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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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八十 第二ラウンド

 
前書き
大変遅くなりましたが、あけましておめでとうございます!
月末ギリギリで申し訳ありません…!!

 

 
「……行ったッスか?」
「の、ようだねぇ」


ペイン天道が立ち去った後、気を失っていたふりをしていたふたりは倒れ伏せたまま、口を開いた。
周囲の気配を探った後、慎重に立ち上がる。


瓦礫がガラガラと崩れたが、最小限の音のみを立てて、緑髪の少女と金髪の女性は改めて周りを見渡す。
誰もいないことを確認して、最後にペイン天道がトドメをさした相手へ眼を向けた。


ペイン天道に鋭利な釘を投擲され、額に直撃したはずのはたけカカシ。
膝をついてカカシの容態を確認した二尾の人柱力であるユギトは、安堵の息をついて、緑髪の少女を仰いだ。


「重傷だが致命傷には至っていない。流石だな、フウ」
「遠近感をほんの僅かにズラしただけっスけどね~」


ペイン天道が【神羅天征】を使った隙を狙って、地中からカカシが仕掛け、影分身で左右から鎖で身体を縛る。
カカシに気を取られていたペイン天道は、上空からのフウの攻撃を防ぎはしたが、その翅から降り注ぐ鱗粉は防ぎようがなかった。


【秘伝・鱗粉隠れの術】──口から鱗粉を吐き出すことで光を反射させ、相手の視界を奪う術なのだが、その簡易版である。


ペイン六道は六人全員、視野が繋がって共有している。
リンクしているが故に、どこから攻撃しても他の眼がある限り、回避されてしまう。
だが七尾の鱗粉ならば、一時的なものだが、その視力の遠近感を僅かにズラすことが可能だ。

そのため、鱗粉を浴びたばかりのペイン天道の眼は距離感を正確に掴めなかった。
故に、はたけカカシを標的に投擲した鋭利な釘も致命傷には至らなかったのだ。


「最低限の医療忍術ならば使える。フウ、おまえは──」
「わかってるッスよ!」


カカシを診るユギトに力強く頷いたフウは、地面を蹴る。
空中で背中から翅を生やし、素早く天高く飛んでいった。
















「お久しぶりです綱手様…」
「お前は…」
「少しアンタと話がしたい」

黒地に赤き雲。
『暁』の証である衣を翻し、突如、五代目火影の前へ現れた男に、暗部達は警戒心を高めた。

すぐさま綱手を庇おうと動いた暗部のひとりは、知り合いのような口振りである火影に目敏く気づくと、訝しげに訊ねる。


「奴を知っているのですか?」
「少しな…」
「何者です?」

雨隠れの里で、一時期、自来也が保護していた孤児。
その内のひとりの面影がある相手を油断なく見据える綱手が無言で応えたのに対し、ペインは淡々と答えを返した。

「秩序を正す神だ」


何者か、という問いに対するその堂々たる返答に、「どうやら普通ではなさそうだ」と暗部は警戒心を益々高める。


「波風ナル…九尾は何処だ?」
「さぁね」

視線を一切逸らさず、嘯く五代目火影の返事をある程度予想していたペインは、双眸を閉ざした。

「この状況…火影のおまえなら一目瞭然で理解するはずだろう」


木ノ葉の里を一望するように、ペインはわざと頭をゆっくりとめぐらせる。
あれだけ平穏だった里のあちこちで爆発音や白煙が立ち上る様を背景に、綱手はギリ、と唇を噛み締めた。


「圧倒的な力の前では全てが無意味。お前達大国が証明してきたことだ」
「…大国とて痛みを受けてきた。我々の先代が求め、維持しようと努めてきた平和を崩そうとしてきているのはお前達テロリストのほうだろう」


五代目火影のその発言は、ペイン天道の癪に障った。空気が変わる。
ピリ、と張り詰めた緊張と警戒が高まり、暗部達は一様に息を呑んだ。


「──驕るな」



凄まじいチャクラに、寒気がする。
(これが輪廻眼の力か…イヤな感じがする)と火影を護衛する暗部達が慄く中、綱手だけは動じずにペインを真正面から見据え続けた。
今のモノよりもずっと、遙かに凄まじい威圧感を以前、綱手は経験している。



「お前達の平和が我々への暴力なのだ」

“平和を謳歌していた里人は自分たちの置かれた立場がいくつもの争いの上に成り立って勝ち得た平穏だと自覚すべきだ”


