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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
 【第5章】エクリプス事件の年のあれこれ。
   【第2節】エクリプス事件の決着。


 しかし、その頃、〈エクリプス事件〉は全く新たな展開を迎えていました。
 時は、新暦81年7月末。場所(ところ)は、ミッド第一大陸〈東半部〉の北東区画、東の外洋にも面した一面の荒野の只中(ただなか)にある「レゾナ(ひがし)中央拘置所」です。
【この辺りの状況については、Forceのコミックス第6巻(最終巻)を御参照ください。】

 戦闘による爆炎の中、特務六課の目の前で、ハーディス(34歳)は不意に何らかの魔法を使い、何処(いずこ)へともなく姿を消して、(ひと)り戦場から離脱しました。
 どうやら、「個人転送」のようです。
 特務六課の面々も、まさか彼がそんな「特殊な魔法資質」の持ち主だとは、微塵も想定していなかったため、とっさに対応が遅れてしまいました。
 しかし、個人転送ならば、現状で「ミッドから直接に行ける世界」はヴァイゼンだけ。しかも、ここと「同じ緯度、同じ経度」の場所は、ヴァイゼンでは「島どころか岩礁のひとつも無い、深い海の上」になるはずです。
 だからこそ、『さすがに、それは無いだろう』と油断していたのですが、どうやら、ハーディスはミッドに来た時から「いろいろと」周到な準備をしていたようです。

 特務六課でも個人転送ができる者は、数が限られていました。この状況でわずかな人数の追手を差し向けたとしても、向こうの「準備」次第では最悪の場合、返り討ちということもあり得ます。
 特務六課は即座に、ヴァイゼンの海上警備部に捜索を依頼しましたが、結局のところ、ハーディスの姿を発見することはできませんでした。
 また、はやてからの報告を受けて、管理局の〈上層部〉は速やかに、ハーディス・ヴァンデインに対して「広域逮捕令状」を出し、すべての管理世界のすべての地上部隊に、これをよく周知させました。これでもう、ハーディスは管理局全体を敵に回したことになります。

 そうした管理局の動向を知った〈フッケバイン〉も、急いでヴァイゼンへ飛びましたが、通常の次元航行では何時間もかかってしまいます。ヴァイゼンでは長らく海の上を探し回ったりもしましたが、すでに何処(どこ)かへ移動した(あと)なのか、やはり、ハーディスの姿を見つけることはできませんでした。

 一方、特務六課の面々は〈本局〉に艦船の増援を要請しつつ、〈ヴォルフラム〉で一旦は首都圏の上空に立ち寄りました。その場でシャマルとアギトを地上に降ろし、〈フッケバイン〉よりは少し遅れて、ヴァイゼンへと向かいます。
 なお、ヴァイゼンから直接に「個人転送」で行くことのできる管理世界は、(ミッドの他には)ゼナドリィとフォルスとフェディキアの三つです。
 特務六課はそれらの世界の陸士隊にも応援を頼み、「同じ緯度で、同じ経度の場所」を重点的に調べてもらいましたが、やはり、ハーディスの足取りはつかめませんでした。


 一方、シャマルとアギトは、増援の艦船に便乗して(あと)から〈ヴォルフラム〉に追いつく予定で、一旦は海辺の自宅に戻り、替えの下着などを車に積めるだけ積み込みました。今度はもういつミッドに戻って来られるか、解らないからです。
 そして、出発しようとしたところへ、(もと)八神道場の生徒たちが偶然に通りかかり、庭先でシャマルが『みんな、あれから、元気だった?』などと少しだけ立ち話を始めました。

