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夏休み最後の5日間SS、その②

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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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41 / 77
 4.5巻の話を2話に分けると言いましたが、みんな大好きプール回は次回に持ち越します!

 なぜなら! 
 
 それまでの話で、15,000文字超えを記録してしまったからです✌︎('ω')✌︎

夏休み最後の5日間SS、その②

 

SS④ 堀北さんのSOS

 

 夏休み終盤の夕方、学校から緊急連絡があった。

 

 なんと、トラブルで敷地内全体が断水状態らしい。

 水道が使えない分、混み合う事が予想されるコンビニ等も使用禁止だ。

 ちなみに復旧は最悪明日になるそう。

 

 一応ショッピングモールか学生食堂に行けば、ベットボトルの水は配給してもらえるらしいけど。

 

「……まじか。飲み物とかあったっけ?」 

 

 冷蔵庫のドアを開けてみると、中にはコーラのペットボトルとお茶のペットボトルが一本ずつ入っていた。

 

「よかった。これで明日までは保つだろ」

 

 安心して冷蔵庫の扉を閉めると、リボーンがキッチンでお湯を沸かしている姿が見えた。

 

(あれ? ウチに飲料水は置いてなかったと思うんだけど)

 

 気になったのでリボーンに聞いてみる事にした。

 

「リボーン」

「ん?」

「うちに飲料水なんて置いてなくないか?」

「ああ。これは俺のブレンドコーヒー専用の水だ」

「専用?」

「そうだぞ。俺のスペースにこの水を備蓄してあるんだ」

 

 コーヒーメーカーの隣に置いたあったペットボトルの水を見せられる。

 そのラベルには、外国の文字が書かれていた。

 

(……イタリア語? 読めないや)

 

「それ、イタリアの水なのか?」

「ああ。イタリアの秘境で取れる湧水なんだ。コーヒーとの相性は抜群だぞ。9代目が毎月俺に箱で送ってくれるんだ」

「へぇ〜」

 

 珍しいのでジロジロとラベルを見ていたら、リボーンがニヤリと笑った。

 

「欲しいならやるぞ?」

「え、いいの?」

「ああ。1万ポイントでな」

「高いな!」

「当たり前だ。高級な湧水だからな」

 

 水に1万はさすがに払う気にはなれないなぁ……

 俺もコーヒーの美味しさがわかる様になれば、1万も惜しくなくなるのだろうか。

 

「……遠慮しとくよ。俺はコーラでいいや」

「そうか。まだまだガキの味覚だな」

「うるさいよ! 赤ん坊のくせに!」

「ふん、ムキになるのも子供の証だ。少しは俺のダンディズムを見習え」

「どこかダンディなんだ、どこが!」

「全体的に決まってんだろ?」

 

 何言ってるんだと言いたげな顔をしているリボーン。

 

 どうせ口喧嘩では勝てないので、ここは撤退にかぎる。

 

「まったく……(プシュッ)」

 

 お口直しに冷蔵庫からコーラを取り出して飲んでいると、学生証端末の着信音が鳴った。

 

 ——プルルルル、プルルルル。

 

(誰だろう? ……あ、堀北さんだ)

 

 着信相手は堀北さんだ。そういえばバカンスから帰ってきてからまだ会ってないけど、どうかしたのだろうか?

 

 ——ピッ。

 

「はい、もしもし?」

「……沢田君、夜にごめんなさい」

「ううん、全然大丈夫だよ。……で、どうかした?」

「……」

 

 少しの間を開けて、堀北さんは用件を話だした。

 

「あの……ちょっとトラブルが起きてしまって」

「トラブル? 何があったの?」

「説明が難しいわ。悪いのだけど……わ、私の部屋まで来てくれないかしら?」

「わかった。すぐに行くよ」

「……ありがとう。鍵は開けておくわ」

 

 電話を切ると、俺はすぐに家を出た。エレベーターに乗り、5階まで降りる。

 

 男子用と女子用のマンションは5階の連絡通路で繋がってる。だから5階から行くのが近道だし、堀北さんの部屋もちょうどいい事に5階だ。

 

 

 —— 堀北さんの部屋 ——

 

 ドアを開き、部屋の中に入る。

 廊下からリビングに行くと、ダイニングの椅子に堀北さんが座っていた。

 なぜか右手にタオルをかけている。

 

「堀北さん、お待たせ」

「……すまないわね、沢田君」

「ううん、いいんだよ……で? 何があったの」

「……そ、それが」

 

 堀北さんは顔を少し赤くして、言い辛そうにしている。

 

「……言いにくい事?」

「そういう訳じゃないのだけど……実は」

「実は?」

「……抜けなくなってしまったのよ」

「……抜けなく? 何が?」

「そ、その……手がよ」

「手?」

「ええ……」

 

 堀北さんは左手で右手に掛けていたタオルを外した。

 

 すると……

 

「……え?」

「……こういう事なのよ」

 

 なんと堀北さんの右手は、赤い小さな水筒にすっぽり突っ込まれていたのだ。

 

「……」

「……」

 

 2人の間に気まずい沈黙が訪れる。

 

「……え〜と、何でそうなったの?」

「水筒を洗っていたのよ。底の方にお茶の葉が張り付いていたから、手で剥がそうとしたのだけど……」

「……抜けなくなってしまったと」

「……ええ」

 

 堀北さんの顔がさらに赤くなる。恥ずかしいのだろう。

 

 俺的には堀北さんも凡ミスするんだなって分かって少し嬉しいんだけど、それを言う必要はない。

 

「……1人で抜けなくて俺を呼んだんだね?」

「ええ。左手で右手を動かない様に抑えるから、沢田君は水筒を引っ張ってほしいの」

「よし、わかったよ」

 

