| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

ペーパーシャッフル① 〜大空の翼達〜

閲覧履歴 利用規約 FAQ 取扱説明書
ホーム
推薦一覧
マイページ
小説検索
ランキング
捜索掲示板
ログイン中
目次 小説情報 縦書き しおりを挟む お気に入り済み 評価 感想 ここすき 誤字 ゆかり 閲覧設定 固定
ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

<< 前の話
目 次
次の話 >>
57 / 77
ペーパーシャッフル① 〜大空の翼達〜

 

 生徒会交替式の数日後、中間テストの返却日がやってきた。

 

「……さすがに全員真剣な面持ちだ。準備はできているようだな。それでは中間テストの結果を貼り出すぞ」

 

 今日の午後一の授業はホームルームだ。

 入室してすぐ、茶柱先生がテスト結果の一覧を黒板に張り出した。

 

 「今回の合格点は40点以上が目安だ。それ未満の点数を取った者は退学処分となるだろう。……ちなみに掲示している点数には体育祭での結果も反映されている。活躍した者の中には点数が100点を超えた者もいただろう。だが、何点上回ろうとも等しく満点扱いとなっているぞ」

 

 茶柱先生の説明を聞きながら、俺は自分の名前を探した。

 

 沢田綱吉 88点

 

(88点かぁ。1学期よりは点数が上がっててよかった)

 

 本来なら俺は体育祭の1位ボーナスで100点を取れるのだが、そのボーナスは全てをポイントに変えてクラスに還元している為に点数の底上げはされてない。

 

「っしゃあああ!」

「う、嘘だろ!?」

「俺が最下位かよ!?」

 

 各々が自分の点数を確認する中、須藤君、池君、山内君が声を張り上げた。

 

 須藤君が喜ぶのも無理はない、いつも須藤君達3人は赤点スレスレなんだけど、今回須藤君は平均で60点をとっていたのだ!

 

「健! この裏切り者〜!」

「そうだぜそうだぜ!」

「へっ! 俺は勉強を頑張ったんだよ! 鈴音が根気よく付き合ってくれたからなぁ!」

「……その程度で喜ばない。まだまだなんだから」

「お! ……おお。すまねぇ鈴音」

 

 鈴音さんの一言で興奮していた須藤君が大人しくなった。

 

「……まるで忠犬だな」

「ぷっw」

 

 後ろの席でボソッと呟いた綾小路君のその言葉に思わず吹き出してしまった。

 

(鈴音さんに尻尾を振る須藤君を想像してしまったよ)

 

 須藤君は体育祭で学年最優秀賞を取ることは出来なかったけど、鈴音さんが須藤君の頑張りを考慮して名前呼びを許可したらしい。

 

 そして、今回の中間テストでは須藤君にマンツーマンで勉強を教えてくれたようだ。

 

 俺や平田君主催の勉強会にも参加していたし、須藤君の頑張りが実を結んだって事だな。

 

 ……え? 何でお前まで、さりげなく堀北さんを名前呼びしてるんだって?

 

 堀北さんが俺の事を綱吉君って呼ぶようになって、自分だけだと気持ち悪いから俺にも名前呼びして欲しいって言われたからだよ。

 

 さすがに「ちゃん」付けは嫌らしくて、「さん」付けになったけどね。

 

 生徒達が自分の成績を確認すると、再び茶柱先生が口を開く。

 

「今回の中間テストによる退学者は見ての通り0だった。私がこの学校に着任してからの3年間、この時期までにDクラスから退学者が出なかったことは一度もなかったぞ。良くやったな、お前達」

 

 俺達を労い、不敵に笑う茶柱先生。

 

「な、なんか素直に褒められるとむず痒いな」

「だなぁ〜」

 

 茶柱先生が素直に生徒を褒める事は珍しいので、クラスメイト達には微妙な表情をしている人もいる。

 

 そんなクラスの雰囲気など気にも止めず、茶柱先生は話を続ける。今度は俺の事を話題に上げてきた。

 

「そして、開校以来Dクラスの生徒が生徒会役員に選出された事も一度もない。……よくやったな沢田。これは快挙だぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

 そう言って俺を見る茶柱先生は、優しげな微笑みを浮かべているように感じた。

 

 茶柱先生の言葉を皮切りに次々とクラスメイト達からも声が上がる。

 

「本当、すげぇよ沢田!」

「この間のスピーチもカッコ良かったよなぁ〜」

「あはは、皆ありがとう」

 

 茶柱先生のみならず、クラスメイト達も俺の生徒会入りを喜んでくれているようだ。俺はそれがすごく嬉しかった。

 

 ——パンパン!

