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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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AXZ編
  第171話:光明への気付き

 サンジェルマン達の襲撃を辛くも退けた颯人達は、発令所に集まりデブリーフィングを行っていた。

 そこで颯人は、サンジェルマンのアンダーワールドで見た光景の一部始終を話した。あまり他人の秘められた過去をペラペラと話すのは趣味が悪いとしか言いようがないが、今回ばかりは仕方がない。何せ、そこに彼女がこんな行動に出ている理由が秘められているかもしれないのだから。

「――――、つう訳だな」

 颯人の口から語られた一部始終、即ちサンジェルマンが嘗ては権力者により虐げられる立場の人間であったと言う事実は、特に実際に周りから虐げられた過去を持つ響の心に深く刺さった。

「そっか……サンジェルマンさんも……」
「だからっつって、アイツらのやる事を見過ごす理由はねえぞ?」
「そ、そんな事考えてないよッ!」

 サンジェルマンの境遇に思わず同情するような言葉を呟く響にクリスの厳しい指摘が飛ぶ。勿論響にはサンジェルマン達の行動を認める様な意図は無いが、その様に聞こえてしまったのなら申し訳ないと思い慌てて否定する。

 響の慌てように、クリスは表情を柔らかくして軽く肩を竦めた。

「分かってるよ。お前がそんなこと考える奴じゃない事くらい」
「く、クリスちゃ~ん……」
「雪音と言えば、北上は大丈夫なのだろうか?」

 今この場に透の姿は無い。先の戦いでプレラーティから受けた一撃による傷がまだ癒えていないので、現在医務室にて治療を受けている真っ最中だった。搬送する際も意識を失ったままだったので、翼達も心配を隠せない。

 ところが一番彼の事を心配するだろうクリスは、翼が彼の事を口にした瞬間鉛でも飲み込んだような顔になってそっぽを向いた。
 その様子に颯人はこめかみを突きながら話題を変えた。

「んで、まぁ……あれだ。あの人が世界を変えようとしてる動機はハッキリした訳だが……」
「その手段が分からない……だな、ハヤト?」

 サンジェルマンが今のこの世界に大きな不満を抱いている。それは分かった。そして革命とやらで世界の現状を変えようとしていると言う事も理解できた。だが肝心の手段が分からず終いだった。どうやら人の命を集める事でそれを成し遂げようとしている様なのだが、生憎と集めた人間の生命エネルギーをどう活用するつもりなのかが今一ピンとこず結局は手詰まりという状況となってしまった。

 各々頭を抱えたり唸り声を上げて考え込む一同。そんな中で、奏がふとある事を口にした。

「もしあそこでサンジェルマンが貴族に助けてもらえてたら、あの人もこんなことせずに済んだのかな……」
「助けてくれるようには見えなかったけどな。あの貴族っぽいオッサン、あの時あの人がどんな気持ちだったのか知る気も…………!」
「颯人さん?」

 突然黙り込んだ颯人に、奏だけでなく周囲の者達の視線が突き刺さる。注目されている颯人はと言うと、向けられる視線を気にも留めず何やらブツブツと呟いていた。

「まさか……いや、そうだとすると……」
「どうした颯人君? 何か思い当たる節でも?」
「……仮定の話だけど、もし俺と奏が見た過去の時点で、あの人と貴族のオッサンが分かり合えてたらどうなってたと思う?」
「それ今アタシが…………ん? 分かり合う……?」

 分かり合う……即ち相互理解。颯人達は、過去にそれを求めて世界を滅ぼす一歩手前の事を行おうとしていた人物を1人知っている。そしてその人物がどのようにしてそれを成し遂げようとしていたのかも。

「まさか、あの人たちのやろうとしてる事って……!」
「まだ可能性の話だが、充分考えられる。あのウェルの野郎だって似たような事に手を出そうとしてたんだからな」
「月の遺跡……そしてバラルの呪詛ッ!」
「アルド、どう思う?」

 少し離れ等所から彼らの議論を見ていたアルドに了子が問い掛ける。この場で最も錬金術に関する知識が豊富な彼女であれば、これだけの材料が揃えば何らかの答えに辿り着けると踏んでの質問だった。

