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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ

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クリスマスイブイブストーリー④



クリスマスイブイブストーリー④

 

「彼らの先祖が沢田家康の両翼だったことは分かりました。ただ、それでも彼らを鍛える意味は分かりません」

「まぁそれだけならな。だが、そうも言ってられなくなるかもしれねぇんだ」

「? どういう——」

「反転世界の事件ですね?」

『!』

 

 リボーンと風が話していると、後ろの方から声がかけられた。

 

 2人が後ろを振り向くと、そこには椎名ひよりが立っていた。

 

「ひよりか。……チェッカーフェイスに聞いたか?」

「ええ。ついさっきですけど。尾道とか言う人が手紙を置いて行きましたよ」

「フゥ——あの変な男ですか。……ところで、あなたがチェッカーフェイスの娘という椎名ひよりさんですか?」

「ええ、よろしくお願いします風さん」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 ひよりと風が握手を交わす。

 手を離すと、風は本題へと戻した。

 

「フゥ——それで? 反転世界の事件とは? チェッカーフェイスと何か関係が?」

 

 風がそう聞くと、リボーンは真剣な顔で語り始めた。

 

「ああ。チェッカーフェイスの、ひいては7³に関係がある話だ」

「っ! 7³にですか?」

「ああ。さっきも言ったが、俺は昨日までイタリアに行っていたんだが、日本に戻る前にタルボに帰化後のⅠ世についての話を聞きに行ったんだ」

 

 

 —— イタリア 、とある場所 ——

 

「……天陽の右翼と朧月の左翼か。その2人とⅠ世が自治組織を作ったんだな?」

「そうじゃ」

「その組織は、このアルバムに書かれているようにあさり會と呼ばれていたのか」

「そうじゃ。マフィアでも自警団でもない。日本ならイタリアほどの危険はないと思ったのじゃろう」

「……だが、さっきの話を聞くとあさり會でも戦闘は避けられなかったようだが?」

「うむ。Ⅰ世の望みを叶えるなら、日本といえど戦闘からは逃れられなかったのじゃよ」

 

 タルボの話を聞いていると、俺の中に疑問が一つ浮かんできた。

 

「……しかしⅠ世はボンゴレリングをⅡ世に継承していたはずだ。グローブは持っていたとはいえ、全盛期ほどの力はなかったんじゃないか?」

「ああ。もちろん、帰化した時にⅠ世は7³の一つであるボンゴレリングは持っておらなんだ」

「にしては強い組織を作ったみたいだな。初代ボンゴレファミリー程の人材も武器やアイテムも当時の日本には無かっただろうに」

「いや、Ⅰ世……沢田家康とその両翼は持っていたんじゃよ。ボンゴレリングに匹敵するアイテムをな」

「!」

 

 7³の一角、ボンゴレリングに匹敵するアイテムだと?

 そんなものがあるとは思えないが、タルボが言うのなら本当なのだろう。

 

「そんなアイテムがあるのかよ」

「ああ、あるぞ」

「……それは、どんなアイテムなんだ?」

「ふふふ、それはのぉ」

 

 タルボが嬉しそうに口角を上げながら話を続けようとした……その時!

 

「7³のことかな?」

『!』

 

 俺とタルボのすぐ近くに、鉄帽子を被った男が現れた。

 

 そう、チェッカーフェイスだ。

 

「チェッカーフェイスか。ワシの元に来るとは何の用じゃ?」

「久しぶりだね、タルボ。そしてリボーン君」

「ああ。お前の娘ともあったぞ」

「ふふふ、いい子だろうひよりは。私の後継者だからね」

「……で? さっきお前が言っていたのはなんだ?」

「今君がタルボに問うた質問の答えさ。そして私がタルボを訪ねて来た理由でもある。いやはや、リボーン君がこのタイミングでいてくれたのはラッキーだな」

 

 チェッカーフェイスは意味深な笑いを浮かべていたが、すぐに真顔(?)に戻った。

 

