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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ

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クリスマスイブイブストーリー②


クリスマスイブイブストーリー②

 

 12月23日 AM 8時

 ケヤキモール内のカフェ

 

 —— 綾小路side  ——

 

「……うん、美味いな」

 

 冬の朝に外で飲むコーヒーの美味さは格別だ。

 

 この美味さを味わう為なら、寒い冬の朝に外に呼び出されるのもやぶさかではない。

 

「……」

「……で、いつになったら本題に入るんだ?」

「……」

 

 実は今の俺は1人ではなかった。目の前の席にはクラスメイトの堀北鈴音が座っている。

 

 テラス風のカフェに呼び出されたから来たものの、先程から堀北は無言で全く話を切り出そうとしなかった。

 

「そろそろコーヒーを飲み終わってしまうぞ」

「お、おかわりしてもかまわないわ。軽食も頼んだらどう?」

「……そうか? じゃあまぁ遠慮なく。……あ、店員さん注文いいですか?」

 

 ちょうど朝食はまだだったからな。お言葉に甘えてコーヒーのトーストセットを注文した。

 

「あの、呼び出した用件なのだけど……」

「おう」

 

 注文を取った店員がいなくなると、堀北はゆっくりと口を開いた。

 

「その……綱吉君って何をもらったら嬉しいかしら」

「あ?」

「明日明後日はクリスマスでしょう? だからプ、プレゼントを渡したいのよ」

「……なるほど、そういうことか」

 

 つまりは俺に綱吉へのプレゼント内容を相談したいというわけか。

 

 しかし人選ミスだぞ堀北。俺は今年が初めてのクリスマスなもんでな、クリスマスにどんなことをするのかとかよくわからんし、高1の男子が欲しがる物もよく知らないからな。

 

「なんで俺に聞く?」

「は? あなたが一番綱吉君と一緒に行動してるからに決まってるじゃない。綱吉君の好みとか少しくらいわかるでしょう?」

「行動度合いなら、今は一之瀬もなかなかだろう。一之瀬のほうがいいアドバイスをくれるんじゃないか?」

「一之瀬さんには……聞きにくいのよ。プレゼント内容を知られたくないもの……」

「ん? 聞きにくいの後に何か言ったか?」

「い、言ってないわ」

 

 ……ふむん。どうしても俺に聞きたいらしいな。

 

 だが綱吉の喜びそうなプレゼントってなんだ?

 

「綱吉の好きな物……清涼飲料水、菓子、スイーツ……くらいか」

「全部食べ物じゃない。形の残るものをあげたいのよ」

「そうだな。だが、綱吉が突出して好きな物と言われても思いつかん」

「ゲームとかはしないのかしら?」

「してないっぽいな。博士がそう言ってたのを聞いたことある」

「そう……」

 

 完全に分からないから、ここ数日ケヤキモールで目立つように店にディスプレイされてるやつでも上げとくか。目立たされてるわけだし、ハズレってこともあるまい。

 

「洋服とかはどうだ? 冬だしマフラーとか手袋でもいいかもしれないぞ」

「それも考えたんだけど、少しありきたりかと思うのよね」

「……意外性が欲しいと?」

「そうね。そんなところ」

 

 意外性のあるクリスマスプレゼント……定番も知らない俺には難しいすぎる注文だな。

 

 ……というか。

 

「綱吉って、グループで集まる時以外に遊んでるイメージがないな。……俺もだが」

「ん、それもそうね。学校以外で姿を見かけるときはトレーニングしてるか買い物してるかの二択だもの。……私もだけど」

「……そうだよな。あ、でもそれなら」

 

 俺は一つの案を思いついたので提案してみることにした。

 

「トレーニングに使えるものをあげたらどうだ?」

「! なるほど、確かにそれなら喜んでくれそうね」

「ああ。それに使ってもらえる確率も高い」

「……そうね。そうしようかしら。ありがとう綾小路君。助かったわ」

「気にするな。朝食奢ってもらうからな」

「ふふ、そう」

「お待たせ致しました〜」

 

 ちょうどいいタイミングで店員がコーヒーとトーストのセットを運んできてくれた。

 

