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体育祭準備③

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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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体育祭準備③

 

 あと一週間で10月になる頃。

 体育祭に向けてのDクラスの練習は順調に進んでいた。

 

 そんなある日の昼休み、俺は1人で屋上に来ていた。

 

「……」

 

 屋上のフェンス越しに、体育祭当日の会場にもなるグラウンドを見下ろすと、グラウンドにはクラスメイトの女子達と、自主練に励む桔梗ちゃんが見える。

 

 桔梗ちゃん……君はどうして、干支試験で龍園君に自分が優待者である事を話したの?

 

 それに、カルメンが聞いた『二学期になったら、約束通り私の手伝いをしてくれるんだよね?』って言葉。

 

 一体龍園君に何を頼むつもりなの?

 

 ……いや、本当はなんとなくは分かっているんだ。それを認めたくないだけで。

 

 ……俺では君の力にはなってあげられないのかな。

 

「……はぁ〜」

 

 グラウンドに背を向け、ため息を吐きながらフェンスに寄りかかる。

 

「……どうしようかなぁ」

「……どうしたんだ?」

「!」

 

 独り言を呟くと、誰かに声をかけられた。

 ……綾小路君だ。

 

「あ、綾小路君。あの〜、その、ね」

「……櫛田のことだろ」

「! え、もしかして綾小路君も気付いてる?」

「まあな」

 

 頷いた綾小路君は、俺と同じようにフェンスに寄りかかった。

 

「……干支試験の辰グループ。結果は1だった。だが、この結果は普通なら起こり得ない」

「うん。やっぱりそうだよね」

 

 さすがは綾小路君。俺はカルメンから聞かされて気付いたのに、綾小路君は自力でその疑惑に辿り着いていたようだ。

 

「沢田は、辰グループを結果1に導いたのは誰だと思ってる?」

「……龍園君」

「ああ。ほぼ確実に、結果1になったのは龍園の作戦だろう」

「うん。でも、その作戦を成立させるには、優待者が分からないといけない」

「龍園はなぜ辰グループの優待者が分かったのか。それは……」

「……優待者本人が教えたから、だろうね」

「だな。その可能性が一番高い。確証はないが、間違い無いと思っていいだろうな」

 

 俺は龍園君と桔梗ちゃんが話している内容を聞いている。だから確証はある。まぁカルメンに聞いたなんて言えないけど。

 

「それで……辰グループの優待者は……」

「櫛田桔梗。……つまり、船上試験の裏切り者は櫛田ってことだな」

 

 分かってたけど、改めて口に出すと心に来るものがあるよね。

 

「はぁ〜」

「……悲しそうだな」

「……まぁね。どうして裏切ったのかも分からないし、その目的も分からないから」

「ああ。……で、どうして1人で悩んでたんだ?」

「だって、桔梗ちゃんがDクラスを裏切ったなんて皆には言えないじゃない?」

「何でだよ」

「桔梗ちゃんの立場が悪くなるし、クラスの雰囲気も壊れそうでさ……」

 

 せっかく高円寺君を除いて良い感じに団結してきているのに、そこに水を差したくないよ。

 

「お前は優しいからな……」

「綾小路君だったら、皆に言っちゃうの?」

 

 少しの沈黙の後、綾小路君は首を横に振った。

 

「いや、言わないな」

「だよね……でもこのままだとまた、何かDクラスにとって良くない事が起きるかもしれないし〜」

「こういうことは裏で解決した方がいい」

「え? どうやって?」

「……例えば、どうにかして退学に追い込むとかな」

「ええっ!?」

 

 桔梗ちゃんを退学させる!?

