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英雄伝説~西風の絶剣~

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第87話 蛇の使徒

side:リィン

 エンネアとの戦いを終えた俺は同じくアイネスとの戦いを終えたフィーと合流していた。後はラウラだけなのだが……


「リィンから離れて……!」
「あらあら、ヤキモチかしら?可愛いわね」


 俺を挟んでフィーがエンネアに殺気を飛ばしていた。フィーと合流した際彼女は嬉しそうに俺に駆け寄ってきたが俺の右腕を抱きしめるエンネアを見て表情を強張らせてしまいこうなった。


 俺の左腕にくっ付いてエンネアを威嚇するフィー、そんな彼女の殺気を涼しい顔で受け流しながらエンネアは微笑んでいた。


「リィンはわたしとラウラの恋人なの。出会ったばかりなのにベタベタしないで」
「余裕が無いのね、私は別に彼と恋仲になろうとは思っていないわ。気に入ったから仲良くしたいって思うのは普通の事でしょ?」
「嘘、リィンを見る目がシャーリィとかと同じ。油断できない」
「ふふっ、その貧相な体と同じで心も小さいのね。どっしりと構えて男を見守るのも良い女の秘訣よ」
「殺す」


 ノ―タイムで銃剣を構えるフィー。流石に拙いと思った俺は彼女を抑えた。


「フィー、落ち着け!挑発に乗るな!」
「離して……!私だって成長してる!ちょっとは胸も大きくなった……!」
「それで?もうちょっと栄養を取った方が良いわよ、こんな風に♡」


 鎧の上からも分かる豊満な胸を張りながらフィーにそう言うエンネア、それを見た俺は思わず唾を飲んでしまう。


「リィン?まさか敵に見惚れてないよね?」
「えっ!?み、見惚れてないけど!?」


 いつの間にかフィーの怒りの矛先が俺の方に向いていた!拙いぞ!?


「だいたいリィンも悪いんだよ?どうして戦った女と仲良くなるの?シャーリィとか他の猟兵団に所属していた女猟兵にも言い寄られていたことあったよね?」
「シャーリィは別にそういう関係じゃないしアレはからかわれていただけだろう……」


 再会するたびに笑って殺し合いを求めてくる女とどうやってそんな仲になれと言うんだ。それに女猟兵の件も相手は俺をからかって遊んでいるだけだろう。


「リィンの馬鹿、すけこまし、鈍感、女たらし、優柔不断、スケベ」
「ぐっ、そんなマシンガンみたいに悪いとこを言わなくてもいいだろう」
「ふん」


 ふてくされてしまうフィー、一体どうすればいいんだよ……


「うふふ、仲が良いのね」
「アンタのせいで不仲になりそうだけどな、面倒な事をしてくれたよ」
「なら私と恋仲になる?その子はもう貴方なんて嫌いでしょうし」
「駄目!リィンは渡さない!」


 エンネアがそう言うとフィーは凄い勢いで俺の顔に引っ付いてきた。苦しい……


「なあリィン・クラウゼル。今度私と手合わせをしてくれないか?フィーと共に強くなってきたお前の腕前をぜひ試してみたい」
「この状況でマイペースな奴だな……」


 アイネスが手合わせをしたいと言ってきたが目の前の状況が分からないのか?案外天然なのかもしれないな。


「待たせてしまい申し訳ありません」


 その時だった、魔法陣が現れてそこから信じられないような闘気を感じた俺とフィーは即座に戦闘態勢に入った。


(なんだ、この闘気は……!?今まで多くの達人に出会ってきたがそれとはまた違った異質なものを感じるぞ!?)
(例えるなら人間じゃなくて嵐や雷といった自然災害が襲ってきたときの恐怖を感じた、本当に人なの……!?)


