| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ハドラーちゃんの強くてニューゲーム

作者:モッチー7
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第2話

「ほらほら、頑張れ頑張れ」
城壁に腰掛け、モンスターの群れと戦う兵士達を見下ろすハドラーちゃん。
「今夜の為にカール王国に雇われたんだろ?もっと頑張らんと、お駄賃貰えないぞ?」
口では冗談交じりの侮辱する様な応援をしているが、内心では本当に人間の方を応援しているハドラーちゃん。
(マジで頑張れ!この程度の苦難如きで心が折れてる様では……大魔王バーンの地上全壊から生還出来んぞ!)

事は1週間前。
ガンガディア達を玉座の間に呼び集めた時の事。
「大魔王バーン!?」
「魔界の神、バーン?」
「魔界の奥深くに、その様な化け物が!?」
一同が驚く中、ハドラーちゃんが安心させる様に言う。
「だが安心しろ。俺はこれからこの地上を手に入れる。だがその前に、あのボケ老人を処刑しておかねばと思ってな!」
「出来るのですか?その様な事を!」
一同の不安をよそに、ハドラーちゃんの決意は固い。
「あのボケ老人はとんでもない失敗作だ!くだらん太陽崇拝精神を持ち合わせ、平気で嘘を吐いて利用する!挙句には、もう直ぐ俺の物になる筈だった地上の全てをまんまと消し炭にしてしまう大失態!地上の覇者となるべき魔王軍では、あのボケ老人の様な不良品は……絶対に作らん!」
一旦クールダウンしたハドラーちゃんは、改めて一同に指示を出す。
「さて……バーンの処刑を念頭に入れた上での今後の動きだが……先ずはブラス!」
「はっ!」
「お前は、俺の配下から強者を何人か選び、別の場所で再教育を施せ」
「はっ!既にその場所の目星は着いております!」
ブラスの言葉を聞いて、初めてダイと戦った時の事を思い出す。
(そうそう。アバンの使徒達と本格的に戦ったのは、こいつが今言ったデルムリン島が初めてだったんだよなぁー。あの時の俺は、我ながら本当に分不相応な偉さを持っていたよなぁー)
「次にバルトス!」
「はっ!」
「お前は……いつも通り地底魔城防衛の指揮を執れ。ヒュンケルの事もあるしな」
「了解いたしました」
ハドラーちゃんが再び過去の事を思い出す。
(ヒュンケルの奴、本当に元気に育つよ。超魔生物になる前の俺の心臓を2つも砕く程にね)
「後はキギロ」
「はっ!」
「例のマンイーターを使った計画は順調か?」
「はーい!順調に魔の森は広がり続けておりますぞ!」
ハドラーちゃんが更に過去を思い出す。
(何だかんだで……キギロが俺がアバン達に送り込んだ刺客第1号みたいな事になっちゃったんだよなぁー)
ハドラーちゃんが一旦溜息を吐くと、ガンガディアを凝視した。
「最後にガンガディア……頼みがある」
「はっ!」
「俺はしばらくヨミカイン遺跡の魔導図書館に寝泊りする。あのボケ老人を処刑するうえで欠かせない事だからな」
「はい。かしこまりました」
ハドラーちゃんが思い出したは、大魔王バーンのあの言葉。
「今のはメラゾーマでは無い……メラだ……」
(大魔王バーンに、皆が既に知っている呪文は絶対に通用しない!なら、この俺もオリジナルの呪文を開発する必要が有る!)
「それともう1つ」
「はっ!」
「例のフローラ王女の事だ」
一同が驚きを隠せなかった。
地上の全てを破壊してしまうかもしれない大魔王バーンの討伐が地上制圧の絶対条件だと言うのに、今更カール王国のフローラ王女に現を抜かすのだ。一見すると矛盾している様にしか見えない。
「決行は1週間後。俺自らフローラ王女を迎えに往く。お前達はついて来なくても良いぞ」
「御言葉ですがハドラー様、今後の事を考えると、あの様な辺境の国の―――」
ハドラーちゃんは、ドスを利かせた声で一同を制した。
「この俺が心細く見えるか?」
「え?」
「この俺が弱々しく見えるか?部下を盾にしないと何も出来ない様に見えるか?」
「あ……いえ……そう言う事では―――」
「違う違う違う違う。俺は地上征服を成し遂げる。バーンなんぞにも負けんし、カールなんぞにも負けんし、人間どもが切望している勇者なんぞにも負けん」
ハドラーちゃんの迫力に、一同は何も言えなかった。
「それと、先方には既にフローラ王女の御迎えの件は伝えてある」
ガンガディアがどうにか声を絞り出す。
「あのぉー……それでは、奴らはかなり警戒をして警備を強化する―――」
それに対し、勝ち誇る様に微笑むハドラーちゃん。
「それで良いんだよ。その方が人間どもの今の力が解るし、ある意味あのボケ老人への挑発にもなる……俺は……強さにしか興味が無いのだよ……」

