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詭道贋作ガンダム・戦後の達人

作者:モッチー7
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第5幕:後悔する権利

 
前書き
ガラ・タンドリー殿へ

信じられないかもしれませんが、アニアーラ管理委員会傘下軍隊が所有する演習場を借りる事が出来ました。そちらでこの前の決闘の約束を果たしたいと思っております。
無論、こちらが提示する条件がお気に召さないのであれば、来なくて結構です。その時は、また別の場所を捜索させて頂きます。

ツルギ・マインドルより

追伸

もしも、管理委員会が私との約束を反故にして貴方達を逮捕する様であれば、私は容赦無くそちら側につく事も忘れずに。 

 
ツルギ達は既に決戦の地である演習用小惑星にある演習場に到着していたが、この事にライトは懐疑的だった。
「本当に来ると思ってんのかよ?」
ツルギは既にフェルシュングの運転席に座っているが、この場所が管理委員会傘下軍隊の管理下である事も手伝ってか、言い出しっぺであるツルギですら懐疑的である。
「来ないのであれば、また彼らと話し合うだけです」
ツルギの言い分に呆れるライト。
「そこは不戦勝で良いだろ?馬鹿真面目だなぁ」
その間、カッオは辛そうな表情を浮かべながら俯いていた。
「おっさん、大丈夫かよ?嫌なら来なくても良いだぞ?」
カッオをそれなりに気にするライトに反して、ガラ達より先に来ていたマモが鼻で笑った。
「ふん!自業自得だ!展示予定の兵器達(あのものたち)を不当な理由で拉致監禁して拘束し、輝かしく活躍出来る戦場(いるべきばしょ)から追放したんだからな!」
マモの身勝手な言い分を聴いて更に顔を青くするカッオ。
「……マモ……」
ライトが嫌そうに舌打ちすると、騒音と共にガラが使用するモビルフォース擬きが演習場にやって来た。
「来たぜぇー!さあ、この喧嘩を楽しもうかぁー!」
「よし、言いたい事が山盛りだな」
ガラの予想外の到着に驚くライト。
「何で来た?」
一方のガラは、ライトの言い分が解らない。
「『何で?』だと?先に此処に呼んだのは―――」
ツルギは、ガラの言い分を遮る様にライトの驚きの理由を説明した。
「疑わなかったのか?」
「……何の事だ?」
「私達が管理委員会と手を組んで貴方達を拘束して逮捕しようとする……とは考えなかったんですか?」
ガラは自信満々に鼻で笑った。
「ふん!その時は俺が全員叩きのめして悠々と凱旋させて貰うぞ!」
「自信家過ぎぃー!?」
ツルギはライトの驚きを無視して運転席のハンドルを握った。
「叩きのめす?出来ますかな?」
その一方、ツルギはメカネに言われた事を思い出してしまう。
「私が突き付けた逮捕免除を辱めだと勘違いしてます!だから、彼は件の逮捕免除への不満を晴らす為に死に場所を求めています!だから―――」
そこで、ツルギはガラに質問した。
「あの女性を殺したのは、本当に貴方なんですか?」
その質問に対し、ガラは不敵な笑みを浮かべた。
「ああ殺したよ!……って言ったらどうする?」
ツルギはゆっくりと目を閉じ、そしてゆっくりと目を開けながら決意の言葉を告げる。
「……解りました……戦います……」
「言ったな?その言葉、待ってたぜ!」
が、ツルギのこの後の台詞に、その場にいる者全員が驚きを隠せなかった。
「ただし、私はしんけん以外の武器は使用しません」
そう言いながらフェルシュングを動かすが、フェルシュングの手には何も持っていなかった。
「貴方に……私の心剣に耐えられますか?」
ツルギの質問にツッコむライト。
「剣もってねぇじゃん!」