 そこから現れたのは全身を鎧で覆い隠した人物だった。だがそれは人と言うにはあまりにも大きすぎる闘気を感じさせる。


「リィン!フィー!」
「ラウラ!無事だったんだな!」
「良かった……!」


 俺とフィーは一緒に現れたラウラを見て彼女に駆け寄っていった。


「そなた達も無事のようだな。フィー、そなたに貰った閃光手榴弾は役立ったぞ」
「ソレを使ったって事は強かったんだ、あのデュバリィって奴は」
「いやアリアンロードという人が戦いを中断させたんだ、正直あのまま続けていたら勝てたかは分からなかった」
「そうか、俺もかなり苦戦したからな。筆頭と呼ばれるだけの事はあるって訳か」


 どうやらラウラは引き分けたようだな、はたから見ても格上だったデュバリィという剣士に引き分けたラウラは流石だと思う。


「筆頭、どうやら負けたようだな」
「ええ、あの結果は私の負け同然ですわ。貴方達も手痛い結果になったようですわね」
「そうね、私の中に一切の油断が無かったとは言えないわね。それを踏まえてもリィンは強かったけど」
「フィーも素晴らしい戦士だった、私達もまだまだだな」
「ええ、その通りですわね。帰ったら徹底的に鍛え直しますわよ」


 同じく姿を現したデュバリィにアイネスとエンネアがねぎらいの言葉をかけていた。俺達は互いの無事を喜び合いながらも鎧の人物に向き合った。


「初めまして、リィンクラウゼルにフィー・クラウゼル。私はアリアンロード、結社の一員で蛇の使徒の第7柱を務めさせていただいています」
「蛇の使徒?確か団長のくれた情報にあったな」


 ここに来て身喰らう蛇の最高幹部が出てきたか、蛇の使徒という奴らはこんな人外レベルの存在だということなのか!


(今まで戦ってきたレオンハルト、ブルブラン、ヴァルターは戦闘員でしかないって事か!?一体どんな厚い層があるっていうんだ、結社は……!?)


 あいつらは恐ろしい相手だった、そんなヤバイ奴らを束ねるのがこの蛇の使徒か。この闘気を見ればそれも納得できる。


「その蛇の使徒が俺達に一体何の用なんだ?」
「単刀直入に言います、貴方達3人『鉄機隊』に入りなさい」
「なっ!?」


 まさかの言葉に俺達は驚いた、勧誘を受けるなど思ってもいなかったからだ。


「ふざけるな!結社の一員になどなれる訳が無いだろう!?」
「同感、わたし達も人様に偉そうに言える立場じゃないけどエステルやクローゼが大事にしてるこの国を滅茶苦茶にした連中の仲間になんて無理」
「アンタが奴らの幹部ならあの胸糞悪いクーデターも指示したのがアンタって可能性もあるんだ。ミラを積まれてもその案は受けいられない、信用ならないからな」


 ラウラが怒りフィーは冷静に見せながらも怒りのこもった言葉を言う、俺も到底信用できないと否定の言葉を言った。


「マスターがあんな下劣な作戦を思いつくわけねーですわ!ふざけたこと言うなら私が……!」
「デュバリィ、静かにしなさい」
「うぐっ!?申し訳ありませんでした……」


 怒りだしたデュバリィをアリアンロードが鎮めた。


「あのクーデターを企てたのは第3柱、つまり私の同僚です。私も思う事はありましたが結局は見過ごしました」
「ふん、言い訳か?自分は指示してないから悪くないと言いたいのか?」
「そんな事はありません、私にも罪はあります」
「そもそも顔を隠してるような奴を信用しろって方が無理だろう、大きな怪我をしていてやむを得ないなら話は別だけど」
「確かにその通りですね、では外しましょう」


 俺がそう言うと鎧の人物はあっさりと頭部の鎧を外してみせた。


「……」


 そこから出てきたのは眩い金髪が美しく煌めく美女だった。思わず声を失いかけてしまう程の美しさに俺達は黙ってしまう。


「リ、リアンヌ様!?」


 だがラウラはアリアンロードの顔を見て驚きの表情と共にリアンヌという名前を言った。


「リアンヌってあの伝説の?」
「ああ、父上に見せてもらった古い絵に描かれたリアンヌ様にそっくりだ」


 ラウラが言うにはアリアンロードはリアンヌと全く同じ顔をしているらしい。


「だがリアンヌという人は過去の時代の人間だろう?まさか子孫か?」
「分からない、リアンヌ様は子を作っていなかったと聞いているが……そなたはリアンヌ様の子孫なのか?」
「さあどうでしょう」


