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英雄伝説~西風の絶剣~

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第89話 王と闘神の息子たち

side:リィン


 爆発音が町から聞こえた俺達はコリン君を連れてグランセルに戻る、するとそこではとんでもない事が起きていた。


「なんだ、コレは……!?」
「町が攻撃されています!」


 魔獣が町を攻撃している光景が目に映った。しかもその魔獣はグランセル城の地下にあった封印区画に現れた人形兵器によく似ていたんだ。


「あの人形兵器がなぜ町に?」
「まさかあの区画から抜け出してきたのでしょうか?」
「分からないが非常事態なのは間違いない、対処しながらギルドに戻るぞ!」
「はい!」


 俺はコリン君をエマに任せて機械人形達を切りながら先を進んだ。


「皆さん!落ち着いてください!こちらに来れば安全です!」
「エルナンさん!」
「リィンさん!エマさん!戻ってきてくださったのですね!」


 ギルド近くでエルナンさんが市民を避難させているのを見つけた俺達は彼に声をかける。


「エルナンさん、一体何が起きたんですか?」
「爆発音とともに何処からともなくあの機械人形達が現れたのです。そして町が混乱に陥ったと同時に特務隊の姿が確認されました」
「特務隊……あいつらが?」


 かつてこのリベールにてクーデターを起こしたリシャール大佐、その彼が率いていた特務隊の残党が現在も逃亡を続けていたのだが……


「現在エステルさん達が分かれて特務隊や魔獣と応戦しています」
「なら俺達も急いで合流を……」
「おっと、お前の相手は俺達だ」


 そこに頭上から声が聞こえて殺気を感じた俺はエマとコリン君を抱えて後ろに飛んだ。その瞬間上から凄まじい衝撃が走り地面に亀裂が走る。


「ぐうっ……一体何が!?」
「エルナンさん、大丈夫ですか!」
「ええ、なんとか……」


 地面を転がるエルナンさんに声をかけるが彼もギルドの一員、直撃は避けたようだ。


「ははっ、マジでいやがったか。西風の絶剣」
「お前は……」


 砂煙が晴れて俺は現れたその人物に驚愕した。


 赤い長髪に死神を思わせる鋭い視線、身の丈はあるブレードライフルを構えたその人物を俺が知らないわけがない。


「なんでお前がここにいる!ランドルフ・オルランド!」


 俺は目の前にいる人物……赤い星座を率いる『闘神』バルデル・オルランドの血を引く男、ランドルフ・オルランドを睨みながらそう叫んだ。


「はっ、仕事じゃなきゃこんなところに来る訳ねえだろうが」
「仕事だと?お前も俺を殺すように依頼されたのか?」
「なんだ、別の奴に狙われたのか?シャーリィといいモテるな、クラウゼル」
「こっちとしては迷惑だよ」


 俺は武器を構えながら警戒する。目の前にいる男は赤い星座の部隊長でもあり『赤い死神』という二つ名を持つ強者だ。一筋縄ではいかない。


「ランドルフ隊長、この辺りは粗方荒らしました。住民も避難しています」
「そうか、警備の目を十分に引けたならここでの役目は終えたな。今からはお楽しみと行こうじゃねえか」


 そこにザックスと数名の猟兵が現れた。ランドルフの部隊の奴らか、厄介だな……!


「リベールに西風の兄妹がいるって聞いて半信半疑で来てみればマジでいたからな、嬉しい誤算って奴だ」
「くっ……!」


 向こうの目的が分からないが俺とやり合う気でいるのは間違いないな。こちら側にはエマがいるがコリン君が抱えているため戦えないだろう。


 エルナンさんも囲まれて動けないでいる、不味いな……


 だがその時だった。数発の銃弾が猟兵達に降り注いだんだ。猟兵達はその銃弾を回避するがそこに蒼い影が走って地面を砕く凄まじい一撃を放った。


「なんだ?……はっ、妹も来やがったか」
「まさかランドルフがいるなんてね」
「無事か、リィン!エマ!」
「フィー!ラウラ!」


 駆けつけてくれたのはフィーとラウラだった。絶好のタイミングだ!