 しかし、ちょうどそこへ、金で雇われたテロリストが現れ、爆薬を使って八神家に襲撃をかけて来ました。
 シャマルはとっさに小児(こども)らを(かば)い、結果として、襲撃者に対しては主にアギトが応戦する形になりましたが、じきに、そのテロリストは誤って(?)その場で盛大に自爆し、八神家の家屋も丸ごと爆破され、炎上してしまいます。
 アギトは全力のシールドで「至近距離での爆発」からシャマルと小児(こども)らを護りましたが、その代償として、彼女の体は相当に深刻な損傷を受けてしまいました。ユニゾンデバイスそれ自体は本来、必ずしも「戦闘向きの機体」では無いのです。
 完全な機能停止(本物の死)を防ぐため、アギトはやむを得ず、みずから「昏睡モード」に入りました。
 幸いにも、小児(こども)らは、みな無傷だったため、シャマルは泣き出す小児(こども)らをなだめて、各々の家へと帰らせます。
 そして、シャマルは大急ぎで〈本局〉のマリエル技官に連絡を取りながら、車で最寄(もよ)りの転送ポートへ行き、壊れかけのアギトを抱いて〈本局〉へと飛んだのでした。

 それとほぼ同じ頃、ナカジマジムにも近い某公園広場では、エクリプス感染によってすでに病化が始まった「出来(でき)(ぞこ)ない」の名も無き末期感染者が、ヴィヴィオたちを襲撃していました。
 一般市民はみな即座に避難したので、幸いにも人的な被害は出ませんでしたが、実は、これらは両方とも、ハーディスが特務六課を足止めするために(けしか)けたものでした。できれば人質を取ることも視野に入れていたようです。

【さて、全く個人的な話で恐縮ですが、私には「本物の悪党」を美化する趣味など無いので、この作品では、ハーディスたちを原作よりももう少し「汚い人物」として描写することにします。】

「出来損ない」だけあって、「感染者としては」まともな強さではなかったものの、アインハルトら、居合わせたナカジマジムのメンバーだけでは、その敵に全く歯が立ちませんでした。
 ノーヴェが必死の防戦に努めていたところへ、万が一に備えて待機していたシスター・シャッハとシスター・セインが急ぎ駆けつけます。
 また、『カルナージへ帰る前に、ちょっと顔を出しておこう』と偶然に立ち寄ったルーテシアとファビアも、急遽(きゅうきょ)そこへ乱入しました。

 敵がノーヴェとシャッハに対して間合いを取り直すと、セインは「ディープダイバー」で地中に(もぐ)り、いきなり両手だけを地上に出して敵の両足首をつかむと、敵の体を胸元まで一気に地中へと引きずり込みます。
 そして、感染者が唐突に身動きの取れない状況に(おちい)ると、ファビアはそこへすかさず「殺意に満ちたレベル」の精神攻撃魔法を叩き込みました。
 すると、以前から精神的には相当に不安定な状況にあったのでしょう。感染者は唐突に発狂し、半ば地中に埋まったまま、いきなり〈自己対滅〉を起こします。

 もちろん、ルーテシアはその現象に関して、何の予備知識も持ってはいなかったのですが、それでも、ルーテシアは不意に「嫌な予感」に駆られ、感染者の体を中心に、素早く「地中をも(おお)う球形の小さく強固な結界」を張ります。
 そのおかげで、間一髪、爆風は結界内に封じ込められ、周囲には何の被害も出ませんでしたが、ルーテシア自身は、その反動を一人ですべて受け止めた形となり、その場で不意に倒れ込んでしまいました。

 そこで、シャッハはヴィヴィオたちに、『実は、「ヴィヴィオの身が危ないかも知れない」という予言があったので、しばらく前から、こっそりと張り付いていた』ということを白状しました。
 幸いにも、ヴィヴィオ自身は「ほぼ無傷」と言って良い程度のカスリ傷だけで済んでいます。
 それでも、アインハルトは、ヴィヴィオを完全には守り切れなかった「(おのれ)の力不足」を恥じると同時に、自分の彼女に対する感情が、もはや単なる「好意」や「友情」などではないことを今さらながらに自覚してしまったのでした。
【以上が、7月末日の、いわゆる「ヴィヴィオ襲撃事件」の概要です。】