 アリアンロードはラウラの質問を一瞥した。


「私は貴方達に結社に入れとは言っていません」
「鉄機隊は結社の一員じゃないのか?」
「私は結社の一員ですが彼女達はあくまで客将として結社に身を置いています。協力者という言葉が合っていますね」
「協力してるなら結局あいつらの仲間だろう?そんな奴らの仲間になんてなれるかよ」
「私はただ貴方の強さを見てみたいだけです、結社の言う事を聞く必要はありません」
「……」


 ……まずいな、警戒しないといけないのにどうしてか警戒心が薄れて言っている。あの眼差しを見ていると何故かなつかしさまで感じてしまう。


(……俺は過去に彼女と会ったことがあるのか?何故か安心感さえ感じてしまうぞ)


 俺はアリアンロードから視線を外す。


「貴方は強さを求めている、そして私は貴方を強くしたい。利害は一致していると思いますが?」
「……」
「こう思えばいいのですよ、貴方達猟兵はどんな手段を使っても任務を達成するのが流儀、だから私を利用しているだけだと……」
「なんでそこまでして俺を……」
「私は貴方の行く末に興味がある、それを見届けたいのです」


 俺はその言葉を聞いて迷ってしまう、このアリアンロードという女性を信じてもいいんじゃないかとさえ思えてきてしまっている。


(しっかりしろ、相手は得体の知れない敵だぞ……!)


 俺は頭の中のもやもやを振り払い答えを決めた。


「やっぱり断る、得体の知れない相手と取引はするなって団長からも習ったから」
「……そうですか。なら今日はここまでにしましょう」


 俺がそう言うとアリアンロードはあっさりと折れてくれた。


「ただこのままでは貴方達もこの先の戦いが不安でしょう、一つ贈り物を貴方達に上げます」
「贈り物?」
「こちらに来てください」


 アリアンロードは俺に手を差し伸べてきた、俺はその手を取ってしまう。


「リィン、ちょっと……!」
「どうしたのだ、リィン?」


 俺の行動にフィーとラウラが止めようとするが遅かった。


「っ!?」


 アリアンロードと手を繋いだ瞬間、俺の中にあった枷のような物が砕けた感覚がした。


「一体何を……」
「貴方の潜在能力を少しだけ開放しました。剣を振ってみなさい」
「……」


 俺は言われた通り太刀を抜いて振るってみた、すると……


「こ、これは……!」


 炎を纏った巨大な斬撃を放てた、この技は俺が考えていたけど身体的な問題で未完成だった『火竜一閃(ひりゅういっせん)』!?


「す、すごい……どうやってこんな……」
「私はこれでも長く生きているのでその中で覚えた技術です。さあ貴方達もどうぞ」


 アリアンロードはフィーとラウラの潜在能力を解放してくれた。


「ん、本当に強くなってる……」
「信じられないな……」
「それが貴方達の潜在能力の一部です、これ以上は体の方が耐えられなくなるので外せませんが私が鍛えれば更に強くなれるでしょう」


 アリアンロードはそう言うと顔を鎧で隠して魔法陣を生み出した。


「貴方の答えが変わることを期待していますよ、リィン・クラウゼル」


 アリアンロードはそう言うとデュバリィ達と共に魔法陣の中に消えていった。


「……何もできなかった」
「ん、わたし達じゃ足止めも出来なかったね。寧ろ見逃してもらったかんじ」


 俺とフィーはアリアンロードたちが消えた場所を見つめてそう呟いた。


「ところでリィン、ちょっと用心が足りてないんじゃないの?」
「うん、普段のそなたならあんな簡単に敵の手を取ったりしないだろう」
「ごめん、どうしてか安心感が生まれてしまって……」


 ジト目でそう言うフィーと心配するラウラに俺は申し訳ないと謝った。


「確かになんでか警戒心が薄れちゃってたね、なんでだろう?」
「それも彼女の能力だとしたら恐ろしいな」


 フィーとラウラもアリアンロードに対して警戒心が薄れてしまったようだ。あれが能力で泣く彼女の人柄から感じたモノならば……そんな人物がどうして結社にいるんだ?