その結果、ハドラーちゃんはボーイレッグとストラップレスブラしか着用していない状態でカール王国を訪れる羽目になったのであった。

城壁に腰掛けているハドラーちゃんの許へ、外の騒ぎを聞きつけたロカがやって来た。
「モンスター共が何時の間にこんな所まで!?」
それに気付いてハドラーちゃんがロカに声をかける。
「来たな?お前は確か……ロカ……とか言ったか?」
「何者だ!?」
一旦はハドラーちゃんに剣を向けるロカだったが、ハドラーちゃんの姿を見るなり。
「お嬢ちゃん、そんな所にいたら危ないぞ。と言うか、その格好を何とかしてくれ。目のやり場に困る」
ハドラーちゃんは、ロカの言い分も一理あると確信していた。
今の自分の姿は、明らかに元気だけが取り柄の人間の少女にしか見えない。しかも、衣装も威厳を重視したマント姿ではなく、ボーイレッグとストラップレスブラのみの戦場をなめているとしか思えない軽装。とても激戦向きの姿じゃない。
が、ハドラーちゃんはロカの危機管理の無さに危機感を懐いた。自分の姿を棚に上げながら。
「勘が鈍いなぁーお前。よぉーく考えてみろ。人間どもが惜しげも無く蹂躙されている現場に立っているのに傷1つ無い。その時点で怪しいとは思わぬか?」
両肩のスラスターを起動させてゆっくりと浮遊するハドラーちゃん。
「それに……この間、フローラ王女は誰が護っているのだ?」
ハドラーちゃんの指摘に、ロカがハッとする。
「……しまった!みんな城内に戻れ!急ぐんだ!」
「遅いよ」
ハドラーちゃんがフローラ王女がいる階まで上昇すると、フローラ王女に当たらない様に位置を調節しながら極大呪文を準備する。
「じゃ、色々と都合が有るから……派手にカッコつけさせてもらうか!」
「不味い!急げぇー!」
勿論、ハドラーちゃんがロカがフローラ王女がいる階に到着するのを待つ義理は無い。
極大閃熱呪文(ベギラゴーン)ーーーーー!」
ハドラーちゃんが放った極大閃熱呪文(ベギラゴン)が壁を突き破り、フローラ王女の左隣りにいた重臣の左頬を掠った。
それを視て、自身の軽率な判断を恥じながらフローラ王女の許へ急ぐロカ。
「くっそおぉー!間に合ってくれよ!」
一方、ハドラーちゃんはフローラ王女と対面していた。
「フローラ姫よ。お前の身柄もらい受けに来てやったぞ。この魔王自らがな。フハハハハ!」
その際、魔法の筒をこそっと投げ捨て、中にいた悪魔の目玉を解き放った。