 また、ルーテシアも幸いにして、ただ単に爆発の衝撃で一時的に意識が飛んだだけだったのですが、大事を取ってシスター・シャッハに車で最寄りの転送ポートまで送ってもらい、ファビアも同行する形で〈本局〉の医療部へと(かつ)ぎ込まれました。
 ルーテシアはじきに、問題なく目を覚まします。
「ごめんなさい、ルー(ねえ)。私が短慮でした。まさか、人間の体が突然あんな爆発を起こすだなんて……」
「あなたのせいじゃないわ。あんなの、事前に知っていなければ、解るはず無いじゃないの」
 ルーテシアは、ファビアの謝罪にも優しくそう(こた)えました。
 しかし、二人はやがて、同じ頃にアギトが〈本局〉に(かつ)ぎ込まれたと聞き及びます。
 そして、ルーテシアは、アギトの状況が相当に深刻なものであると知ると、まるで自分のことのように深く心を痛めたのでした。

 ルーテシアは、昏睡するアギトの許を訪ね、『自分たちも何か力になれませんか?』と申し出ましたが、シャマルからは『これ以上、あなたたち「民間人」を巻き込む訳にはいかない』と言葉を返されてしまいました。
 確かに、アギトの状況を聞く限り、今の自分たちが彼女のためにしてあげられることは何も無さそうです。
 やがて、ルーテシアとファビアは仕方なく、二人でカルナージに戻りました。
 そして、その後、シャマルは「増援の船」に乗り込んでヴァイゼンへ飛び、はやてやシグナムらにアギトの状況を伝えたのでした。


 さて、ルーテシアは、ミッド地上で「自分のルーツ探し」を一段落させた後に「ヴィヴィオ襲撃事件」の阻止にも一役(ひとやく)買い、それから〈本局〉を経由して、8月の初日にはファビアとともに、おおよそ百日ぶりでカルナージに帰って来た訳ですが、そこには「全く想定外の状況」が彼女を待ち受けていました。
 確かに、ルーテシアは(このところ、母メガーヌが少し疲れ気味だったので)ファビアと二人でカルナージを()つに際しては、ガリューに『私たちは、しばらく留守にするけど、ママのこと、お願いね』と「よくよく」頼んでおきました。
 そして、5月になると、メガーヌからのメールで『何だか、最近、ガリューが時々、マフラーを(はず)しているみたいなんだけど、あれって何か意味があるのかしら?』などと訊かれたこともありました。
 あの赤いマフラーは元々、ルーテシアが(あと)からガリューに与えたモノであって、召喚した時点での「初期装備」ではありません。
 ガリューの行動の理由はルーテシアにもよく解りませんでしたが、一応、メールではメガーヌに『あのマフラーももう古いから、またそろそろ替えを用意してあげなければいけないのかも』などと答えておいたのです。

 しかし、カルナージに帰ってみると、何と、ガリューが「二体」いました。
 どうやら、ガリューが『よくよく頼まれてしまったものの、自分一人では少し手が足りない』と考えて「仲間」を呼んだらしいのですが、ルーテシアにしてみれば、『あなた、そんなコト、できたの?!』という感じです。
 彼等は、人間の言葉や感情を理解した上で行動を取ることができますが、彼等自身は(しゃべ)ることができない上に、表情の変化も無く、文字も書けないので、人間の側は彼等の「意図」をさほど正確には理解することができません。
 個体差も特に無く、マフラーが無いと誰にも見分けがつかない上に、人間が「ガリュー」と呼ぶと、何故(なぜ)か二体とも来てしまうので、ルーテシアは仕方なく、新しく来た方のガリューには青いマフラーを与えて、昔からいる方を「赤ガリュー」と、新しく来た方を「青ガリュー」と呼び分けることにしました。(苦笑)


 こうして、エクリプス事件の舞台は、ミッドからヴァイゼンに移りました。
 そこに、ハーディスの姿はもうありませんでしたが、首都ジェランドールでは〈カレドヴルフ・テクニクス本社、襲撃事件〉が起きて、トーマ(15歳)の過去の因縁が明らかとなります。
 実のところ、5年前の「遺跡鉱山崩壊事故」の時点では、トーマもまだ10歳の小児(こども)で、親たちから詳しいことは何も聞かされていませんでした。
 しかし、CW社のグレイン・サルヴァム会長は、過去にかなり悪辣(あくらつ)なこともやって来た人物で、多方面から怨みを買っていたようです。
 トーマの故郷を破壊した二人組の犯人は、〈CW本社、襲撃事件〉の最中(さなか)に、『五年前の一件は、グレイン・サルヴァム個人への報復でもあった』と語りました。
 しかし、具体的に『どのあたりが、どういう意味で報復だったのか』については何も語らぬままに、その二人組はとうとう〈自己対滅〉を起こして爆死してしまいます。
 そのため、本社ビルはほぼ全壊してしまいましたが、グレイン会長は普段から本社にはいないので、彼自身は全くの無傷でした。

