……」
「流石と言うか何と言うか」
「ヒビキらしいと言えば、らしいのかもしれないがな」

 仲間達が口々に呆れた声を上げる中、颯人と奏は響とアダムの様子を黙って見ている。

「思えば私達、アダムさんと全然話した事無いですよね? 話せばきっと、分からなかった事も分かり合えると思うんです。だから……」

 響の説得に、アダムが応じるように手を伸ばした。手を取ろうとするアダムの姿に響が僅かに顔に笑みを浮かべた、次の瞬間彼はその手を手の甲で払った。

「えっ!?」
「分かり合う? 話し合う? 出来るものかよ、バラルの呪詛がある限りッ! 何より、お前達不完全なものと、完全な僕が対等に立つなどあり得て溜まるかッ!」

 そう叫びながらアダムはアルカノイズの召喚結晶をあるだけ周囲にばら撒いた。次々と姿を現すアルカノイズに、颯人は結局こうなったかと溜め息を吐き奏は響を自分達の方に引き寄せる。

「ま、こうなるだろうと思っちゃいたけどな」
「響、こっちおいで」
「奏さん、でもッ!?」
「いいから。こっちの話を聞かない奴なんて、今まで何度も相手にしてきただろ? だからまずは、話し合える状態を作らないとな」

 完全だ完璧だと声高に叫ぶアダムではあったが、颯人達の目にはそれは唯一自身が自信を持って縋る事の出来るアイデンティティーを守ろうとしているプライドが高いだけの人間にしか見えなかった。少なくとも自身の享楽の為だけに多くの人々を容易く犠牲に出来るワイズマンに比べれば余程人間臭い。
 そんな相手であれば分かり合える余地はどこかに残されているのではないかと、颯人達は僅かながら希望を抱いていた。

「つう訳で、最後の大暴れと行きますか!」

 奏は体を解す様に伸ばしながら、右手の中指にドラゴンからプレゼントされた指輪を嵌め颯人の隣に並び立つ。2人は顔を見合わせると、仮面越しに微笑み合いながら前を見た。

「さぁ、見せてやるよ。アタシの魔法ッ!」
〈ブレイブ、プリーズ〉

 奏がギアコンバーターに右手を翳す。颯人達魔法使いでいう所のハンドオーサーに近い役割を果たしたコンバーターから音声が響くと、奏の体が魔法の炎に包まれる。

 熱さを感じさせない炎に包まれ、奏のギアの形状が大きく変化する。ベースはウィザードギアのガングニールだが、上半身を包んでいた胸当ては無くなり、赤と黒のボディースーツが露わとなっていた。代わりに肩から背中は表が黒く裏が赤いマントが彼女の体を包み、手に持つアームドギアは上下両端に穂先と魔法石を持つ形状へと変化していた。

 颯人と奏の愛が結晶となり、それにドラゴンが手を貸した事で奏の新たな力となったウィザードギア。その名もウィザードギアブレイブ。希望と奇跡を担う魔法使いと、その彼を何処までも支え続ける歌と魔法の担い手が揃った瞬間であった。 
 

 
後書き
と言う訳で第194話でした。

インフィニティースタイルの鎧を構成するアダマンストーンの元ネタはアダマントと言って、ダイヤモンドと同じく征服されないを意味するギリシア語のアダマスから派生した言葉だそうです。アダマンティンとも表記される事もあるそうですね。FFで登場するモンスターのアダマンタイマイや、素材のアダマンタイトの元ネタですね。

ここでやっとアダムとワイズマンの間の確執が明らかとなりました。端的に言うとアダムは昔ワイズマンに騙されて裏切られた過去がある訳です。その事もあって彼は魔法使い、特に明星家を目の敵にしているのです。

ここからが本当のAXZ編最終決戦。それに伴い奏もお色直し。ウィザードギアとブリージンガメンを合わせたような見た目のウィザードギアブレイブへとなりました。今後はこちらが奏の切り札となります。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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