「じゃあいただきます」

「ええ、味わって食べるのね」

「なんで上からだよ」

 

 上から目線は少し納得いかないが、ありがたく朝食をご馳走になることにしよう。

 

「モグモグモグ……」

「……」

 

 一口サイズにトーストをちぎり、付け合わせのバターを付けて食べる。

 

(うん、うまい)

 

 2切れ目のトーストに手を出そうとすると、不意に堀北が質問をしてきた。

 

「ねぇ、あなたは綱吉君になにかあげないの?」

「! モグモグ、ゴクっ」

 

 口の中に残っているトーストをコーヒーで流し込み、紙ナプキンで口を吹いてから質問に答えた。

 

 

「いや、渡すつもりだ」

「あらそう。内容は決めた?」

「1つは決まってるんだが、もう1つが決めかねている」

「え? 2つも渡すの?」

「ああ」

「どうして?」

「……今決まっている1つだけだと、なんか変な意味になりそうだからな」

「変な意味?」

 

 綱吉にプレゼントを渡そうと思っているのは本当だ。そして、すでに決めている1つとはアレのことである。

 

 アレとは……母から贈られたという宝石箱に入っていた、形が変な指輪のことだ。

 

『——そして片割れの形は、自らが最も信頼する者に手渡せ』

 

 あの宝石箱の言い伝えでは、指輪は最も信頼している者に手渡さないといけないらしい。

 

 そして、俺が最も信頼しているのは綱吉である。それでクリスマスプレゼントとして渡してしまおうと決めた。

 

 別に母に思うところがあるわけではないが、言い伝えに従ってみるのも悪くはないと思ったからな。

 

「変な意味って……どう変なのよ」

「そうだな。俺が同性愛者と思われそうだからかな」

「はぁ? 何をプレゼントする気なのよ」

「……指輪だ」

「……え?」

 

 俺の発言を聞いて、堀北の目がまん丸になる。それほど驚いたということか?

 

「……被ったわね」

「は?」

「指輪ってところがよ」

「はい?」

 

 急に複雑そうな顔になったと思えば、堀北は眉間にできたシワを指で伸ばそうとし始めた。

 

「何言ってるんだ? お前はさっきトレーニングに使えそうな物にするって決めたんじゃないのか?」

「……それはそうなんだけど、私も元々は指輪を渡すつもりだったのよ。で、でも指輪だけだと変な意味になるかと思ったから追加でもう1つプレゼントすることにしたの」

「……理由まで被ってんな」

「最悪なことにね」

「そこまで言うか?」

 

 相変わらず辛辣なやつだな。

 

 ……というか、お前も指輪をあげるって——

 

「交際0日でプロポーズするのか?」

「ばっ!? そ、そんなわけないでしょ!?」

「でも異性に指輪渡すのって……普通恋人か婚約者だけじゃないか?」

「ぐっ! ……だ、だからもう1つでカモフラージュしようとしたのよ!」

 

 顔を真っ赤にして否定する堀北。これは本当に違うらしいな。なら完全に俺と被ってるわけか。

 

「あ、あなたこそ! 同性相手に指輪をプレゼントってどういう意味なのよ!」

「……深い意味はない」

 

 俺の発言が癇に障ったのか、負けじと堀北も俺に反撃してきた。

 

「深い意味のない指輪って何よ」

「別に、その指輪は母方の家宝でな。指輪は最も信頼するやつに渡せって伝承があるらしいから、それに従おうとしただけだ」

「……伝承?」

「ん?」

 

 伝承という言葉に堀北はさらに顔をしかめる。

 

「……どうした?」

「……私の指輪にも伝承があるのよ」

「は? まじか?」

「ええ……」

 

 そんなことあるか? 指輪って実は全部に伝承ついてるのか?