 

 クラスメイト達がワイワイしていると、いつものクールな表情に戻った茶柱先生が手を叩いて注目を集めた。

 

「盛り上がるのはここまでにしておけ。ここからは真面目な話に戻るぞ」

『……』

 

 クラスメイト達は無言で茶柱先生の話の続きを待っている。

 

(……あれかぁ)

 

 生徒会役員はその内容によるが、これから行われる特別試験について情報を得られる場合がある。

 

 ちょうどこの前、次に行われる特別試験についての話を耳にしたのだが、きっとこれから茶柱先生が話すのはその事についてだろう。

 

「お前達も分かっていると思うが、来週に期末テストに向けての小テストを実施する」

「げえ〜! 中間テストが終わったばっかなのに! またテストかよ!」  

 

 そう言った池君は机に倒れ伏す。

 

 2学期はテストの間隔が短いから仕方ないが、勉強が苦手な生徒からしたらきついよね。

 

「安心しろ池。今回の小テストはあくまでもお前達の現状の学力を推し量る為のものだ。だから、例え0点を取ろうが退学になる事はない」

「マジっすか!? やったぜ!」

「だが……もちろん小テストの結果が無意味な訳でもない。この小テストの結果は、次の期末試験に大きく影響を及ぼす事は覚えておけ」  

 

 甘い話には裏がある。そんな0点を取ってもなんのデメリットもないなんてあり得ないか。

 

「先生、その影響については説明をしていただけますか?」

「もちろんだ、平田」

 

 いつものように平田君が代表で茶柱先生に質問を投げかけた。すると、茶柱先生はテスト結果の紙を黒板から外し、また別の紙を黒板に貼り付けた。

 

「……ペーパーシャッフル?」

 

 誰かが貼り出された紙の一番上に書かれた言葉を読み上げる。

 

「そうだ。2学期の期末テストは特別試験として行われる。通称、ペーパーシャッフルだ」

(ペーパーシャッフルかぁ)

 

「……小テストの結果は、そのペーパーシャッフルにどんな影響を与えるのですか?」

 

 今度は鈴音さんが茶柱先生に質問を投げかけた。

 

「それでは小テストが期末テスト、通称ペーパーシャッフルに及ぼす影響について説明しよう。小テストの結果を基に『クラス内の誰かと2人1組のペア』を作ってもらう事になる」

『……ペア?』  

 

 テストとは関係なさそうなペアという言葉に、クラス中が首を傾げた。

 

「そうだ。ペアになった相手とは、一蓮托生で期末テストに挑むことになる。行う試験科目は8科目各100点満点で、各科目50問の合計400問だ。そしてペーパーシャッフルにおいても今までのテストと同様に取ってはならない赤点が存在するが、今回はそのラインが2種類ある」

「あ、赤点ラインが2種類!?」

 

 赤点ラインなんて1つで十分なのに、2つもあったら赤点を取る可能性が格段に上がってしまう。いつも成績優秀組以外には厳しい戦いになりそうだ。

 

「全科目の最低ボーダーとして60点が設けられており、60点未満の科目が1つでもあれば不合格とされて2人とも退学が決定する。ちなみにこの60点とはペア2人の点数を足した合計点のことを指しているんだ。例えば、池と平田がペアだとする。その場合は、たとえ池が0点でも平田が60点を取ればセーフということだ」  

 

 つまり、ペアの片方が勉強が苦手でも、もう1人が勉強が得意ならばクリアは容易いという事か。

 

 しかし、そうなってくるともう一つのボーダーが気になってくる。

 

「そしてもう一つのボーダーは、総合点における赤点のボーダーだ。仮に8科目全てが60点以上であっても、ボーダーを下回れば不合格になり退学となる」

「総合点もペアでの合計で判定されるのでしょうか」

 

 またも鈴音さんが質問すると、茶柱先生は頷いた。

 