ツルギとガラの一騎打ちの話を聞いたウミギが慌てる。
「何いぃーーーーー!?俺達を降格させたあの小娘が、俺達が使っている演習場で決闘だとぉーーーーー!」
慌てて現場に到着するウミギだが、フェルシュングの手に何も握られていない事に呆れる。
「……何しに来たんだ?」
一方、ガラは闘志むき出しである。
「ふん!舐められたものだな?この『クレイモーア』、そんな手加減しながらの攻撃程度でくたばる程……ヤワじゃねぇぜぇーーーーー!」
クレイモーアがヒートツーハンデッドフォセを振り回しながらフェルシュングに迫るのを観て、ライトは色々な意味で驚いていた。
「デッ……速!ツルギのボケにツッコむ暇がねぇ!」
だが、ツルギも伊達に半年戦争で火星粛清反対派に加担していない事を証明するかの様にガラの猛攻を躱し、躱しながら面を打つ。
しかし……
「残念だったな。ここでちゃんとした武器を握らせておけば、このクレイモーアに当てる事ぐらいは出来た……かもな!」
フェルシュングの無手故の空振りを嘲笑うかの様にクレイモーアがヒートツーハンデッドフォセを振り下ろすが、フェルシュングはそれを難無く躱しながらまた面打ちをする。しかし、やっぱり何も持ていないのでフェルシュングの面打ちは空振りである。
でも、クレイモーアはヒートツーハンデッドフォセを落とした。
「あんた、素早いな。たいていの奴はこれで沈んだ」
ガラの言い分に対し、ツルギは至極真っ当な事を言った。
「たいていの奴?その巨大さ故に、攻撃が打ち降ろしか薙ぎ払うかの2択のみ。誰でも簡単に避けられる筈です」
ガラは余裕に見せたい笑みの額に、冷や汗を滲ませる。ツルギの言葉は煽りでも何でもなく、事実だと言う事がガラには解る。
「簡単に言ってくれるぜ……だが、運が良かった奴も」
クレイモーアの両肩の装甲が突然外れ、まるでグローブの様に両手に装着された。
「これで、沈んだぁーーーーー!」
(両足にエアクッション艇を仕込んだのは、その為でしたか!)
「やりますね」
判断力と、それを実行する実力を、ツルギは評価した。
しかし、そんな評価はガラには関係無い。武器をヒートツーハンデッドフォセからポールドロングローブに切り替えた次の瞬間には、その剛腕を振り下ろす。人工芝の地面がビスケットの様に砕け散る。
が、ツルギが運転するフェルシュングはその一撃を、難無く飛び退いて避けた。
そこで、カッオがやっとツルギの意図に気付いた。
(この戦い、一見ツルギさんが一方的に防戦一方に視えるが、本来ならばガラくんは既に、少なくとも2回は斬られていた。つまり、一見一切攻撃していない様に視えて、ガラくんの精神を攻撃している?ガラくんがもし、ツルギさんがちゃんと武器を持って攻撃していたらを予想出来る様になったら……その時点でガラくんの負けだ!)
だが、当たるまで振るえば良い。いかにツルギが運転するフェルシュングが素早いとは言え、フェルシュングは武器を持っていない、そんな致命的なミスを続けさせる。それがガラの戦術だったが……
「!?」
その時、視界に飛び込んで来た油断と隙が、ガラの思考を一瞬空白にした。
(よそ見!?)
一方、ツルギが運転するフェルシュングは横で観戦している一団を発見すると、そちらの方に顔を向けながら手を振った。そして、フェルシュングに手を振られた一団は、困惑しながらフェルシュングに向かって手を振―――
「甘いよ」
その隙を見逃してくれるツルギではなかった。
フェルシュングは臀部のジェットブースターを噴射し、すれ違いざまにクレイモーアに胴を打ち込んだ。勿論、何も持ってない状態では何の意味も無い……筈だった。
「……あの馬鹿デカい刀……どっから出てきた……」
ライトには見えたのだ。フェルシュングの手に握られている……ツルギの心の剣を。
その事に驚くカッオ。
(まさか、見抜いたと言うのか!?ツルギさんの本当の目論見に!?)
一方のガラは苦虫を噛み潰した様な顔をしながら、自分の判断ミスを呪った。
(こいつ、戦術もイケるクチか!?)
だがそれに引き換え、ウミギはガラが慌てる理由が全く解らなかった。
「馬鹿なのか?」