 

「で? どんな伝承だ?」

「……言わないわ!」

「俺は言ったぞ?」

「だから? 私は絶対言わないわ!」

「……何でキレてるんだよ」

 

 理不尽にキレられるは納得いかないな。

 

「……はぁ。行くわよ」

「は? どこに?」

「マンションよ」

「もう帰るのか?」

「そうじゃない、お互いの指輪を見せ合うのよ」

「いや、なんでだよ」

「伝承がある指輪なんてそうそうないわ。もしかしたら同じような指輪かもしれない、そうなったらプレゼントが被っちゃうわ。その確認をするのよ」

「ああ、なるほどな。じゃあ少し待ってくれ。トースト食っちまうから」

「早く食べなさいよ。全く……昔からあなたってノロいわよね」

「食事くらい好きにさせろよ。お前こそ何で昔からあいつ以外には理不尽なんだよ」

「……え?」

「……あ?」

 

 俺は今の自分の発言に違和感を覚えた。〝昔から〟ってなんだ?

 

 まだ出会って1年経ってないんだけどな。

 

(……分からん。なんでそんなこと言ったんだ?)

 

 ちらりと前に視線を向けると、堀北も堀北で何か戸惑ったような顔をしている。

 

 ……が、ふいに俺と目が合うとキッと睨み付けられてしまった。

 

(怖。さっさと食うか)

 

 そして、トーストを平らげた俺は堀北と共にマンションへと帰った。

 

 

 —— 清隆の部屋 ——

 

 

 ——ピンポーン。ガチャ。

 

「お邪魔するわ」

「おう」

 

 自分の部屋から指輪を取ってきた堀北を部屋に迎え入れた。

 

 リビングにあるダイニングテーブルに堀北を座らせ、俺は自分の指輪が入った宝石箱を持ってくる。

 

 ——コトン。

 

「!」

 

 テーブルの上に宝石箱を置くと、堀北は一瞬驚いたがワナワナと震えだしてしまった。

 

 

「……どうした?」

「……」

 ——コトン。

「……まじか」

 

 俺が声をかけると、堀北は返事の代わりに持ってきたであろう物をテーブルに出した。

 

 それは宝石箱だった。俺と同じ長方形の箱、というか見た目が全く同じ。

 

「……これ、被ったってことか?」

「そうでしょうね。見た目同じだし、どちらにも伝承があるし……」

「ま、まぁでも中身が違えばいいだろう」

「そ、そうね。じゃあお互いに箱を開きましょう」

 

 堀北と同時に宝石箱の蓋を開ける。俺の宝石箱はベルベット張りになっていて、中に2つの窪みがある。そしてその1つに指輪が収まっている。

 

 対して堀北の宝石箱は……ベルベット張りになっていて、中に2つ窪みがある。そしてその1つに指輪が収まっていた。

 

 ……うん。同じ物らしいな。

 

「……家宝って被るものなんだな」

「どんな確率なのよ……」

「いや、もしかしたら昔に流行ってた宝石箱なのかもしれない。これが家宝になった年代が同じならありえない話じゃない」

「だとしてもどんな確率なのって話でしょう」

「……だな」

 

 箱が同じなら、もちろん中身も同じだろう。そう思って堀北に聞いてみると、違う箇所もある事が判明した。

 

「堀北、お前懐中時計はどうした?」

「は? 懐中時計?」

「指輪の隣の窪み、懐中時計が入ってたろ?」

「いいえ。私のには錆びた髪飾りが入ってたわ」

「髪飾り?」

「そう。これよ」

 

 そう言って、堀北は上着のポケットから錆びている髪飾りを取り出して見せた。

 

「そこは違うんだな」

「あなたのは?」

 

 俺も自分の上着から錆びて壊れた懐中時計を取り出して見せた。

 

 中身は違うが、サイズ感としてほとんど同じようだ。

 

「持ち歩いているところも被ってるな」

「……わざわざ言葉にしないで」

「……はいはい」

 

 またも睨まれてしまった。

 

「……肝心の指輪はどうなんだ?」

「そうね。比べてみましょう」

 

 お互いに箱から指輪を取り出し、テーブルの上に並べてみる。

 

「……これ」

「同じだけど……少し違うわね」

 

 おそらく同じ種類の指輪であろう。デザインとか宝石が欠けている所は一緒だ。

 

 しかし、その欠け方が違ったんだ。俺のは正面から見て左側が欠けているのに対し、堀北のは正面から見て右側が欠けている。

 

「……というかこれ」

「どうした?」

 