 いやいや、それは認められないよ。桔梗ちゃんはDクラスに必要な人だし。

 

「……まぁそれは最終手段だな。櫛田はDクラスに必要な人材だからな」

「ああ、だよね〜」

 

 良かった。綾小路君も同じ気持ちだったようだ。

 

「……沢田。お前はどうしたいんだ?」

「俺? 俺は……桔梗ちゃんには裏切りを止めて欲しいよ。そして一緒にAクラスを目指して欲しい」

「……そうか。ならその為にどうする?」

 

 綾小路君は俺の思考整理を促すように細々と質問をしてくる。

 これは綾小路君なりの励ましなのかもしれない。

 

「……桔梗ちゃんとしっかり話すよ。もしかしたら何かで悩んでるのかもしれないし。桔梗ちゃんがSOSを出しているなら、俺が助けになってあげたい」

「……そうか。わかった」

 

 綾小路君はフェンスから離れ、こっちに振り返った。

 

「沢田。明日の午前中、他クラスの偵察を口実に櫛田を呼び出そう。そこでお前が話をしてみればいいんじゃないか」

「! なるほど……それならクラスメイト達に聞かれる心配もないね!」

「堀北も連れて行こう。堀北には干支試験の裏切りの事を話しておくべきだ」

「うん、分かった」

「……じゃあ、早速誘いに行くか」

「そうだね!」

 

 そして、俺達は桔梗ちゃんと堀北さんを誘うべくDクラスの教室に戻ったのだった。

 

 

 —— Dクラス教室 ——

 

 教室に入ると、堀北さんは自分の席で読書をしていた。

 

「堀北さん、少しいい?」

「? ええ、かまわないわ」

 

 しおりを挟んでから本を閉じ、堀北さんは俺達の方を見た。

 

「で、何?」

「明日の土曜日、午前中だけ時間をくれない?」

「午前中? かまわないけれど、どうしてかしら」

「他クラスの練習の偵察に行きたいんだ」

「! なるほどね。確かにそれも必要だし。わかったわ」

「ありがとう!」

 

 堀北さんの次は、桔梗ちゃんに声をかける。

 

「桔梗ちゃん、ちょっといい?」

「うん、いいよぉ♪」

「明日の午前中、時間ある?」

「明日って土曜日だよね? あるよ?」

「そっか。じゃあ一緒に他クラスの練習の偵察に行かない? 他クラスの情報に詳しい桔梗ちゃんの意見も聞きたいんだ」

「あ、なるほどね。わかった♪」

「よかった、ありがとう!」

 

 桔梗ちゃんを誘う事にも成功し、明日の準備が完了したところで昼休みは終了した。

 

 

 —— 放課後 ——

 

 放課後になり、片付けをしていると、堀北さんに声をかけられた。

 

「……ねぇ、沢田君。綾小路君」

「ん?」

「なんだ?」

 

 堀北さんの声色が、なぜか怒っているように感じた。

 

「どうして櫛田さんも誘ったの?」

「え!? ……桔梗ちゃんの意見も聞きたいから?」

「……嘘ね」

「えっ!? 嘘じゃないよ!?」

「すごく動揺してるじゃない。何か理由があるのかしら?」

 

 顔に出てたのか堀北さんに図星をつかれてしまった。

 

 そんな俺に呆れたのか、綾小路君がフォローしてくれる。

 

「はぁ……堀北。帰りながら話そう。ここでは話しづらい」

「? わかったわよ」

 

 荷物をしまい込み、3人で教室を出て昇降口に向かう。

 

「……どうして教室では話せないのよ」

「……とあるクラスメイトの名誉の為だ」

 

 一言二言の会話をしながら昇降口に行き、外履きに履き替えて学校から出た。

 

 そして、マンションへと向かいながら本題へと入る。

 

「実はな。明日の偵察はあくまで口実に過ぎない。櫛田を呼び出す為のな」

「……なんでわざわざ休日に呼び出すのよ」

「その方が桔梗ちゃんが話しやすいと思うんだ」

「……貴方達は、櫛田さんに何かを聞きたいって事ね?」

「そうだね」

「……何を聞くつもりなの?」

「……どうして、干支試験でDクラスを裏切ったのかだよ」

「!」

 

 予想もしていなかった答えだったのか、堀北さんは思わず足を止めた。

 

「……櫛田さんが裏切った?」

「うん。龍園君に自分が優待者だって教えたんだと思う。だから龍園君は辰グループの優待者を見ぬけたし、その情報をAとBクラスにも流す事で結果1にできたんだ」

「まさか。櫛田さんが龍園君に協力を? 何の為にするのよ。龍園君が告発してたら、結果4になって自分だけPPを失ってたかもしれないのに」

 

 納得できないのか、堀北さんは苦笑している。

 

