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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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第一部
  三月の戦闘 Ⅰ

 これは、世界を賭けた戦いが終わった三ヶ月後の、ある日の深夜の話だ。

 現在、裏の世界を知る者たちからは【魔界】などと呼ばれ恐れられている極東の島国日本。その原因のうちの一人である長谷部翔希は、満天の星空に照らされて煌く、広大な海を眺めていた。

「はぁ・・・。」

 カンピオーネとは王者である。神々を虐殺し、その権能を簒奪した魔王である。しかし、人類を超越した最強の戦士である筈の彼は、砂浜に腰を下ろして体育座りをしながら黄昏ていた。

「とうとうこの時が来たか・・・。」

 飛騨真琴(ひだまこと)。彼の恋人だった女性だ。

 ・・・そう。だった。彼が黄昏ているのは、彼女と別れてしまったからである。

「何か上手くいかなかったんだよなぁ・・・。でも、別に嫌いなわけでもないし・・・。」

 隣にいると楽しいし、容姿も十分以上に整っている。なのに、何故付き合い始めてから三ヶ月も経たないうちに別れることになったのか?それは恐らく、プラスとプラス同士だから馬が合わなかったのだろう、と彼は友人に言われた。

 人間とは、どんなに完璧に見えても必ず何かが足りない生き物である。だからこそ、自分に存在しない物を求めて寄り添い合うのだ。翔希は元々、闇に怯える人たちを救いたいという願いを持って勇者という存在にまで上り詰めた人間だ。そして真琴は、関東機関という、明らかに裏に属する組織の長だったが、それでもその根底には仲間や人々を守るという考えが根付いていた。

 強力な光同士が隣り合っていても、お互いを打ち消し合うだけである。光の側には闇が必要なのだ。磁石のように、同じ極同士でくっつき合うことは出来ない。・・・だから、友としては最高だったが、恋人としては最悪の相性だったのだろう、とその友人は言っていた。勿論、プラスとプラス、マイナスとマイナス同士でも上手くいく場合もあるのだろうが、彼らの場合はそうではなかったのだ。

「・・・はぁ。」

 だが、ソレが分かっていても感情はついて来ない。別れ話を切り出したのは彼の方からだったとは言え、辛くない訳ではないのだ。

 彼女と別れたあと、無性に海が見たくなった彼は、愛車のバイクに跨りひたすら道路を走った。そして、真夜中の海を眺めながら黄昏ていたのである。まだ三月ということで、海はかなり肌寒いのだが、カンピオーネとして新生した彼には問題ない。以前の彼ならば、体を温める為に魔術を使用しなければならなかっただろう。だが、この程度の寒さならば、この人外の性能を持つ肉体ならば十分に耐えられるのだ。

「・・・・・・ふぅ。」

 この広い海を眺めていると、自分の持つ悩みがちっぽけに思えてくる・・・などと、どこぞの青春少年のようなことを考えていた彼は、突然背中に走った悪寒に身を震わせた。体がカッと熱くなり、体と四肢に力が漲ってきた。

「これは・・・!?」

 咄嗟に魔術を使用し、近くにいる気配を探知する。すると、彼の後方20m程の場所に、何者かがいることが分かった。

「さて・・・神か?それともカンピオーネ(お仲間)か?」

 彼らカンピオーネは、近くにカンピオーネか神々が存在すると、自動的に臨戦態勢に入るようになっている。どんな状況でも、最高の戦いが出来るように。

「良かったー!やっぱり君が、この国のカンピオーネの一人だったんだね!もしかしてと思って付いてきたんだけど、間違ってなくて良かったよ!」

「・・・誰だお前?」

 翔希の前に現れたのは、金髪のハンサムだ。既に深夜だというのに何故かサングラスを頭にかけ、派手な解禁シャツとサンダルという、およそこの時期の寒い海では着て歩かないような格好をしている。・・・そして、その背中には、ゴルフバックのような物を下げている。

