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リュカ伝の外伝

作者:あちゃ
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アーティストとエンジニア:二限目『発想の転換』

(グランバニア城:二階廊下)
ラッセルSIDE

天才美少女と超天才国王陛下の考えに付いていけず、ただただ二人の会話を傍観していた。
だが「百聞は一見にしかず」と陛下の提案で、グランバニア城の開発室(という部屋があるらしい)に置いてある、MSV(マジック・スチール・ヴィジョン)の機械一式とMP(ミュージックプレイヤー)一式を使うべく、部屋を移動する事に。

如何やら開発室は城の地下にあるらしい。
道理で知らないワケだ。
元々は牢屋とかがあったらしく、一般人はあまり出入りしない。

向かう途中、一人の女性兵士が話しかけてきた。
「あ、陛下。宰相閣下がお探しでしたよ。何でも仕事が進まない……とか言って怒ってました」
「え、マジで? うっるせーなアイツ。黙って残業してろよ」

女性兵士は俺より少し年上……だと思われるが、襟首の階級章を見ると“伍長”であった。
書類が入ってると思われるファイルを3冊ほど小脇に抱え自分のオフィスに戻る最中の様だ。
俺の勝手な感想だが、剣を携えているが鎧などを着て居らず軍服姿だし事務仕事の方が得意そうな雰囲気に見える。兵士と言うよりも軍人と評した方が良いのかな?

「では私は見てなかった事にします。今日は一度も陛下にお目にかかってません……って事で」
「うん、助かる……と言うより、少し手伝ってほしいな。もう今日の通常業務は終わりでしょ? 僕の為に残業してよアーキ・グリーバー伍長♥」
陛下は兵士全員の名前を憶えてるのか?

「了解です! では上官にその旨を伝えてきます」
「上官君には『極秘任務』と言っておいてね。特に金髪で生意気で性格が悪いけど地位だけは高い自称天才の小僧には(笑)」
この国においてそれに該当する人物は一人しか居ないので間違える事はないだろう。

「再度了解です! 同僚各位にも本日この後の陛下の行方は“知らない”事にするよう伝達致します」
「よろしく(笑) じゃぁ地下の開発室で待ってるね」
そう言ってグリーバー伍長の敬礼に答礼して地下へと向かう。





(グランバニア城:地下・開発室)

“開発室”と呼ばれているが、ここに人員が配置され日夜試行錯誤をしているワケではないらしい。
どちらかというと、これまで陛下のアイデアで開発されてきた品々が保管されている場所。
一応これまでの開発品からヒントを得たり発展させたりと試行錯誤をする為に、室内には大きなテーブルと複数の折り畳み椅子が設置されている。

リューナが開発した品々も置いてある。
基本的に最初の開発品はプロトタイプとして同じ物を3つ作るらしい。
1つは陛下の手元へ置いておく保管用……つまりここにある物。

2つめは開発元が保管しておく物……先日開発したMG(マジカルギター)MB(マジカルベース)魔技高校(魔法機械技術高等学校)だ。
魔技高校(魔法機械技術高等学校)以外の企業や団体であればそこ。

3つ目は常時使用する為、それぞれ適した場所。
MG(マジカルギター)MB(マジカルベース)はプーサン社長(陛下)の事務所ビルだ。
MG(マジカルギター)MB(マジカルベース)は授業を受ける生徒用に、更に各5台芸高校(芸術高等学校)に保管してあるらしい。

陛下は慣れた手つきで芸高校(芸術高等学校)の自習室(卒業式制作委員会の部屋)にある物と同型のMSV(マジック・スチール・ヴィジョン)一式とMP(ミュージックプレイヤー)をセットする。
カメラは三脚で固定した。




「お待たせいたしました陛下」
セットが終わり少し雑談してると、先程の伍長が部屋へと入ってきた。
流石にファイルの束は置いてきてる。

「アイツにバレてない?」
「勿論です! 総参謀長の執務室前で擦れ違いましたけど、敬礼だけして無視しましたから(笑)」
敬礼するだけ偉い!

「素晴らしい(笑) じゃぁ、ここに立って剣を振ってくれる?」
「け、剣を……ですか? そういう事でしたら私は事務方なので、もっと適した者が居りますが……」
確かに。

「いやいや。別に誰かと戦闘をしてほしいわけじゃないんだ。剣を振るう動作を見たい。だったら別に猛者じゃなくても問題無いでしょ。しかも可愛い女の子だったら、その方が楽しいでしょ。先刻(さっき)アーキちゃんに会ったのは偶然だけど、これまた偶然に可愛い女の子でもあるわけだし……ね」

やっぱり陛下は天然の女誑しなんだろう。
自然に“可愛い”と言われ頭を掻いて照れるグリーバー伍長。
少し長めのボブカットヘアの彼女は確かに可愛い。まぁリューナのロングストレートの方がもっと可愛いけどね!(ドヤッ)

照れながらも伍長は腰に携えてる剣を抜き、指定された場所で上段から振り下ろして見せる。
伍長の身長はリューナと同じくらいなので150cm前後だと思われるが、そんな彼女の身長の半分くらいはある剣……多分ショートソードと呼ばれているんだろうけど……それを振るう姿は、やっぱりプロだけあって格好いい。今度モデルを依頼してみようかな?