一方、ハドラーちゃんによるカール王国襲撃などどこ吹く風なミストバーンがバーンにある報告を行っていた。
「申し訳ございません。急がせているのですが、大魔宮(バーンパレス)とピラァ・オブ・バーンが未だ完成しておりません」
だが、バーンの言い分はミストバーンの予想とは真逆だった。
「ミストよ、そんなに余を急かすでない」
「は?」
「今回の地上界消滅計画は必ずや成功させねばならん。故に慎重に慎重を重ねて行わなくてはならん。ヴェルザーや竜の騎士(ドラゴンのきし)に邪魔されても困るからな」
それを聴いたミストバーンは、大魔宮(バーンパレス)の完成が遅れている事を焦った自分を恥じた。
「そこまで丁寧な考えをお持ちでしたか?差し出がましい事を致しました」
そこへ、1匹の悪魔の目玉がやって来た。
「ん?余に何を伝えに来たのだ?」

話をカール王国に戻すと、
「魔王よお前の企みは読めています!魔界の神にささげる生贄というのはただの名目!」
フローラ王女の言い分を聞いたハドラーちゃんが少しだけ不機嫌になった。
「名目?何を証拠にそんな事を?」
「いかなる手段をとっても私を奪い去り、国民に無力を痛感させ、世界征服を早めようというのが真の目的でしょう!」
ハドラーちゃんが少しだけ緊張した。
(ここだ!このフローラ王女の言い分に対する返答を変えれば、世界の歴史は俺が知らない方向へと舵が変わる!大事な場面だ……失敗は……許されない!)
「フッ!所詮は何も知らない箱入り娘に過ぎんと言う訳か?一国の主に祭り上げられているからどんな賢そうな事を言うかと思えば」
フローラ王女にとっては予想外の返答だった。彼女はてっきり国民の心を折る為のパフォーマンスと高を括っていたからだ。
「何!?」
「ならば聞かせてやろう……かつては魔界の神だったボケ老人の話を」
そう言いながら悪魔の目玉をちらっと見るハドラーちゃん。
「その名は『大魔王バーン』。かつては魔界最強の実力者と呼ばれ、その規格外の力から聖母竜マザードラゴンからも神をも優に超える力を持つと言われていたが、最近は太陽崇拝に過剰に現を抜かし過ぎて認知症が致命的に進行してしまってな……最近はこんなボケをかます様になった……『地上界さえなければ、魔界にも太陽の恵みが降り注ぐのに』……とな」
ハドラーちゃんの(大魔王バーンへの)悪意が籠った説明に、フローラ王女もやっと到着したロカ達も絶句した。特にフローラ王女は、唇がブルブルと震え、胃の奥から溢れ出た、悲痛な叫びを抑える様に、無意識に両手を口元に持っていく。
それに対し、ハドラーちゃんは淡々と説明を続ける。
「勿論、俺はそんなボケ老人に仕える心算は無いし、せっかく手に入れた(予定)地上をみすみす消滅させる心算も無い。で、お前達はどっちに仕えたい?俺か?それとも……この地上を消滅させる程致命的に認知症が進行し過ぎたボケ老人か?好きな方を選べ」

それを聞いたミストバーンの背筋は氷の様に冷たくなっていた。
「ミストよ……耳が遠くて聴こえなかったのだが、あの小娘は何と言ったのだ?」
焦るミストバーン。
「バ……大魔宮(バーンパレス)とピラァ・オブ・バーンの完成を急がせますので、しばしの御猶予をおぉーーーーー!」

フローラ王女とロカ達は心が折れそうになった。
例え目の前にいるハドラーちゃんを倒しても、更にその先には地上界消滅を目論む大魔王バーンが控えているのだ。
もうどうして良いのか解らなくなってしまっていたのだ。
ロカが落とした剣の音が、まるで心にヒビが入った時の音の様に響き渡った。