 さっそく堀北さんの隣に行き、右手が嵌っている水筒をがっしりと掴む。

 

「じゃあ引っ張るね?」

「ええ」

「せ〜の! ん〜っ!」

 

 力を込めて引っ張ると、堀北さんの顔が苦痛で歪んだ。

 

「……痛っ」

 

 しかし、水筒はピクリとも動かない、手首の前の一番幅が広い所が釣り針の返しの様になってしまっているのかもしれない。

 

 しばらくひっぱり続けるも、結局水筒を動かす事は出来なかった。

 

「これはもう、石鹸で滑りを良くして抜き取るしかないね」

「……そうね。でも間の悪い事に、今は断水中よ」

 

 そういえばそうだった。うっかり忘れてしまっていた。

 

「あ、そうだったぁ……この部屋に飲料水とかは?」

「ないわ。飲み物も切らしているのよ」

「そっかぁ……じゃあどうしよう」

「食堂かショッピングモールに水を取りに行くのは避けたいわ」

「ああ、まぁそうだよね」

 

 今の自分を誰かに見られたくないんだろうな。

 俺に助けを求めたのも、きっと苦渋の決断だっただろうし。

 

(ん〜ならどうするか。俺が1人で水を貰いに……あ!)

 

 その時、ふいに先程のリボーンとの会話を思い出した。

 

(そういえば、リボーンが水の備蓄をしているって言ってたな。それを1本もらってくればいいんだ)

 

 問題は1本1万ポイントする所だけど、堀北さんをこのままにする事もできないしな。

 

 これは必要経費だと割り切るしかない。

 

「堀北さん、俺の部屋に水のペットボトルがあったのを思い出したよ。今から取ってくるからちょっと待ってて?」

「いいの? ありがとう」

 

 そして、俺は一度部屋に戻り、リボーンから湧水を1本譲ってもらった。

 

 何に使うのかと聞かれて『相棒がピンチだから』と答えたら、なぜか『今回だけ特別に無料でいい。持って行け』と言われて水をもらえた。

 

 急いで部屋に戻り、堀北さんと共にキッチンに向かう。

 

「よし、じゃあチョロっと水を入れて〜、洗剤を垂らすと」

「……動かしてみるわね」

 

 洗剤のおかげで滑りが良くなっているから、少しずつではあるが確実に堀北さんの手が抜け始める。

 

 2分もすれば完全に水筒から手を抜くことができた。

 

「はぁ……助かったわ沢田君。まさかこんな事になるとは思わなかったけど、これから気を付ける様にする」

「あはは、気にしなくていいよ。パートナーは助け合ってこそでしょ」

「……」

「? 堀北さん?」

 

 パートナーという言葉に反応したのか、堀北さんの顔が暗くなってしまった。

 

「……私、沢田君のパートナーって言えるのかしら」

「え? 何で?」

「だって、私はバカンス中に貴方に大した協力は出来ていないもの。好成績が収められたのは、ほとんど沢田君と綾小路君の力だったわ」

 

 帰りの船旅でも元気なかったけど……その事を考えていたのかな。全然気にする必要なんてないのに。

 

「別に気にする必要ないよ?」

「私が気にするのよ。パートナーである以上役立たずなんて嫌だわ」

 

 堀北さんの事を役立たずだなんて思う訳ないのに……

 

「無人島試験では俺の作戦に協力してくれたし、干支試験でも頑張ってくれてたんでしょ? それだけで十分役に立ってくれてるよ」

「……」

 

 まだ納得いっていなさそうな顔だ。ここは俺の本心を伝えるべきだな。

 

「俺さ、堀北さんがいるから頑張れるんだよ?」

「……は? い、いきなり何を言うの!」

 

 なぜか焦った様にそう言う堀北さん。

 顔が若干赤いのは気のせいだろうか。

 

「堀北さんがパートナーとして一緒にAクラスを目指してくれているから、俺は頑張れるんだよ」

「っ……」

「俺は感情的になりやすいからさ、堀北さんみたいに冷静に周りを見てくれる人がいると安心なんだよ」

「……それは綾小路君も同じよ」

「ううん、違うよ! 綾小路君も大事な仲間だし、冷静なんだけど、ん〜。堀北さんの方が安心感があるっていうのかなぁ」

 

 安心感という言葉に、堀北さんが不思議そうな顔をする。

 

「安心感?」

「うん。同じ熱量で同じ目標を持ってくれてる人だって感じるからかな、俺は1人じゃないって思えるんだよね」

「……」

 

 これは俺の本心からの言葉だ。

 

『カッコつけんなツナ、お前はヒーロになんてなれねー男なんだぞ。皆を過去に返すとか、敵を倒す為に修行に耐えるとか、そんなカッコつけた理屈はお前らしくねーんだ。あの時の気持ちはもっとシンプルだったはずだぞ』

 

 昔、未来で初めてリングに死ぬ気の炎を灯した時にリボーンに言われた言葉。

 それは今でも覚えているくらい、俺の中で大切なモノになっている。

 

 俺はヒーローにはなれないし、ヒーローの様なカッコいい行動も出来ない。だけど、誰かの為になら力を発揮する事はできるんだ。

 

「熱量は多いんだけど冷静沈着で、そんな君がいるって分かってるから、俺も堂々と行動していけるんだよ」

「……」

「それにさ、俺がクラスの役に立ててるとしても、元を正せば堀北さんが一緒にAクラスを目指そうって言ってくれたからだし。それだけでも相当助かってるよ」

「……沢田君」

「だからさ、そんな事気にしないでよ。俺達はパートナーじゃないか。2人で同じ目標を目指して頑張ってるんだし、どちらの方が役に立ったとか関係ないよ」

「……そうね。ごめんなさい、自分に嫌気が差して悩んでいたのかもしれないわ」

「ははは、まぁ悩むのは学生の特権って言うし、それがいい方向に向かうならいいと思うよ。でも、今回のバカンスでの自分を蔑む必要はないからね」

「……ありがとう」

 