「……だが、辰グループのあの結果は、そう考えるだけの要素にはなり得るだろう?」

「龍園君と櫛田さんが結託したとでもいうの? それこそ櫛田さんにはメリットが無いと思うけれど」

「確かに理由は分からないが、PPの譲渡とか色々理由は考えられるだろ」

「……確信はないのに櫛田さんを問いただすつもり?」

「ああ。俺は沢田になら話してもおかしくないと思っている」

「なら、私と綾小路君が同行する理由は?」

「詳しくは言えないが、俺達と櫛田には少しいざこざがあってな。もう解決したんだが、それがきっかけで櫛田は俺達には割と本音を語ってくれるようになった。そして、堀北にも櫛田との何かしらの因縁がありそうだ。そんな俺達なら、沢田が櫛田と話すときにサポートしても櫛田は警戒しないと思ったんだ」

「……私は櫛田さんと因縁なんてないわ」

 

 堀北さんは少しバツが悪そうに綾小路君の言葉を否定する。

 

「……そうか。それでも不安要素があるなら取り除くべきだ。体育祭でも櫛田と龍園が結託する可能性だってある」

「……それはそうだけど」

「少なくとも、龍園はお前と沢田を狙い撃つって予告してるんだ。間違いなく何かを仕掛けてくる。その為には、Dクラスに裏切り者がいた方が都合がいいだろう」

「……」

 

 流石に否定は出来ないのか、堀北さんは無言になった。

 

 そして、話が終わるタイミングでマンションの前に着いた。

 

「じゃあまた明日ね」

「あ、うん。明日は10時にマンション前に集合で」

「わかったわ」

 

 堀北さんは女子用のマンションに入り、俺達は男子用のマンションに入った。

 

 綾小路君とエレベーターに乗り込みながら、俺は疑問に思っていた事を聞いてみる事にした。

 

「……ねぇ、綾小路君は桔梗ちゃんがどうしてクラスを裏切ったのか分かってるんじゃない?」

「……なんとなくはな。それはお前もだろう」

「……」

 

 桔梗ちゃんがDクラスを裏切った理由。それはおそらく……

 

堀北(さん)を退学させたいから』

 

 俺達は全く同じ事を同時に発言した。

 

「……揃ったな」

「うん」

 

 俺達が桔梗ちゃんの本性を知った時、桔梗ちゃんは堀北さんに対して怒りを爆発させていた。

 

 他人との関わりを持とうとしてなかった堀北さんに、あそこまで怒っていたと言うことは……入学してからの学校生活以外で何かがあったって事だと思う。

 

 そして、桔梗ちゃんは自分の立場が悪くなる事を凄く嫌がっている。つまり、堀北さんには桔梗ちゃんの立場を悪くする何かがあると言う事。

 

 きっとそれが不安だから、不安要素は元から断とうって思ってるんだろうな。

 

「……」

「……」

 

 ——チーン。

 

 エレベーターが止まった。綾小路君の部屋がある階だ。

 しかし、綾小路君は降りずに開延長ボタンを押した。

 

「……沢田。おそらく櫛田は何かしらの工作をしてくるぞ」

「……うん。分かってる」

「……どうするんだ。今の所何の対策もしていないだろ」

「……一応考えたんだけど、工作を阻止するのは難しいと思ったんだよ」

「……そうか。じゃあまた明日な」

 

 そう言うと綾小路君はエレベーターを降りていった。

 

(……難しいというのは言い訳だ。本当は止める手立てはある)

 

 でも、工作を阻止してしまえば、龍園君が桔梗ちゃんに何かをしてくるかもしれない。

 そうなるのは嫌だから、あえて止めないだけだった。

 

 もし工作されても、そこまで影響はないと思っていたからね。

 

 この考えを俺は後に後悔する事になるが、この時の俺はそんな事を知る由もなかった。

 

 

 —— 翌日 ——

 

「あ。おはようツナ君♪」

「桔梗ちゃん。おはよう」

 

 集合時間の10分前にマンションのロビにーに出ると、すでに桔梗ちゃんが待っていた。

 

「ねぇねぇ、今日は何の偵察に行くの?」

「えっとね、部活動の練習を偵察するんだよ」

「部活動?」

 

 桔梗ちゃんは可愛らしくコテっと首を傾げた。

 