 そしてそれは正しかった。颯人達の話を聞き、自分の中で情報を整理したアルドの口から出たのは、概ね彼らが導き出そうとしていた結論とほぼ同じ内容だった。

「可能性は、高いと思います。月遺跡の掌握の為、神の力を生命エネルギーにより錬成する。あり得る話です」
「それって、響の拳でも壊せないモノなのか?」
「こ、壊すんですかッ!? 私がッ!? 月遺跡をッ!?」
「遺跡じゃなくて、神の力とやらの方だよ。この間の化け物だって響の一発で吹き飛んだじゃないか」
「奏、そんな無茶ぶりは立花が可哀そうよ」
「そうだな。響君の一撃で分解するような規模ではいくまい。恐らくは、もっと巨大で強大な……」

 それほどの規模のエネルギーとなると、制御も容易ではない筈。集めたエネルギーをどのように制御するかで考えた時、真っ先に思い浮かんだのは先の騒動でキャロルが利用しようとしたレイラインであった。

 キャロルが世界を分解しようとし、メデューサがそれを利用して世界規模でサバトを起こそうとして、そして颯人により見事に失敗に終わった。レイラインは星の地脈を通るエネルギーの流れ。そこからエネルギーを抜き出し、制御する事が出来るのならば……

「パヴァリア光明結社は、チフォージュ・シャトーの建造に関わっていた。関連性は大いにありそうですよ」

 事件後に様々な情報を精査した結果、キャロルと結社の間には協力関係の様な物が築かれていた事を確認している。であれば、キャロルが計画の為に調べ上げたレイラインのデータが結社に渡っている可能性は非常に高い。朔也の言う通り、関連性は大いにあった。

「取り急ぎ、神社本庁を通じて各地のレイライン観測所の協力を仰ぎます」
「うむ。となると残りの問題は、装者達の方か……」

 現状多くの問題を抱えているのはやはり装者達であった。別に彼女達が悪いと言う訳ではないが、克服しなければならない課題が多いのである。

 弦十郎はチラリとクリスの事を見るが、彼女は誰とも目を合わさないように俯いたまま。その姿に思わずため息が出る。透が居ないだけでこんなにも不安定になるのだから。

 クリスに続き視線を向けられたのは颯人の方。こちらは問題を抱えているからではなく、問題の解決に一役買ってくれることを期待しての視線だった。クリスと違い前を向いている颯人は弦十郎からの視線に気付くと、目をクルリと回して小さく息を吐いた。仕方がないな、とでも言いたげな彼の様子に、弦十郎は申し訳ないと言いたげに渋い顔をした。

「私達の問題……っていうと」
「イグナイトモジュールを封じられている事……でしょうね。私や切歌達は、了子達が完成させてくれた新型LiNKERのお陰で戦えるようになった。でも、肝心の決戦機能が使えないのでは……」
「アタシは一応ウィザードギアがあるけど、それも制限ありきだからな。あんまり頼られ過ぎても、いざって時ガス欠じゃ目も当てられない」

 行きつくのはそこだった。強力なイグナイトモジュールも、サンジェルマン達賢者の石の力を活かすファウストローブの前では無力。この問題を早急に解決しなければ…………

 この問題に当たるのは、了子とエルフナインのみと決められていた。元よりシンフォギアに関しては了子の方が知識面で一日の長があるのだし、そこにダインスレイフの欠片を持ってきたエルフナインが加わるのは何らおかしくはない。
 おかしいとすればそれはアルドが関わらない事が決まっている事だが、これにはそれなりに理由がある。端的に言えば、これ以上彼女の仕事量を増やす訳にはいかないからである。

