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チートゲーマーへの反抗〜虹と明星〜

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17話 普通というFiction【虚構】

 
前書き
もうちょっとだけクロス話続きます。 

 



ヘラクレス本部。

日本の一強都市 東京……というのはかなり前の話。今や日本政府の権限は関東にしか及ばず、それ以外の地域はエルシャム王国に属している。

それでも関東の一強都市圏というべき東京 霞ヶ関に集う国家機能は、東京都各地に分散している。

その1つであるのがお台場にある特務機関 ヘラクレス本部だ。



「そろそろ答えたらどうだ…?お前が答えないことでお前の仲間はどんどん酷い目にあっているだろうが———」
「ふん。知ったこっちゃねぇなそんなこと。俺はゼロワンともう一回戦う。話はそれからだ。」
「チッ……」


宮下陽人は睨む……その尋問相手は———過激派組織 タイフォンの幹部 シン。

彼がなぜこのヘラクレスに拘束されているか…それは先ほど彼が口にした通りだ。


その時、取調室の扉が開く———丼を3つトレイに乗せて運ぶは、ヘラクレス学生部隊のリーダー 浦野冥斗だ。


「隊長…!」
「この者たちにその手の脅しも効かんよ陽人殿。ほら親子丼。」
「はぁ……」

冥斗は1つの丼鉢を陽人に、そしてもう1つの丼鉢を取ろうとした時、シンに尋ねた。


「なぁシン殿。貴殿はカツ丼と天丼、どっちが好みか?」
「……天丼。」
「ほう、じゃあこっちを。」


冥斗はシンの目の前に丼鉢と箸を置く……彼は鉢を開けた———が。


「あ?これカツ丼じゃねぇか。」
「おっと迂闊でござった……どうも2つともカツ丼だったようですな。」
「チッ…まぁいい。」


シンは少し不機嫌そうな顔をしながらも、カツ丼を食し始める。その様子を見た冥斗は続けて問いかけた。

「そういえばお前の言っていたゼロワン……死にかけたらしい。」
「あ…?」
「え」

一気にその場が凍ってしまう。無論この問答は冥斗によって支配されている。なぜならゼロワンの変身者たる高咲侑を不思議な力で治療したのは、冥斗本人なのだから。

だから全ての事情を知った上でのこの問答、しかしこれを知らない2人が動揺しないわけはない。冥斗は陽人に人差し指を示して静粛を求めた上で、シンに尋ねる。


「その様子だと貴殿にはそこまで都合のいいことではなさそうだ……はたしてタイフォンは【組織という体をなしているのか】どうか。」
「何が言いたいんだよ———」
「小生はこの一件、タイフォンの陰謀ではないと睨んでいる。かといって事態はタイフォンに有利に働いている……つまり、タイフォンを支援する何者かがいるってことだ。」
「……!?」
「小生からは以上———貴殿と話すことはない。」


冥斗は残り1つのカツ丼を持って取調室を後にした———その瞬間、シンは陽人に飛び掛かるように発言する。


「淳一に…淳一に会わせてくれ!!俺の知ってることは全て話す!!だから頼む!!」
「あぁ、だが何で……!?」
「アイツなら知ってるはずなんだ——アイツなら!!」
「一体何者なんだ羽田淳一———」


その時、取調室に取り付けられたマイクから音が発せられる。


【宮下君、尋問は中止だ。】
「武藤司令官…!しかし……」
【これは長官からの命令だ。】
「———わかりました。」



〜〜〜〜〜



「隊長!」
「おっ、陽人殿。」


取り調べを終えて、先輩にして上司である冥斗に追いつく陽人。すぐさま話を切り出す。


「さっきの本当なんですか?ゼロワンが死にかけたって。」
「事実……というよりその手当てをしたのが小生、第一の証人だ。」
「侑さんは…大丈夫なんですか?」
「あぁ。瞬間的に危篤だったが、手当てを施した途端に恐るべき生命力で回復した———わかるか?彼女もただの人間じゃないのかもしれない。」
「それは言えてるかもしれないですね…」


陽人とて侑の驚異的な回復力の目撃者だ。冥斗の言うことはしっかりと理解できる。

世界では、神話に出てくるであろう異形の者の混血の結果が現人類だとされている。ゆえにほとんどの人間が、少なからずそのルーツたる異形が現れている。とはいえそれは人間の様態を変えるほどのものではない……それを増幅させて暴走させているのがタイフォンとも言える。