淡々と告げるペインと似たような言葉をどこかで聞いたような気がする。
既視感を覚えて、綱手は記憶を辿るようにして双眸を細めた。


耳に、誰かの声がこだまする。
ペイン六道が木ノ葉の里を襲撃する前に、自来也の死に沈む綱手の前に現れたフードを被った謎の人物。
今し方、ペインから受けた圧迫感よりずっと、遙かに凄まじい威圧感を覚えた存在。



“木ノ葉にとっての正義は、他の里の悪になる。誰かの悪は誰かの正義だ──…木ノ葉が正しく、他が間違っているとでも思っているのか?平和で平穏なこの里が正義だと?その平和に至るまで、他の誰かの正義を踏み躙ってなどいないと本気で言えるのか?”


『暁』の襲撃を前以て予告しにきた、敵か味方かわからぬ存在。


“人の正義は信念は理想は、全て同一ではない。各々がそれぞれに心に抱き、思い描き、行動するモノだ。故に平和とは、積み重なった誰かの正義の犠牲の上で成り立っているに過ぎない”


元々の『暁』の信念が“対話により争いをなくす”という平和を目指す慈善団体だった真実を伝えてきた得体の知れない人物の言葉はあの時から確かに、綱手の耳に残っていた。

だから──。




「…木ノ葉隠れがやってきたことが全て正しいとは言えない」

里長らしからぬ返答に、ぎょっとする暗部達の前で、綱手は静かに口を開く。
謎のフードの忠告がなければ対話もせずにペインを問答無用に敵と見做していたに違いない。

「だが、お前達のやり方も正しいとは言えんだろう」

対話する姿勢を見せる五代目火影に、少しばかりペインも態度を改めた。

「…争いの火種はあちこちに燻ぶっている。それら戦争をコントロールするのが我々だ。今、九尾を庇ったところで無意味。直に始まる争いを止めることなど不可能だ」

そこで言葉を切って、ペインは周囲を見渡した。


洗濯物を干している最中だったのだろう。
買い物帰りだったのだろう。
子ども達が遊んでいたのだろう。
ビリビリに裂けた洗濯物が踏み躙られ、鞄の中から飛び出した野菜が踏み潰され、遊び道具の人形が踏み荒らされている。


「お前達は…この世界の主役だと思い上がり、死を遠ざけて考える。平和ボケして浅はかだ」

視線をべつのほうへ向ければ、チャクラ切れと力切れで倒れ伏せた木ノ葉の忍び達。

そうだ。この光景こそが自分達が今まで見てきた景色。



「人を殺せば人に殺される…憎しみがこの二つを繋ぎ合わせる」
「戯言を…それに、なにか勘違いをしているようだな」

綱手の意味ありげな言葉に、ペインは聊か怒りを抑える。
無言で話の続きを促すペイン天道に、綱手はハッキリと言い放った。


「お前達が欲しがっているものは手に入らんぞ」
「……木ノ葉の忍びが波風ナルを庇いきれるとでも?この惨状を見て猶、そう言えるのか?それなら貴様は火影失格だな」

あちこちで白煙が立ち上る、もはや見る影もない木ノ葉の里を火影邸から見下ろしながら、ペイン天道は呆れたように頭を振った。
そして最後に慈悲を与える。

神らしく。



「我々に協力すれば助けてやるのも吝かではない…波風ナルをおとなしく差し出せば、の話だが」

九尾の人柱力を犠牲にして、自分達の命を助けてもらう。
ひとりを生贄にすれば、殺さない。

ナルの死と引き換えに命乞いをしろ、そう言っているのも同然の言葉に、綱手は眼を伏せた。


「その節穴の眼で何が見える?もはや絶望しかあるまい」

自分の交換条件を思案しているのか、と考えたペインは畳み掛けるように冷然と告げる。



だが直後、顔を上げた五代目火影は何一つ諦観していなかった。
笑みさえ浮かべていた。



その強い眼差しは普通の忍びならば怯み、臆しているだろう。だが此処にいるのは普通の忍びではない。
なんせ秩序の神だと名乗るくらいなのだから。


「あいにく節穴のこの眼には希望しか見えていないね…火影の名にかけて忠告してやる」

挑発するように笑うその微笑みは希望に満ち溢れている。
年齢に反して若々しいその凛々しい貌には、波風ナルに対しての絶対的な信頼感があった。


「──ナルは強いぞ」

















「波風ナルはこの里にいるのか、いないのか。どちらだ?」

(も、もうダメだコレ…)