「うん。部活動なら他クラスの運動が得意な人が分かるでしょ? そこから他クラスのメンバー編成をある程度予測できるんじゃないかなって」

「あ〜、なるほどね! 私いろんな部活の子と仲良しだから、気になる人がいたら簡単な紹介ならできるかも!」

「助かるよ。それを期待して桔梗ちゃんを誘ったんだ」

「あははっ♪ がんばるねっ!」

 

 桔梗ちゃんと会話をしていると、綾小路君と堀北さんもやってきた。

 

「おはよう」

「……おはよう」

「あ、2人ともおはよっ♪」

「綾小路君と堀北さん、おはよう!」

 

 4人揃った所で、さっそく偵察に出る事になった。

 

「どこの部活を偵察に行く?」

「屋外がいいわね。体育祭に重要そうなデータが取れるわ」

「……そうだな」

 

 堀北さんの提案を採用し、俺達4人は陸上やサッカー部が使っているスタジアムに向かう事にした。

 

 

 —— スタジアム ——

 

「お〜! すごい賑やかだねっ♪」

 

 スタジアムに着くと、陸上部とサッカー部が練習に励んでいた。

 

「あ、平田君だ♪」

「本当だ」

 

 サッカー部は試合形式の練習をしているようだが、サッカー部員である平田君もフィールド内を走り回っていた。

 

 しばらく練習を観察していると、桔梗ちゃん徐に口を開いた。

 

「……ねぇツナ君?」

「ん?」

「今日ってさ、本当は偵察が目的じゃないよね?」

「えっ!?」

 

 いきなりそんな事を言う桔梗ちゃんに驚いて顔を見ると、桔梗ちゃんはいつもの笑顔で俺の事を見つめていた。

 

「な、なんでそんな事を?」

「だって最近のツナ君なんか変だったもん。私と仲良くしたいけど、なんか戸惑っているっていうか〜」

「……そんな感じ出してた?」

「うん! ツナ君は分かりやすいからね♪」

 

 顔に出さないように気をつけていたつもりだったけど、桔梗ちゃんにはバレバレだったようだ。

 

 俺が苦笑いし始めても、桔梗ちゃんは笑顔を崩さない。

 逆にそれが怖くもある。

 

「……で? どうして今日はこのメンバーで集まったの?

 

 もうごまかしても意味はないだろう。

 しょうがないから、ここはストレートに聞いてしまおうか。

 

「あのね、桔梗ちゃん。干支試験の事なんだけど……」

「干支試験? それがどうかした?」

「うん。桔梗ちゃんの辰グループは、桔梗ちゃんが優待者だったでしょ?」

「そうだよ」

「辰グループの試験結果は結果1。でもさ、同じグループの堀北さんと平田君は誰にも君が優待者だって話していないって言ってるんだ」

「うんうん」

「それで、堀北さんが言うにはグループディスカッション中に桔梗ちゃんが優待者だってバレるような事は起きなかったらしいんだ」

「ん〜、そうだったかもね♪」

「……それならさ、辰グループが結果1になったのは……優待者本人が誰かに自白したからじゃないかなって……」

「!」

 

 一瞬真顔になったように見えるが、すぐにいつもの笑顔に戻る桔梗ちゃん。

 

「……ふふふ、ツナ君は私が誰かに自分が優待者だって教えたと思っているの?」

「……うん。ごめん、そうだと思ってる」

「そうなんだぁ〜。……じゃあさ、なんで私を呼び出したの? もちろん違うけど、裏切り者なんじゃないかって疑っているんでしょ?」

「……それは、どうしてそんな事をしたのか知りたいから」

「知りたい? 知ってどうするの?」

「……俺に出来る事で助けになりたいんだ」

「! 助け?」

 

 今の俺の発言で、なぜか少し笑顔が薄れたような気がする。

 

「うん。前に言ってたじゃない? 『もしも私が助けを求めたら、必ず助けてくれる? って」

「……確かに言ったね」

「だからさ、クラスを裏切ってでも解決したい悩みがあるんだったら、俺に相談してもらえないかな。何が出来るかは分からないけど、絶対助けるから!」

「……ツナ君はホント優しいね」

 

 笑顔が薄れてから、徐々に真顔になっていく桔梗ちゃん。俺が助けると言った時には、完全に真顔になっていた。

 