「……タルボ。反転世界にあったアンティ・マーレリングとアンティ・おしゃぶりが盗まれた」

「! なんじゃと!? 反転世界に足を踏み入れたものがおると言うのか!?」

「……そうだ。私もうかつだったよ。後継者が出来たことで気が抜けていたのかもしれない」

「し、しかし。反転世界に行けるのはワシとお主くらいのものでは……」

「今まではね。……多分だが、君と同じ様にあちら側への穴を作り出したのではないかな」

「! バカな。穴を開ける素材を全て集めたというのか!?」

「そうとしか考えられないだろう」

(……こんなにタルボが動揺した姿を見るのは初めてだな)

 

 出会ってから初めて見るタルボの姿に困惑していると、チェッカーフェイスが俺に話しかけて来た。

 

「すまないね、リボーン君。まずは説明をしないと理解できないか」

「……教えてくれよ」

「ああ。もちろんだ」

 

 そしてチェッカーフェイスは詳しい説明をし始める。

 

「リボーン君。7³がどういうアイテムかは知っているね?」

「ああ。地球上の生命力のバランスを調整し、生命の正しい進化を育む装置……だろ?」

「そうだ。では、どうして7³があれば生命力のバランスを保てるかはわかるかい?」

「いや、流石にそこまでは分からない」

「まぁそうだろうね。我々生粋の地球人しか知らないはずだから」

 

 じゃあ聞くなよ……というのはやめておこう。

 

「この地球上の全てのものは、三つの要素によって存在が安定しているんだ」

「三つの要素?」

「そう。『生命と物質』『時間』『空間』の三つだ」

 

 チェッカーフェイスは指を三本立て、それを一本づつ折り曲げていく。

 

「生命と物質は、この世界を構成する根幹。何万という物質でできた地球という惑星と、そこで生きる生命達のことだ」

 

 地球とそこに生きる生命。

 

「時間は、地球の生命に進化を促す。過去から現在へと脈々と流れる時間によって、生命は誕生と死亡、繁殖と絶滅を繰り返して進化していくんだ」

 

 時が流れてなければ、今のこの世界は作られてはいないだろうな。

 

「空間は、生命に安定を与える。空間が広がっていき世界が安定する事によって、生命が命を育みやすくなるんだ」

 

 空間が広がる……平行世界のことか?

 

「ここで思い出してほしい。7³にまつわるある詞を」

「……詞?」

「そうだ」

 

 ——海はその広がりに限りを知らず

 

 ——貝は代を重ね その姿 受け継ぎ

 

 ——虹は時折現れ 儚く消える

 

 

「! ユニが前に言っていた……」

「そう。7³それぞれの大空の在り方を示している詩だ」

 

 海、マーレは横の時空軸。どこまでも広がる並行世界に生き

 

 貝、ボンゴレは縦の時空軸。過去から未来への伝統の受け継ぎに生き

 

 虹、アルコバレーノはそのどちらにも止まらず、その両方に点として存在する……という意味だったか。

 

 

 

 チェッカーフェイスは折り曲げた指を再び立てた。

 

「何となく分かっただろう? つまりは縦の時空軸のボンゴレリングは『時間』を司り、横の時空軸のマーレリングは『空間』を司り、おしゃぶりは縦横両方の時空軸に影響を受ける『生命や物質』を司っているんだよ」

「……なるほど」

 

 

 今の説明で、7³の役割については分かった。だが、肝心の気になった部分は分かっていない。

 

 今度はそのことを説明してもらおう。

 

「……だが、今のでは俺の疑問の答えは出ていないぞ」

「わかっている、これから説明するさ」

 

 急かすなよと言いたげにチェッカーフェイスは肩をすくめた。

 

「今、7³について詳しい説明をしたわけだが……実際は7³だけで地球が安定しているわけではないんだ」

「なに?」

「表に裏が、光に影があるように。全てのものはその一つだけでは存在できない」

「……反物質のことか?」

「! ほぉ。さすがはリボーン君。博識だね」

 

 