 この一件で、ギンガとチンクは一連の戦闘の際に、民間人を(かば)って深手を負い、戦闘を継続できなくなってしまいました。
 ギンガはやむなく、左のリボルバーナックルをスバルに(たく)して、チンクとともに戦線を離 脱し、ミッド首都東部郊外の「局員専用病院」へと搬送されていきます。
(そして、これ以降、スバルは「左右の」リボルバーナックルを完全に使いこなせるようになったのでした。)

 
 また、9月に入ると、再びハーディスがその姿を現わし、主戦場は〈管8フォルス〉の第三首都クラドモクスの郊外に移りました。
【なお、ヴァイゼンの首都ジェランドールは、ヴァイゼン第一大陸の東端部に(ミッドの首都圏ともほとんど時差の無い場所に)あります。
 あの日、ハーディスは、そのジェランドールから東へ時差が2時間ほどもある洋上へ、ミッド東端部の拘置所から自力で個人転送をした後、かねてからその洋上に準備させておいた船に乗って、その「東の大洋(うみ)」をさらに東へと渡っていました。
 そして、彼はそのまま東方の第三大陸に上陸し、首都ジェランドールとは8時間もの時差がある場所から、また「個人転送」で今度はフォルスへと飛んでいたのです。】

 いろいろあって、アイシスは罠にはまり、〈フッケバイン〉の中に捕らえられてしまいました。
 そして、好き放題に暴れ始めたハーディスと〈フッケバイン〉と、またもや正気を失ってしまったトーマを止めるために、キャロは6年ぶりにヴォルテールを召喚します。

 真竜ヴォルテールは、キャロの願いどおりに第三首都クラドモクスを護りつつ、その強大な魔力で、ハーディスとトーマと〈フッケバイン〉を攻撃しました。
(ゼロエフェクトですら「何故か」真竜には効きません!)
 その結果、エリオの活躍もあって、トーマはようやく正気を取り戻します。

 一方、ハーディスはヴォルテールの攻撃で右腕を物理的に失いながらも、本拠地のリベルタへと逃亡しました。
 本来ならば、フォルスからリベルタまでは、とても「個人転送」では飛べない距離のはずなのですが……これもまた、「原初の(たね)」の能力(ちから)なのでしょうか。
 また、ヴォルテールによって「物理的に」撃墜され、大きく破損した〈フッケバイン〉も、執念でハーディスの後を追いました。

【この作品では、物語の都合上、真竜の能力には、いささか上方修正を(ほどこ)しました。悪しからず、御了承ください。】

 しかし、ヴォルテールは、「重傷」を負ったフリードを抱き上げると、有無を言わさず「軽傷」のキャロをも抱き上げて巨大なバリアを張り、「個人転送」の要領で(つまり、通常の亜空間経由で)人間たちの都合など「お構いなし」に、勝手にアルザスへ帰ってしまいました。
 おそらく、真竜にとっては、「同族や巫女の無事」よりも大切な事柄など、人間の世界には何ひとつとして存在していないのでしょう。

 一方、深手を負ったエリオは、それでも「正気に返って謝罪するトーマ」を強く励ましてから、ついに意識を失いました。
 そして、特務六課の一同は、エリオたち負傷者をクラドモクスの中央病院に残して、トーマらとともに、〈ヴォルフラム〉で急ぎハーディスを追って〈管16リベルタ〉へと向かったのでした。


 決戦は9月半ば。舞台は、リベルタの首都メラノスです。
 それは、海上浮遊型の巨大な人工島「ギガフロート」の上に築かれた巨大都市でした。
 ハーディスは、みずからの根拠地で、秘蔵の「リアクター・ゼロ」と融合し、失われたはずの右腕をも再生して「完全体」となります。
(原作の中で、彼が「娘」と呼んでいたのは、この融合機のことだった、という設定です。)
 これによって、エクリプス事件は「総人口が40億をも超える」リベルタ世界を「丸ごと」滅ぼしかねないほどの大事件に発展したのでした。