 俺の気持ちが伝わったのか、堀北さんは微笑んでくれた。

 

 その後、俺が水の残りでシンクに残った洗剤を流していると、ふいに堀北さんが質問をしてきた。

 

「……そういえば、どうして洗剤を使えば手が抜けるって分かったの?」

「え? ああ、小さい頃に俺もやった事があってさ。その時に、母さんが同じ方法で手を引き抜いてくれたのを覚えてたんだよ」

「そう……ちなみに、どうして水筒に手が嵌まったの?」

「その時に持ってた水筒が、当時に流行ってたロボットアニメのやつでさ。形が主人公のロボットの腕に似ているから、ロボットパンチごっこをしようとして、手を入れちゃったんだと思う」

 

 昔話をしながら当時の事を思い出す。

 あの時は俺大泣きしたんだっけ……

 

「男の子って感じの理由ね」

「はは、そうだよね。でも懐かしいな〜。こうやって水筒に手を入れてさ、ロケットパーンチってやってたなぁ〜」

 

 懐かしさに思わず堀北さんの水筒に手を入れてしまった俺。

 

 しかし、すぐにその事を後悔する事になる……

 

(はは、ふざけすぎかな。この辺にしとこ……あれ?)

 

 水筒から手を抜こうとしたら、抜けなくなっている事に気がついたんだ。

 

(あれ? 指までしか入れてないのになんで!?)

 

 今更遅いけど、よくよく考えれば堀北さんと俺の手の大きさは結構違うから、嵌まってもおかしくなかったね……

 

(くそ、俺も洗剤で引き抜いて……って、もう水がない!?)

 

 シンクの洗剤を洗い流すのに、残りの水を全部使い切ってしまっていた。

 思わず数秒前の自分を恨んでしまう。

 

「沢田君? どうかしたの?」

「あ、あの……」

 

 俺が慌てているのに気づいたのか、堀北さんがシンクを覗き込んできた。

 そして、水筒に嵌まった俺の手に視線が止まる。

 

「……」

「ご、ごめん。懐かしくて思わず手を入れたら抜けなくなっちゃいました……」

「……」

 

 堀北さんは俺の手を見つめたまま動かない。

 

「本当ごめん、新しいのを明日買って返すから!」

「……」

「ほ、堀北さん?」

「……ぷっ」

 

 謝っても無反応なので相当怒っているのかと思っていたら、堀北さんは急に息を吹き出した。

 

「ふ、ふふふふw」

「……堀北さん?」

「ち、ちょっと、な、何をやっているの沢田君っ、ふふふふw」

 

 俺のバカさ加減が面白かったのか、堀北さんは笑ってしまっている。

 

 それから2分程笑い続ける堀北さん。

 やがて落ち着くと、無言のままの俺に声をかけてくる。

 

「ご、ごめんなさいね。堪えきれなかったわ」

「……」

「沢田君? そんなにショックだったのかしら?」

「……ううん、そうじゃなくてさ」

「じゃあ何かしら?」

「……堀北さんが楽しそうに笑う所を初めて見たからさ」

「っ! ///」

 

 堀北さんは、俺の発言にさっきよりも顔を赤くした。

 やっぱり笑っているのを見られるのは恥ずかしいのだろうか。

 

「し、しょうがないじゃない! 貴方が余りにも滑稽だったから、これは貴方のせいでもあるのよ!」

「あ、別に笑ってるのが変だと思ったわけじゃないんだ」

「? じゃあ何?」

「今まで見た事ない堀北さんが見れたから、嬉しいなぁって」

「っ///」

「笑ってる堀北さん、すごい可愛いかったなぁ」 

「っっ/// ……ふんっ!」

「ぐえぇっ!?」

 

 さらに顔を赤くした堀北さんの拳が、鳩尾にクリーンヒットする。

 何か言ってはいけない事を言ってしまったのだろうか?

 

「ううう……なんかごめんなさい」

「……ふ、ふん! 二度とあんな事は口にしない事ね!」

「……はいぃ」

 

 ——ピロン。

 

 痛みに耐えていると、学生証端末からメール受信音が鳴り響いた。

 

『?』

 

 水筒に嵌っていない方の手で学生証端末を操作し、メールを確認する。

 

 TO 沢田綱吉

 

 敷地内の断水が治りました。

 以降は自由に水道を使用可能です。

 また、コンビニの利用も許可します

 

 from 高度育成高等学校

 

「……」

「……」

 

 メールを確認した俺達は無言で目を合わせた。

 

「あはは、断水治ったみたいだねぇ〜」

「……はぁ、沢田君、手を貸しなさい」

「え?」

 

 ため息を吐いた堀北さんは、俺の水筒に嵌った手を掴んで、水道の蛇口を捻った。

 

 連絡通りに水はきちんと出ている。

 

「洗剤を入れるわよ」

「う、うん。ありがとう」

「……」

 

 今度は堀北さんが俺の手を抜く手伝いをしてくれるらしい。

 

 数分後、俺の手は水筒から抜け出す事ができた。

 

「ご、ごめんね? 迷惑かけちゃって」

「……いいのよ」

 

 手拭きタオルで濡れた手を拭きながら、堀北さんは俺に視線を向ける事なくそう言った。

 

 怒っているのかと思ったが、その後に俺の方に振り返った堀北さんは、優しい微笑みを浮かべていた。

 

「……だって、私達はパートナーでしょ?」

「え? うん」

「だったら、助け合って当然じゃない」

「!」 

 

 さっき俺の言ったものと同じようなセリフを言い返されてしまった。

 

 ……そして、なんだかそれが嬉しいと思ったんだ。

 

「うん! そうだね!」

 

 その後、少し世間話をしてから堀北さんの部屋を出た。

 

(堀北さんとの距離が縮まったみたいで良かったなぁ。 よおし! 二学期からも一緒に頑張ろうね、堀北さん!)