しかし、マモが悪魔の様な笑顔を浮かべた途端、フェルシュングはビクともしなくなった。
「……なんだ?……何が起こっている?」
「何やってるんだ!?さっきの剣でさっさと斬っちまえよ!」
だが、ライトの怒号に反してフェルシュングはビクともしなくなった。
しかも、運転席にいるツルギを襲う異変は、フェルシュングはビクとも動かない……だけではなかった。
「!?……メインカメラが……遅効性塗料か?」
そんな中、マモが大喜びでガラに命令した。
「今だぁーーーーー!赤い鷹匠の輝かしい栄光と名声と出世街道を汚し、展示予定の兵器達(あのものたち)を不当な理由で拉致監禁して拘束して輝かしく活躍出来る戦場(いるべきばしょ)から追放した、モビルフォースドライバー最大の面汚しに、正当なる死罪と獄門をおぉーーーーー!」
マモが未だに父であるカッオが運営する反戦を目的とした戦争博物館に展示してある兵器達に殺人を犯させようとしている事実に、カッオは完全に蒼褪めながら膝を屈して崩れ落ちた。
「私は……どこで間違ってしまったんだ?……私はまた……30年前の過ちを……またやってしまうのか……」
そんなカッオに慌てて駆け寄るライト。
「おい!しっかりしろよ!」
それに引き換え、マモはガラに向かって偉そうに命令していた。
「何をしているガラぁーーーーー!今こそ、そこの不届き者に正義の鉄槌をぉーーーーー!―――」
だが、ガラの怒りは自身の反則行為を棚に上げて自分勝手な事を言うマモに向けられていた。
「なにしてやがる?俺のタイマンの邪魔してただで済むと思うか?」
しかし、マモは何でガラに叱られているのか解らず、やはり自分勝手な事を言う。
「何を言っている?俺はただ、お前の正義の鉄槌に勝利をもたらそうと―――」
それがかえってガラの怒りを助長した。
「ふざけんな!そんな卑怯な手で勝ちたいって誰が言った!?それとも何か!?あの糞眼鏡同様、俺から後悔する権利を奪う気か?」
「何を言っている!?不当な理由で拉致監禁された展示予定の兵器達(あのものたち)を後悔させない為の戦いじゃないか!敗北が絶対に許されない戦いなんだぞ!」
「うるせぇ!ふざけるな!何が正義だ?何が勝利だ?俺みたいな強者には後悔する権利はねえって言うのかよ!?弱者には擁護される権利はねえって言うのかよ!?そんな理不尽、俺が許すと思っているのかぁーーーーー!?」
その時、ライトがマモを思いっきり殴った。
「お前がこんな事を計画しなけりゃ、アイツも俺達もこんな恥ずかしい目に遭う事は無かったんだ!テメェだけは絶対に許さねぇ!」
しかし、ライトに殴られて吹き飛んだマモの手から零れ落ちた何らかのリモコンを、よりによってウミギ達が拾ってしまう。
「あ!しまった!」
「その拳は何だ?暴行罪で現行犯逮捕してやっても良いんだぞ?」
感情だけで動いてしまい事態を悪化させてしまったライトを嘲笑うウミギ達であったが、それがかえってガラから戦意を奪ってしまった。
「やめだやめだ!こんなつまらねぇ喧嘩、これ以上続けても何の意味もねぇ……」
ガラの戦意喪失を表現するかの様にフェルシュングに背を向けるクレイモーアを観て、慌てて声を掛けるマモとウミギ。
そんな構図を視て呆れるライト。
「……悪銭身に付かずって……こう言う事を言うのか?」
が、ツルギは慌てる事無くフェルシュング起動ワードを高らかに口にする。
「たんたん狸の金玉はー♪」
その途端、フェルシュングが再び起動する。
「なぁーーーーー!?」
「何だこの装置は!?ただの役立たずか!?」
予想外の不都合の連続に慌てふためくマモ達に対し、実戦経験者としての言い分を高らかに言い放つ。
「何らかの方法で敵の動きを封じる。火星粛清賛成派がそんな罠も思いつかない程バカだと思っていたのですか?それに、出撃準備中に簡易的な整備を行うのも常だと知らなかったんですか?だとしたら、やはり実戦に出るべきではないです」
だが、マモはガラの勝利とツルギの敗北を諦めない。
「だが!メインカメラとサブカメラは完全に封じた!貴様は完全に盲目になったも同然―――」
フェルシュングのヒートウイングビットがウミギの手前で停まった。
「ひっ!?」
「黒幕のお前は、心剣(このていど)では済ませられんな」
「ひっ…ひっ…ひはぁ…」
ツルギの脅しに屈して失神したウミギの手からフェルシュングを強制停止させる為のリモコンが落ちたので、ライトが慌てて踏み潰した。
「ギャァハハハハハハハ!好戦的な卑怯者の失禁なんて誰得だよ!?」