その時、軽快な声で割って入る青年の姿が。
「いけませんねぇ。女性を誘うときはもう少し優しく言わなくてはダメですよ」
その声に、その場にいた者達が振り向く。
「アバン!」
「アバン!?」
「アバン……」
周囲に釣られて「アバン」と言ってしまったハドラーちゃんが、慌てて言い直した。
「とは何の事だ?」
(危ない危ない!危うく、初対面じゃない事がバレる所だった!アレは、今の俺にとってはテイク1だと言うのに!)
「貴様も……この城に雇われた傭兵か何かか?だが、来るのが少しばかり早かった様だな?」
ハドラーちゃんが指を鳴らすと、悪魔の目玉がフローラ王女の真上に移動し、その触手をフローラ王女に向ける。
「もう少しだけ待っていれば、お前達の様な下っ端がどう頑張っても拝めない物が観られるぞ」
だが、この後、ハドラーちゃんにとっては予想外の()が出現した。
(何だアレは!?最初の時は、あんな()は無かったぞ!)
何と、アバンが悪魔の目玉に銃口を向けたのだ。
(おかしい!この場面は確か―――)
とか考えている内に、アバンが発砲する。
(!?)
すると、発射された砲弾が直ぐに粉々になって悪魔の目玉に降りかかる。しかも、アバンが手にしていた拳銃の銃身も粉々になっていた。
「うーん……この魔弾銃、まだ改良の余地がありますねぇ」
「これは!?俺が知ってる展開と違う!貴様いったい何をしたのだ!?」
すると、フローラ王女を触手の餌食にする筈だった悪魔の目玉が、目測を誤り、今度はハドラーちゃんの真上に移動した。
「今度はこっちにきおった!?何がどうなっているのだ!?」
一方のアバンは、悪戯の種明かしをするみたいに笑う。
「なーに、ちょっと毒蛾の粉をかけてやったんですよ」
ここでロカは、アバンがこの場面に遅れてやって来た理由を理解した。
(そうか!森には毒蛾を探しに行ってたわけか。やるじゃねぇかあんの野郎)
「私が調合した特製の秘薬ですよ。これをかけるとモンスターたちは正気を失って同士討ちを始めるんです」
近くにいた兵士が嫌な予感がしたので外を視て視ると、
「あぁ!?外にいるモンスター達が!?」
「外の連中にもふりかけてやりました。これであなたご自慢のモンスター軍団ももう役に立たないわけですね」
だが、ハドラーちゃんにとってはある意味安堵であった。
「なんだよ。脅かすなよ。結局、俺が知ってる展開通りではないか。って……」
ハドラーちゃんは、ハドラーちゃんを触手の餌食にしようとした悪魔の目玉にビンタを見舞った。
「なるかボケェー!小賢しい猿知恵でこの俺を愚弄しおって!許さんぞ!」
「許さない……」
その途端、アバンの身体から大量の闘気が沸き上がって周囲を驚愕させた。
「ですって?」
(なっ!?アバンのヤツからあんな闘気が!?)
が、ハドラーちゃんは寧ろ懐かしむ。
(結局……お前はそんな奴だったな、アバンよ。守るべきものの存在によって、その強さは際限なく増していく……優し過ぎる男だったなぁー……)
けど、そんな事を長々と思いふけるどころじゃないハドラーちゃん。
(だが……俺も無様な敗北をここでしている場合じゃないのだ!ダイ達の急成長の最初の起爆剤が……アバン!貴様なのだ!)
「許せないのはこっちの方だ!魔王!」
(故に、お前はまだ思い知らねばならん……上には上がいるということをな!)