 

 

 

SS⑤ 男、山内! 告白大作戦!

 

 

 —— 山内side ——

 

 俺の名前は山内春樹。

 

 ジョーコファミリー2代目ボス候補、小狼様直属の配下だ。

 

 バカンスでは散々な目にあった。沢田を殺したと思ってたのに、なぜか生きているし、王ちゃんが優待者だって嘘つきやがったせいで小狼様のPPが減っちまうし、もう踏んだり蹴ったりだよ!

 

 なんとか小狼様に切られる事は防げたが、俺の信頼は地に落ちたと言っていいだろう。

 

 だから、まずは小狼様の信頼回復が第一なわけだ。

 その為には……次に狙う時の為に、沢田との関係を修復しておくのが一番だろう!

 

 沢田は仲間とか友達に甘ぇし、助けを求めるフリをしとけば簡単に許してくれると思うしな。

 

 と、言うわけで、夏休み終盤のとある夕方に、俺は沢田を校舎裏に呼び出したんだ!

 

 

 

 —— 校舎裏 ——

 

 校舎裏に来てくれとメールをしてから5分後。

 沢田が現れた。

 

「……沢田、来てくれたんだな」

「うん、山内君と話もしたかったしね」

「そうか……」

 

 見た感じ、沢田に怒っている様子はない。

 

 きっと、俺も家族を人質に取られていて、無理やり小狼様の奴隷をさせられてるとでも思ってるんだろうぜ。

 

(よし、なら作戦成功間違いなし! 見てろよ? 俺のアカデ○ー賞モノの演技を!)

 

 まず、俺は沢田の前で跪き、大声で謝りながら土下座する。

 

「すまなかったぁ! 沢田、本当に悪かったぁ〜!」

 

 大声だったからか、沢田は周囲を気にしてアタフタする。

 

「や、山内君、土下座なんて止めてよ!」

「いや、俺の気がすまねぇ。許してくれ沢田、この通りだぁ〜!」

「山内君、いいから止めて?」

「本当は嫌だったんダァ! でも家族を人質に取られてて、仕方なくて……本当に申し訳なかったぁ〜!」

 

 沢田が何を言っても、怒涛の勢いで謝罪をしまくる。これ、ポイントな?

 

 その効果は抜群な様で、沢田は可哀想な人を見る目で俺を見ていた。

 

 俺、俳優の才能があるみたいだわ笑

 

「……わかったよ山内君。君を信じるよ」

「! ほ、本当か?」

「うん。君が望むなら、君の事もジョーコから守るよ」

「! 助かる! 本当にサンキューな!」

 

 やったぜ! 

 もし何かあっても、小狼様やジョーコから沢田が守ってくれるってよ!

 最悪、沢田に取り入ってボンゴレに入れてもらうのもアリじゃね?

 

(……まぁ第一目標はジョーコに入る事だから、それは最終手段だな)

 

 よし、これで本日のイベントの一つは達成だ!

 後はメインイベントを残すのみ…… 

 

 予定通り、沢田にも本日のメインイベントの手伝いをしてもらうぜ?

 

 友達との恋バナとか、仲良くなる絶好のイベントだし、お人好しの沢田は断ったりはしねぇだろうしな!

 

 

 —— ツナside ——

 

 ……。

 

 よくあんなにスラスラと嘘が出てくるなぁ。

 

 小狼君に協力して自分もジョーコに入れてもらおうとしてる事も、まだ俺を殺す事を諦めていない事にも気づいてるんだけどなぁ。

 

 まぁ、山内君の動向を知っとく為にも彼との交友は続けようと思っていたから、あっちから接近してくれた事は大歓迎なんだけど。

 

 友達を続けていく内に、もしかしたら心変わりをしてくれるかもしれないしね。

 

「沢田! 仲直りの印に頼みたい事があるんだ!」

「え? 頼みたい事?」

 

(仲直りの印に頼みたい事ってなんだ?)

 

「実はな……」

「うん」

 

 えらく勿体つける山内君。

 

 数秒後、意を決したのか、なぜか少し顔を赤くして話始めた。

 

「俺の告白を、手伝ってくれぇ!」

「……はい?」

 

 何かと思ったら、告白の手伝い?

 それ、仲直りの印に頼む事じゃなくない?

 

「……本気?」

「超本気!」

 

 俺を見る山内君の目は爛々と輝いている。

 

 どうやら本気らしい。

 ここは今後の為にも協力した方がいいかもしれないぞ。

 

「……わかった。でも、誰に告白するの?」

「佐倉だ!」

「え!」

 

 意外な答えが飛び出した。山内君は桔梗ちゃんを狙っていると思ってたんだけどな。

 

「桔梗ちゃんかと思ってたよ」

「櫛田ちゃんはハードルが高すぎるから諦めた!」

「そ、そっか」

 

 桔梗ちゃんの事は、なんとも悲しい理由で諦めていたらしい。

 

 でも、山内君と佐倉さんって接点あったっけ?