「OK! 今の振り方で良いから、今度は僕の指示通りの速度で振り下ろしてほしい」
「速度……ですか?」
場所が場所だし、ゆっくり振るってたみたいだから遅いのだろうか?

「ゆっくり……剣の軌道が解る様に振ってもらえる?」
「あ、ゆっくりですか!? てっきりもっと早くと言われるのかと……」
俺もそう思った。

「で、では参ります」
そう言って今度はゆっくりと剣を振り下ろす。
かなりの遅さに俺でも避けられるだろう……いや、真剣白刃取りも出来る。

「OK! じゃぁ次からはもっと遅くなるよ。つーか途中途中(とちゅうどちゅう)止めながら振り下ろしてもらう。振り下ろすまでに2~3分かかるから、結構キツいと思う。カメラの操作はリューナにお願いする。僕の合図で撮影ボタンを押してくれ」
そう言って陛下は再度剣を構えた伍長の傍に移動し、カメラ操作をリューナに託す。

「はい、じゃぁ……上段の構えでストップ。リューナ、撮影して」
「「は、はい」」
陛下の指示に女性が同時に返事した。

「次は剣をちょっとだけ前に振り下ろしてストップ。はいリューナ、ボタン押して」





「……はい、お疲れさん。ゆっくり止まりながら剣を振り下ろすのは、思ってたよりも疲れたでしょ? 取り敢えず座って休んでてよ」
本当に2分以上かけて剣を振り下ろす動作を撮影し、俺の予想以上に疲れてそうな伍長を座らせると、陛下は撮影した写真を確認するべくカメラを操作し始める。

一体この連続撮影の写真に、リューナの考えている音声との連動が如何様に関係してくるのだろうか?
一つの動作をあんなに複数回に分けて撮影する意味はあるのだろうか??
俺にはまだ解らない。

カメラの小さな画面で写真を確認すると、それが記憶されている小さな魔道結晶をプリンターへセットして先程撮影した写真を全て印刷した。
印刷サイズはL判と言って89mm×127mmの物だ。何故“L判”なのか、何故“9mm×13mm”ではないのかは解らない。陛下が言い出したから……

「よし、ちゃんと印刷できたね」
そう言うと陛下は56枚の写真をテーブルへ一列に並べて俺等にも見せてくれる。
微妙にだけ違うポーズの写真を沢山撮影して如何(どん)な意味があるんだ?

「この写真を最初から最後のポーズへ順番に重ねて……」
更に陛下は写真を重ねていく。
一番上に上段の構えのポーズが見える様に。

重ね終わると写真の上部分を大きめのクリップで止め、写真下部を勢いよくパラパラッと捲って何かを確認している。
ただ陛下が自分の顔の前だけで確認してるので、それが何なのか解らない。

「よしOK。じゃぁ見てて」
確認し終わった陛下は、今度は俺等にも見える様に持ち替えてパラパラッと捲ってみせてくれた。
そして俺もリューナも、勿論モデルの伍長も驚く!

「凄い……一枚一枚は動いてないけど、連続して見ると剣を振り下ろしてるわ!」
「人間の手で紙を捲る要領だから途中途中(とちゅうどちゅう)ぎこちない様に見えるけど、これを機械で均一に表示できれば、もっと滑らかな動きに見えてくる。勿論だけど撮影も機械でスムーズに撮影できれば、その時に発した音声と組み合わせて、人が動いて・喋って・演奏してって感じの動画が出来上がる」

「“動画”……凄い……!」
止まってる()から動いてる()を作り出す……
凄いアイデアだ!

「新しい技術だし、あまり大勢の人間は関わらせたくない……申し訳ないけど伍長には今後今回の装置の開発に協力して欲しい。直属も遙か上も含めて上司には重要機密扱いで通達しておくから、守秘義務を含めて協力してね」
「了解であります陛下!」

「まぁ尤も……今日明日で直ぐに装置が開発できるとは思えないし、時間はあると思う。それまでには時間の融通が利く仕事内容にしてもらうから、そんなに気負わないで良いよ。残業になっても機密事項に関わるって事で特別な残業手当が出る様に計らうよ。今日の分もね」

「感謝致します!」
軍人らしく綺麗な敬礼で応答する伍長。
その間リューナは左手で自身の右肘を持ち、右手を口元に宛がうポーズで思案に耽っている。

彼女の事だから、そんなに時間はかからずに装置を完成させてしまうんだろうなぁ……
その時は俺も手伝えれば良いけど、何か役に立てるだろうか?
今回も結局は何もしてないし……俺。

ラッセルSIDE END



 
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