【具体的な戦闘シーンの描写は、やり始めると本当に際限(キリ)が無いので、例によって省略します。(苦笑)】

 結果から先に言えば、総員が死力を振り絞った激闘の末に、ハーディス・ヴァンデインも、何々一家とかいう敵集団(感染者たち)も、全員が間違いなく、一人残らず死亡しました。
 実を言えば、「完全体」となったハーディスは、全く人間離れした空戦能力を発揮し、さらには視界にとらえた相手の行動を「すべて」事前に予知できているかのような動きを見せ、最初のうちは〈ヴォルフラム〉も〈フッケバイン〉も揃ってハーディス一人に押されていたのですが……。
 別動隊(決死隊?)の、なのはとフェイト、トーマとリリィが、ユーノ司書長からの新たな情報に基づいて、いわゆる「原初の(たね)」(エクリプスウイルスを生み出す(しゅ)母体)を直接に攻撃し、それを消滅させると、それでハーディスの能力もがくりと半減し、形勢は一気に傾いたのです。


 なお、最終的に、融合機を失って「虫の息」となったハーディスに(とど)めを刺したのは、シグナムでした。
 場所は、巨大な「人工島」の外縁部、誰も見ていない波打ち際です。
 ハーディスの融合機のAIは、人格構成回路や演算処理回路こそ大破していたものの、一見してメモリー部分は完全に無傷で、そこから幾らでもデータが取れるような状態でした。そこで、シグナムは『必ずしも、ハーディス自身から供述を取る必要は無い』と判断したのです。
「……20年の歳月をかけた私の計画が、たかがお前たちごときに、わずか2か月で潰されることになろうとは……。あの真竜と竜騎士さえいなければ、フォルスで(かた)が付いていたものを……」
「泣き(ごと)を言う暇があったら、辞世の句でも()んだらどうだ?」
 シグナムは、静かな殺意とともに、そう吐き捨てました。その殺意に当てられて、ハーディスの表情は、見る見る恐怖に歪んで行きます。
(一度は再生されたはずの右腕も、またいつの間にか、失われていました。)

「待て! 管理世界の法では、死刑は禁止のはずだろう?(息も絶え絶えに懇願)」
「それはあくまでも、法廷で死刑を宣告されることは無い、というだけの話だ。お前には、法廷に立つ資格すら無い。……この卑怯者め。アギトの苦しみの半分でも良い。お前はきちんと苦しんでから、死んで行け」
 シグナムの手を離れたレヴァンティンは「シュランゲフォルム」になって、まるで生きた蛇のように、ハーディスの全身に(から)みついていきました。
「待てえ! 待ってくれえええ!(恥も外聞も無く泣きわめく)」
「(完全に無感情な口調で)レヴァンティン、すりおろせ。骨ひとつ残すな」
レヴァンティンは、ハーディスの全身にギチギチに巻き付いた状態のまま高速回転を始めます。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!(絶叫)」
 こうして、ハーディス・ヴァンデインは、プライドの欠片(かけら)も無く、見るも無様(ぶざま)に、見苦しく死んでいきました。その血飛沫(ちしぶき)はみな、波に洗われ、その遺体は一片(ひとかけら)も残りません。
 良くも悪しくも、後世の歴史家が彼の名を口にすることは決して無いでしょう。

 一方、巨大な人工島から海上に大きく突き出した「桟橋(さんばし)」に引っかかって沈没も寸前という状態の〈フッケバイン〉の艦内では、最後に生き残った女が、ヴィータに向かって呪いの言葉を吐き散らかしていました。
 女は見るからに重傷で、明らかにもう助からない状態ですが、一方、ヴィータは気を失ったアイシスを軽々と肩に(かつ)でいる状態です。
「呪ってやる! 貴様ら、呪ってやるぞおおお!(血涙)」
しかし、ヴィータはフンと鼻を鳴らして、そんな必死の叫びをも軽々と()()けました。
「芸の()え悪党どもめ。こちとら、そんな悪態は、もう昔のベルカでとっくに聞き飽きてるんだよ。あたしにそう言って死んでいったヤツは何百人もいたが、実際には、今まで誰一人として化けて出て来たりはしちゃいねえ。何故だか、解るか?」
「?」
(女はその理由以前に、何故ここで突然「昔のベルカ」が出て来るのかが解りません。)
「地獄に落ちた悪党どもには、他人(ひと)を呪う権利すら()えからさ!」
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!(絶望顔)」

