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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
 【第8章】なのはとフェイト、復職後の一連の流れ。
   【第6節】新暦87年の出来事。(後編)



 また、その〈デムロクス事件〉が片付いて数日後、ミッドでは予定どおり7月17日に、トーマ(21歳)とメグミ(17歳)の結婚式がありました。ドナリムから戻って来たばかりの「なのはたち七人」も、ヴィヴィオたちとともにこれに出席し、二人を祝福します。
 トーマとしては、特務六課の頃のことを考えると、八神司令(出張中)やアイシス(音信不通)にも来てもらいたかったところですが、そこは仕方がありません。
 結婚後、今まではずっと上手く語れずにいた81年当時のことを、トーマはようやくメグミにもぽつりぽつりと語り始めたそうです。

【なお、この二人の間には、89年5月に長子サトル(悟)が、94年6月に長女マユミ(檀)が、そして、99年8月には次子カケル(駆)が、104年4月には次女ノゾミ(望)が生まれますが、四人とも、それほど強い魔力の持ち主にはなりませんでした。
 ただし、長女のマユミ・ナカジマは、新暦110年に16歳で某女性執務官(25歳)の新たな事務担当補佐官となり、「次の世代の物語」でもそれなりに重要な役を演じることになります。】

 トーマ(21歳)「次は、いよいよエリオくんやキャロちゃんが結婚する番かな?」
 エリオ(22歳)「いやいや。ボクらよりも、ティアナさんやスバルさんの方が先だろ」
 ティアナ(28歳)「!」
 スバル(27歳)「……」

【この時点では、エリオもキャロも、まさか自分たちが三年後には「それぞれ」同時に配偶者を迎えることになろうとは、まだ夢にも思ってはいませんでした。】


 また、ちょうど同じ頃、ルーテシアの「秘密の別荘」では、ジークリンデ(24歳)が女児を出産していました。彼女が、半年ほど前からずっとこの地に潜伏していたのも、すべては、この出産を秘密にするためだったのです。
 ファビア(21歳)とルーテシア(22歳)の的確な介助のおかげで、ジークリンデは何の困難も無く、初めての出産を無事に乗り切ることができました。
(実は、産婆(さんば)の仕事も「魔女の(わざ)」の得意分野のひとつなのです。)

(ウチ)はもう、君ら二人には、ホンマに頭が上がらんなあ」
「そんなことは気にしなくて良いけど……本当に、御家族にも誰にも知らせなくて大丈夫なの?」
「世話になっとる身で物事を要求するのは、(ウチ)としてもメッチャ心苦しいんやけどな。この子が完全に離乳するまでは、(ウチ)(ほか)の人にまで気を回しとる余裕が無いんよ。それまで、あと二年ちかく……少なくとも二十か月以上は……このまま潜伏させてもらえんやろか?」
「普通は、離乳まで、そんなにかかりませんけどね」
「ごめんな、クロにゃん。エレミアの一族は、ちょぉ特殊なんよ」
「その辺りの事情も、いずれきちんと聞かせてもらえるんでしょうね?」
「もちろんや。もう少し落ち着いたら、二人には、他の誰よりも先に話すよ。詳しくは、シャマル先生にもよぉ言えんかった話や。取りあえず、今回、八神提督には世話になったしなあ。提督とシャマル先生にだけは『無事に生まれた』と伝えといてや」
 身勝手と言えば、確かに身勝手な態度ですが、どうやら、エレミアの一族には「戦闘記憶」以外にも、いろいろなものが受け継がれてしまっているようです。

【この章の「第2節」の末尾で述べたとおり、昨86年の末に医療船団の一員としてベルカ世界を訪れたシャマルは、年明けには「とある人物」とともに早々と〈本局〉に帰投していたのですが、実は、その人物とは「妊娠が確認されたジークリンデ」でした。】