だが明らかに侑はその異形と比べても、はたまた怪人と比べても並外れている———まるで神話の英雄、あるいは神そのもののように……


「とにかく彼女たちと協力し、怪人たちを倒す。それがベストだと小生は思う。」
「ええ。ただ……」
「?」
「いえ、なんでもないです。」


陽人が抱いた疑問……それは彼らの今後を左右するであろうモノ。この時の2人は知る由もない。

さて、冥斗は続けて陽人に尋ねた。


「そういえば貴殿、エルシャム王と戦ったらしいな?」
「ええ……はっきり言ってバケモノですよ。少なくともアレは誰も勝てませんよ————」
「ほう、では貴殿がこの前言っていた黄金の仮面ライダーとどちらが強い?」
「どちらも未知数すぎて分かりませんよ……ただ。」
「ただ?」
「エルシャム王が【人という知的生命体を畏怖させる】王としてのオーラ……だがあの黄金の戦士は【生物として全細胞が震え上がるような】オーラ———そんなところですかね。」
「全細胞ねぇ。」


黄金の戦士……仮面ライダーエグゼイド ムテキゲーマーの変身者が放つ威圧感はもはや、生命として元来備わっている死への恐怖が震え上がる。そんなところだろうか。

冥斗は少し考えた後に、陽人の肩をポンと叩いて忠告した。


「ま、そんな神か悪魔かバケモノの類いの敵とは戦いを避けることだ。戦っても損こそあれど得はないからな。みすみす命を放り投げるほど愚かなことをしない……それも仮面ライダーとして大事なことだ。」
「そう…ですね。」


陽人は歯切れ悪くそれに相槌を打った。




—————※—————




夜も更けた。

美しい満月がお天道様に代わって優しい光を照らしている…… 月がこの地上の者どもを全てを監視しているとも言えるか。


そんな夜に1人 澁谷かのんはライブの興奮冷ませず、眠れないでいた。

その興奮を冷まそうと、彼女は玄関前のガラス窓からペットのフクロウ マンマルとその月を眺めていた。


「ふぅ……」


一息ついたかのん。今の彼女の思考…それは—————


『そんなに気になるか?』
「!?!?!?」


突如かけられた声……深夜なのもあって驚いてしまうかのん。

その心と脳に直接響き渡るようなダンディーな声の主は


「才さん!?」
「よっ、ちょっと来いよ。」
「?」


俺は窓を叩いて外に出ろと指示する。かのんは不思議に思いながらも俺の指示に従って、外へと誘われる。


〜〜〜〜〜



「なんなんですかこんな夜遅くにいきなり……」


かのんは俺の非常識さを困惑しながら糾弾する。

確かに男が旬の女子高生を連れ出すなど警察沙汰だ———とはいえ、ここは澁谷邸のすぐ隣のスペース…..そして俺は、女性に対しなんら興味はない。

俺は早速、彼女に問いかける。


「何をそんなに心配してんだ?」
「え?何言って……」
「お前の目を見ればわかる———感情がぐるぐると回っている目だ。」
「……」


かのんは俺から目を逸らして黙ってしまう。だが俺はそれで引き下がるほど、諦めのいい者ではない。


「速人だな。」
「!?!?——はぁ!?!?」
「俺が見抜いていないとでも思ったか……というより、小さい頃からお前らを見てきたんだ。『お前が恋心を自覚する前』から、俺は気づいていたぞ。」


かぁ〜っと湯気が立ち上がるように赤面するかのん。焦点が定まらぬ彼女を他所目に、俺は語り続ける。


「速人はガサツな那由多とは違って、顔だけじゃなく仕草も声もイケメンだし、第一お前らのことを気遣って行動してくれるし……惚れないわけないか。」
「————」
「ま、それは
「可可ちゃんも同じ。」


俺の言葉を遮って、かのんは俺の言葉の代理をする。その顔は先ほどとは打って変わって暗い———ハイライトが消えかかっている。

俺は正直言って、この目——正確にはこれより「一歩先に進んだ目」が本当に好きじゃない。あの阿呆どもと同じ目だ。


「可可ちゃんは昨日ので確信が持てた……速人くんとの関係を発展させたいのがすぐ分かった。私だけじゃない、ちぃちゃんだってそれは分かったはず。」
「……」
「ねぇ才さん。私どうしたらいいですか!?どうしたら……」
「ぷっ……くくく…ふはははははは!!」


突如起こった、俺の吹き出すような笑い。

正確には嘲笑のようなそれと喜劇を見ているようなそれとが混じり合ったものか。


「全く俺には理解できんよ……男に執着する女心は。」
「はぁ?」
「速人のことなんて忘れろ。変に物事に執着すれば体に毒だ。スクールアイドルやりたいなら速人なんて塵ゴミに思うことだな。」
「え……?」