 

「いつから佐倉さんを?」

「バカンスに行ってからだな! 無人島試験の時に一緒に行動する事があってさ、その時にピンッと来たわけよ!」

「ピンと来た?」

「おう! 『こいつ、俺の事いいなって思ってるんじゃねぇ?』……ってな!」

 

 一目惚れ……ってわけでもないのか?

 

 というか、山内君は本当に佐倉さんを好きなのか?

 今の言い方だと、山内君の妄想による暴走だと思ってしまう。

 

「……で、佐倉さんと付き合いたいの?」

「? 好きなんだから当然だろ? それでよ、俺は二学期から薔薇色の高校生活を送るのさ!」

 

 好きという気持ちはあるらしい。

 

 適当に佐倉さんを選んでいるなら止める所だけど、本気で好きだから付き合いたいなら、俺が止めていいもんじゃないか。

 

「わかったよ。で。俺は何をすればいいの?」

「おう、佐倉にラブレターを渡して欲しいんだ!」

「え? それは自分で渡した方がいいんじゃ?」

「無理無理、俺の心臓が保たねぇよ」

 

 自分の事をいいと思ってくれてる、って確信してるんじゃないのか?

 

 まぁ俺も死ぬ気状態にならないと告白できなかったから、怖いのはよく分かるんだけども。

 

「ん〜、わかったよ。で、そのラブレターはもう書いたの?」

「もちろんだ!」

 

 山内君はそう言うと、ブレザーの内ポケットから一枚の便箋を取り出した。

 表面には『佐倉へ』と書かれている。

 

「本当は一昨日に書き終わってたんだけどな。昨日綾小路に書き直しを命じられてよ。今日の午前中で書き直しをしたんだ」

「綾小路君? なんで綾小路君が出てくるの?」

 

 いきなり出てきた、綾小路君の名前。

 綾小路君もこの件に一枚噛んでるのか?

 

「実はさ、本当は昨日告白するつもりでよ。でも俺、ラブレターなんて書くの初めてだったから、告白前に綾小路にラブレターの内容を見てもらったんだよ」

 

 なるほど。綾小路君も山内君の告白に協力を頼まれたみたいだね。

 

「それで直した方がいいって?」

「そうなんだよ。で、告白は今日になったのさ」

 

 へ〜、今日告白するのか。

 山内君の行動力には少し驚かされる。でもそれなら、面と向かっての告白だってできそうな気もするんだけどな。

 

 さすがにそれは恥ずかしいのだろうか。

 

「ちなみに、どこで告白するの?」

「ここだ! しかも、そろそろ佐倉がここに来る予定なんだ!」

「え!? 今からなの!?」

「おう! 頼むぜ沢田! せっかく櫛田ちゃんにお願いして呼び出してもらったんだからよ!」

 

 俺を呼び出す時間のすぐ後に告白するなんて。

 もしかして、最初から俺に協力させる気だったのか?

 

 思わずジト目で山内君を見ていると、急に山内君は俺の背後に向かって手を振り始めた。

 

「……お、来たな。お〜い、こっちだぜ!」

「え? 誰が……あ、綾小路君!」

 

 後ろに振り返ってみると、綾小路君がこっちに向かって来ているのが見えた。

 

 そして、俺達の前まで来た綾小路君は、俺と山内君を交互に見回した。

 

「……仲直りはできたのか?」

「おう! バッチリだぜ!」

「そうか……で、協力も取り付けたんだろうな」

「おお。今引き受けてくれたぜ!」

 

 ん? なんで綾小路君が俺が山内君の告白に協力する事になったのを知っているんだ?

 

 そんな俺の疑問に、綾小路君が答えてくれた。

 

「すまんな沢田。俺は告白した経験もラブレターを渡した経験もないんでな。経験者のお前の力を頼る事にしたんだ」

「え? じゃあまさか、山内君が俺にも手伝いを頼んだのは?」

「今日、山内がお前に謝罪するって聞いたからな。そのついでにお前にも協力者になってもらう事にしたんだ」

「……まじか」

 

 なんと。俺が協力する事になったのは、まさかの綾小路君の発案だったらしい。

 

 思わず小声で綾小路君に文句を言ってしまう俺。

 

(なんで俺なの!?)

(だって、お前告白経験あるだろ?)

(あるけど、ラブレターを渡した経験はないし!)

(いやぁ……悪いな。俺だけじゃ荷が重いから手伝ってくれよ。友達だろ?)

(……そういう事言うなら、普段から友達って認めてよ!)

(……無理だわ)

(なんで!?)

 

 そんなやり取りをしていると、山内君が急に焦り出した。

 

「あ! 佐倉だ! こっちに歩いてきてる!」

「え?」

 

 山内君の視線を追うと、確かに佐倉さんがこっちに向かっている姿が見えた。

 

「本当だ、佐倉さん来たね」

「じ、じゃあ俺は隠れてっから! 後は頼んだぜ!」

「えっ!」

 

 ラブレターを俺に押し付けると、山内君はどこかに走り去ってしまった。

 

「……」

「……」

 

 取り残された俺達2人。少しの沈黙の後、綾小路君は俺に頭を下げた。

 

「……すまん」

「……もういいよ。俺達は友達だしね」

 

 さっきの仕返しとばかりに笑顔でそう言ってみると、綾小路君はフッと口を緩めた。

 

「……いや、友達ではないな」

「だから何で!?」

 

 思わず大きな声でツッコんでしまった。すると、佐倉さんが俺達に気づいた様で小走りでこっちに向かってきた。

 

「はぁ、はぁ……。さ、沢田君、綾小路君。お、お待たせ」

「いや、待ち合わせ時間より早いぞ。気にするな」

「ぜ、全然待ってないよ?」

「はぁ、はぁ……そ、そっか」

 