「とにかく一度ギルドに戻って報告しよう。蛇の使徒という存在も知れたからな」
「そうだね。エステル達も心配だし急いで戻ろっか」


 俺達は急いで遊撃士ギルドに戻るのだった。



―――――――――

――――――

―――


「蛇の使徒が現れましたか……」
「はい、とんでもない威圧感でした」


 俺はエルナンさんに得た情報を話した。他のメンバーはなんとか魔獣を倒せたらしく2階でコリン君の面倒を見てるティータ以外は揃っていた。


「そのアリアンロードというのが身喰らう蛇の幹部って訳ね。ヨシュアもそいつらの元にいるのかしら?」
「どうだろうな、少なくともアリアンロードっていう人の側にはいなかったが……」


 ヨシュアの居場所を探すエステルは蛇の使徒の側にヨシュアがいるのではないかと話す。


「そもそもその情報は敵から聞いたモンだろう?嘘の可能性だってあるぞ」
「そりゃ俺だってそう思いますよ、ただ……」
「なんだよ?」
「……いえ、別に何でもないです」


 疑いの目を向けるアガットさんに俺はなにかを言いかけて止めた。まさか根拠もないのに『自分はアリアンロードが嘘をついてるとは思えない』などとは言えないよな。


「まあとにかく今まで得体の知れなかった結社という組織の幹部が存在するという情報が確定したわけです、無事に持って帰ってきてくださりありがとうございます」
「いえそんな……」


 エルナンさんに褒められた俺は少し照れ臭くなってしまい頬を指でかいた。


「でもリィンさん達が無事に戻ってきてくれて良かったです。私は何もできませんでしたから……」
「私もです……」
「二人は俺達を信じて待ってくれていたんだろう?だから帰ってこれたんだ。そんな悲しそうな顔をしないで笑ってくれ、二人にはそれが似合うよ」
「リィンさん……」
「ふふっ、ありがとうございます」


 落ち込むエマとクローゼさんに俺はフォローの声をかける。


 エマには魔法、クローゼさんには回復という手段で助けてもらっているんだし二人が役立たずなわけがない。今回は敵がヤバすぎただけだ。


「おやおやリィン君、エマ君とクローゼ君のようなうら若き乙女にそんな言葉をかけてしまったら本気にさせてしまうよ」
「オリビエさん、俺は別にそんなつもりは……」
「いや俺からしてもクサいセリフに感じたぞ」
「ジンさんまで……」


 大人二人にからかわれた俺は抗議の言葉を言おうと思ったが2階から慌てた様子で降りてきたティータを見て止めた。


「ティ―タ、どうしたの?危ないわよ」
「お、お姉ちゃん!コリン君降りてこなかった!?」
「えっコリン君?あたしは見てないけど……」
「コリン君がいなくなっちゃったの!」
「あんですって!?」


 ティータの言葉にエステルだけでなく俺達も驚いてしまう。


「どういうことなの、ティータ!?」
「あのね、コリン君がお菓子を食べたいって言ったから私戸棚からお菓子を取ろうと少しだけ目を離しちゃったの。そして振り返ったらコリン君がいなくて……」
「1階には降りて来てないよね?」


 エステルがティータに説明を求めて彼女は状況を話し出した。姉弟子の言う通り全員がいた1階にコリン君が下りてきた痕跡はない。


「何か音とかしなかったか?例えば窓が開く音とかは?」
「なにも聞こえなかったです、まるで消えちゃったみたいに……」


 アガットさんの質問にティータは何も音はしなかったと話す。


「まさか結社!?」
「とにかく急いで探すぞ、目撃者がいるかもしれない」
「そ、そうね!みんなで探しましょう!」


 エステルは結社の仕業じゃないかと言うがジンさんの言う通り今はコリン君を探した方が良いだろう。


 俺達は町に出てコリン君を探したり聞き込みをしたが何一つ情報は得られずに結局夜になってしまうのだった……


  
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