「そうだ。総合点もペアの合計で合否が決まる。求められるボーダーはまだ正確な数字は出ていないが、例年の必要総合点は700点前後となっている」  

 

(800点中の700点ということは、え〜と、2人合わせて700点越えれば良くて……全16科目だから、1科目につき平均〜……へ、平均〜……)

 

 暗算に苦労していると、隣の席のみーちゃんがぼそっと答えを教えてくれた。

 

「……1科目当たり、平均43点かぁ」

 

 さすがはみーちゃん! 心の中で拍手を送りました。

 

 そんな中、平田君は茶柱先生にさらに質問を投げかける。

 

「あの、総合点のボーダーはいつ頃決まるのでしょうか」

「まだ未定だ。数日の内に決定されるだろうから、決まり次第すぐに説明しよう」

「わかりました」

 

 平田君の質問に答えると、茶柱先生は黒板に貼られた紙の一部を指で指した。そこには期末試験の日程が記されている。

 

「期末試験は1日4科目を2日間に分けて行われる。やむを得ない理由を除き、テストを受けられない場合には全て0点扱いとなるので注意するように」

 

 ふむ。体育祭の高円寺君のようにパスする事は許されない試験ってことか。

 

「そしてこの特別試験、通称ペーパーシャッフルでは毎年1組か2組の退学者を出している。しかもその脱落の大半はDクラスの生徒だ」  

 

 最後の一言には茶柱先生なりの注意喚起の意味もあるのかな。最近いい感じだからって油断をするなって言いたいのかも。

 

「最後に本番中のペナルティについて説明をしておくぞ。当たり前のことだが、テスト中のカンニングは禁止だ。カンニングした者は即失格となり、パートナー共々退学してもらう」

 

 まぁ、カンニングがダメなのは当たり前だよね。教室にも監視カメラがついているこの学校でカンニングする人がいるかは微妙だけど……だってリターンの割にハイリスクすぎるもんな。

 

 ここで、珍しい人物から手が上がる。麻耶ちゃんだ。

 こういう場面で麻耶ちゃんが手を上げて質問するとは思わなかった。

 

「あの〜、肝心のペアはどうやって決めるんですか? もし自分で選べるなら〜」

 

 そう言いながら、一瞬だけ麻耶ちゃんがこっちの方を見た気がする。

 

 俺の前の前の席は平田君だから、平田君をチラッと見たに違いない。そういえば平田君と友達になりたいって麻耶ちゃんが言ってた気もするし。

 

「ペアの決定方法は小テストの結果が出た後伝える。それよりも、ペーパーシャッフルの試験内容の説明を始めるぞ」

『え?』

 

 茶柱先生の言ってる意味が飲み込めず、ほとんどのクラスメイトが首を傾げる。数名は気づいていたみたいだけど、さっきの茶柱先生が言っていたのは期末試験で退学にならない方法だけで、試験の中身については全く話していなかった。

 

「ペーパーシャッフルでは、出題される問題をお前達自身に考え作成してもらう。そしてその問題は所属するクラス以外の3クラスの1つへと割り当てられる」

 

 という事は、Dクラスが作った問題は他のクラスが受けるし、俺達も他クラスが作った問題を受けないといけないわけか。

 

「つまり、他クラスに対してテスト問題の『攻撃』を仕掛けるということだな。逆に迎え撃つクラスは『防衛』する事になる。そして、対戦したクラスの総合点を比べ、勝っているクラスが負けているクラスからポイントを奪える。一つの勝負で奪えるのはCPを50ポイントだ」  

 

 攻撃でも防衛でも勝てば100CPもらえるけど、どっちも負ければ100CP失うって事か。

 

(これは……相手選びも重要だなぁ)

 

「……ほとんど直接対決だな」

 

 綾小路君の言う事は最もだ。もしも『Aクラスに攻撃してAクラスからの攻撃を防衛をする』とかになったらA対Dの1対1での勝負になるし、学力的にDクラスの勝ち目は薄いもんね。

 

 

 え〜と。纏めると、次の特別試験であるペーパーシャッフルのクリア条件としては……退学しない為に赤点ラインの各教科60点以上をペアで上回り、700点レベルの総合点のボーダーを超える。それに加えて、クラス全体の総合点で相手クラスの総合点に勝つ事か。