 一方、ギンガ(戸籍上、29歳)とチンク(戸籍上、28歳)は、もう三年も前から「本局所属の広域捜査官」をしていましたが、この年の3月28日(カルナージから帰って来た翌日)からは、正式にナカジマ家を離れ、職場のある「ミッド地上本部」の近くに部屋を借りて「二人暮らし」を始めていました。
 そして、7月17日にトーマとメグミの結婚式が無事に終わった直後に、ギンガとチンクの許には地上本部経由で、〈本局〉の広域捜査部からまた新たな指令が届きました。
『ミッド地上の陸士154部隊が、違法薬物の密売人を現行犯逮捕して所持品を調べてみたところ、今までにない「新種の薬物」が確認された。本人の自供によると、密売人の「(もと)()め」から手渡された「実験的な試作品」で、平たく言えば、「命を削って、魔力を一時的にではあるが、大幅に増大させる薬物」なのだそうだ。
 だが、密売人の自供に基づいて、同部隊がそのアジトに踏み込んだ時には、すでに「元締め」たちは三つのグループに分かれてバラバラに別の世界へ、それぞれドナリムとセクターティとシガルディスへ逃亡していた。どれが本命かは解らないが、君たちは取りあえずシガルディスに飛んでほしい』
 そこで、ギンガとチンクは、すべてが無駄骨となる可能性も承知の上で〈本局〉が用意した医療船に乗り、〈管14シガルディス〉の「西の大陸」へと出かけたのですが……どうやら「当たり」を引き当てたようです。

 しかし、現地の陸士隊の態度は、一体なぜそこまで意固地(いこぢ)になっているのか、驚くほどに非協力的なものでした。
 第五州都ドゥムゼルガで地道な捜査を進めるうちに、ギンガとチンクは、この違法薬物の開発者が「シガルディスの裏社会では、その名も高き」悪の天才技術者ヂェムザン・ノグメリス(57歳)であることを突き止めたのですが……。
 8月になってそれが解った途端に、現地の陸士隊は(ギンガとチンクの制止の声を振り切って)いきなり博士の「隠れ家」を強襲します。
 しかし、その結果は『博士は自決。資料は焼却処分。博士の有能な助手でもあった1男1女は、燃え上がる隠れ家から無事に逃亡』という、「ほとんど最悪」と言って良いモノになってしまいました。

 しかも、どうやら、逃亡したノグメリス兄妹(兄ザロガン24歳と妹ヴェレニィ18歳)は、薬の現物(げんぶつ)とその資料を持って何らかの「犯罪組織」に合流しようとしているようです。
 それが一体どんな組織なのかは、その時点ではまだよく解ってはいなかったのですが……相手がこれほどまでに警戒してしまっているのでは、もう『これ以上、泳がせておく』ことになど、何のメリットもありません。
 ギンガとチンクは、その合流を力ずくで阻止すべく動くと同時に、現地陸士隊のさらなる暴挙を予期して、医療船経由で〈本局〉に執務官の派遣を「緊急要請」しました。
 この事件を「執務官案件」にしてしまえば、現地陸士隊の勝手な行動を「法的に」抑制することが可能となるからです。
(もちろん、自力で解決した方が業務上は「高得点」になるのですが、もはやそんな些細(ささい)なことを気にしている場合ではありません。)

 一方、その日の夕刻になると、ザロガンは『このままでは逃げられない』と悟ったのでしょう。せめて妹のヴェレニィだけでも逃がそうと、みずからその薬物を街中(まちなか)で使用しました。
 変身魔法の暴走でしょうか。小柄な若者の体は見る見る巨大化し、何やらバケモノじみた、醜くドス黒い獣のような姿へと変貌を遂げていきます。
 チンクは速やかに一般市民の避難誘導に移り、ギンガは「逃げ遅れた小児(こども)ら」を助けた後、単身でその「怪物(モンストルム)」の鎮圧に向かいました。

【その小児(こども)らの中には、現地の陸士隊に所属するロスコォ・ファザムレェ三等陸尉の1男1女、兄イヴェリム(13歳)と妹アデルカ(8歳)も含まれていました。
 そして、翌年(新暦88年)の春、ロスコォ三等陸尉は首都ヴォグニスへ異動となり、妻子とともに〈中央島〉へと移り住みました。
 後に、この兄妹は首都圏で管理局に入って捜査官となり、妹の方はさらに「憧れの人物」と同じ広域捜査官を目指すことになります。】

 しかし、今や身長に軽く二倍以上の開きがあるので、ウイングロードなしでは普通に殴りかかることすら容易ではありません。
 ザロガンは、周囲の車を持ち上げて投げつけて来たりもしましたが、幸い、元々の魔力があまり強くはなかったようです。チンクが一般市民の避難誘導を終えて応援に入ると、形勢は一気に傾き、ザロガンは意外なほど呆気(あっけ)なく倒されました。
 このことからも、彼が『元々は、自分でこの薬物を使うつもりなど全く無かった』ことは明らかです。本当に、妹一人を逃がすためだけに、みずから犠牲になったのでしょう。
 ヴェレニィには、薬の現物(げんぶつ)やその資料とともに、まんまと逃げられてしまいましたが、彼女には「違法クローン疑惑」もあるため、ギンガとチンクにとっては彼女のことも「他人事」とは思えませんでした。