 堀北がテーブルに置かれた2つの指輪を手にとり、目の前でシゲシゲと眺める。

 

「なんか、2つで1つみたいに見えない? ほら、ピッタリとハマりそう」

「確かに……でも2つで1つの指輪なんてあるか? というかそれを引き当てるってまた奇跡みたいな確率だな」

「別にこの2つしかないと決まってないわ。昔に2つで1つの指輪が売られていたのかも。恋人同士で1つずつ買って、それをお互いに交換しあっていたのかもね。それで私達の家にちょうど対になる物が残ってたと考えるほうが自然だわ」

「……そうなると、この指輪は婚約指輪ってことにならないか?」

「そうね。それが?」

「いやお前、そうなるとこの指輪を綱吉に渡したらプロポーズってことになるんじゃ?」

「なっ!?」

 

 またも堀北の顔が真っ赤になる。

 

「だ、だから違うって言ってるでしょう!? これはクリスマスプレゼントなのよ!」

「わかった。わかったから宝石箱で背中を叩くな、それ一応お前んとこの家宝だろ」

「くっ、あなたが変なこと言うからよ」

「はいはい……すみませんね」

「本当に反省しているのかしら」

 

(カチッ)

 

『ん?』

 

 堀北による暴行が治まったかと思えば、急にカチッという音がした。

 

(? 何の音だ?)

「……あ」

 

 そう思って部屋の中を見渡すと、堀北の顔色が悪くなっていることに気づいた。

 

「どうした?」

「ご……ごめんなさい。くっ付いてしまったわ」

「は?」

「私のとあなたの指輪……綺麗にハマってしまったみたい」

「ええ?」

 

 青ざめている堀北の手元を見ると、確かに指輪が1つ見えた。それもさっきまでの変な形と違い、きちんとした指輪になっている。

 

「まじか。なんで?」

「あ、あなたを叩く時に片手に握り込んだんだけど……手の中でくっ付いたみたい」

「……そうか」

 

 気まずそうに俺の事を見る堀北。そんな堀北に、俺は心配ないと言ってやった。

 

「むしろ好都合だ」

「え?」

「これでお前が綱吉に指輪をプレゼントすれば、俺の目的も同時に達成される。変な誤解を生むこともない。そしてお前は俺と被らないプレゼントができる。ウィンウィンだな」

 

 満足げに頷いていると、堀北が噛み付いてきた。元はと言えばお前の不注意なのに。

 

「どこがよ! それだと私はちゃんとした指輪を送ることになるじゃない! さっきまでは不完全だったからギリギリいけたのに、これじゃあ渡せないわよ!」

「どうしてだ?」

「だって、ちゃんとした指輪だと何か深い意味がありそうでしょう?」

 

 別に不完全でも指輪ならどれでも同じだと思うんだが……まぁ仕方ない。ここは俺が大人になろう。

 

 

「仕方ない。それなら俺とお前からのプレゼントってことにしたらいい。それなら重くないだろ? で、お互いに普通のプレゼントもする。それでどうだ?」

「……まぁ。それならいいわ」

 

 よし、これで問題は片付いたな。

 

「……じゃあ、私は帰るわ」

「おう。そうか」

 

 宝石箱に指輪をしまいこみ、椅子から立ち上がった堀北。

 

 玄関までは見送ろうと俺も立ち上がる。そして2人で玄関に歩いていた、その時だった。

 

 

 ——またも不思議なことが起きたんだ。

 

「お見送りは結構よ。それよりも早くその顔を視界から外してくれない?」

「……いつもだが酷い言い方だな。そんなだとあいつに嫌われるぞ——美鈴みすず」

「黙りなさい。あなたの意見は求めてないわよ——是清これきよ」

『……え?』

 

 玄関に突然の静寂が訪れる。

 

「……」

「……」

 

 俺も堀北も何かを言うわけでもなく、ただただ相手の顔を見るだけだった。

 

 そしてしばらくすると……

 

「ご、ごめんなさい。何か今日ちょっと体調不良みたいだわ」

「いや、俺も体調不良っぽい。すまん」

「いいの、じゃあまた明日」

「ああ。明日な」

 

 ——バタン。

 