言葉を失うかのん———すると、そろりそろり……フラフラと俺に近づいてくる。


「何ですかそれ……仮にも速人くんの育ての親が言うことじゃありませんよ!?」
「別にアイツに言ったわけじゃないからいいだろ。そもそも、これはお前のために言ってるんだ。」
「だったら尚更です!!何でそんな情の欠片もないことを……私はこの十数年で速人くんのことをずって見てきて、この人が隣だったらいいなって、そばにずっといてくれたらいいなって思ったのに!!あなたは何も思わなかったんですか?」
「それはちょっと論理が飛躍しすぎだろう———が、別にアイツに対して『愛はない』からなぁ。」
「はぁ…!?」


愛はない……その言葉にキレたのか、かのんは俺の黒いシャツの襟を掴んできた。


「あなた一体何者なんですか?本当に人間なの!?愛もないのに2人を育て上げるって……!?」
「俺がゲーム好きなのは知ってるだろう?俺はアイツらを育てるという育成ゲームのようなモノをやりたかった……それじゃダメなのか?」
「ダメって———そんなの頭おかしいですよ!!」
「それはお互い様だろ。お前は速人のことになると論理が飛躍する———それを狂っていると言わずしてなんという?」


人間かと言われればNOである。しかしそんなことはどうでもいい。俺にとって……つまらぬことだ。

かのんは俺を冷酷で非情なやつで、狂っているという。

しかしよく考えてみろ。

彼女のいう誰もが持つ愛こそ真の狂気。愛など持っているから、愛するものを失ったときに憎しみを引き起こす。そんなモノなど持っているだけ無駄だ。


「もう一度言っておく。お前が愛と呼ぶ『病気』は早いうちに治すことだ。そうでなきゃ、自分も周りも速人も不幸になる。」
「そんなの……できるわけないじゃないですか!!」バッ


かのんは半泣きになりながら俺の元を去っていく。

笑みが止まらない。


「くくく…くはははははっ…ふっははは……見てるか?俺は忠告したぞ。アイツはそれを自ら拒否したんだ———これでこの世界がどうなっても俺の関わるところじゃないぜ……」






—————※—————



「ユーちゃん酷い……貴方がこんな仕打ちをするなら———私は、貴方の幸せを全部奪ってやるんだから……!






絶対にユルサナイ……!」



〜〜〜〜〜



「うっ……またこの夢———」


自室で目を覚ました侑。

後味の悪すぎる夢、これを見るのはあのフェスの日から3日続けてだ。

夢の中の歩夢はまるで人ではない。暴力的な力を持った邪悪の権化……悍ましい悪魔。こんなファンタジックな世界であるのに妙にリアルであるから余計に恐ろしい。


「今日は同好会の部室を掃除するって言ってたな———」


そんな独り言を呟きながら、リビングへの扉を開けた……その時。






「侑ちゃん、おはよう♪」テヘッ
「あ、あ、、ああああゆむっ!?!?」







情けなく尻餅をついた侑。侑の体を本能的に震えさせる、目の前の光景……歩夢の頬にべっとりとついた夥しい量の赤い液体。




それを夢の再現と言わずして何という。



「どうしたの侑ちゃん?そんなに震えて……」
「歩夢、そ、そ、その血は……!?」


歩夢は侑の様子を一瞬不思議に思ったが、すぐさま自分の頬の液体のことだとわかる。


「あぁこれ?実はイフトさんにお魚をもらっちゃったから捌いてたら血が吹き出しちゃって……驚かせてごめんね?」
「あ、あ、うん……こっちこそ驚きすぎちゃったよ。ごめん歩夢。」
「また嫌な夢でも見たの?」
「あはは……まぁね。」