負傷したエビス先生を庇いながら、木ノ葉丸は絶望の淵に立たされていた。


突如木ノ葉の里を襲った侵入者のひとり。
木ノ葉丸が尊敬する波風ナルを狙っていると聞けば逃げ出すことは出来ない。
けれど、質問をするだけでバッタバッタと倒れてゆく忍び達を見れば、その決意も折れてしまう。


だが助けに来てくれたエビス先生を置き去りに出来ない。
八方塞がりになっていた木ノ葉丸を救ったのは、見知らぬ端正な顔立ちの青年。

けれどその青年も今や、ペインに捕まってしまった。

(ヤバイヤバイヤバイ…ヤバいってばよ、コレ!)



思わずナルと同じ口癖を心中で呟きながら、それでも身体が震えて動けない木ノ葉丸。
ただ、水色の着物の青年がペインに首を絞められているのを見ていることしか出来ない状況に歯噛みする。

何も出来ない自分が腹立たしくて、震える足を叱咤して水色の着物の青年をなんとか助けようとした木ノ葉丸は信じられない光景を見た。



「もう一度聞く。判決を下されたくなければ質問に答えろ」
「…そうか」

首を絞められ、口から魂のようなモノが抜き取られそうになっていながらも、水色の着物を着流す青年は余裕そうに嗤ってみせた。

「なら俺も判決を下してやろう」



途端、相手を追い詰めていたはずのペイン地獄道の視界がぼやけ始めた。
否、何かが地獄道の顔を覆っている。

膜のようなモノだ。
それが原因で視野がぼやけて見えたのだが、その正体が何なのか、地獄道はようやく理解した。

(これは…シャボン玉か…!?)


口から魂を抜こうとした地獄道は、ウタカタの口から白いモノが抜け出るのを目撃した。
だがそれは魂ではなく、青年の能力で生み出されたシャボン玉だったのだ。

シャボン玉を地獄道の顔に吹きかけた青年──ウタカタは不思議そうに首を傾げる。


「窒息死させようと思ったが、そうか。お前は元々、死人だったな」


シャボン玉の中を水で満たすことで本来ならば息が出来ない状態に陥る。
だが未だウタカタの首を絞めている力が弱まっていないことから、ペインの正体に思い至る。

「ならば、」とパチン、と指を鳴らしたウタカタは、やがて弱まってきた地獄道の手から逃れると、背後を振り仰ぐ。
自分とエビスを助けてくれたウタカタが首を絞められていた光景を悔しげに見ていた木ノ葉丸は、次の光景に眼を疑った。


シャボン玉の中で地獄道の顔が徐々に焼け爛れてゆく。
シャボン玉を取ろうと躍起に己の首を掻き毟るが、シャボン玉という密閉された泡からは逃れる術はない。


「酸の海で溺死しろ」



シャボン玉の中身を酸に変化させたウタカタは、涼しげな顔で非情に言い放つ。
溶かされてゆく地獄道の顔を見ていられなくて、木ノ葉丸は顔を逸らした。


六尾の人柱力であるウタカタ。
彼の能力はシャボン玉を操り、相手を無力化させる為に窒息させたり、性質を酸に変えたりすることが可能なのだ。
六尾の能力自体も相手の皮膚を溶かす液体を分泌することができるので、相性の良い尾獣と人柱力である。


やがて、ドッと地獄道の身体が地面に転がる。頭があったはずの箇所はもう見る影もない。
シャボン玉が弾けて消えた時には、もう骨までも残っておらず。


後に残ったのは首のない死人だけだった。
















「──もういい」

揺るぎない決心と変わらぬ決意。
決して九尾の人柱力を差し出さないという意思表示に、ペインは深く嘆息した。

「神からの最後通告だったが、痛みを知らぬ者に平和を説いたところで馬の耳に念仏だったな」


五代目火影と、彼女を守る暗部達に背を向ける。
無防備なその背中に攻撃を仕掛けたいものの、能力が未だに把握できない敵に此方から仕掛けるのは愚策。
そう警戒して手を出さなかった暗部達だが、彼らは最後のチャンスを無駄にした。もっとも攻撃したところで弾かれるのがオチだが。