「リィン、無事で良かった。傷があるけどランドルフにやられたの?」
「いやここに来る前に銀に襲われたんだ」
「銀?確か凄腕の殺し屋だよね?相変わらず厄介ごとに巻き込まれるね」
「違いない」


 軽口を言いながらフィーと情報を交換していく。


「状況はどうなってる?」
「町で暴れてる機械人形はジンやアガット達が対処してる。エステルは合流したシェラザードやケビンと一緒に特務兵とグランセル城前で交戦してる」
「女王陛下を人質にしてリシャール大佐を解放するのが目的か?しかしあそこは今警備が厳重になってるだろう、いくらなんでも無謀じゃないか?」
「普通はね。でもあいつら戦車を持ち出してきたの、しかも別の機械人形も何体も連れていたし赤い星座じゃない見慣れない猟兵も多数いたよ」
「どこでそんな戦力を……そうか、結社か!」
「ん、わたしもそう思う。このタイミングといい絡んでいないとは思えないしね」


 エステル達は別の場所で特務兵と戦っているらしい、だが戦力が増加されているようで苦戦しているみたいだ。


 特務兵の周りには機械人形や見慣れない猟兵がいるようだ。それを聞いた俺は結社が特務兵に戦力を与えたのではないかと考えた。


「私とラウラも町で避難誘導したり機械人形を始末してたんだけどリィンが危ないって思って駆け付けたの」
「急に走り出したからなんだと思ったがこういう事だったのだな。流石フィーだ」
「そうだったのか、二人ともありがとうな」


 二人が駆けつけてくれた理由を知り礼を言う。


「エマ、エルナンさんと一緒にコリン君を安全な場所に連れて行ってくれ」
「分かりました!皆さんどうかお気をつけて!」


 エマはコリン君とエルナンさんと共にその場を後にする。


「話は終わったか?久しぶりに会ったんだ、遊んでくれないとスネちまうぜ?」
「はぁ……シャーリに負けず劣らずの戦闘狂だな。因みに聞くがシャーリは来てるのか?」
「なんだよ、そんなにアイツに会いたかったのか?残念だがアイツは違う仕事に行ってたから来てねえよ。今頃本隊でキャンキャン叫んでるんじゃねえか?」
「そうか」


 俺は念のためにシャーリはいないのかと聞くがランドルフは来ていないと答える。


 勿論鵜呑みにはしていない、敵の言う言葉だ。シャーリが別に動いている可能性は十分にある。


(まあそんな事を気にしてられるような甘い相手じゃない、まずは切り抜けないと……!)


 俺は思考を切り替えてランドルフに視線を向ける。シャーリと同等の強さを持つこの男をまず退けなければ話にならないからな。


「フィー、ラウラ、俺はランドルフとやる。二人はザックスたちを頼む」
「ザックス、妖精と大剣使いは任せたぜ」


 俺とランドルフがそう言うとフィーとザックスは頷きそれぞれ武器を構えた。


「……はっ!」
「しゃあっ!」


 俺とランドルフが同時に動き太刀とブレードライフルをぶつけ合う。激しい衝撃と火花が飛び散り辺りを震わせた。


 お互いの武器が弾かれて一歩後ろに引くとランドルフはブレードライフルを構えて上段から斬りかかってきた。


 俺はそれを回避して背後に回り込んで斬りかかるが、ランドルフは回し蹴りを放ち妨害する。


 俺は蹴りを右手でガードしつつ緋空斬で攻撃を仕掛けた。ランドルフはそれを回避して銃弾で弾幕を張ってくる。


 俺は近くにあった瓦礫を使い盾にして奴に接近する。ランドルフは距離を取ろうとするが縮地を使い距離を一気に詰める。


 瓦礫を投げつけてそれと同時に斬りかかるがランドルフは最小限の動きで瓦礫を回避してブレードライフルでガードした。


 ギリギリと鍔迫り合いになり奴とにらみ合う。


「はっ!前にやり合った時より強くなってるじゃねえか!そうでなきゃ面白くねえよなぁ!」
「お前こそまた腕を上げたな。シャーリといいオルランドは化け物か?」
「当たり前だろう!俺は狂戦士の血を引いてるんだぜ!やればやるほど強くなるってもんだ!」
「厄介な奴らだ……!」


 斬り結びながら俺はランドルフの実力がまた上がっていることに驚愕する。


「おらぁっ!」


 自身の身の丈ほどもあるブレードライフル『ベルゼルガー』をまるで片手剣のように振るうランドルフ、シャーリのテスタロッサと比べると斬撃と銃撃のみのシンプルな作りだが返ってそれが恐ろしい。