 意識を失って路上に倒れるとともに、ザロガンの体は元の姿に戻りましたが、その時には、彼はすでに絶命していました。
 たったこれだけのことでいきなり死んでしまうとは、違法薬物としても明らかに「欠陥品」ですが、それも『まだ試作品だから』なのでしょうか。
 ともかく、この遺体は何としてでも軌道上に待機している医療船に転送し、薬物の影響や血液中の残存成分などについても精密な検査をしなければなりません。
 しかし、そこでまた、陸士隊の妨害が入りました。第五州の総部隊長(一佐)がみずから現場に出て来て、『それぐらいの検査なら、ウチでもできる』と遺体の引き渡し要求を拒否したのです。
 彼は、17年前の「シガルディスでは、歴史に残るほどの大事件」で、故ヂェムザン・ノグメリス博士とは浅からぬ因縁があり、それで意固地になっていたのでした。

 こうなると、広域捜査官の立場では「法的に」要求を通すことができないのですが、幸いにも、先程の「緊急要請」が素早く聞き入れてもらえたようです。
 まだ「二年目の新人」であるメルドゥナ・シェンドリール執務官(25歳)が、医療船経由の即時移動で急ぎその場に駆けつけてくれたおかげで、二人は部隊長らの要求を突っ()ね、無事にザロガンの遺体を医療船に回収することができました。

【もちろん、対立すること自体が目的ではないので、第五州の総部隊長に対してもメンツを丸潰れにはせぬよう、『ザロガンの血液サンプルを採取して、それを手渡す』など、ギリギリの線までは妥協します。】

 後に、この一件は、その薬物を開発した博士の苗字を取って〈ノグメリス事件〉と名付けられ、その薬物も「変身(shape-shift)」の「シフト」から名を取って、〈シフター〉と命名されました。
 また、その後の追跡調査で、この事件には〈永遠の夜明け〉も関与していることが解ったため、ギンガとチンクはまた「ヴァルブロエム・レニプライナ」などに関する話を聞けないものかと、スカリエッティに通話で面談したのですが……。
 あの〈マリアージュ事件〉からは9年、〈ゆりかご事件〉からは()や12年。ドクターと四人のナンバーズは、もう哀れなまでに変わり果てた姿になっていて、ギンガとチンクは相当に驚きました。
【この事件については、また「インタルード 第5章」で詳しくやります。】


 さて、はやては、8月の末に〈ヴォルフラム〉で本局に帰投しました。
 そこで、フェイトから個人的に〈デムロクス事件〉の報告を受けます。
 二人はよく話し合った結果、「三脳髄の話」は、やはりエリオやアインハルトたちにも秘密にする方向で合意しました。亡き「三元老」の遺志を継ぎ、こんな「腐った真実」を背負うのは、自分たちの世代で最後にするべきだと考えたのです。
「でも、はやて。アインハルトが報告書を提出するよりも先に、〈上層部〉から自分たち七人には『箝口令(かんこうれい)』が敷かれたわ。やはり、〈上層部〉には今も『三脳髄のことをよく知っていた人物』がいるんじゃないのかしら?」
 フェイトの疑惑は、至極もっともなものでした。どうやら、上層部の将軍たち一人一人に探りを入れてみる必要があるようです。


 また、9月になると、はやては、ギンガとチンクからも個人的に〈ノグメリス事件〉の報告を受けました。
『永遠の夜明け〈シガルディス支部〉の残党ども(?)が、また組織を復興させたらしい』というのも実に嫌な話でしたが、彼等も17年前に一度は滅ぼされた経験から、今度は随分と慎重になっているようで、所在地などに関して、なかなか尻尾を(つか)ませてはくれません。
 当面の間、組織そのものへの追及は現地の地上部隊に任せ、次元世界全体としては「彼等が扱う薬物への対処」を優先させた方がむしろ現実的な対応でしょう。
 実際、その後も〈シフター〉は少しずつ改良を重ね、それを使用した事件は各地で(あい)()ぎました。そして、いつしか、それらの事件はまとめて〈モンストルム案件〉と総称されるようになっていったのです。