 弦十郎は最初アルドにもシンフォギア改良に知恵を貸してほしいと頼むつもりだったのだが、ウィズによりそれは止められた。曰く、『アルドを過労死させる気か』との事だ。
 現時点でアルドは颯人達魔法使いの指輪の作成に加えて、未だ意識不明のハンスの治療に錬金術関連の知識の編纂などを行ってくれている。この内彼女にしか出来ない仕事としてハンスの治療があるのだが、これがなかなかにハードらしく日々治療の度に彼女は疲労を溜めている。ここに来て更にシンフォギアの強化などに手を出そうものなら、仕事の容量が彼女のキャパシティを超えて倒れてしまう。そんな事態にさせる訳にはいかないと、ウィズから直々に止められたのである。

 そんな訳で、了子とエルフナインは現在シンフォギアの、正確にはイグナイトモジュールの改良に追われていた。つい先日まで改良型LiNKERの作成に追われていたと言うのに、次から次へと解決しなければならない問題に直面してしまいてんてこ舞いと言った様子だった。
 それでも弱音だけは吐かないのは、流石と言って良いだろう。

 この日も遅くまで了子とエルフナインが資料を片手に賢者の石の浄化作用を打ち破る手段を考えていると、弦十郎が台車に山程の資料を乗せてやってきた。

「待たせたな。関係ありそうな資料を片っ端から集めてきた」
「ありがとうございます!」
「ありがとう。ゴメンね、弦十郎君にこんな事させちゃって」
「気にするな、君達に無茶をさせているのに比べたらこれくらい……」
「わわっ!?」

 弦十郎が2人を労っていると、徐にエルフナインが資料を落としてしまった。何だかんだで彼女も疲れが溜まっているようだ。無理もない、知識は豊富でも彼女の体は幼い少女の物なのだから。

「あらら、大丈夫?」
「やはり無理をし過ぎなのではないか?」
「だ、大丈夫です……ん? これは……」

 了子と共に崩れ落ちた資料を拾い集めていると、不意にエルフナインが気になる資料を見つけた。穴が空くのではと言う程一つの資料を凝視しているエルフナインが気になり了子が横から覗き込むと、それに記載されているのは、フロンティア事変の最中にガングニールに侵蝕されていた頃の響に関する資料だった。

 正直な話、響の治療に関しては結局何の役にも立たなかったその資料。だがそれこそが、今彼女達が抱えている問題に対する答えを齎してくれる一筋の光明である事に、エルフナインは気付いたのだった。




***




 その頃、本部内の談話室では颯人が奏と共に、クリスとの話し合いに興じていた。話し合いと言うが、内容的には面談と言った方が正しいかもしれない。

「……で? んだよ、話って……」
「そうツンケンしなさんなって。クリスちゃんにとっても実りある話にするつもりだからさ」

 彼女を落ち着けようとのらりくらりとした態度で臨む颯人。傍から見ている奏は、そういう態度が逆にクリスを警戒させているのではないかと口を突いて出そうになったがここは敢えて黙っておいた。余計な口出しをして脱線しては意味がない。

「実り、ねぇ……?」
「そ。突っ込んだ話になるけどさ、クリスちゃんとしては透とこれからどうなりたいの?」
「あ?」

 ここで重要なのは、クリスの方に透と仲直りするつもりがあるのか否か。勿論彼女にだって透と仲直りする気はあるのだろうが、そこに辿り着くまでの筋道を彼女自身がどう考えているのかが颯人は知りたかった。

「透に頭を下げさせたい? それともクリスちゃんから透に頭を下げたい?」
「んな事……いきなり言われたって……」
「でもこの二つに一つじゃない?」

 実際には他にも色々と選択肢はあるだろう。颯人が上げた二つはある意味で極論過ぎる。だが敢えて彼はここで極論の二つに選択肢を絞った。そこからクリスが抜け出そうとしたところに、本当の彼女の気持ちがあると考えたからだ。

 果たして彼の目論見通り、クリスは二者択一の選択肢のどちらも選ぶ事無く抜け道を求めるような言葉を口にした。

「そんなの……どうしたいかなんて、いきなり言われたって……透が今何考えてるかだって分かんねえんだぞ。それなのに……」
「(これか……)なら、透の事を良く知ってる誰かにアドバイス貰いに行くのも一つの手じゃねえかな?」
「え?」
「颯人、それって……?」