「……ふふふっ♪」

「!」

 

 真顔から、再び笑顔になる桔梗ちゃん。

 一体どうしたのだろうか。

 

「……残念! は〜ずれっ♪」

「……え?」

 

 桔梗ちゃんは、両手の人差し指を口元でクロスさせてそう言った。

 

「あの、はずれって?」

「私が裏切り者だっていう推理はハズレだよっ♪ 私がDクラスを裏切るはずはないじゃん! もう、ツナ君ったら早とちりなんだから〜」

「え? で、でも」

「とにかくっ、私はDクラスを裏切ってなんていないよっ! そして悩んでもいないから平気♪」

 

「何かやっていない証拠でもあるの?」

「それはないけど、とにかく信じて欲しいかな?」

 

 堀北さんが食い下がるも、桔梗ちゃんは認めようとはしなかった。

 

「……(がしっ)」

「……!」

 

 無言で話を聞いていた綾小路君が俺の肩を掴む。

 振り返ると、首を横に振って見せた。

 

(認めさせるのはあきらめろってことか?)

 

 綾小路君も無理だと判断したし、俺もこれ以上追求はできないと思ったので、ここは引く事にした。

 

「……そ、そうだよね。疑ってごめんね?」

「ううん、全然いいんだよっ♪ ほら、それより偵察に集中しよっ!」

「うん、そうだね……」

 

 

 そして、それから1時間ほど普通に偵察をして俺達は解散した。

 ……だが、帰り際に桔梗ちゃんからこんな事を耳打ちされた。

 

「ツナ君。君の事は信じてるし頼りにしてる。でもね? そんなツナ君だからこそ言えない事だってあるんだよ? 今日まで一緒に過ごしてきて分かったんだけど、私の願いはツナ君には叶えられないし、言えない。人一倍他人を大事にする、ツナ君にはね」

 

 そう言われた俺は、何かを言ってあげることもできずに、去っていく桔梗ちゃんを見送ることしかできなかった。

 

 桔梗ちゃん。君はやっぱり何かに悩んでいるんだね? 

 でも俺には悩みの内容は言えないと。

 ……それでも俺は、君の事を助けてあげたいよ……。

 

 

 —— その日の昼 ——

 

 午後は特にする事もなかったので、俺は父さんのトレーニングに励む事にした。

 

「はっ、はっ」

 

 敷地内をランニングしながら、最近始めた体内にある死ぬ気のエネルギーを操作する修行も同時並行で行う。

 

(……全身を巡る生体エネルギーを、死ぬ気の炎エネルギーに変えて下半身に集中させる)

 

 意識を下半身に向けると、なんだか下半身に熱が生まれるような感覚がある。

 

(よし、この熱を足の筋肉に纏わせるイメージで……)

 

 体内で生まれる死ぬ気の炎エネルギーを、足の筋肉に纏わせるようにイメージする。

 

 すると、足が軽くなってもっと早くスムーズに動かせるようになった。

 その効果で走るスピードもアップする。

 

 この前測ってみたら、下半身が死ぬ気状態だと通常時よりも2秒くらい速く走れることが分かった。

 

 普通の死ぬ気モードだともっと早く走れるはずなんだけど、今の段階ではこれが限度といった所だろう。

 

 少しずつスピードを落とし、道の途中で止まる。

 

 そして目を閉じ、意識を全身に集中させる。

 

(全身に死ぬ気の炎を巡らせるイメージで……)

 

 数秒間イメージして、目を開いてみる。

 しかし、さっきまでと全く変化がない。

 

(……まだ、自力で死ぬ気モードにはなれないか)

 

 体育祭の準備が始まってしばらく経った。それと同時に父さんのトレーニングをこなしながら、プールで出来たように体の一部を死ぬ気状態にする練習をしていた。

 

 おかげで体の一部を死ぬ気状態にする事は段々と出来るようになったけど、死ぬ気モードになるのは勝手が違うのか全く出来ていない。

 

 体育祭では、自力で激スーパー死ぬ気モードに突入できればいいなって思うんだけど、この現状では一部だけの死ぬ気状態で戦うしかないかもしれないな。

 

「……いや、最後まで希望を捨てずに努力しよう」

 