 —— 現在 ——

 

「反物質?」

 

 風が話を止めてそう聞いて来た。

 

「風は知らないか? ひよりはどうだ?」

「一応知っています」

「ほお。さすがだな。じゃあお前から風に説明してやってくれ」

 

 俺がそう言うと、ひよりは反物質について風に説明を始めた。

 

「反物質とは、簡単に言えば私達の身の回りにある物質と全く同じ構造なのに、性質だけは真逆の物質のことです」

 

「性質だけ真逆?」

 

「簡単に言えば、電極のプラスとマイナスが真逆になるのようなものです。プラスの電極があれば、マイナスの電極もあるように全て物質には対となる存在があるのです」

 

「なるほど。しかし、そんなものは見たことがありませんね」

 

「当然だと思いますよ。物質が生まれると必ず対となる反物質が生まれ、逆に反物質が作られる時にも必ず物質が作られるのですが、物質と反物質が出会ってしまうと、対消滅という爆発を起こして消滅してしまうそうです。なので反物質は生まれてもほとんどの場合は存在し続けられません」

 

「なるほど、反物質よりも物質の方が世界には多いから、生まれてもすぐに対消滅してしまうと」

 

「そういうことです。しかし、物質が大半のこの世界があるように、逆大半が反物質の世界もあります」

 

「! ということは、その世界が?」

 

 風はひよりから俺に視線を移した。

 

 俺は無言で頷き、話題をチェッカーフェイスの話へと戻した。

 

 

「……つまり、7³にも対となる存在があると?」

「ああ。そして7³だけじゃない。幾万の物質の集合体である地球も、そして宇宙さえも。対となる存在はあるらしい。まぁ私が知っているのは地球の反物質、反地球までだがね」

「反地球……」

「そう、そして反地球があるのは、この世界の対となるもの。つまりは反世界。我々はその世界を反転世界と呼んでいる」

「さっきも言っていたやつか」

「その通り。反転世界はこの世界と鏡合わせの世界だ。この世界と同じ様に構成されてはいるが、その全てが正反対の性質を持っている。そして、生物は存在しない」

「! 生物は存在しない?」

「ああ。なぜか反生物は存在しないんだ。その理由はわからないが、生を全うする生物の反対は死を全うする事になるから……ではないかと私は思っている」

「……」

「そして、この世界と反転世界は連動している。たとえば、この世界でマーレリングが封印された時。反転世界にあるマーレリングの対となる存在も封印状態に陥っているんだ」

 

 反転世界にも7³があるのなら、おなじように7つおしゃぶりと14個のリングがあるのだろうか。

 

 というか、反転世界ではアルコバレーノ のような人柱は必要なかったのか?

 

「反転世界のおしゃぶりとボンゴレリングは今どうなっているんだ?」

「もちろん健在だよ。こちらの7³が正常なら、何もしなくても反転世界の7³は正常な状態を保たれるからね」

「じゃあおしゃぶりとリングはその辺にほっぽってるのか?」

「いや、正確にはおしゃぶりとリングではない。あれは私やタルボが7つの石を加工したものだからね。あちらでは今でも石のままのはずだ。ボンゴレリング以外はね」

(……ボンゴレリング以外は?)

 

 最後の言葉が気になったが、チェッカーフェイスは話を続けている。

 

「反転世界の7³は、『7³』(アンティ・トゥリニセッテ)と呼ばれ、私の同胞がまだ10人以上いた時には稀に反転世界を誰かが訪れる事で簡単な管理だけはしていたんだ。しかし、同胞が私とシビラだけになった時。私はもう放っておいてもいいだろうと考えた。反転世界には生物はいないし、反転世界に行けるのは私達や特殊なアイテムを持っているタルボだけだ。何者も『7³』に手は出せないと判断してね。しかし、シビラはボンゴレリングの対となる石だけはこちらの世界に持ってくるべきだと言い出したんだ。まぁ石のままなら新人類には扱えないし別にいいかって事で、ボンゴレリングの対となる石のみをシビラに預け、他は反転世界で7属性の炎によるバリケード付きの箱に入れて置いておく事になった」