 

(……Cクラスとか、誰も答えられない問題とか作りそうだけど……)

 

 俺の心配と同じ事を思ったらしく、平田君が茶柱先生に質問をする。

 

「先生、他クラスの問題が答えられないような問題になっていれば、相当難易度の高いテストになってしまうと思いますが」

「安心しろ。作り上げた問題は私達教師が厳正かつ公平にチェックする」

(なるほど。それなら無理のある試験問題は出てこないか……)

 

 あと、問題はもう一つある。

 それは問題を全部生徒側で用意しないといけない点だ。

 

 テストまで残り1ヶ月程度しかないし、もしも誰か1人で問題を作るとしたら、毎日10〜15問作らないといけなくなるな。

 

 クラス全員で作るとしたら個人の負担は減るけど、クオリティーの維持は難しいだろう。

 

「……問題を400問を作るとなると、結構厳しいスケジュールになりますね」

「安心しろ。万が一問題文と解答が完成しなかった場合の為、救済措置もある。期限を終了後に問題文が提出されていなければ、予め学校側が作っている問題に全て差し替えされる。だが肝に命じておけよ。学校側が用意しているテストの難易度はほぼ確実に低めだ」

 

 問題文を作りきれなければ負けは必至、という事か。

 

「先生、その対戦相手はどうやって決めるんです?」

「対戦相手の決定方法は単純明快だ。希望するクラスを生徒側が1つを指名し、担任が上に報告する。その際に別のクラスと希望が被っていた場合には、代表者を呼び出してクジ引きとなる。逆に被っていなかった場合にはそのまま確定となりそのクラスに問題を出題することになる。どのクラスを指名するかは小テストの前日に聞き取る。それまでに慎重に考えておくことだ」  

 

 ……ん〜。今回も複雑だなぁ。他クラスの作った問題を解くとなると事前に準備とかできるだろうし、他クラスへの裏切り行為も簡単にできてしまうわけで……

 

(……)

「うふふっ♪」

 

 俺は笑っている桔梗ちゃんを見ながら、言い表せない不安を覚えた……

 

「以上がペーパーシャッフルの事前説明になる。あとはお前達自身で考えることだ」  

 

 そう茶柱先生は締めくくり、ホームルームは終了となった。     

 

 —— 屋上 ——

 

 ホームルームの後の休み時間。俺は屋上へとやってきた。その理由はリボーンから呼び出しを受けたからである。

 

(……このタイミング、またアレかなぁ〜)

 

 ——ガチャ。

 

 屋上の扉を開き外に出ると、リボーンが待っていた。

 

「チャオっす、ツナ」

「うん。特別課題の発表か?」

「そうだぞ」

 

 やはりか。先生からの特別試験の説明を受けた後に特別課題の発表、これはもう通例だな。

 

「今回の特別試験、ペーパーシャッフルにおける特別課題は……」

「……」

「……?」

 

 なぜかいつもよりも間を空けるリボーン。

 

 それから数秒後、やっと続きを話出したかと思えば……

 

「……ない」

「……え?」

 

 ない? ないって何? 

 課題を発表するって言ってんのに課題はないって何?

 

「え? ないの?」

「ない。ペーパーシャッフルにおいてお前がするべき事はない。いや、むしろ何かをしてはいけない」

「はい?」

 

 いや、何かをしてはいけないって何だ?

 

「何かをしてはいけない? ……何もするなって事?」

「そうだ。つまり今回の特別課題は、ペーパーシャッフルの期間中にDクラスが勝つ為の行動を何もしてはいけないって事だな」

「ええ? それってどの程度? 期末試験も兼ねてんのに勉強もしちゃダメって事? 今回も勉強会とかあると思うんだけど……」

「勉強会には参加してかまわねぇ。そこで誰かの勉強を見てやるのも大丈夫だ」

「……それだと特に課題にならないと思うんだけど?」

「そんなことねぇぞ? ペーパーシャッフルは他クラスとの対決になるだろ?」

「あ、そっか」

「テスト勉強は退学しない為にも必要だし、他人に教えるのもそれと同様だ。今回の特別課題で測りたいのは、〝お前が仲間をどこまで信じられるのか。仲間の事をどれだけ理解してるのか〟だからな」

 

(……仲間をどこまで信じられるのか?)