 透の事を良く知る人物。クリス以外でそんな人物となると、該当する人物は1人しか存在しなかった。

「確か、透の親父って生きてるんだろ? なら、相談する相手としちゃ最適だと俺は思う。クリスちゃんが知ってる透、透本人も知らない透。それを知る相手として、これ以上の相手は居ないだろう?」

 言われてクリスもハッとなった。そうだ、何故今までこの考えに至らなかったのか。航であれば、本来憎むべき相手である存在を透が許せてしまった事への答えも持っているかもしれない。彼に聞けば、この胸の中に燻る不満と恐怖心の入り混じった何かを払拭出来る可能性があった。

 光明を得たと言いたげなクリスの表情から、自分に出来るお節介はここまでと判断した颯人はここで引き下がった。

「落ち着いたら、透の親父さんの所に行ってきな。そこで答えを見つければ、透とも仲直りできるかもよ?」
「あ、あぁ……えっと、あの……」
「礼は要らねえから、今は体を休めな。この後また一仕事あるかもなんだし」

 颯人に促され、クリスは談話室から出ていく。その際、少し申し訳なさを感じさせる目で彼の事を見ていた。普段彼の事をペテン師だ何だと言っていたのに、こうも真摯に悩みに向き合ってくれた事に対して感謝したいのだろう。とは言え普段が普段だから今更素直に感謝するのも踏ん切りがつかない。そんな彼女の心情を察した颯人は、感謝の言葉を求めず彼女には彼女のやるべき事があると言う理由でこの場から遠ざけさせたのだ。

 クリスが部屋を出ていくのを確認すると、颯人はソファーに思いっきり体重を預け体を伸ばしながら大きく息を吐いた。

「う、くぅ~~~~……! だはぁ~……」
「お疲れ」
「ん、サンキュ」

 体力は消費していないが精神的に疲れた颯人に、奏が自販機のコーヒーを手渡す。市販品の特筆すべき事も無い味だが、それでもその苦さが疲れた心に癒しを与えてくれる。
 尤もこの場合、颯人にとっての癒しとなったのは何よりも奏からの気遣いだろうが。

「それにしても……」
「ん?」
「クリスの奴、本当に大丈夫なのかな?」

 響と共に透との仲が拗れた直後のクリスを見てたからこそ、奏は不安だった。ああもすれ違ってしまった2人の距離を、そう簡単に直す事が出来るだろうかと。
 これに対して、颯人の口から言える事は非常に少ない。こればっかりは2人の問題故に、自分達に出来る事は気付きを促したり2人が向き合えるような状況をセッティングするお節介までで、最終的に何処に着地するかは2人次第でしかないのだから。

 しかし、自分でも少し意外に思う程颯人は2人の事をあまり心配していなかった。

「信じてやれよ、先輩だろ?」
「え?」
「あの2人の間にある絆は、そう簡単に離れる程柔じゃない。今は離れてるように見えても、何処かで必ず繋がってるもんだ」
「でも透の方は……」
「そっちも心配いらねえだろ」

 先の戦いで、透のファントムが透に力を与えなかった。きっと彼のファントムも、彼に対して何かを言いたいのだ。それに気付かない程透は愚かではない。彼はきっと、声なき己の内に眠る存在の声に耳を傾ける。彼にとってはそれがクリスとの仲を取り戻す切っ掛けになると颯人は考えていた。

 或いは、今この瞬間日本に向かっている、彼と旧知の女性とその弟こそが彼に一歩を踏み出させる引き金になるかもしれない。

 そんな事を考えつつ颯人は帽子をずらして顔に被せてアイマスク代わりにすると、そのままソファーに凭れかかりながら寝息を立てる。彼が仮眠に入ったのを見て、奏はそっと彼を引き寄せ自分の太腿の上に彼の頭を乗せて膝枕してやるのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で第171話でした。

本作ではサンジェルマンの口から目的が語られなかったので、ここまで手に入れた材料で計画に辿り着くと言う形になりました。

クリスと透の問題ももうじき決着予定です。クリスにとっての鍵は透の父、透にとっての鍵は彼自身のファントムとソーニャ・ステファン姉弟となる予定です。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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