「……それで、シビラはその石をどうしたんだ?」

「すまないが、私はシビラと喧嘩別れをしていてその先の事は知らないんだ。ここから先はタルボに聞いてくれ」

 

 チェッカーフェイスからタルボへと語り手が移り、話は続いていく。

 

「ふむ。シビラが預かった石は、ボンゴレを引退して帰化しようとしていたジョットへと手渡されたんじゃ。あなたにとって必要になると予言を残してな」

「じゃあ、ボンゴレリングの対となる石は日本に渡ったんだな?」

「ああ。沢田家康に改名した後もジョットが持っていたのじゃ」

「……Ⅰ世はその石をどうしたんだろうな。……まさかツナの家にあるとかじゃねぇよな」

「ほっほっほ。もちろん違うぞ。その石は形を変えてどこかの家系が持っておるはずじゃ」

「は? 何処かの家系?」

「そうじゃ。家康の両翼の子孫の家系がな」

「!」

 

 両翼の子孫? つまり、堀北と綾小路の家が持っているってのか?

 

「懐かしいのぉ。ある日に、家康はシビラから預かった石を持ってワシのことを訪ねて来たのじゃ。両翼も連れてな」

「なに? Ⅰ世がイタリアに訪ねて来たのか?」

「いや、ワシもその時は日本におっての。日本で住処にしている場所に来たのじゃ」

 

 タルボは思い返す様に上を見上げながら語り続ける。

 

「『この石をリングの様なアイテムに加工してほしい』、そう言っておった。何やら両翼達にも戦う術を持たせたいとかでのぉ。表社会で7³を使うほどの戦いなど起きないと言ったのじゃが、家康は必要になりそうだといつまでも言い張るのでな。仕方なく石の加工を受けることにした。そして、早速加工に入ろうとした時に驚くべきことが分かったのじゃ」

「驚くべきこと?」

「ああ、お前さんも知っているだろう。優れたリングには魂が宿るんじゃが、もちろんその元となる石にも魂が宿っておる。わしが加工のために石の魂と会話を試みた時、その石はこう言ったんじゃ。〝我を2つの石へ加工しろ〟とな。ボンゴレリングの様に7つのリングにするつもりだったが、石がそれを拒んでおったのじゃ」

 

 このタルボは魂を持ったリングと会話をすることで、その魂に最適な形へと加工することができるらしい。

 

「ワシは石の言葉を家康に伝えた。すると家康は好都合だと言いよった」

「好都合?」

「ああ。元々2人にも持たせるつもりだったからとな」

「……反物質とはいえ、それも7³だろ? だったら、リングと同じ様に7人の仲間に渡すべきじゃねぇのか?」

「ワシもそう思ったんじゃ。だがの、その答えは石が教えてくれたわ。その2人は大空以外の6つの属性を2人で網羅できるのだと」

「は? 2人で6つの属性を網羅? そんな事が可能なのか?」

「可能だったんじゃよ。おそらく石に選ばれし適合者だったのじゃな。家康もその事を直感しとったのだろう。だからあさり會は少数先鋭で成り立ったんじゃ」

 

 なるほど、本来なら6人いる所持者が、2人で事足りるからか。両翼それぞれに有能な部下を数名付ければ組織として成立する。

 

「右翼が嵐・晴・雷を、左翼が雨・雲・霧という具合にな。だからワシはきちんと属性が持ち主に適応するように石を2つに分けて加工した」

 

 タルボのその発言に、俺は違和感を覚えた。

 

「……いや、それだと足りなくないか? 7³なら大空がないのはおかしいだろ」

 

 そう。7³は全部で7つの属性に分けられるはずだからな。

 