「はぁ、なんだったんだ?」

 

 

 玄関のドアが閉められて1人なった俺は、頭をポリポリと掻きながらリビングに戻った。

 

 

「……寝るか」

 

 体調不良っぽいから寝ておこうとベットにダイブする。

 

 そのまま眠りに落ち……たかったのだが、神様はそれを許してくれなかった。

 

 ——プルルルル。プルルルル。

 

 勉強机に置いていた学生証端末から着信音が鳴り響いたのだ。

 

「……面倒だな」

 

 ベッドからのっそりと起き上がり、勉強机の学生証端末を手に取る。

 

「……知らない番号」

 

 液晶に表示されたのは知らない番号からだった。面倒ではあるが、応じないといつまでかけられそうだと思ったから電話に出ることにした。

 

 ——ピッ。

 

「はい」

「……よぉ。綾小路」

「! その声は……」

「なぁ、少し顔を貸せよ」

「何の用だよ、龍園」

 

 そう、電話をかけてきたのは龍園翔だった。

 

 

 

 12月23日 AM9時30分。

 

 

 —— 敷地内、広場 ——

 

 

 龍園の電話に出た後、俺はマンション近くにある広場に来ていた。

 

 ここに来るように呼び出しを受けたわけだな。

 

 

 広場に着くと、広場内のベンチに座る龍園の姿が見えた。

 

「……来たぞ」

「ふん、遅ぇよ」

 

 相変わらずの憎まれ口を吐く龍園だが、顔はガーゼや絆創膏だらけだ。綱吉に作られた傷だな。

 

 ……さて、なぜ俺はこいつに呼び出されたんだろうな。

 

「何の用だ?」

「……聞きてぇ事がある」

「聞きたい事?」

「綾小路、てめぇは沢田の目標をどう思ってんだ?」

「! 24億ポイントのことか?」

「ああ。学年全員でAクラスで卒業する〜とかいうふざけた目標さ。お前はどう思っている? 達成できると思うか?」

 

 龍園からのこの質問に、俺は正直に答えた。

 

「……無理だと思ってる」

「! ほぉ。お前のボスが言っているのにか?」

 

「ああ。あくまで俺の考えではだけどな。綱吉がどうやって目標を達成しようとしているかは分からん」

「それを沢田に言ってやったか?」

「本気かとは聞いたな。本気だと即答されたけどな」

「止めなくていいのかよ」

「止める? 止めるわけないだろ。どんなに無茶でも俺はあいつについて行くだけだ。まぁ意見はするだろうが」

「……なぜ自分でも無理だと思う道を選ぶボスに付いて行けるんだ?」

「決まってる。あいつならできるんじゃないかと思えるからだ」

「!」

 

 俺だって絶対に無理だと思う道を進みたくはない。だがあいつなら……綱吉なら達成してしまうのではないか。そう思えるから、俺は綱吉の進む道を付いて行きたいと思うんだ。

 

 俺の返答が理解できないのか、龍園は次にこんな事を聞いてきた。

 

 

「なぁ。お前、どうして沢田の仲間になったんだ?」

「……何がいいたい?」

「お前は無人島試験で沢田に勝負を挑んでたんだろ?」

「まあな」

「それで負けたんだろ?」

「ああ」

「……なら、お前はどうして沢田の仲間に戻ろうと思えたんだ? 一度は裏切ったのに、沢田のどこに再び付いて行く価値を見出した?」

 

 ……なるほどな。こいつは1年の内は綱吉に協力を要求されれば応じないといけない。さらに2年になったら協力しあおうとまで言われている。

 

 その事で悩んでいるのか。無理もない、元々独裁者のこいつに誰かの下につくことは難しいだろうからな。

 

(まぁ綱吉は上とか下とか考えてないだろうが)

 

「別に負けたから従っているわけじゃない。付いて行きたいと思ったから付いて行っているだけだ」

「……沢田には付いて行きたいと思えるほどの何かがあると?」

「ああ」

「具体的にはなんだ?」

「……さあな」

「……はぁ?」

 

 

 俺の答えに龍園は顔をしかめる。

 