 

「つまり、今回はクラスの指揮を仲間に取らせればいいって事? で、俺はそこに口に出してはいけないと?」

「そうだ。お前に許されるのはクラスメイトのテスト勉強の補助のみ。お前の誘導でクラスが動いたら失格だ」

「……なるほど。とにかく仲間の事を信じて全てをまかせろと」

「ああ。そういう理解で大丈夫だ。もちろん対戦相手に負けてもダメな」

「うわぁ。つまり任せる相手も重要って事かぁ」

「そうだぞ」

 

 勝つ為の行動をしてはいけないなら当然、対戦相手となるクラスに出す問題を考えるのもダメだろうな。できるのは本当にクラスの勉強会の手伝いくらいしかなさそうだぞ……

 

「……わ、わかった」

「よし。じゃあ頑張れよ」

 

 ——ヒュウ!

 

 俺が理解したと悟ると、リボーンはレオンをハンググライダーに変化させて飛び立っていった。

 

(……とりあえずクラスに戻ろう。もうすぐ今日ラストの授業だし)

 

 色々な事を考えるのは後回しにして、俺はとりあえず教室に戻る事にした。

 

 —— 屋上へ続く階段 ——

 

「……あ」

「あ、綱吉君。ここにいたのね」

「鈴音さん、どうかしたの?」

 

 屋上の扉を開けて校内に戻ると、ちょうど鈴音さん階段を登っているところだった。

 

「あなたを探していたのよ。少しお願いがあってね」

「そうなんだ。じゃあ戻りながら話そうか」

「ええ」

 

 鈴音さんと一緒に、Dクラスへと帰るべく廊下を進み始める。

 

(お願いってなんだろう。ペーパーシャッフルをどう戦うかの相談かなぁ……でも俺はそれに答えちゃいけないんだよなぁ〜)

 

 元々勉強は鈴音さんの方が出来るし、期末試験は鈴音さん中心にクラスで動きたいと思っていたから特に問題はないんだけど、勝つ為の相談にのれないのはキツすぎるなぁ……

 

 1人で思い悩んでいた俺だが、鈴音さんからのお願いは全く予想していなかったものだった。

 

「綱吉君。今回のペーパーシャッフルなんだけど……私にクラスの指揮を取らせてもらえないかしら」

「!」

 

 そう。鈴音さん自らクラスの指揮を取りたいと言ってきたのだ!

 

 今の仲間の中でクラスの指揮を取ってくれそうなのは、鈴音さんか平田君。もしくは桔梗ちゃん。

 

 桔梗ちゃんには今は少し頼りにくいから、鈴音さんか平田君に頼もうとはリボーンに特別課題の説明をされながらもぼんやり考えていた。

 

 なので鈴音さん自ら指揮を取りたいと言ってくれたのは渡りに船なんだけど……でも、どうしてわざわざ俺に言ってきたんだろう。別に言われなくてもテストにおいては鈴音さんを中心に動いたと思うんだけどな。

 

「……ダメかしら?」

「あ! ごめん、全然構わないよ!」

「そ、そう。ありがとう。頑張るわね」

「うん!」

 

 不安そうな顔で聞かれたから少し焦ってしまった。

 

(……今の鈴音さんの顔。ペーパーシャッフルで何かやりたい事でもあるのかな?)

 

 そんな邪推をしてしまいながらも、鈴音さんと更に話を続けた。

 

「俺はサポートに回るね」

「ええ。綱吉君には勉強会の指導役を任せたいと思うわ。おそらく中間テスト同様に、私・平田君・櫛田さん・綱吉君の4人で指導役をする事になるわね」

「うん、わかったよ」

「それでね、今日の放課後に作戦会議を開きたいのだけど……」

「あ、ごめん! 俺今日は生徒会の仕事があるんだ。だから結構遅れちゃうと思う!」

「そうなの。……いえ、ならいいわ。決まった事は後でメールで知らせるわね」

「うん。それでよろしく」

 

 と、いうわけで。ペーパーシャッフルは鈴音さん主体で挑む事になった。

 

 

 —— その日の放課後、綾小路side  ——

 

「……で? どうして遠回りをして歩いてるんだ? 集合場所はカフェだろう?」

「ええ。その前にあなたに話しておきたい事があるのよ」

「……」

 