 見た目は変だが、翔希はこの青年は只者ではないと感じていた。カンピオーネとしての勘が、決して油断するなと叫んでいる。

「僕は、サルヴァトーレ・ドニ!【剣の王】なんて呼ばれてるカンピオーネの一人だよ!」

「【剣の王】・・・だと・・・・・・!?」

 翔希は愕然とした。そして絶望した。

「恐れていたことが・・・現実になったかぁ・・・。」

 翔希も、勇者だった時から、カンピオーネの話は聞いていた。ごく一部の例外を除き、性格的に破綻している王がとても多いと。その中でも、最古参の王であるヴォバン公爵と、近年生まれたばかりの王であるサルヴァトーレ卿は、ある意味でもっとも警戒するべき存在だと感じていた。

 ヴォバン公爵は、自分の戦いたいという欲求を満たすために態々『まつろわぬ神』を招来するほどのイカれた爺さんである。その為に、世界中から数十人の巫女の素質を持つ乙女を誘拐した程の戦闘狂だ。その時に集められた巫女は、殆どが死ぬか発狂したと言われているし、その他にも、彼に滅ぼされた街や村は数十にも及ぶらしい。・・・実は、翔希は一度、この爺さんの横暴を止めようとして討伐しに行こうとしたことがある。周囲に様々な手を使われて止められたのだが。もし強行していたら、今頃は『死せる従僕の檻』のゾンビの仲間入りを果たしていたかもしれない。

 そして、もう一人の注意すべきカンピオーネがこのサルヴァトーレ・ドニであった。

 この人物、世界最強とも言っていい程の剣の使い手である。魔術の類の才能がほぼゼロなので、魔術の知識と腕も両立させなければいけないテンプル騎士団では落ちこぼれ扱いをされていた。実は、呪力を体に溜め込むことが出来ない体質のせいだったのだが、カンピオーネとなりその体質が治った今でも、魔術を使う事は出来ない。

 自身の剣の腕を磨くこと以外に興味はなく、その為ならば誰にどんな迷惑をかけようとも一切気にしないという、とても迷惑な性格である。無闇矢鱈と殺生をするわけではないのでヴォバン公爵よりはマトモだろうが、正直ドングリの背比べ。周りの人間にしてみたら、どちらもあまり変わりはしないのだ。この二人は、どちらもそうとうな戦闘狂である。

「いや~、まさか【剣の王】が新たに二人も生まれるとは思っていなくてね。それも、二人とも物凄い力量の持ち主だっていうじゃないか!これはやっぱり、誰が一番強いのか試してみたくなるだろう!?」

「ならないよ!」

 実を言うと、世界中の裏に通ずる人間は、この展開を予想していた。サルバトーレ・ドニ卿といえば、世界中飛び回って、強い敵に片端から戦いを挑む男である。『この国のこういう名前の人物がとっても強いらしい』などと噂を聞くと、それが例え魔術を知らない一般人でも戦う為に突っ走るような人間である。

 そんな男が、新たに生まれたカンピオーネ―――しかも、その内二人は剣や刀の達人だと聞いたのだ。戦いに来ない筈がない。むしろ三ヶ月も来なかったのは、【王の執事】とも呼ばれる彼の親友でありお目付け役であるアンドレア・リベアと各地の魔術結社が、必死になって時間稼ぎをしていたからである。

 日本が【魔界】と呼ばれるのは、この小さな島国の中にカンピオーネが四人も生まれたからである。しかも、その彼らは全員に交友関係があり親しいらしい。そんな彼らの誰かに手を出して、それに激怒した他のカンピオーネとの戦争になる可能性だってあるのだ。最悪、一国か二国が滅んでも可笑しくない。必死になって彼の気を紛らわせるような強者の情報を探し、時間稼ぎをする彼ら。それはもう涙ぐましい光景であった。

 ・・・のだが。やはりというべきか何と言うべきか。新たなカンピオーネと剣の腕の競い合いをしてみたかった彼を止めることは出来なかった。隙をついて逃げ出され、邪魔する者はなぎ倒して、サルバトーレ・ドニは来日してしまったのだ。

