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金木犀の許嫁

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第四話 同居の準備その十三

「結核でな」
「若くして亡くなってるのよね」
「十代でなってな」
 学生の頃に発症してしまったのだ。
「それでな」
「周旋して少し経ってお亡くなりになったわね」
「三十四歳でな」
 この若さでというのだ。
「昭和二十二年にな」
「本当に若いわね」
「ああ、だからお年寄りになって行ってもいいが」
 それでもというのだ。
「織田作さん自身はな」
「それが適わなかったのね」
「そうだったんだ」
 父はこのことか悲しそうに語った。
「あの人はな」
「残念なことね」
「三十四歳だからな」
 その若さで世を去ったからだというのだ。
「本当にな」
「残念よね」
「今は結核も治るからな」
「そうした病気になったし」
「栄養状態もいいしな」
「織田作さんも長生き出来たわね」
「それで作品をどんどん書いてな」
 そうしてというのだ。
「皆を楽しませていたな」
「そう思うと残念ね」
「三十四歳だ」
 父はまた織田作之助の没年齢を話した。
「つくづくな」
「若いわね」
「人間長生きしないとな」
 そうしないと、というのだ。
「やっぱり駄目だな」
「そうよね」
「中には生きていたらいけない人もいるがな」
「悪いことばかりして」
「自分の子供を虐待して殺す様な奴はな」
「生きていたら駄目ね」
「いるからな」98
 世の中にはというのだ。
「そんな奴は死んでいいんだ」
「害にしかならないから」
「ああ、けれどな」
「そうした人でもないと」
「腐れ外道でもない限りな」
「長生きしないと駄目ね」
「ああ」
 まさにというのだった。
「人間はな、この世に出たらな」
「長生きして」
「色々なことをしていかないと駄目だ」
「織田作さんにしても」
「当然な」
「そうだったのね」
「二人もだ」
 夜空も佐京もというのだ。
「ずっとな」
「長生きして」
「行ける様にするんだぞ」
「そうすればいいのね」
「ああ、本当に人間はな」 
 まさにというのだ。
「まずはな」
「長生きすることね」
「それが大地位だ」
「色々出来て」
「楽しめるんだ」
 そうだというのだ。
「だからな」
「私も佐京君も」
「真昼もな」
 彼女にも言った。
「長生きしろよ。織田作さんが亡くなってだ」
 三十四歳の若さでだ。
「悲しんでいる人が一杯いるからな」
「まだそうなのね」
「ファンの人はな」
「そうなのね」
「だからな」
「長生きすることね」
「そうだぞ」
 こう言うのだった、そうして娘達に引っ越しの準備をさせるのだった。


第四話   完


                   2023・12・1 
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