 今は放課後。俺はなぜか堀北と靴箱に遠回りになるように校内をうろついていた。

 なぜこんな事をしているのかは、少し前にあった会話が原因だ。

 

 放課後になってすぐ、堀北によって平田・軽井沢・櫛田・俺・須藤の5名が招集された。

 

「堀北さん、期末試験に向けての対策だね?」  

「ええ。どこかで作戦会議をしたいのだけど」

「あ、それならパレット行かない?」

「あ、それいいねっ♪」

「俺はどこでもいいぜ?」

「……俺もだな」

 

 堀北を入れたこの6名でペーパーシャッフルについての作戦会議をするらしい。軽井沢の希望もあり、場所はパレットと言うカフェで行われる事に決定された。

 

「あれ? ツっ君は参加しないの?」

「あ、私もそれ聞きたかった!」

「綱吉君は今日は生徒会の仕事があるそうよ。決まった事は後でメールすると伝えてあるわ」

「そっか。それなら仕方ないね」

「ええ。じゃあパレットに30分後に集合で。私と綾小路君は先に用事を済ませておきたいから」

「……?」

 

 俺は別に用事などないのだが、堀北の目が真剣だったから黙って従っておく事にした。

 

 ……と、いうわけで。俺達は今一緒に校内を歩いている。用事とはこの時間を作り出す為の方便だったらしいな。

 

「で、話ってなんだ?」

「体育祭での櫛田さんとの会話、覚えてるわね?」

「ああ」

 

〝「ああ、ツナく〜ん♡ 私のツナく〜ん♡」〟

 

 あんな狂気的な姿をそう簡単に忘れられるわけがない。

 

「櫛田さんは私達の事を退学させようとしているわ」

「そうだな」

「しかも、その為にDクラスの妨害までしている」

「そうだな。沢田は悪人でも仲間なら見捨てないからな」

 

 経験者は語るとはこの事だ。沢田の懐の大きさは桁違いだからな。

 

「でも、今後も私達が退学するまで妨害を続けられたら困るわよね」

「そうだな。沢田も辛いだろうし」

「でしょう? だから、ペーパーシャッフルを利用してこの不毛な争いを終わらせたいのよ」

「……なるほどな。でもどうするんだ? 沢田に何か策でもあるのか?」

「いえ、綱吉君には頼らないわ」

「は?」

 

 沢田には頼らない?

 俺達だけで櫛田に俺達の退学を諦めさせるっていう言うのか?

 

「……沢田抜きで出来るのか?」

「……やってみせるわ。すでに沢田君には打診をしているの。ペーパーシャッフルは私がクラスの指揮を取る事も了承してくれたし、今回の勉強会のサポートのみに回ってもらう事になったわ」

「……沢田が了承したのか。ならまぁいいか」

「ええ。櫛田さんのターゲットは私達なのだし、この問題は私達で解決するべきよ」

「……で? 具体的に解決策はあるのか?」

「ええ。賭けを申し出ようと思っているの」

「賭け?」

「そうよ。期末試験の1教科に絞って点数で勝負して、私が勝てばもうクラスの邪魔もしないし私達の退学も諦めてもらう」

「……もし負けたら?」

「私達は2人とも自主退学ね」

 

 ……俺の許可取る前にもう人数に入ってんのな。

 

「……勝手に俺を生贄にするなよ」

「すまないわね。あなたには私と運命を共にしてもらうわ。ペーパーシャッフルじゃないけど、この問題においては私達は一蓮托生のペアだもの」

「……櫛田の言葉を借りるなら、俺達は沢田の両翼だからって事か」

「そういうこと」

 

 ……まぁ、俺も沢田の〝相棒〟になると決めたワケだし、沢田の〝パートナー〟である堀北とはペアみたいなもんか。お互いに沢田の片翼を担っているわけだしな。

 

 だが、堀北が自分からこういう事をするとは思いもしなかった。

 

「……なぁ堀北」

「なに?」

「お前の今の発言、沢田のパートナーとしての発言か? それとも堀北鈴音個人の発言か?」

「……」

 

 俺の質問を受け、堀北は少し考え込んだ。

 