ハドラーちゃんとアバンが再び対立する。お互いに譲れぬ使命を背負って。
「毒蛾の粉はなかなかのアイデアであったが、それだけではこの俺には届かん。出直して来るが良い」
「戦いは望まん。だが、自らの野望の為に平気で人を傷付けようとする外道を見て黙っていられる程……私はお人好しではない!」
「いや、お前はお人好しだ。その程度の粗末な装備だけでこの俺に戦いを挑もうとしているのだからな」
カッコつけているハドラーちゃんだが、内心は緊張でガッチガチであった。
(絶対に敗けられん過ぎて、2つの心臓がバクバクする!ここで大差をつけられて惨敗してみろ……アバンの奴が修業の旅をしなくなる恐れがある!そのなれば……大魔王バーンとの戦いに大きく響く!)
緊張でガッチガチになりながら、右手から覇者の剣を生やした。
「例えばだ……この剣は何で出来ていると思う?」
ハドラーちゃんが覇者の剣を思いっきり振り下ろして床を斬ると、発生したヒビがアバンの足下を通過して壁まで届いた。
「この剣はオリハルコンで出来ている。お前が今着ている鎧など、一瞬で微塵切りに出来るわ」
だが、アバンは怯むどころか逆にハドラーちゃんを急かす。
「言いたい事はそれだけか?」
「ふっ」
ハドラーちゃんが両肩のスラスターを起動させながら、覇者の剣でアバンに斬りかかった。
(速い!)
今度は2人の戦いを見守る兵士達の心臓がバクバクになった。
両肩のスラスターを起動させたハドラーちゃんの突撃が速過ぎたからだ。もしこれが攻撃であったら……兵士達の頬を冷たい汗が伝う。
1度当たれば首が飛びかねない、覇者の剣の斬撃。
しかし、アバンも然る者。ハドラーちゃんのスピードを逆手に取り、ハドラーちゃんの勢いを上手く使って捌いてゆく。
「凄い……アバンの奴が、あんなにちょこまかすばしっこかったなんて……」
「頑張れアバン!」
そんな中、アバンとハドラーちゃんの戦いを見守るフローラ王女は、昔の事を思い出していた。
(見たことがあるわ。かつてあんなアバンの顔を……)

それは3年前。
フローラ王女が好奇心にかられて1人で城外に遊びに行ったまでは良かったが、
「キャアアア!」
運悪くマンイーターに襲われて食われそうになったが、そこで出逢ったアバンによって救われた。
それを切っ掛けに、フローラ王女はアバンをカール騎士団に推薦した。
が、アバンは「能ある鷹は爪を隠す」を体現するかの如く、雑用や料理に専念して武術の才能が全く無いかの様に振舞った。
「申し訳ありません姫。しかし私も騎士団のはしくれ、有事の際にはすべての力をふるい姫とカールのために戦います」
「解りました。貴方の事は私の胸の内だけに閉まって擱きましょう」

そして……
アバンが本気を出さなければならない有事が何なのかを知る者……大魔王バーンの危険性とアバンの使徒の重要性を良く知る者がカール王国の前に姿を現したのである。
それがハドラーちゃんである。
(その時が、今来たのですねアバン!)