が、肝心のガラとクレイモーアをどうするかである。
「言われねえでももうやめだ」
ガラの戦意喪失を表現するかの様にフェルシュングに背を向けるクレイモーア。
「ったく、つまらねぇ喧嘩、買っちまったぜ―――」
「逃げる御心算ですか?」
ツルギの珍しい挑発に驚くライト。
「相手がせっかく逃げてくれたのにか?」
だが、ツルギのガラに対する挑発めいた質問は続く。
「後悔の必要性を説く貴方が、何故に喧嘩屋なんて理不尽な生業をするんですか?性根は真っ直ぐな筈なのに、今の貴方は酷く歪んでます。何が貴方をここまで歪ませたんですか?」
その言葉で、フェルシュングに背を向けてたクレイモーアが、再びフェルシュングと対峙した。
「いくらつまらねぇ喧嘩でも……ちゃんと決着をつけないと締まらねぇって事か!?」
それに対し、ツルギの口から出たのは謝罪の言葉だった。
「ごめんなさい……私は貴方の心を見誤っていました」
ツルギの新たな決意を表す様にヒートステッキを抜き、ヒートウイングビットをフル起動させた。
「アイツまさか!?ガンダムのギアを5速にしたのか!?」
臨戦態勢を整えたヒートウイングビットを視て、その迫力に圧倒されて沈黙するガラ。
「……は!?そ……そんなに決着をつけたいのなら」
ヒートツーハンデッドフォセを拾うクレイモーア。
「決着つけようぜぇーーーーー!」
そして、ヒートツーハンデッドフォセを容赦無く振り下ろすクレイモーア。
「ツルギ!」
それに対してヒートステッキで受け止めるフェルシュングだが、耐え切れずに左腕を斬り落とされた。
が、
「今!」
クレイモーアは一瞬の隙をつかれ、ヒートウイングビットが四肢の付け根に突き刺さった。
「ぐおおぉーーーーー!」
だが、クレイモーアとてモビルフォース擬きとは言え実戦を想定して作られた機体。どうにかヒートウイングビットの溶斬に耐えた。
それを観て祈るマモ。
「頼む!耐え抜いてくれ!そして勝ってくれ!これに耐え切れば、あの偽物はもう……攻撃手段は無い!」
それに対し、ライトは再びマモの胸倉を掴んだ。
「それは、誰の為の祈りだ?それは、親を裏切って不幸のどん底に叩き込むだけの価値がある祈りか!?」
ライトのこの言葉にハッとしたのは、言われたマモではなくガラであった。