「……どっちもね」

「どっちも?」

「ええ。堀北鈴音として、DクラスをAクラスに上げる為に櫛田さんとの関係を修復したいという思いもある」

「……パートナーとしても、他に何かあんのか?」

「……そうね」

 

 そう言うと、堀北は歩みを止めて廊下の窓を開けた。

 そして、窓から空を見上げている。

 

「……私、体育祭で気づいたんだけど……綱吉君から言ってもらった〝パートナー〟という言葉が、自分の中でとても大事なものになっているの」

「……心の拠り所みたいなもんか?」

「そうね。そういう表現が正しいわ」

 

 やはりか。俺も沢田に言われた〝相棒〟という言葉が心の拠り所になっているように感じているからな。

 

「中学までの私は、兄さんに追いついて認めてもらいたい。その一心でひたすら前に進んできたわ。周りの事なんて気にも止めずにね」

「……ああ」

「でも結局、兄さんに近づく事はできたと思っても、まだまだ距離もあるし認めてももらえなかった。そして、それまでの私は兄さんに追いつきたいという目標だけで突き進んできたから、兄さんに完全に拒絶された時にはもう頑張る意味すらないとも思ったわ」

 

(元生徒会長の暴行を沢田が止めた時の事だな)

 

「そんな私に、綱吉君は再び頑張る意味をくれたのよ。君は優秀だ。俺は君を信じるから、君も俺を信じて一緒に頑張ろうってね」

「知ってるぞ、俺もその場にいたしな」

「ふふ、そうだったわね」

 

 堀北はフフっと笑い、話を続ける。

 

「きっとその時に、綱吉君は私に新しい居場所を作ってくれたのよ。それもどこかに落ち着かせるわけじゃなく、私が進む限り隣をついて来てくれて安心を与えてくれる居場所をね」

「……その気持ちは分かる」

 

 俺も堀北と同じような感覚がある。ホワイトルームを出て、生まれて初めての外界に来た俺。そんな俺がここにいたいって思える空間、それをDクラス内に作ってくれたのは沢田だからな。

 

「……だから、綱吉君の〝パートナー〟は私の新しい居場所なのよ。それもとっても大事な居場所。これも体育祭で気づいたんだけど、私は綱吉君のパートナーでいられる事を嬉しく思っているわ。そして、そんな綱吉君のそばにいれる事に誇りだとも思っている」

「……それもよく分かる」

「私、そんな大事な居場所を誰かに譲りたくないのよ。たとえDクラスの仲間でもね」

 

 なるほどな、堀北の言わんとする事は分かったぞ。

 

「……そうか。2つ目の理由は〝プライド〟ってわけか」

「ええ。綱吉君のパートナーを誰にも譲りたくない。だから櫛田さんに負けるわけにはいかないし、この戦いに綱吉君を参加させたくない。これは私のプライド、誇りを守る為の戦いなのよ」

 

 沢田の片翼は自分にとって大事な居場所。今回の櫛田との戦いはクラスの為でもあるし、自分のプライドを守る為でもあると。

 

「……お前と同じ意見だ」

「え?」

「俺も沢田の相棒ってポジションを誰にも譲る気はない。クラスメイトであってもな。だから……お前の作戦に乗ってやるよ。お互いに沢田の片翼を担うペアだしな」

 

 俺の発言に驚いた顔をしている堀北だが、すぐに口から空気が漏らした。

 

「……ふっ、今日はすごく素直に自分の気持ちを話すのね?」

「うるさい。それはお前もだろう」

「ふふっ、そうね」

 

 微笑みながら、堀北は開いた窓を閉める。

 

「……もう終わらせましょう。クラス内で啀み合うのは」

「ああ。……で? 策はあるんだろうな」

「もちろんよ。無意味に退学する気なんてないわ」

「そうか。なら俺はお前のサポートをすればいいか?」

「そうね。櫛田さんとの勝負というか、勉強会でサポートをお願いしたいわ」

「……わかった」

 

 お互いに頷き合い、俺達は再びパレットへと歩き始める。

 

「……負けるなよ?」

「……当然よ」

 

 そして、俺達は無言でパレットへと歩み続けたのだった。

 



読んでいただきありがとうございます♪
次回は作ペーパーシャッフルの作戦会議と、櫛田桔梗の独白回です!
<< 前の話
目 次
次の話 >>



 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