アバンが一瞬の隙をついて、肘打ちと膝蹴りでハドラーちゃんの右手首を挟み潰そうとした。
「ぬ!?」
アバンはそのまま、ハドラーちゃんの右腕にショルダー・アームブリーカー(相手の腕を肩越しに背負うようにして手首を掴み、自分の肩を支点にして勢いよく相手の腕を自分の肩に叩きつける)を見舞おうとする。
「ぬお!?」
アバンがこの技を選んだのは、ハドラーちゃんの覇者の剣を封じる為だ。
しかし、ショルダー・アームブリーカーをもろに受けたハドラーちゃんの両掌には不気味な光の玉があった。
「オリハルコンの恐ろしさを知ってそれを封じるのは構わんが、俺の力はそれだけではないぞ……」
そして、その光の玉はアバンの足下にある床に向けて放たれた。
極大爆裂呪文(イオナズン)!」
すると、床に命中した光の玉が盛大に爆発し、爆炎がアバンとハドラーちゃんを包んだ。
2人を包んだ爆炎をただ茫然を見つめる一同。
「……アバン……アバーン!」
2人を包む爆炎に向かって駆け出そうとするフローラ王女を必死に制止するロカ。
「いけません!姫様!」
その時、爆炎から足音が響いた。それは、爆炎に包まれた者がまだ生きている証拠だ。
でも、その足音は1人分しか聞こえない。
そう……爆炎から出て来たのは、ハドラーちゃんのみであった。
「この俺の右腕を粉砕骨折寸前まで追い詰めたのは見事だったが、魔王の呪文に比べればまだまだ幼稚だった様だな?」
絶望で顔面蒼白のフローラ王女に馴れ馴れしく話しかけるハドラーちゃん。
「さて……先程の選択の続きを―――」
閃熱呪文(ベギラマ)
爆炎から放たれた閃光がハドラーちゃんの背中に命中し、その拍子にハドラーちゃんがうつ伏せに倒れてしまった。
(ぐっ!今はまだアバンを殺せないからと威力を下げたが、下げ過ぎて失神には達しなかったと言うのか?)
ハドラーちゃんが再び覇者の剣を起動させながら、爆炎の中にいるアバンに襲い掛かる。
「今はただ寝ていれば良い!上には上がいる事を思い知りながらな!」
が、アバンが待ってましたとばかりに呪文を連発する。
火炎呪文(メラミ)
アバンの火炎呪文(メラミ)が、ハドラーちゃんの骨折寸前の右腕に響く。
「ぐっ!?」
超魔生物の力で直ぐに完治するとは言え、これはやはり痛い。
その一方、アバンの意外な強さに驚かされてばかりのロカ。
「あいつ呪文を使いやがった!?」
「「閃熱呪文(ベギラマー)!」
再び吹き飛ばされる中、ハドラーちゃんは別に意味で焦った。
(確かに、お前はこの時から天才の片鱗を魅せていた……だが!大魔王バーンが相手では、これだけでは絶対に足りんのだ!だから!)
火炎呪文(メラゾーマ)をマシンガンの様に連発するハドラーちゃん。
「うおぉーーーーー!」
が、アバンはそれを全て避け、ハドラーちゃんの脇腹に回し蹴りを見舞って、フローラ王女とハドラーちゃんの距離を広げた。
「ぐあ!?」
そこへ更に、アバンがダメ押しを放つ。
「トドメだ!火炎呪文(メラゾーマ)!」
しかし、ハドラーちゃんの覇者の剣がアバンの火炎呪文(メラゾーマ)を真っ二つにしてしまった。