 仕方ないだろ。だって本当に分からないんだから。

 綱吉について行きたいと思う理由は言語化していいものじゃないと思う。

 

 簡単にまとめていいわけないし、まとめられもしないだろう。

 

 ——いや、むしろそこなんだろうな。

 

「リーダーとしての資質とか、カリスマ性とか。そういうのはもちろんあるだろうが、あいつの凄い所はそこじゃない」

「あ?」

「あいつの凄い所は、あいつの事を表現するには言葉が足りない所だ。少なくとも、現時点の言葉で綱吉の凄さは表現できない」

「……」

「いつのまにか傍にいて、いつのまにかそれが日常になっていた。……綱吉と関わった奴は、大体がそう言うと思うぞ」

「……そうかよ」

 

 龍園はそう言うと、ベンチから立ち上がった。

 

「沢田に伝えておいてくれ、約束通り1年のうちはお前に協力する。……だが、2年になったらお前の目標達成に協力はしない。念入りに準備して、次こそお前を潰すとな」

「! 諦めないんだな」

 

 綱吉の事を聞いてくるから、協力も悪くないと考えてるのかと思ったが間違いだったらしい。

 

「ったりめーだ。俺はそう簡単に諦めたりはしねーんだよ。現地点では勝ち目なんてねーが、次は勝てるようにこれから頑張ればいいだけだ。その為ならなんだってやってやる。必ず沢田を潰す。……それが俺の覚悟だ」

 

 

 そう言うと、龍園はマンションの方へ去って行った。

 

「……」

 

 1人になった俺は、冬の空に向かって深いため息を吐き出した。

 

「……はぁ」

 

 吐き出された白い息は、空高く登って行く。そして、空気に溶けていった。

 

 

「……帰るか」

 

 その様子を見届けた俺は、マンションへ帰ろうと後ろに振り向いた。

 

「……ん?」

「……」

 

 振り向いた先に、見知らぬ男が立っている。

 

 学生服を着ているが、この学校の物ではない。いわゆる学ランというやつだろうか。ボタンは閉めておらず、学ランの中に両手を隠している。

 

(なんだこの男、他校の生徒でも紛れ込んだのか?)

「……」

 

 いや、もしかしたら冬休みは他校の生徒でも敷地内に入れるのか?

 

 そんなことを考えるが、考えた所で自分には関係ない。だから無言で横を通り過ぎることにした。

 

 ……だが、通り過ぎる直前に見知らぬ男の方から話しかけてきたのだ。

 

「……ねぇ」

「!」

「綾小路清隆って……君?」

「!」

 

 自分の名前を知られていた事も驚きだが、もっと驚いたのは通りすがりに見えた学ランの中に隠された男の手。

 

 その手にトンファーらしきものが握られていた事だった。

 

 ——ビュン!

 

『……ワオ』

 

 凄いスピードでトンファーが学ランの中から飛び出し、そして空を切った。

 

 トンファーが通った軌道は、先ほどまで俺の顔があった場所だった。

 

 避けられはしたが、完全に顔面を潰しに来ていたのだろう。

 

「……」

 

 学ランの男に視線を向けると、なぜかその男は笑い出した。

 

「フフフ……うん、合格かな。群れる草食動物の匂いもしないし、少しは僕をワクワクさせてくれそうだ」

「! ……急に襲ってきて、合格とはなんの冗談ですか?」

「冗談じゃないよ。これから君には、命がけのスパーリングを受けてもらう」

「……意味がわからないな。なぜそんなものを受けないといけない?」

「君が、沢田綱吉の相棒だからさ」

「!」

 

 驚く俺の顔を見て不気味に笑う学ランの男。

 

(いったいこの男は何者なんだ?)

 

「僕の名前は雲雀恭弥。並森高校風紀委員長だ」

(……こいつ、本気で俺を殺す気なのか?)

「……じゃあ、行くよ!」

(来る……!)

 

 ……この時俺は、生まれて初めて命の危機というものを感じたのかもしれない。

 

 

 ——清隆と雲雀のスパーリングを、リボーンは少し離れたところから観察していた。

 

「ふふん。やられんなよ綾小路。お前はツナの相棒なんだからな」

 



 
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