 小走りで来たせいか、佐倉さんは少し息切れを起こしていた。

 

 ゆっくりと呼吸を整え、落ち着いた所で佐倉さんは本題に入った。

 

「あ、あの。それで、何の用があったのかな。櫛田さんからは、2人に私を呼び出して欲しいって頼まれた、って聞いてるんだけど……」

「……わざわざすまないな。用件については沢田から説明するから」

「えっ!?」

 

 急に俺任せになった綾小路君。

 視線で抗議しても、表情一つ変えずに佐倉さんに視線を固定しているから反応がない。

 

「……さ、沢田君? どうかしたの?」

 

 佐倉さんは少しモジモジしながら俺の返答を待っている。

 

(ど、どうしよう。とりあえず、頼まれたのはラブレターを佐倉さんに渡す事だし、その為に呼びだした事にするのがいいよね)

 

「よ、呼び出してごめんね? 佐倉さんに渡したいものがあってさ」

「渡したいもの? それなら直接言ってくれればよかったのに……」

「! あ〜……その〜、少し恥ずかしかったと言いますか?」

「? 恥ずかしかった?」

「そ、そうなんだよ。あの、これを受け取って欲しいんだ」

 

 山内君から託された、佐倉さん宛ての便箋を手渡す。

 

 人の告白を手伝うなんて初めてだから、自分の事の様に緊張してしまって、声も便箋を持つ手も震えてしまっている気がする。

 

 佐倉さんは便箋を受け取ると、しげしげと見つめた。

 

「……便箋、お手紙ってこと?」

「う、うん」

「……何のお手紙なの?」

「えっ!? そ、それは……さ、佐倉さんへのラブレターだよ!」

「へぇ。……って! ええ!? ら、ラブレター!?」

 

 佐倉さんの顔が急激に真っ赤に染まる。

 

「ほ、本当に、わ、私宛の///……ら、ラブレター?」

 

 すごくドキドキしてそうな佐倉さんの様子に、なぜか俺もドキドキしてしまう。

 

「そ、そうさ! 君へのラブレターさ!」

「わ、あわわわわわ///」

 

 もう倒れるんじゃないかと思うほどフラフラしている佐倉さん。

 

 大丈夫かなと思いながら見つめていたら、急に佐倉さんは俺にぐいっと迫ってきた。

 

「ほ、堀北さんとか! 櫛田さんとか! 怒ったりしないかなっ!?」

「えっ!? べ、別に怒らないと思うよ!?」

「そ、そうかなっ!?」

「う、うん! 大丈夫だよ!」

 

 今まで見た事ないテンションの佐倉さんにあてられて、俺もテンションが変に上がっている気がする。

 

「じ、じゃあ! 読ませてもらうねっ!?」

「う、うん! ドンと来い!」

「……ちょっと待て佐倉」

「えっ!?」

「……沢田も落ち着け。雰囲気に乗せられすぎだ」

「えっ!?」

 

 急に俺達の間に入り込んでくる綾小路君。そして、落ち着くようにと一旦距離を取らされた。

 

 距離を取った後、綾小路君は佐倉に声をかけた。

 

「佐倉、一回落ち着け、テンションが上がって変になってるぞ」

「え!? ……あ、ごめんなさい! つい!」

「落ち着いてくれればいいさ」

 

 佐倉さんと何か会話した後、綾小路君は俺にも声をかけてきた。

 

「沢田。佐倉のテンションにあてられて、お前も当事者みたいになってるぞ」

「えっ!?」

「あくまでこれは山内の告白だ。俺達はそのお手伝いでしかないんだぞ」

「……そ、そうだよね」

「……落ち着いたか?」

「う、うん、ありがとう」

 

 綾小路君のおかげで、上がりすぎた俺達のテンションは通常に戻った。

 

 距離を元に戻し、改めて本題に移ろう。今度は綾小路君がやってくれるようだ。

 

「さて……まず佐倉、お前を呼び出したのはラブレターを渡す為なんだ。ここまではいいな?」

「う、うん」

「よし。それでだ。ここを勘違いしてると思うんだが、そのラブレターを書いたのは沢田じゃない」

「う、うん……えっ?」

 

 キョトンとした顔になる佐倉さん。

 

「えっ? 沢田君からのラブレターじゃないの?」

 

 なんと、佐倉さんは俺からのラブレターだと思っていた様だ。

 

 それなら納得だ。目の前にいる男子からラブレターを渡されたら、びっくりして当然だもん。

 

「ああ。もちろん俺でもない。俺達はその手紙の送り主に、お前に渡す様に頼まれただけだ」

「っ! そ、そっか。そうだよね。はぁ……で、でもこれどうしよう!?」

「簡単だ。読んで答えを聞かせてやればいい」  

「えぇ! 無理無理! そんなの無理だよ……」

 

 佐倉さんを見ていると、告白ってする側よりされる側の方が緊張するんだろうなぁと思う。

 

(……だとすると、二回とも冗談だって思ってくれたのは、純粋に京子ちゃんの優しさだったんだろうなぁ)

 

 昔の記憶を掘り起こして、少しブルーな気持ちになってしまった。

 

 まぁ俺の黒歴史は置いといて、悩んでいる佐倉さんの力に少しでもなりたいから、俺も話に加わる事にした。

 

「佐倉さん、今まで告白されたことはないの?」

「ないよぉ!」  

 

 即答する佐倉さん。

 でも、告白されるのが初めてなのは意外だよなぁ。

 

「そんなに可愛いのに? てっきり沢山告白されてるのかと……」  

「かっ! 可愛い!? ///」

「うん。佐倉さん可愛いから意外だなって」

「うう/// ううう〜///」

「……沢田、お前は少し黙ってろ」

「え? なんで?」

 