 一方、10月の上旬には、今年もIMCSの都市本戦が(もよお)されました。
 その都市本戦で、アンナ(18歳)は、ついに優勝を遂げます。
 双子のファルガリムザ姉妹(15歳)は惜しくも、昨年に続いて『都市本戦に出場はしたものの、二回戦負け』となり、ベスト8進出は成りませんでした。
 なお、ナカジマジムでは、新人たちもそれなりに健闘したようです。
 その後、アンナは都市選抜に勝ち、世界代表戦でも決勝戦にまで進出して、改めて「覇王流」の名を世に知らしめたのでした。


 一方、エルセア地方では同じ頃、クイント(享年、26歳)の20回忌がありました。
 ギンガもスバルも仕事の都合で来られなかったため、今回はノーヴェが、ゲンヤ(58歳)に同行します。
 その席で、ゲンヤは(1年、前倒しにして)5年後に、自分たちの方でクイントの「祀り上げ」をすることを、クイントの両親と約束しました。
 ラウロ(83歳)とカーラ(87歳)はすでに健康上の問題を(かか)えており、『あと五年も六年も、生きていられるかどうか解らない』と言うのです。
 また、ノーヴェは、この二人に会うのは初めてでしたが、もうヨレヨレの「祖父母」に()わる()わる抱きしめられて、いろいろと思うところがありました。

 また、その月の下旬には、管理局の主催で、ミゼット提督ら〈三元老〉の10回忌が(いとな)まれました。
 局を()げての盛大な儀式になりましたが、当人たちの身魂(みたま)がこれを喜んでいるかどうかは、疑わしいところです。


 そして、11月になると、メガーヌとルーテシアとファビアが、地元でひっそりと「ルーテシアの父親、および四人の祖父母」の20回忌を営みました。
 五人の10回忌は、ルーテシアとメガーヌが(カルナージに転居する直前に)マウクランの方で済ませています。
 遺骨や墓がここにある訳ではないので、ごく簡素な式になりましたが、そこで改めて五人が死亡した経緯(いきさつ)を聞くと、ファビアは思わず正直な感想を述べました。
「そのスカリエッティとかいう奴は、許せませんね。もし今ここにいたら、私がこの手で息の根を止めてやるのですが」
「私は可愛い娘に犯罪者になってほしくはないから、彼にはいつまでも衛星軌道拘置所の中に引き(こも)っていてほしいけどね」
 メガーヌはそう言って、ファビアをそっと抱きしめました。ルーテシアも軽く笑って、こう述べます。
「チンクも先日、『久しぶりに回線をつないで見たら、もう哀れなまでに変わり果てた姿になっていた』とか言ってたからね。私も、あの連中はみな、このままあの場所で空しく朽ちて行けば良いと思ってるわ。だから、あなたがわざわざ腹を立ててやる必要なんて無いのよ」

 ややあって、メガーヌはふと思い出したように、ファビアに問いました。
「そう言えば、あなたの実の御両親の命日って何月ごろだったかしら?」
「あの人たちのことは、別にもう祀らなくて良いですよ。親らしいことなんて、何もしてもらった記憶はありませんから。それより、再来年の2月になったら、今日の式と似たような感じで、私の祖母マルーダの10回忌をやっていただけませんか?」
「ええ。もちろん、やりましょう。可愛い孫に祀ってもらえれば、マルーダさんの身魂(みたま)もきっと浮かばれるでしょう」

 そこまで言ってから、メガーヌはまた不意に、先月、ジークリンデの娘をちょっと抱っこさせてもらった時の感触などを思い出しながら、少し悪戯(いたずら)っぽい口調で二人の娘たちに言いました。
「そう言えば、『孫』で思い出したんだけどさ。私の孫って、まだなのかしら?」
「ええ……。(絶句)」
「これはまた……いきなり来ましたね。(困惑)」
「まだ相手だって見つかってないんだから。ママ、もう少し気長に待っててくれる?」
「はーい。待ってまーす。(良い笑顔)」
《ルー(ねえ)。もしかして……母さんって、実は、お茶目な性格だったんですか?》
《普段はそうでも無いんだけど……時々、不意にああなるのよねえ。今日は朝からお酒でも入れて来たのかしら?》
 ルーテシアとファビアはそろって困惑気味でしたが、実のところ、メガーヌはそれほど何年もは待たずに済んだのでした。


 
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