「そらそら!細切れになれやぁ!」


 まるで暴風雨のような激しい攻撃を繰り出してくるランドルフに俺は防戦一方になる。奴の恐ろしい所はシャーリのような残虐性に加えて彼女を超える身体能力でごり押してくる戦法だ。


 一撃で相手を仕留めてさらに次の敵を高速で殺していく……戦場を駆け抜けるその赤い影はまさに死神という二つ名に相応しいだろう。


 だが俺も負けてはいない、奴の攻撃を凌ぎながら残月で反撃のチャンスを伺う。


「……今だ!」


 一瞬攻撃が途切れた瞬間を狙い奴の喉元に太刀を振るう、だがランドルフは驚異的な身体能力で体をそらして致命傷を避けた。傷は与えられたが頸動脈を外したので致命傷ではない。


「死ね!」


 片手に大型のサバイバルナイフを持ったランドルフが胸にソレを突き刺そうとした。俺は太刀を手放してランドルフの手を掴みそれを止める。


「くはっ、そう来ると思ったぜ」


 だがランドルフもいつの間にかベルゼルガーを手放していて代わりに手榴弾を持っていた。ピンは既に抜かれており、それを地面に転がす。


「正気か!?」


 俺は直ぐに後ろへ飛んだ。そして次の瞬間爆風が俺を吹き飛ばす。


「ぐうっ……!?」


 闘気でガードしたし上手く爆風に乗って自分から後ろに飛んだので深手は負っていない、だが奴を見失ってしまった。


 すると爆風を斬り裂いて影が俺の背後から飛び出した。咄嗟に身構えるがそれは瓦礫だった。


「貰った!」


 背後から声が聞こえたと思った瞬間、振り返った俺の喉元にランドルフがベルゼルガーを振るっていた。


 完璧なタイミングだ、回避も防御も不可能。そしてベルゼルガーの刃が俺の首を断ち切る……


「爆芯!」


 ことは無かった、俺は溜めていた闘気を鬼の力と共に解放してランドルフをベルゼルガーごと吹き飛ばした。


 俺は太刀を拾いなおしランドルフに向かっていく。だが奴も直ぐに体勢を立て直してベルゼルガーを拾い攻撃してきた。


「裏疾風!」
「デスストーム!」


 市街地を黒い影と赤い影が駆け巡り地面を削り瓦礫を吹き飛ばしていく。まるで二つの竜巻のように激しい攻防を繰り返していく。


「はっはっは!なんだそりゃ!?ウォークライじゃねえよな!?まるで狂戦士だ!」
「お前達と一緒にするな!」


 楽しそうに笑うランドルフに同類扱いはするなと叫ぶ。


「ふっ!」


 上段から放った業炎撃をランドルフがベルゼルガーで受け止めた。


「そらぁっ!!」


 俺を押し返して銃弾の雨を降らせるランドルフ、俺はそれを回避して奴に詰め寄った。


「貰った!」
「甘ぇよ!」


 俺が下段からの振り下ろしを放つが奴はそれを見事に回避して見せた。後ろの建物に俺の放った斬撃が当たり3本の線を刻む。


「砕けろ!」
「はっ!」


 ベルゼルガーを高速で叩きつけようと上段斜め右上から勢いよく振り下ろす、俺はそれを底に鉄板を仕込んだ靴での蹴りで受け止めた。


 地面に亀裂が走り体が僅かに地面に陥没した。鬼の力を使っていなかったらそのまま両断されていただろう。


「うおっ!?マジかよ、そんな止め方するか!?」
「時雨・零式!」


 一瞬虚を突かれて動きが止まったランドルフに俺は全身のバネを使い突きを放つ。ランドルフは其れすらも回避したが流石に全ては避けれずに脇腹をハスって血を流した。


「ははっ!痛ぇな!」


 ランドルフは懐から閃光手榴弾を取り出して投げつけてきた。既にピンは抜かれているので直に破裂するだろう。


 俺は手で視界を覆いガードする、そして次の瞬間まばゆい光が辺りを照らした。


「……攻撃が来ない?」


 なにかしら仕掛けてくると思い身構えていたが攻撃が来ずに怪訝に思う俺、だがランドルフの狙いが分かると流石に動揺した。


「うおぉぉぉぉっ……!」


 なんとランドルフは崩壊した民家を持ち上げていたんだ。どんな馬鹿力だよ……!?