「もちろん大空もあったぞ。両翼のアイテムの中にな」

「中に?」

「ああ。加工した石を両翼に手渡し、最後の工程としてありったけの生体エネルギーを石に流し込ませると、その石は両翼の専用アイテムへと変化した。右翼の石は白い花があしらわれた髪飾りと宝石が欠けた指輪へ。左翼の石は銀の懐中時計と宝石が欠けた指輪へとな」

「! なるほど、ハーフボンゴレリングみたいなかんじか」

「そうじゃ。大空のアイテムは指輪だった。両翼が半分ずつ生み出したんじゃよ」

 

 つまり、ボンゴレリングの対となる7³は指輪、髪飾り、懐中時計の3つのアイテムってことか。

 

「……なぁ、7³は7³とは反対の力を持っているんだよな」

「そうじゃ」

「それなら各属性の特性も違うのか?」

「! ふふふ……もちろんそうじゃ」

 

 タルボはこの質問を待っていたのか、ニヤリと笑いながら語り始めた。

 

「まず前提として、7³はマイナスのエネルギーを有している。対となる7³がプラスのエネルギーを持っておるからのぉ」

「7³は地球の生命体のバランスを保つものだから、この世界においてはプラスに働くからか?」

「その通り。つまりその逆の7³は反転世界においてプラスに働く。だがその力はこの世界においてはマイナスに働いてしまうのじゃよ」

「……」

「そして炎についても違う。この世界では死ぬ気の炎じゃが、反転世界では『希死念きしねんの冷気』となる」

「希死念の冷気?」

「そうじゃ、死ぬ気の炎は生体エネルギーが変換したもの。それは言い換えれば生きている生物にしか発せないエネルギーじゃ。そして生の逆は死。生きるために死を覚悟する死ぬ気ではなく、むしろ死を望んで生を捨てる覚悟をするのが希死念というわけじゃ。死ぬ気におけるプラス状態とマイナス状態が反転していると言えば分かりやすいかの。もちろん属性毎に放つ色も変化する」

 

 つまり簡単に言えば、反転世界では死ぬ気の零地点突破状態がプラスの境地で、ハイパーモードがマイナスの境地ということか。

 

 

 この世界においてマイナスに働き、死を望む力……それはどういう力なのだろうか。

 

 

 その後にタルボに聞いた説明によるとこうなるらしい。

 

 

『嵐』——嵐の特性は〝分解〟だが、その対となる『反嵐』の特性は〝改変〟となる。つまりは分解ではなく全く別の物質に変換してしまえる力を持っている。冷気の色はマーダー。

 

『雨』——雨の特性は〝沈静〟だが、その対となる『反雨』の特性は〝暴走〟となる。対象の能力や特性、人体なら細胞さえも暴走させてオーバーヒートさせる力を持っている。冷気の色はネイビー。

 

『晴』——晴の特性は〝活性〟だが、その対となる『反晴』の特性は〝途絶〟となる。対象のエネルギーの流れを堰き止め、活動を停止させる力を持っている。冷気の色はメイズ。

 

『雲』——雲の特性は〝増殖〟だが、その対となる『反雲』の特性は〝減衰〟となる。対象のあらゆる物を徐々に減少させる事ができる力を持つ。それはすなわち、個体や生命なら消滅させることも可能だということになる。冷気の色はマルベリー。

 

『雷』——雷の特性は〝硬化〟だが、その対となる『反雷』の特性は〝脆弱〟となる。対象の強度を極限まで引き下げる事ができる力を持つ。使用者の強化に適した雷と違い、反雷は敵の弱体化に適していると言える。冷気の色はスプルース。

 

『霧』——霧の特性は〝構築〟だが、その対となる『反霧』の特性は〝崩壊〟となる。霧が無いものを在るものとし、在るものを無いものとする幻覚を構築するのに対し、反霧は現うつつを崩壊させて、確かに存在していたはずの現実を幻と変えてしまう力を持つ。冷気の色はグレー。

 

 

 ——そして6つの属性を包み込む大空は……。

 

『大空』——大空の特性は〝調和〟だが、その対となる『反大空』の持つ特性は〝混沌〟となる。大空の調和が周囲と同調させることで対象を自然界に返す力を持つのに対し、反大空は対象を混沌の世界、つまり反世界に引き摺り込む。その結果、周囲や対象を無秩序で混沌とした形に変えてしまう力を持つ。冷気の色は全てを凍らす絶対零度、アブソリュート・ゼロ。

 

 聞いた感じではとてつもなく危険な力としか思えないが。本当に沢田家康は7³の力を使って戦っていたのか?