ハドラーちゃんがふとアバンに声をかける。
「勿体無いとは思わんか?」
当のアバンは、無言で臨戦態勢のままハドラーちゃんを睨み付ける。
「お前ほどの天才が、この様な取るに足らん小さな小国に引き篭もっているなど……才能(たから)の持ち腐れとは思わんか?世界が可哀想とは思わんか?」
でも、アバンは答えずに臨戦態勢のままハドラーちゃんを睨み付ける。
「そこで、俺が手伝ってやろうか?これを食らえば、即安眠熟睡出来て退職願も提出し易くなるぞ!」
ハドラーちゃんの両手に再び不気味な光の玉が現れた。
それを視たアバンの背に、すうっと冷たい波がゆらめきはしった。
極大閃熱呪文(ベギラゴン)まで使えるのか!?)
しかも、カール王国側にとって運が悪い事に、ハドラーちゃんが放とうとしている極大閃熱呪文(ベギラゴン)の射線上にフローラ王女がいるのだ。
(ダメだ!あの呪文を避けたら姫に当たる!)
アバンが大の字になって立つ姿を観て、ハドラーちゃんは昔を懐かしむ様に鼻で笑った。
「フッ、相変わらず優しい奴だなアバン。だが安心するが良い、命までは奪わん。ただ、上には上がいる事を思い知るだけで良い……」
ハドラーちゃんが気合いを入れ直しながら構える。
「熱がれ!極大閃熱呪(ベギラゴ)―――」
が、ロカの斬撃がハドラーちゃんの右腕を斬り落としてしまう。
「ほぉう……なかなか良い剣の握り方だな。それなら、お前の馬鹿力がちゃんと太刀筋に伝わる。だが……」
一旦はロカを褒めるハドラーちゃんだったが、直ぐに閃熱呪文(ベギラマ)を放ってロカを吹き飛ばす。
「判断が遅い!」
吹き飛ばされたロカに駆け寄るアバン。
「ロカ!?」
一方のロカは、激痛に耐えながらしてやったりと言わんばかりの作り笑いを浮かべた。
「へへへ……やってやったぜ。あれであの妙な剣は出来ねぇだろ……」
しかし、今のハドラーちゃんは超魔生物の力で直ぐに斬り落とされた右腕が接着する。
「生憎だが、この程度の傷は直ぐ治る。それに……周りの連中の判断の遅さが、アバン、お前を孤立(ひとり)にした」
「1人だと?」
それを聞いたアバンの額に青筋が浮かんだ。
「それは、私がロカから何を貰ったのか、知ってて言っているのか?」
「この(斬り落とされた)右腕の事か?これは直ぐにくっつくが、ま、治るまでは左腕のみで戦わなければ……ならんか?」
本当は、ロカのあの行動がアバンの勇気を助長した事をハドラーちゃんは知っている。だが、今はアバンの修行の旅に必要な憎まれ役を演じなければならない為、こういう言い方しか出来ないのだ。
「よくも……よくも私の友を……許さん!」
その途端、アバンはロカが落とした剣を拾って逆手に持った。
(来る!アバンストラッシュが!……だが……)
強くてニューゲーム(いま)ならハドラーちゃんでも解る。
アバンが今から放つアバンストラッシュは、アバンが生まれて初めて撃つアバンストラッシュである事を。その証拠に、カール城での初対戦(ここ)だけ技名を叫ばなかったからだ。
(だとすると……威力は間違い無く……デルムリン島で受けた1発より劣る筈!)
なら、ここで(未完成の)アバンストラッシュを押し返してしまえば、皆がカール王国に引き篭もってる場合じゃないと悟るだろう。
だが、アバンにへし折られかけた上にロカに斬り落とされた右腕はまだ本調子ではない。つまり、閃熱呪文(ベギラマ)だけでアバンストラッシュを押し返さねばならないのだ。
(だがやるしかない!アバン!貴様がバーンに対抗する者達の希望なのだ!)
閃熱呪文(ベギラマ)!」
「うおぉーーーーー!」
やっぱり……ハドラーちゃんの予想通り、未完成版アバンストラッシュが閃熱呪文(ベギラマ)を押し返してハドラーちゃんに直撃する。そして、閃光の中に消えたハドラーちゃんを観て歓喜するカール王国の兵士達。
「やったぞ!アバンが魔王を倒した!」
「やった……ヘヘッ」
だが、周囲の歓喜に反して、アバンは臨戦態勢のままだった。
「いや……魔王はまだ生きています」
「えっ!?」
そう言うと、アバンが無造作に置かれている左腕を指差した。
そう、ハドラーちゃんは閃熱呪文(ベギラマ)が未完成版アバンストラッシュに敗けたと悟った途端、僅かに動く様になった右腕に覇者の剣を生やして自分の左腕をわざと斬り落としたのだ。
「ヤツが本当に死んだのならこの手も灰と化すはず。まだ生きてる証拠です」
「フハハハ!よく見抜いたな。今日のところはまず引いといてやろう。だがあのくらいの力では俺は倒せん。絶対にな!フハハハハ!」
ハドラーちゃんの左腕は、即刻アバンの火炎呪文(メラゾーマ)で焼却処分された。
(たしかに……今の私の力ではあの魔王には勝てない……)

未完成版アバンストラッシュの中に隠れる形でカール王国を去ったハドラーちゃんが、アバンに伝えたい事を独白する。
(アバンよ、これが始まりなのだ。俺との戦い。大魔王バーンとの戦い。そして……地上消滅を阻止する為の戦いのな……)
そして、ハドラーちゃんは祈る。カール城での初対戦(このたたかい)が、アバンの修業の旅の後押しになる事を。 
 

 
後書き
アニメ版のハドラーの月命日である16日に新しいのを掲載するので、大体月刊感覚となります。
ですので、気長に待ってくれるとありがたいです。
後、今のところは勇者アバンと獄炎の魔王を辿りながら歴史を変異させる方法を模索するのが基本になる予定です。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