「コイツはかわせるか!?」


 そしてそれを俺に投げつけてきた。


「無茶苦茶だろう!」


 俺は鬼の力を太刀に流し込んで威力を上げた一撃を放つ。


「終ノ太刀・暁!!」


 空間を切り裂かんとばかりに放たれた無数の斬撃が民家を小さな瓦礫へと切り裂いた。


「お前ならそうするよなぁ!!」


 だがそこにサバイバルナイフを構えたランドルフが突っ込んできた。攻撃後の隙を突かれたので防御も回避も間に合わない。


「ならば……!」


 俺もナイフを取り出してランドルフに突き出した。お互いのナイフが肩に突き刺さり血が噴き出す。


「回避も防御もせずに相打ち覚悟で刺してくるか!やっぱお前も俺達と同類だな!」
「だから一緒にするなって……!」


 ナイフを刺し合いながらお互いの腕を掴み硬直状態になる俺達、ここからどう反撃に移ろうかと考えていると何処かで何かが爆発する音が聞こえた。


「なんだ!?」
「おらぁっ!」
「がっ……!?」


 俺は一瞬意識がそちらに向かってしまい、その隙を突かれて腹に前蹴りを喰らってしまう。


 強烈な衝撃に後ずさるが直ぐに体勢を立て直して奴を見る。


「ランドルフ隊長!奴らの戦車が撃沈しました!」
「頃合いか、撤収するぞ」
「了解」


 そこに赤い星座の猟兵が一人現れてランドルフに何かを言うとランドルフは信号弾を放つ。


「クラウゼル、勝負はお預けだ。決着はいずれ付けようぜ!」
「ランドルフ!」


 ランドルフは素早くこの場を後にする。俺はそれを追う事はしなかった。


「さっきの爆発音はグランセル城の方から聞こえたな、まさかエステル達に何かあったのか?」
「リィン!」


 するとフィー達が俺の側に駆け寄ってきた。


「ザックスたちが逃げ出したけど状況が変わった?」
「多分な。さっきの爆発音が気になる、直ぐに向かうぞ」
「そなたは大丈夫なのか?傷が多いが……」


 フィーが状況が変わったのかもしれないと言い俺はそれを確かめるべくグランセル城に向かおうとする。だがラウラは俺の体の傷を見て心配そうに声をかけてきた。


 銀に続いてランドルフとも戦ったからな、正直かなり辛い。


「動くだけなら何とかなる、もし結社の連中がいたら流石に戦えないからその時は任せてもいいか?」
「うん、任せて。わたし達がリィンを守るから」
「ああ、頼んだ」


 俺は二人にそう言うと彼女達は嬉しそうに俺を守ると言った。頼りになる恋人がいて俺は幸せ者だ。


 俺達は急ぎグランセル城に向かう、俺達が城の前にある橋に着くと倒れた特務兵や人形兵器の残骸が辺りに散らばっていた。


「凄い量の残骸だな、相当激しい戦闘だったんだろう」
「あっ、リィン君!」


 すると近くにいたエステルと姉弟子が駆け寄ってきた。


「リィン君、皆!大丈夫!?傷だらけだけど……!」
「一応回復アーツはかけたけど血を流しすぎたからフラフラだよ、まあ気合で我慢してるけどね……そっちは終わったのか?」
「うん、何とかね」


 エステルの話によると特務隊の残党を率いていたカノーネ大尉がアルセイユに使われるはずの新型エンジンを奪い最新型の戦車を使ってグランセル城を占拠しようとしたらしい、理由はやはりリシャール大佐の解放だったみたいだ。