 弱気な感情は捨てて、俺は再びランニングを始めるのだった。

 

 

 —— 体育祭1週間前 ——

 

 ついに体育祭まで1週間となった。

 今日が参加表の提出期限なので、体育の授業を1時間使って参加者の最終選定を行う事になった。

 

「……よし。じゃあこれで最終決定でいいね?」

「異議な〜し」

「じゃあ皆、これで最終決定だから自分の参加競技だけは覚えておいてね」

 

 平田君が黒板に記載した内容を、桔梗ちゃんが参加表に清書していった。

 

「よし!」

 

 清書し終わった桔梗ちゃんは椅子から立ち上がり、平田君に声をかける。

 

「じゃあ、参加表を茶柱先生に提出してくるね?」

「うん、頼むよ」

 

 桔梗ちゃんは平田君に許可を取り、職員室へと向かった。

 

 

 「……」

 

 そんな桔梗ちゃんの背中を見送っていた俺に、後ろの席の綾小路君が話しかけてきた。

 

「……どうするんだ?」

「……どうもしないよ。今決めた順番と振り分けで全力を尽くすだけ」

「……櫛田、何かしてくるぞ?」

「うん。でも今から対策しても、クラスに混乱が生じるだけだよ」

「……それもそうだな」

 

 そして、綾小路君に言った通りに、俺は残りの1週間を体育祭の練習に全力を注いで過ごしたのだった。

 

 

 

 

 ——その日の昼。櫛田桔梗は特別棟のとある教室にやってきていた。

 

 櫛田が教室に入ると、1人の男子が行儀悪く机の上に座っていた。

 

「……よお、桔梗」

「うん♪ お待たせ、龍園君」

 

 行儀の悪い男子は、Cクラスの龍園翔だった。

 

 櫛田は龍園に近づくと、ポケットから折りたたまれた紙を取り出して手渡した。

 

「……ほら、Dクラスの参加票の写しだよ」

「ああ」

 

 受け取った紙を開き、中身を見る龍園。そしてニヤリと笑った。

 

「いいだろう。取引は成立だ」

「うんっ、ちゃんとあの女を潰してね?」

「まかせろ。叩き潰してやるよ」

 

 ——ガララッ。

「!」

 

 その時、1人の男子が教室に入ってきた。

 そしてその男子は、Aクラスの王小狼だった。

 

(Aクラスの王君? ……いきなり入ってくんなよ)

「よぉ、王。きちんと持ってきたか?」

 

 取引現場を見られたかと不安になる櫛田とは対照的に、龍園は歓迎している様子だ。

 

「ああ。ほら、Aクラスの参加表だ」

「よし、いいだろう」

「!」

 

 自分の他にも龍園に情報を売る人がいる。その事に櫛田は驚いた。

 

 そして、小狼が手渡した紙を見て龍園が頷いた。

 

「よし。桔梗も王も取引成立だ」

「ああ」

(王君は何を取引したの? ……まぁどうでもいいか)

 

「……じゃあ龍園君。当日はよろしくね♪」

「ああ。安心しろ、必ず鈴音は潰すからよ」

「うんっ、期待してるね♪」

 

 そう言うと、櫛田は特別教室から出ていった。

 

 残される龍園と小狼。

 

「……あいつ、Dクラスの櫛田だろ? 俺の他にも取引してる奴がいるとはな」

「あいつもお前と同じさ。俺のターゲットとお前達のターゲットが一致している。だからお互いに利用し利用されあう。それだけの関係だ」

「……俺は結果がついてくれば何でもいいさ。ただ、必ず沢田を潰せよ?」

「分かってる。あんまりしつこいと女にモテないぜ?」

「……くだらん。低俗な庶民の女に興味はない」

「……そうかよ」

 

 そして、小狼も特別教室から去って行った。

 

 1人になった龍園は、櫛田と小狼から受け取ったAとDの参加票を机の上に広げる。

 

 もう一度内容に目を通し、龍園は黒い笑みを浮かべる。

 

「ようやく準備が整ったぜ。……鈴音、猿のパシリ。体育祭でテメェら潰す。当日が楽しみだな」

 

 そう呟くと、龍園も特別教室から去って行ったのだった……

 



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