適当に相槌を打ちながら誤魔化そうとする侑。その額には尋常じゃない冷や汗が噴出する。


「あ、朝ごはんできてるよ?今日の卵焼きは上手くできたなぁって思ったから、食べたら感想聞かせて?」
「あ、うん。」


そうだ。歩夢がバケモノな訳ない。普通に、常識的に、自然に考えればそうなる筈だ。そんな考えに至ること自体が滑稽だ。

だが……そう、歩夢の裏の顔を見たような気がして———


「あ、サスケに餌やりしなきゃ…ちょっと行って来るね?」


歩夢は家を出て行った。




—————※—————




東京 霞ヶ関


「ウィル……まさか君が失敗するとはね。」
「sorry, chairman。返す言葉もない。」
「あのエルシャム王が手を打たないわけがないか————」


議長と呼ばれるご老体は顔をしかめているが、その難題さを理解していても居た。


「しかし始末できずとも、ヤツは重体。とてもじゃないが我々の情報をリークすることなどできまい。それより……」


議長は立ち上がってビル群をその最上位の階から見下ろす。まるで自分がこの世界を支配人であるかのように。


「組織に所属していない、エルシャム王と共にいた新たな仮面ライダーか……確か結ヶ丘高等学校の生徒と言ったね?」
「ええ。」
「結ヶ丘……か。全く、『あの女』は死んでも我々の邪魔をする———本当に煩わしい。」

指がぴくぴくと動かす老体……怒りがあらぬ動きを呼んでいる。

「いかがしますか?あの特務機関のガキにもそれ相応の対策は取らねばいけないと思いますが。」
「そのガキは虹ヶ咲学園———ジェイコブが彼らの締め付けを行うだろう。君は……さっきの仮面ライダーの抹殺———しいては…





結ヶ丘高等学校の廃校を命じる。」








—————※—————




ピッ…ピッ…



心電図モニターが孤独に鳴り響く。

ここはとある総合病院のVIP病室……そこにある男が訪れる。

蝶ネクタイにスーツを着こなした紳士は開口早々、嘲笑うように傷病人に言い放つ。


「なんてザマだ、稔———」


病室で今も昏睡している葉月稔、それを鼻で笑いながら、見舞いの花として持ってきたカンパニュラの花を彼の近くに飾る。


「しかしこれもリアル———醜いがゆえに美しい…か。」


花瓶に美しく生けられたカンパニュラ……その出来に紳士は満足げな表情をする。


「花言葉は…『後悔』か。君にピッタリだと思わないか?」


prrrrrr……


電話に出る紳士。


【ちょっとおじさん!?今どこにいるの!?】
「公私混同はやめた方がいい。私のことはチーフと呼ぶように教えたはずだが。」
【わかりましたよチーフ。で、今どこにいるの?】
「ちょっと出かけているだけさすぐ戻るよ……薫子。それより例の話、プロデューサーたちに話したかい?」
【うん。すぐに考案するってさ。】
「それはよかった……では。」
【あ、ちょっと


電話を自己都合で切ってしまう紳士……彼は眠る稔に向かって忠告する。


「くれぐれも無茶をしないことだ。お前の暴走で私が何度尻拭いをしてきたか……特にこの世界のリアルをぶち壊すような無作法なことはね。」


その時……1人の美男と一対の子どもたちがこの病室に入る————「扉を開けずに」。


彼らを見た紳士は瞬時に跪く。


「お待ちしていました……テオス様。そして…セフィオスさま・グリフォスさま。」
『………』


彼の名は————小原現照(ありてる)。

その名字が示す通り、あのエルシャム王 小原魁と王妃たる渡辺月の長男にして葉月稔の兄でもある男……そして———人間でありながら「神と呼ばれる存在」の使徒でもある。


早速、双子たちは蜘蛛の折り紙を見舞い品として枕元に供える。

「「よくなりますよーに。」」

オーヴァーロード/ユオスは眠る稔に微笑んだ。そして現照に告げた。

『……使徒アリー。彼はまだ生きるでしょう……彼にはまだこの世界でなすべき天命があります。』
「はっ……」
『「封印」はすでに解かれました。世界はもううねり始めています……世界の中枢に蔓延っている背信者たちもその動きは察知しています———彼には彼らを守る天命があります。』
「背信者の中にはヴィジョンドライバーの使用者がいるそうです。おそらく、2台目も彼らに渡っているかと。」
『……残念です。彼を瀕死に追い込んだのもまた、使徒のドライバー———しかしそれゆえに、彼が死ぬことはなかった。』
「すでにご覧になっておいででしたか……」


ヴィジョンドライバー……それは神の力を代行する地上の使徒に与えられたモノ。当然、そのドライバーが映す光景は神が閲覧しているモノに他ならない。無論その出力の調整など……全てが神の掌である。

そして一部に神と同等権限のあるヴィジョンドライバーの『プロトタイプ』が存在する。


『人間に神が干渉できませんが……君は違う。そのヴィジョンドライバーの0号機を十全に発揮する日も遠くないでしょう。』
「ええ……誰に使うことになるかは、わかりませんが。」


現照は弟を見ながらそう言った。







 
 

 
後書き
リアルを求めるプロデューサー?

 
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