 結社と手を組んだのか人形兵器やゴスペルなども使用してきたようだがエステル達の活躍によってなんとか阻止できたらしい。


 因みに話にあった見慣れない猟兵達は既に撤退していたみたいで一人も捕らえられなかったらしい、恐らく腕の立つ猟兵団だったのだろう。


「だからケビンさんやシェラザードさんも一緒なんですね」
「うん、二人には本当に助けられたわ」


 俺は遠くでカシウスさんと話すシェラザードさんやケビンさんを見てどうしてこの場に二人がいるのか理解した。


 ロレントで調査していたシェラザードさんは特務隊の動きを掴んだらしくその道中でケビンさんと偶然会い協力関係を築いたみたいなんだ。


 ケビンさんが只の神父ではないことは既に知っていたので彼がいる事にそこまで驚きはない。


 カシウスさんがこの場にいるのはリシャール大佐を連れてきたかららしい。暴走するカノーネ大尉を説得するには彼しかいないと判断したらしい。


 リシャール大佐に説得された彼女は漸く観念したようでその場で拘束されたみたいだ。


 俺はカシウスさんの元に向かう、こうして会うのは久しぶりだな。


「カシウスさん、お久しぶりです」
「おお、リィンか。久しぶりだな」


 俺はカシウスさんと握手を交わす。


「話は聞いているぞ、エステルの力になってくれているみたいだな。本当に感謝している」
「俺達が好きでやっていることですので。軍の様子はどうですか?」
「まだまだ立て直しに時間がかかりそうだ、俺もまだ自由に動けそうにない。君たちには迷惑をかけてしまうな」
「気にしないでください、国を守る軍隊が機能しなければリベールが危険なんですから」
「ありがとう」


 どうやら軍の立て直しにはまだ時間がかかるみたいだ。カシウスさんが自由になればかなり助かるのだがそんな簡単に立て直せるものじゃないからこればかりは仕方ないよな。


「リィン、久しぶり。元気そうで何よりだわ」
「シェラザードさん、お久しぶりです。ケビンさんも幽霊事件以来ですね」
「こんなに早く再開できるとは思っとらんかったわ」


 今度はシェラザードさんとケビンさんに声をかけた。


「あんた達知り合いだったのね、うっすらと話は聞いていたけど相変わらず厄介ごとに巻き込まれやすいみたいね」
「あはは……」


 シェラザードさんに苦笑されながらそう言われて俺は愛想笑いを浮かべる。自分で首を突っ込んでいるから文句は言えないんだよな……


「少しいいかな?」
「貴方は……」


 すると俺に声をかけてきた人物がいた、それは……


「リシャール大佐?」
「初めまして……かな?実際は一度ボースで会ってはいるがこうして直接会話をしたのは初めてだからね。私はリシャール、元リベール軍の大佐だ」


 なんとリシャール大佐だったんだ。でもどうして俺に声をかけてきたんだろうか?


「リィン・クラウゼルです。ご丁寧にありがとうございます」
「君の事はカシウスさんから聞いている、前のクーデター事件でもエステル君達と共に解決に導いてくれたと」


 リシャール大佐はそう言って俺に頭を下げた。


「本当にありがとう、君たちのお蔭で最悪の結果を免れた。そして申し訳なかった、私のせいで多大な迷惑をかけてしまった」
「リシャール大佐……貴方は何者かに暗示をかけられていたと聞いています。決して貴方だけのせいでは……」
「それでも私がやったことに変わりはない、暴走する私を止めてくれたのは君たちだ。本当にありがとう」


 彼はとてもまじめな人なんだろう、その言葉には深い誠意と感謝を感じた。その後リシャール大佐は他の特務隊と一緒にカシウスさん達に連れて行かれた。


「リシャール大佐……あんな素晴らしい人を暗示にかけてクーデターを起こさせた人物に改めて腹が立ったな」
「うん、わたしも許せないよ」


 去っていくリシャール大佐達を見ながらあんな良い人の道を踏み外させた第三者に怒りが湧きフィーも同意した。


「リィン君、ちょっといいか?」
「ケビンさん、どうしました?」
「リシャール大佐に暗示をかけた奴なんやけど、俺に心当たりがあるわ」
「えっ、本当ですか!?」


 ケビンさんの突然に話を俺は目を見開いて驚いた。


「そいつは多分俺が追っとる奴や、なにせ教会を裏切った関係者やからな」
「教会の……」
「恐らくリィン君とフィーちゃんも暗示をかけられとるはずや。俺がその暗示を解いたる、そうすれば記憶も戻ると思うで」
「なら早速お願いしても良いですか?」
「いやこの場では出来ん、すこし準備が必要や」


 俺はケビンさんに暗示をかけられていないか確認してもらおうとするがこの場では出来ないらしい。


「取り合えず今は色々やることを終わらせて……」
「あはは、楽しい見世物だったね」
「えっ……」


 ケビンさんの話を遮り誰かの声が聞こえた。


「リィン、門の上だ!」


 ラウラが指を刺したグランセル城の門の上に誰かがいた。


「こんばんは、今日はとっても月が綺麗だね」
「コ、コリン君?」


 そこにいたのはなんとコリン君だったんだ。先ほどエマに安全な場所に連れて行ってもらったのにどうしてあんなところにいるんだ?