 壁が割れて炎が噴き出し、女は明らかに死亡しました。
 ヴィータは舌を打って、急ぎ脱出しますが、まだAMFが()いているのか、あまり早くは飛べない様子です。
(アイシスの指があり得ない方向に曲がっているのは、拷問の(あと)でしょうか。)

「うっ」
「おう。よく生きてたな」
「ヴィータさん……。あたし、頑張ったんですよ。少しは()めてくださいよ」
「だから、今、『よく生きてた』と誉めただろう?」
(ええ……。それ、誉め言葉なの……。)

 こうして、二人が沈没寸前の〈フッケバイン〉から無事に脱出すると、やがては桟橋(さんばし)もへし折れ、悪党どもの船は、悪党どもの(しかばね)とともにそのまま深い海の底へと沈んで行きました。

【なお、アイシスはそのまま病院送りとなり、退院後は強制的に実家へ引き戻され、そこで長らく「軟禁」も同然の生活を()いられたそうです。】


 また、なのはとフェイトの「決死の活躍」と、リリィの「尊い犠牲」によって、いわゆる「原初の種」も完全に消滅しました。こうして、世界規模の破局(つまり、40億人以上の大量殺戮)は、何とか阻止できたのです。
 しかし、リベルタでは「ハーディスの暴走」と「フッケバインの墜落」によって、首都メラノスが半壊し、一般住民の避難も完全には間に合わず、結果としては「万単位の死者」と「百万単位の被災者」が出るという、その意味では〈JS事件〉をもはるかに凌ぐ大惨事となってしまいました。
 あるいは、メラノスを乗せた「ギガフロート」そのものが沈没しなかっただけでも、僥倖(ぎょうこう)と言うべきでしょうか。
 その際、なのはとフェイトは「例によって」無茶をやり過ぎた結果、揃って肉体的にも(エリオたち以上の)重傷を負った上に(トーマと同様に)リンカーコアまで「損傷」してしまい、二人とも「一時的に」ですが、リベルタ世界を救った代償として、魔法を全く使えない体になってしまいました。


 なお、特務六課の旗艦〈ヴォルフラム〉は、今回の戦いで医務室や機関部にも相当な損傷を受けていたため、なのはとフェイトは、ザフィーラたちの手で増援の「医療船」に収容されると、シャマル先生や同じく重傷を負ったトーマらとともに、(ただ)ちにミッドへと移送されて行きました。
 現地に残った一同は、何日か現場の事後処理に当たった後、後続部隊に作業の引き継ぎをさせてから、リベルタを離れます。〈ヴォルフラム〉も機関部に損傷があり、速度はあまり出せませんでしたが、それでも、ミッド経由で何とか〈本局〉に帰投しました。
 満身創痍(まんしんそうい)の〈ヴォルフラム〉は、そのまま「ドック入り」となります。

 しかし、〈本局〉ではやてを待っていたのは、〈上層部〉による厳しい「査問」でした。今さらながら、例の件で、敵対する組織との「内通や裏取引」を疑われたのです。
【この「例の件」については、Forceのコミックス第4巻を御参照ください。】


 何日かして、はやてが「おおむね」無罪であることは立証されたのですが、それでも、『現実に万単位の死者を出した』という事実は(くつがえ)りません。
 結局、はやてと八神家一同は揃って「半年間の謹慎処分」となり、特務六課も、10月の上旬には、速やかに「強制的に」解散させられてしまいました。
 しかし、それにもかかわらず、その後、管理局内では「八神はやて」を英雄視する者たちが、次第にその数を()してゆくことになります。
【PSP用のゲームの後日譚では、『新暦82年になっても、特務六課が存続している』かのような描写になっていましたが、この作品では、こういう設定で行きます。】


 
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