 実は、日本の正史編纂委員会は、ドニ来日の情報を受け取ると同時に、翔希と白井沙穂に連絡しようとしていたのだ。・・・が、沙穂にはすぐに伊織貴瀬経由で連絡がついたものの翔希には通じなかった。・・・まぁ、別れたばかりで傷心中の彼は、誰からも連絡が入らないように携帯電話の電源を切っていたのだから当然だった。

 しかし、もし連絡が間に合っても、何の意味も無かっただろう。既にドニはこの国に入ってしまっていたのだ。彼の足を止める事が出来るのは、神かカンピオーネのみ。結局、何時かは戦うハメになっていただろう。日本は、彼に上陸を許した時点で既に詰んでいたのだ。

「さぁさぁ、すぐにやろう!ここなら誰にも迷惑はかけないよ?」

「ぐ・・・っ!」

 彼のセリフが、翔希には『もし逃げるなら、地の果てへでも追いかけて場所を考えないで勝負ふっかけるけどいいの?』と聴こえた。どういう意味だったのかは、ドニにしか分からないことだが。

「仕方がない・・・か。」

 翔希は、最近使えるようになった召喚の魔術を行使する。手に現れたのは、漆黒の長剣。鞘も、柄も、刀身までもが完全なる漆黒に包まれた神器。銘を”黒の剣”という。

 神々が創ったと言われる神器の中でも最高峰。”今月今夜”と並び称される、最高ランクの神造兵器。神すら斬り殺したその剣を、ドニへと向ける。

「・・・手加減は出来ないぞ。後で後悔するなよ。」

「後悔・・・?そんなのするわけないじゃないか!それほどの剣も見れた!更に君とも戦える!どこに後悔するような要素があるんだい!?」

 彼はそう叫ぶと、背負っていたゴルフバックに手を突っ込む。そこから出てきたのは、ただの長剣だ。手に入れるのは難しくない、裏の世界ならどこにでもあるようなただの長剣。そんな物を出して、一体何をしようというのだろうか?

 翔希は気を抜きそうになる自分を叱咤した。取り出したのがただのどこにでもあるような長剣だとしても、【剣の王】と呼ばれる人間がそれを出したのだから、必ず意味があるのだと。それを忘れれば、今すぐにでも殺されるという確信が彼にはあった。
 
「ここに誓おう。僕は、僕に斬れぬ物の存在を許さない。この剣は地上の全てを斬り裂き、断ち切る無敵の刃だと!」

 言霊が、迸った。

 その膨大な呪力は彼の持つ長剣に纏わりついていく。同時に、彼の腕が白銀の光を放ち始めた。

「そ、れが・・・!」

「コレが、僕が最初に手に入れた権能、【斬り裂く銀の腕(シルバーアーム・ザ・リッパー)】だよ。それが刃物なら、地上のどんな物質をも斬り裂く魔剣へと変質させることが出来る能力。・・・さぁ、次は君の番だ!一体どんな力を見せてくれるんだい!?」

 とてもワクワクしているドニ。それとは対照的に翔希はゲンナリする。彼自体は殺し合いは好きではないのだ。・・・しかし、それを言った所でこのカンピオーネが見逃してくれる訳がない。

「・・・よしっ!」

 腹をくくった。気合を入れ、彼も言霊を紡ぐ。

「我は全てを視る者。この世で我に視れぬ物は無く、何人たりとも我の視界から逃れる事は出来ない。我は、この世の全てを掌握する者なり!」

 視界が、変わる。

 世界が、変わる。

 彼の右目は、真紅に。左目は、深い蒼へと変化した。

「それが君の権能か・・・。どうやら、直接的な攻撃力のあるものじゃないみたいだね。となると、戦闘の補助的なものなのかな・・・。まぁ、試してみれば分かるか!」

 深夜の海で、二人の魔王の戦闘が始まった。
 
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