「コリン君!そんなところにいたら危ないわよ!お姉ちゃんたちがそこに行くから動かないで!」
「え~、大丈夫だよ。ほらこんな事も出来るよ!」


 エステルはそう叫ぶがコリン君は見せつけるようにジャンプを繰り返す。


「ちょ、ちょっと!本当に危ないから止めなさい!」
「エステルお姉ちゃんは優しいね……そして単純ね」


 すると橋の下からフードを被った二人組が現れた。


「えっ……」


 そして一瞬でエステルに詰め寄りナイフを刺そうとした。


「させないよ」


 だがその二人はフィーとラウラによってナイフを落とされて拘束される。


「フィー!ラウラ!」
「エステル、大丈夫?警戒してて正解だね」
「そなた達だな、前にリィンとフィーを襲撃したのは……正体を表せ!」


 ラウラとフィーは奴らのフードを剥がした、そこから現れたのは……


「えっ?」
「嘘、あの二人って前にエア=レッテンで会った……」


 俺と姉弟子は驚きの声を上げる、そのフードの下から現れた顔は俺達が前に会った夫婦だったからだ。


「あら残念、押さえられちゃったわね。でも好都合だわ」


 コリン君は口調を変えて何かのスイッチを押した。するとフィー達が拘束していた二人から光が漏れる。


「なんだ?」
「……ッ!?」


 だがその瞬間だった、その二人が爆発してフィーとラウラを巻き込んだんだ。


「フィー!?ラウラ!?」


 まさか人間が爆発するなどと予想もできるはずもなく二人は爆発に巻き込まれた。俺は最悪の光景を覚悟した。


「間一髪ね」
「セリーヌ!?」


 煙が晴れると何か結界のようなものに守られたフィーとラウラが目に映った。驚く俺の肩にセリーヌが飛び乗った。


「どうして君が……」
「エマに頼まれて様子を見に来たのよ。そしたら何か危険な香りがしたから防御結界を張ったの」
「あ、ありがとう……!本当にありがとう……!君は命の恩人だ!」
「ちょ、ちょっと!抱き着かないでよ!痛いじゃない!」
「あうっ!?」


 俺は感謝の言葉を言いながらセリーヌを思いっきり抱きしめた。だが痛かったのかセリーヌに顔をひっかかれてしまう。


「フィー!ラウラ!大丈夫なの!?」
「う、うん……正直ビビったけどセリーヌのお蔭で無事だよ」
「不覚、私も未熟だ……」


 エステルが二人に駆け寄る、どうやら無事のようだ。


「ね、ねえ弟弟子君……今その猫ちゃん喋らなかった?」
「アネラス、私も気になるけど今は目の前の事に集中しなさい!」
「あの子、間違いなく只者じゃないで」


 姉弟子がセリーヌが喋ったことを聞こうとするがシェラザードさんに叱責されて武器を取り出す。ケビンさんもすでにボウガンを構えていた。


「あら、残念だわ。折角リィン・クラウゼルの恋人二人がこんがり焼ける光景が見られると思ったのに」
「コリン君、どうしてこんなことするのよ!さっきのは一体何なの?」
「本当に鈍いわね、エステル。まだ私がコリンなんて子だと思ってるの?」
「えっ?」


 コリン……いやあれは間違いなく別人だ、纏う雰囲気が完全に変わっている。


「あいつは偽物よ。本当のコリンって子はエマと一緒に避難場所にいるんだから」
「偽物って……じゃああの子の正体は何なの?」
「うふふ、盛り上がってきたしそろそろ種明かしをしようかしら?」
「なっ……!?」


 セリーヌの説明にエステルはあの偽物の正体は何なのかと問いかける、すると偽物のコリンが声を変えて頬に手を添える。


 だが俺はその声を聴いて驚いた、何故なら俺はその声に聞き覚えがあったからだ。


 そしてコリン君が右手をゆっくりと動かして顔を隠す、すると顔が歪み変化した。そして手が離れると可愛らしい女の子がそこにいた。


「……レン」


 だが俺は目を見開きそう呟くことしかできなかった。なぜなら目の前にいるんは俺がずっと探していたあのレンだったんだから……

 
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