 

 弱者に危険が及びそうな力を使ったとは考えにくいんだがな。

 

「……とんでもねぇ力みてぇだが、沢田家康がそんな力を使ったとは思えねぇぞ」

「ほっほっほ! 当時のワシも同じ事を思ったわい。だからこそ最初は家康を止めたんじゃよ。でもの、家康はこう言い切りおったわ」

「?」

「どんな力も使い手次第。俺が本当に大空を体現した人間ならば、混沌の力に染まりつつも包み込んで正しく使えるはずだろ? ……とな」

 

 ……大空と謳われたⅠ世らしい言葉だな。Ⅰ世には安全に使いこなす自信があったということか。

 

「しかしだ。ボンゴレがⅡ世に代変わりしたことで方向転換したように、自分達とは違う力の使い方をする者が出ないとは言い切れない。ゆえに、家康はあさり會を一代だけで終わらせたのじゃ。あさり會の事がボンゴレにもどこにも伝わっていなかったのは、危険な力を持つ7³の情報が不用意に広がらないようにする為だったわけじゃな」

「……じゃあ、あさり會の解散後は7³はどうなっていたんだ?」

「アンティ・おしゃぶりとアンティ・マーレリングは反転世界で保管され続けた。じゃが、アンティ・ボンゴレリングは最初に言った通りに2つの家系が家宝として受け継いでいったのじゃ」

 

 そういえば、そう言ってたな。

 

 タルボは再び過去のことを語り始めた。

 

「あさり會が解散する時、家康は両翼にこれからはそれぞれの人生を歩むように告げた。戦いの日々は忘れて、普通の幸せを掴む様にな。……じゃが、左翼は受け入れても右翼はそれを拒否したのじゃ」

「拒否?」

「ああ。右翼は家康と過ごした日々を無かった事になどしたくなかったのじゃな。じゃから、これから自分達は離れ離れになるとしても……何年、何十年、何百年か先の未来で再び巡り合えるはず。それを信じている。だからこれで最後の別れでは無いのだ、とな」

「……そんな夢物語、よく言い切ったよな」

「ほっほっほ。夢物語ではないぞ? アンティ・ボンゴレリングの起こす奇跡があるからの」

「! ……あぁ、縦の時空軸の奇跡か。未来の子孫達が自分達のように巡り合うはずだと信じていたんだな」

「それも少し違うのぉ。それはボンゴレリングの縦の時空軸の軌跡じゃろ?」

 

 タルボはちっちっと指を振りながらそう言った。

 

「家康達がその時持っていたのはアンティ・ボンゴレリングじゃ。つまり、起きる奇跡も変わってくるんじゃよ」

「なに? そこも違うのか?」

「当然じゃ。アンティ・ボンゴレリング……いや、今ではアンティ・ボンゴレギアかの。で、じゃ。アンティ・ボンゴレギアの起こす縦の時空軸の奇跡は……『未来から過去への革命』なんじゃよ」

「革命だと?」

「ああ。ボンゴレリングは伝統、そして所持者の魂と時間を刻んで未来へと継承していくものじゃからな。その逆で、アンティ・ボンゴレギアは過去の所有者に未来の所有者の魂や時間を共有させる力があるんじゃよ」

「……なら、もし両翼の子孫がアンティ・ボンゴレギアを持っているなら……」

「子孫達の過ごしている時間や見ているモノ、感情までもを過去の両翼達が共有しているじゃろうな。つまり右翼が言いたかったのは、『自分達の出会いは運命だから、この縁は切ろうとしても切れるものでは無いことを7³の起こす奇跡が証明してくれるはずだ』……ってことだろうのぉ」