「差し出さぬのならば焙りだすのみ」

この里にいるにしろ、いないにしろ、人柱力はそう易々と死にはしない。
不在だったところで故郷である里に何かあれば、何かしら行動があるはず。
ならば。

「痛みを理解できぬのなら神直々にその身を以って教えてやろう」

おもむろに屈む。強くチャクラを足に集中させながら、ペインは双眸を閉ざした。
語る。




「痛みを感じろ」

踏み躙られた洗濯物とは違って、洗っても洗っても消えない血。

「痛みを考えろ」

踏み潰された野菜のトマトのようにぐちゅりと潰れた人の鮮血。

「痛みを受け取れ」

踏み荒らされた人形の中身が飛び出る様は綿か、内臓と血の違い。

「痛みを知れ」

どれだけ平和を望んでも力を持たぬ小国は大国に甚振られる運命。




脳裏に過ぎる景色は戦場ではなんでもない日常。

だからこそ大国だからと言ってぬくぬくと平和を謳歌し、いざこうして強襲されれば自分が一番不幸だと嘆く人間の愚かさが。
今まで甚振ってきた小国が牙を剥いた途端に、言いがかりをつけられたと喚く大国が。


「…笑止。戦いとは、双方に死を、傷を、痛みを伴うもの。一方のみが理不尽に虐げられるなどあってはならない」

故に。



「この俺が、天罰を下す」

秩序を正す神、として。




火影邸の屋上。
「なにをする気だ…!?」と叫ぶ綱手の停止の声を振り払い、床を強く蹴る。

引力と斥力を利用して空高く飛んだペイン天道は、真下に広がる木ノ葉の里を一望した。


(…人間道と畜生道はまだ三尾と四尾の人柱力に手こずっているようだな…)

視覚をリンクしているが故に、遠く離れた戦況を悟って、思考を巡らせる。
今から行う術は広範囲の攻撃だ。故に他のペインとてただではすまない。

一度里から避難させる必要がある。
その為には。


「…隙を見て畜生道に口寄せを…ッ、」


刹那、天道は弾かれたように顔を上げた。











咄嗟に【神羅天征】の術を発動させる。
視界の端で忽ち弾かれた何かが文字通り、弾けた。


シャボン玉。
だが、ただのシャボン玉でないことは明白だった。

何故なら──。




「させねェッスよ!」
「我らを舐めてもらっては困る」


他のペインを回収し、里外に一度避難させることを提案した瞬間、邪魔しに割り込んできたふたつの影。


「空を飛べるのがアンタだけの特権だとは思わないことっスね」
「俺はどちらかと言うとシャボン玉で浮かんでいるだけだがな」



シャボン玉の中に入って浮遊してきた六尾の人柱力─ウタカタ。
背中に生やした六枚の虫の翅を羽ばたかせる七尾の人柱力─フウ。


ふたりの人柱力を前に、ペイン天道は「謝罪しよう」と淡々と謝った。
しかしそれはもちろん、彼らに対する謝罪などではない。


「世界に痛みを与える前に、先にお前達に痛みを与えるべきだったな…」
「そんな気遣い、ノーサンキューっすよっ」


顔を顰めて、べーっと舌を出すフウの横で、ウタカタが無表情でくるりと煙管を回す。
そこから噴出される数多のシャボン玉がペイン天道を取り囲んだ。


「アンタ、神様なんだろ?だったら、こんな包囲網なんて容易に突破できるだろう」



挑発するウタカタに続いて、七尾の翅を羽ばたかせながらフウがビシッと指を指す。


「空が飛べると言っても、ウチの翅から簡単に逃げられると思わないことッスね!」

正確に言えば、ペイン天道も引力と斥力で浮かんでいるのであって実際に飛翔しているのは七尾のフウだけなのだが。





どちらにしても幕は上がった。


六尾と七尾の人柱力であるウタカタ・フウとペイン天道。
木ノ葉の里の真上で双方が激突する。



空中戦の第二ラウンドが始まった。
 
 

 
後書き
三尾&四尾VS人間道&畜生道は次回に持ち越しです。申し訳ない…!
流石に新年早々里を崩壊させるのは縁起悪いかと思って人柱力さん達には頑張ってもらってます!

正直、ペイン六人だと多勢に無勢だし、初見殺しの能力で不利ですが、一対一なら引けを取らないと思うんですよね~!


昨年は大変お世話になりました!
今年もどうぞ「渦巻く滄海 紅き空」をどうぞよろしくお願いいたします!! 
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