「誰の……為……?」

それに引き換え、マモは即座に反論する。
「そう言うお前は、出番を奪われて大人しく引き下がると言うのか!?」
「ただ表に出て目立つだけが出番じゃねぇ!」
その間、ガラは何かを思い出すかの様に抵抗を諦め、それに呼応するかの様にクレイモーアの四肢が斬り落とされた。
「な!?何ぃーーーーー!?」
ガラの予想外の敗北に対して何か言おうとしたマモであったが、その前にライトが何かでマモの右頬を斬った。
「何をして、ガッ!?」
ライトの手に握られていたのは、1本の短剣であった。
兵器(こいつ)をあのおっさん、つまりお前の親父が営む戦争博物館から追い出したかったんだろ?どうだ?短剣(こいつ)が戦場で輝かしくお前を斬ってる感想は?」
大きく切り裂かれ、今も流血し続けている右頬を押さえるマモに向かって短剣を投げ捨てた。
短剣(これ)、礼だよ。お前に遭わなきゃ、目が覚めなかった」
一方、ガラに勝利したツルギは、ガラに自分の持論を伝えた。
「貴方は、この機体が強制停止の罠にはまった時に『強者に後悔する権利は無いのか?』と言いましたね」
「……それがどうした?」
「でも、違うんです。強者に必要なのは後悔する権利でも、ましてやライトさんに撃退された人達が行った自分勝手な卑怯でもありません」
「じゃあ、何だって言うんだよ?」
「それは……最悪の事態を防ぐ為の『罪悪感』です」
ガラは再びハッとする。
「罪悪感……か……もっと早くにアンタに出逢えていたなら、俺は門前払いなんかされず、こうやってちゃんと罪滅ぼしが出来てたのかもな……」
そして、ガラは心身共に敗北を認め、マモの実の父カッオが計画していた戦争反対を目的とした戦争博物館の阻止は、ツルギの手によってまた水泡に帰したのである。

ガラ・タンドリーとの決闘を終えたツルギは、後日、メカネに呼び出された。たった1人で。
その理由は、ガラがあそこまでグレた理由をツルギに語る為であった。
「出頭したガラ君の逮捕拒否を伝えたのは、この私なんです」
ツルギは言ってる意味が解らなかったが、取り敢えず黙って聴く事にした。
「自殺した事になっている女性の父親には、妻と娘だけでなく愛人とその間に出来た息子さんまでいましてね、自殺した事になっている女性の父親は自身が運営する財閥の次期総裁を愛人の息子に譲る心算だったらしいです。関係が冷め切った妻との間に出来た娘よりそっちに愛情を注いでしまったんでしょう」
ガラが出頭するきっかけとなった自殺騒動の詳細を語るメカネの言葉に、徐々に怒気が宿って行くのを感じるツルギ。
「ですが、当の財閥の全重役と全管理職が全会一致で、一致団結して次期総裁の座が愛人の息子の手に渡る事態を全力で阻止する事が、現在の総裁である被害者の父親を立会人に仕立て上げた上で結ばれました。ま、それがまったく無関係なガラ君を巻き込んだ自殺騒動に発展する最後の引き金になってしまいましたけどね」
そこまで聴いたツルギは疑問に思う。「その自殺騒動は本当に自殺なのか?」と。
「つまり、愛人の息子に次期総裁の座を譲る為に娘と妻を始末しなくてはならなくなった言う訳です。ですが、普通に暗殺すれば、愛人とその間に出来た息子さんに疑いの目が向いて逮捕の憂き目に遭っては本末転倒と考えたのでしょう。そこで―――」
ツルギはようやく合点がいき始めた。
「全力で娘と妻が自殺した理由と原因を探したぁ」
メカネは力強く頷いた。
つまり、次期総裁争いで図らずも対抗馬になってしまった妻と娘を蹴落とし、愛人の息子に次期総裁の座を譲る為に、邪魔になった妻と娘を自殺に見せかけて殺した……と言う事である。
「そこに自殺した事になっている娘の父親にとってご都合主義的にやって来てくれたのが、ガラ君が長年犯し続けてきた自己中心的な言動でした」
「つまり……父親はまったく無関係である筈のガラさんを娘と妻が自殺した元凶に仕立て上げたと言う訳ですね?」
「ええ。だから、何も知らない上に本当は無関係な筈のガラ君が、本当は黒幕だった父親の娘と妻が自殺した理由が自分だと勘違いして出頭した時は、本音を言えば大変迷惑でしたよ」
「ガラさんが娘と妻の自殺の元凶として逮捕されれば、ガラさんに全ての罪を押し付けて幕引き出来る……からですか?」