 思った事を言っただけなのに、綾小路君から口出し禁止令を出されてしまった。

 

 そして、佐倉さんは困った表情をしながら、俺達にこんな頼み事をしてきた。

 

「あの、手紙を……一緒に見てくれないかな……」  

「……それはダメだろう」

「な、なんで?」

「送り主に悪いからな。佐倉、思うところは色々あるとは思うが、送り主の為にもラブレターは1人で読んでくれないか?」

 

 これに関しては綾小路君の意見に大賛成だ。

 告白するのにどれくらい勇気がいるのかは、俺もよく分かるからな。

 

 綾小路君の言い分を理解してくれたみたいだが、やっぱり誰からか分からない手紙を読むのは怖いのだろうか。

 

 佐倉さんの手は震えている。そんな佐倉さんを元気付けようとしたのか、綾小路君がフォローを入れてくれた。

 

「なぁ。好きな人からって可能性もあるぞ」

「その可能性はもうないもん……」

「え?」

「あ、何でもない! わ、私は好きな人とかいないから! とにかく読んでみるね!」  

 

 そして佐倉さんは、俯いた状態でマンションへと戻って行った。

 

「……」

「……」

 

 佐倉さんがいなくなり、俺はさっきの佐倉さんの反応について考えを巡らせていた。

 

(綾小路君の好きな人かもしれないという励ましに、佐倉さんはその可能性はもうないと言った。その発言を綾小路君が聞き返したら、慌ててごまかしていたよな。……! こ、これはつまり!?)

 

 俺は今、友達の片思いに気づいてしまった様だ。

 

(そうか……佐倉さんは綾小路君の事が好きだったのか!)

 

 好きな人はいないっていうのは、恥ずかしいから誤魔化したんだろうな。

 

 うん。綾小路君ってクールでかっこいいし、頼りになるしね。佐倉さんが好きになるのも当然っちゃ当然だな。

 

 あ、でも、そうなると……山内君の恋は実らない事になっちゃうな。

 

 ……ごめん山内君。俺は佐倉さんの気持ちが優先だと思うんだ。

 だから、俺は佐倉さんの恋を応援しようと思う!

 

「……沢田? どうかしたか?」

「えっ?」

 

 1人で考え事をしていたら、綾小路君が俺の顔を覗き込んでいる事に気付いた。

 

「あ、ごめん。山内君の恋の行方が心配で」

「……まぁそうだな。俺達で慰めてやるしかないだろ」

「えっ!? 綾小路君も失敗するって思ってるの?」

「ああ、……お前もだろ?」

「うん……」

「……山内は可哀想だが、こればっかりは佐倉の気持ち優先だからな」

「!」

 

 この発言……まるで、佐倉さんには他に好きな人がいるって分かっているみたいだけど……

 

「あ、綾小路君は、佐倉さんの気持ちに気づいているの?」

「ああ。見てれば分かる」

「! そ、そうなんだ。……ど、どうするの?」

「は? どうするって……見守るしかないだろ」

「み、見守る? ……あ、綾小路君って意外に大人なんだね」

「? そうか?」

「うん。気持ちに気づいているのに、敢えて見守るなんて……相当慣れているんだね。憧れてしまうよ」

「……おい、多分壮大な勘違いをしてると思うんだが?」

「いいよいいよ、ちゃんと分かったから」

「絶対分かってないだろ……はぁ、もう早めに忘れてくれ」

 

 そして、山内君に頼み事を完了した俺達はもマンションへと帰ったのだった。

 

 

 ——  翌日 ——

 

 翌日の昼過ぎ、夕方に山内に返事をする事になったらしい佐倉さんから電話があった。

 

「もしもし? ごめんね、急に」

「ううん。全然構わないよ。……夕方に告白の返事をするんだよね」

「うん。そうなんだけど……やっぱり不安で」

「そっか。俺でよければ、いくらでも不安を吐き出してくれていいよ」

「ありがとう。あのね、私は山内くんのこと何も知らない。……それがすごく怖いの」

「うん」

「誰かを好きになったり、嫌いになったり。それって凄く責任が伴うことなんだって気づいたんだ」

 

 ……告白とか、人を好きになるとか。簡単に見えて全然簡単じゃないよなぁ。

 人の気持ちなんてそれぞれの自由だけど、一方通行では相手を傷つけてしまう事もあるしね。

 

 俺は恋愛した事ないから、アドバイスなんて出来ないけど。佐倉さんの背中を押してあげる事ならできるだろうか。

 

「山内くんは何も悪くないのに、勝手にその……嫌だなって思っちゃうし。でも、私なんかを気にしてくれてる事を申し訳ないなって思ったりして……」  

「……うん」

「……ずっと考えてると、どうしたらいいか分からなくなっちゃったんだ」  

 

 そうだろうなぁ。声から混乱してるのが分かるよ。

 

「なんで私がこんな風に悩まなきゃいけないの、……なんて考えちゃうんだ」

 

 そう考えてしまうのも仕方ないだろう。

 気にしてもなかった相手から、いきなり好きと言われても迷惑だもんね。

 

「沢田くんはその……少し踏み込んだ事、聞いてみてもいいかな?」

「もちろん。なんでも答えるよ」

「ありがとう。……じ、じゃあ今、沢田君は誰かと……お、お付き合いとかしてるの?」  

「えっ!? ……う、ううん。彼女いない歴イコール年齢ですぅ」

 

 しまった。やっぱり恋愛経験のない俺に話しても意味ないと思われたのかもしれないな。

 

 しかし、俺の答えに対する佐倉さんの反応は予想とは違うものだった。

 なぜか佐倉さんは嬉しそうだったんだ。

 

「そ、そっかぁ〜! ……じゃあ、告白したりとか、されたりとかは?」  

 

 うっ!