「……」

 

 さっき綾小路と話した時に、あいつのポケットに錆びた丸いものが見えたんだ。

 

 ……あれがアンティ・ボンゴレギアだとしたら。

 

(雲雀にもその辺を調べてもらわねぇといけねぇな)

 

「……7³のことについては大体分かった。じゃあ次はアンティ・おしゃぶりとアンティ・マーレリングが無くなったことについて教えてくれよ」

 

 そう言うと、再びチェッカーフェイスが話に加わってきた。

 

「それについては私も話をさせておくれ。言った通りそのままで、反転世界で保管していたアンティ・おじゃぶりとアンティ・マーレリングが無くなったんだ。おそらく盗まれたんだろう」

「7つの炎でバリケードを作ってたんだろ? それに反転世界にあるのにどうやって盗まれるんだ?」

「……考えられる可能性は一つ。タルボの様にとあるアイテムと素材を使って反転世界へ通じる穴を開けたということだ」

「そのアイテムと素材ってのは何なんだ? 手に入れられるものなのか?」

「……アイテムは場所が分かりさえすれば手に入れられたはずだ。しかし、素材の方は普通集められないんだよ」

「? その素材とは?」

「……大空の七属性と、大地の七属性の炎だ」

「っ!」

 

 大空と大地の七属性の炎? そんなの集められるわけはない。タルボが集められたのは、ボンゴレⅠ世とシモンⅠ世に信頼されていたからだろうが、現代のツナ達を知らぬ全くの他人が集められるとは思えない。

 

「……でも、盗まれたとしたら素材を集められたってことになるよな」

「そうだね」

「……じゃあ、アイテムの方はどうなんだ? 簡単に情報を集められるのか?」

 

 チェッカーフェイスは首を横に振った。

 

「いや、特定の国にいるとある地域にいかないと知り得ないはずだ。そもそもその地域で情報を得ていないと、反転世界の存在を知ることもできないと思うんだが」

「……その国ってのは?」

「……中国さ」

「! 中国だと?」

「……ああ。私が7³を見守る為の主となる顔は中国にあってね。7³を反転世界で保管した後、反転世界に行ける者がでないように私に友好的な中国の者に残っていたアイテムを隠させたんだ」

 

 アイテムは中国のどこかにあったということか。

 

「私がここに来たのは、盗まれた7³の行方を沢田綱吉君に探してほしいからだ」

「何? ツナに?」

「そうだ。もし7³を盗んだ者達がその力を使おうとすれば、7³だけでは対抗できないだろう。対抗するためには、7³と対となる7³を一対でも揃える必要がある。現状、それが可能そうなのは……」

「……家康の両翼の子孫と共にいるツナだけ、ってわけか」

 

 チェッカーフェイスはコクリと頷いた。

 

「……」

 

 どうしたものかと考え込んでいると、チェッカーフェイスとタルボの会話が始まった。

 

「しかしのぉ。アイテムは集められたとしても、素材は無理だと思うんだがの」

「……もしかしてだけど、なんらかの抜け道を見つけたのかもしれない」

「抜け道じゃと? そんなものあるか?」

「……あるとすれば、天才的な科学者による発明……とかだね」

「!」

 

 天才的な科学者……中国……。

 

 この二つのキーワードで一つの可能性を思いついた俺は、すぐに日本へと戻ることにした。

 

「……俺は日本に帰るぞ」

「ん? もう何か思いついたのかい?」

「ああ、可能性の一つだがな。もしそれが正しいなら、すぐにでもやらないとまずいことになりそうだ」

 

 背中に聞こえてくる言葉を簡単に返しながら、俺は日本に帰るために歩き始めた。

 

(……俺の考えが正しければ、7³を盗んだのはあのファミリーだろう)

 

 

 歩きながら、俺は小さく舌打ちをした。

 

「ちっ、思ってたより危険な奴らだな。ジョーコファミリーってのは」



 
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