「まあ、我々はその時点で自殺した事にされている娘の自殺理由とガラ君の言動との辻褄が合い過ぎる事に疑問を持っていましたし、ガラ君から受けたいじめを苦に自殺した娘の後を追って母親が自殺した割には、元凶であるガラ君への恨みが不自然と思える程少なかった印象を受けましたので、勇気をもって出頭したガラ君には色々と言いくるめて御帰宅願った……と言う次第です」
ツルギは溜息を吐きながらツッコミを入れた。
「犯人達に現在の捜査状況を悟られない様にする為とは言え、当時の説明が足りなかったのでは?」
そのツッコミにメカネは恥ずかしそうに告げる。
「確かにその通りかもしれませんね。本当に反省材料です」
「で、ガラさんの悪質なイジメが原因と言う事になっている連続自殺を、貴方達管理委員会は『自殺に偽装した虐待死』って線で決着をつけちゃったから、ガラさんはそれを自身の逮捕を不当な理由で却下したと勘違いして、その事に逆ギレしたと?」
そのツッコミにメカネは恥ずかしそうに告げる。
「まったくもってその通りです。で、自殺の原因として逮捕される筈だった自分が、何時の間にか不当な理由で逮捕を取り消され、周囲から『毒親から悪友を護りきれなかった弱者』と罵られ続け……後はご存知の通りです」
聞かされた事の顛末に呆れるツルギ。
「何ですかそれは?無関係な筈のガラさんが、まるでピエロじゃないですか?」
つまり、ガラはまったく無関係な家族同士の殺し合いの出汁にされ、全く無縁の黒幕に娘を自殺に追いやった元凶といて罵られ、その事に罪悪感を抱いたから出頭したのに不当に門前払いを受け、謂れの無い罵詈雑言を言われ続けた訳である。
「まったくです」
ただ、メカネの怒気だけは潰えていなかった。
「ですが、やっぱりその様な悪意に満ちた策略は人気が無いと言いましょうか、結局、愛人の息子を全く信用していなかった重役の証言のお陰で、自殺した事にされた娘の父親の逮捕に漕ぎ着けました」
「あ……悪銭身に付かずとはよく言ったモノですね……と言うか、その愛人の息子さん、余程人気が無いんですね?」
ツルギがやや半笑いの中、メカネが鋭い視線でこう宣言した。
「此処から先は私の感想ですが、育ての親にあるまじき精神を見逃す程我々は甘くありませんよ」
メカネは、言いたい事を言い切った途端に物腰が急に穏やかになり、急にツルギに礼を言った。
「だから、ガラ君の心の救済に協力して頂き、感謝いたします」
そう言いながらツルギに向かって敬礼をするメカネ。
だが、当のツルギの心は複雑だった。
ガラが決闘中に言った「強者には後悔する権利は無いって言うのか?弱者には同情される権利は無いって言うのか?」がどうも引っ掛かっていたし、それに、自殺に見せかけて殺された財閥総裁の妻と娘が不憫な上に、冤罪を着せられた上に何も知らずに出頭してしまったガラにも気の毒な部分が有るからだ。
かと言ってガラに完全に同情している訳でも無く、財閥総裁に自殺の元凶として利用されるだけの自分勝手を行ったガラにも責任の一端が有る訳で……
(この事件で1番悪いのは……誰だ?) 
 

 
後書き
本作オリジナル設定

●ガラ・タンドリーの冤罪に関する設定について

本作の中でも物凄く難産だったのは、【るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-】における『相楽左之助』に相当する人物の予定だったガラ・タンドリーさんです。
冒頭の半年戦争は、【るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-】における『赤報隊』に相当する組織が生まれる程大規模ではないし、かと言って「実家や自宅に不満が有るから家出した」では『相楽左之助』らしさに欠ける……
と言う訳で思いついたのが、「罪を背負った事に気付いたので勇気をもって出頭したのに、不当な理由で逮捕を免除されたので、その事に逆ギレした」でした。
その設定の為だけに生み出したのが、「愛人の息子を次期総裁にすべく、邪魔になった妻と娘を自殺に見せかけて殺した巨大な財閥の総裁」だったのですが、彼に関する設定がもう湯水の様に浮かぶ浮かぶ。自画自賛ながらこのまま2時間ドラマを作れるんじゃないかと言う勢いでどんどん浮かびましたが、それだとガラの影が薄くなると思い、最初に思い浮かんだ展開である「メカネが事件の真相を語る」で落ちつきました。 
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