 俺の黒歴史を掘り起こさないといけない質問が来てしまった! 

 

 ……でも、佐倉さんの為だ。答えないといけないよな。

 

 

「同じ人に2回告白した事があるよ。2回とも冗談だと思われたけど……あと、告白された経験はありません」

「! そ、そうなんだっ!」  

「……ううぅ」

「あ! ごめん! 別に馬鹿にしてるわけじゃないの!」

「は、ははは。いいんだよ。気にしないで?」

(あれ? ハルのあれは告白……じゃないよな。うん……そう言う事にしとこ)

 

「……話を聞いてくれてありがとう。大分落ち着けたよ」

「そっか。それならよかった」

 

 佐倉さんの為になったのなら、黒歴史を晒した甲斐があるというものだ。

 

 

「……私、頑張って返事をするね」

「うん。それが山内君の為でもあるよ」

「……あの、16時に体育館裏で待ち合わせなんだけど、沢田君も来てくれるかな」

「え?」

「……返事をする前に、沢田君と会っておきたくて」

「? 分かった。10分前くらいに体育館前で会おうか」

「ありがとう。じゃあまた後で」

 

 こうして、俺も山内君への返事をする現場に向かう事になった。

 

 

 —— 15時50分 ——

 

 約束の時間に体育館前に行くと、佐倉さんはすでに待っていた。

 

「ごめん、待った?」

「あ……ううん。来てくれてありがとう」

「いいんだよ……それで、気持ちの準備は大丈夫?」

「……正直できていないかな」

「そっか」

 

 そう言う佐倉さんの両手が微かに震えている事に気付いた。

 

(……相当不安みたいだなぁ……ん?)

 

 その時。急に雨が降り始めた!

 

「! 雨降ってきたね」

「うん、一旦屋根のあるところに行こう!」

 

 俺達は体育館の正面入り口に避難した。

 

 すぐに避難したのに、勢いが強かったせいか結構服が濡れてしまっている。

 いや、よく見ると髪までびっしょりと濡れているみたいだ。

 

「佐倉さん、大丈夫?」

「私は平気だよ。それより沢田くんは?」

「俺も平気」  

 

 屋根のない部分を見ると、雨がどんどんと強くなっているのがわかった。

 

 どういたものかと雨を見つめていると、佐倉さんがハンカチを俺に手渡してきた。

 

「沢田君、よかったら使って」

「俺はいいよ、汚れちゃうし。それより自分で使って。風邪引いちゃうからさ」  

 

 女の子のハンカチを汚すわけにはいかないので断ったのだが、佐倉さんは背伸びして、俺の髪についた水滴を払ってくれた。

 

「佐倉さん、自分を拭く部分がなくなっちゃうよ?」

「いいの。私って意外と頑丈なんだよ」  

 

 結局、俺を拭いた事で佐倉さんのハンカチはびしょびしょになってしまった。

 今日ほどハンカチを持っておけば良かったと思った日はないよ。

 

「すぐ止むかなぁ?」

「通り雨だと思うんだけどなぁ」

「そうだといいね」

「うん……というかごめんね? 君をずぶ濡れにしちゃった」

「ううん。大した用事じゃないから」

「!」

 

 大した用事じゃない。と言う事は、佐倉さんの中で答えは固まったと言う事だろう。

 

「私、山内君に自分の口で言えるかな」

「佐倉さんならできるよ。俺が保証する」

「ふふ、ありがとう」

「うん」

 

 笑ってくれた佐倉さん。

 そして、顔を赤らめながらこんな事を聞いてきた。

 

「……あの、近くで見ていてくれる?」

「返事をしてる所を?」

「うん。沢田君にそばにいてほしいし……見ていて欲しいの」

「……分かった。近くで見守るよ」

 

 それから数分後。雨が上がったので俺達は体育館裏に向かった。

 

 すこし離れた場所から佐倉さんを見送ると、佐倉さんは体育館裏に1人で歩いていく。

 

 体育館裏には、すでに山内君が待機していた。

 

 

 

「さ、佐倉! 手紙、読んでくれたんだな?」

「うん……」

 

 山内君を目の前にした佐倉さんは、一度深く深呼吸をする。

 そして、ゆっくりと口を開いた。

 

「ご、ごめんなさい! 私、山内君の気持ちには答えてあげられないです!」

 

 佐倉さんの勇気を振り絞って出した答えに、山内君は少し悲しそうな顔になってしまう。

 

「そっか……返事くれてありがとうな」

「じ、じゃあこれでっ!」  

 

 佐倉さんは山内君に頭を下げると、小走りに体育館裏から去ってしまった。

 

 ……これで、山内君の恋と、佐倉さんの勇気を出した大舞台は幕を閉じた。

 

 一部始終を見ていた俺は、佐倉さんへとメールを送る事にした。

 

 TO 佐倉さん

 

 お疲れ様。

 佐倉さんの勇気を振り絞っている姿、ちゃんと見ていたからね。

 山内君の為にも頑張ってくれてありがとう!

 

 メールを送信後、すぐに返事が帰ってきた、

 

 TO 沢田君

 

 見ていてくれてありがとう。

 ちゃんと自分で言えたのは、沢田君のおかげだよ。

 私に勇気をくれて、本当にありがとう。

 

 

「……本当にお疲れ様、佐倉さん。……ん?」

 

 佐倉さんからのメールには画像が添付されていた。

 

「あ、この写真。最後に取ったやつだ」

 

 メールに添付されていたのは……豪華客船で撮った、佐倉さんと俺のツーショットだった。

 



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