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特別試験の全貌〜綾小路side〜

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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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特別試験の全貌〜綾小路side〜

 —— 特別試験終了後、客船内歌劇場 ——

 

 無人島から客席に戻った俺達1年。

 その後は自由時間となったのだが、俺はとある人物に呼び出しを受けている。

 

「……なんですか。1週間前と同じ場所に呼び出して」

「そう言うな。聞きたい事があるから呼んだんだ」

 

 演目をしていない歌劇場の客席、その一席に茶柱先生が座っていた。

 俺を呼び出したのもこの人だ。

 

「……」

「……まぁ、座れ」

 

 茶柱先生と1つ分開けて俺も席についた。そして、俺が座ると同時に茶柱先生は話を始めた。

 

「……綾小路。なぜ沢田に勝負を挑んだ?」

「……それ、理由を言う必要があるんですか?」

 

 俺が答えるのを渋ると、茶柱先生はいつもの様に冷めた笑いを浮かべる。

 

「当然だろう。無人島試験の前夜にも私はお前をここに呼び出したよな」

「はぁ……そうですね」

「その時……私はお前に言ったはずだ。あ・の・場・所・と・離・れ・た・い・の・な・ら・、・沢・田・を・頼・れ・、と」

「……言ってましたね」

 

 そう答える俺の事を茶柱先生は睨んできた。

 ……生徒に向ける目じゃないだろ、それ。

 

「なら、なぜ沢田に勝負を挑んだんだ」

「……勝ちたかったからですよ」

「話が繋がらないぞ? 私は沢田を頼れと言ったのに、なぜ勝負を挑んだのかと聞いているんだ」

 

 ……。この先生、何が目的なんだ?

 

「……沢田に、そんな事ができるとは思えなかったからです」

「ほう……ならば重ねて聞こう、なぜできないと思うんだ?」

「沢田は確かに優れた何かを持っています。だが、あの場所においては沢田の考えは通用しない」

「……その根拠は?」

「根拠は俺です。沢田と俺では考え方がまるで違う。俺が今ここにいれるのは、教え込まれたあいつの考え方こそがこの世での正解だからだ。だから、沢田ではあの場所をどうこうする事はできない」

「……はぁ」

 

 茶柱先生は小さくため息を吐くと、席から立ち上がった。

 

「……綾小路。お前、沢田と関わった事で変わったようだな」

「……は?」

 

 俺が変わった? 特に変わった事はないが……

 

「入学時点でのお前なら、あの男の考え方が正解とは言わなかったはずだ」

「!」

「……あの場所を離れたのは、お前の父親が導く生き方とは別の生き方を選んでみたかったからだろう?」

「……面白い発想ですね」

 

 否定する俺を余所に、茶柱先生は淡々と話し続ける。

 

「この学校に入学したお前は、Dクラスで沢田綱吉という男に出会った。その男は、お前の生きてきた世界からは考えられない考え方をする男だ。沢田は常に誰かの事を思い、誰かのために自分を犠牲にできる。そんな沢田を隣で見てきたお前はこう思ったんだろう。『なんでこいつはこんな面倒なやり方を選ぶんだ?』とな」

「……」

「だが、それと同時に知りたくなったんじゃないか? 勝つ為なら何でも出来る自分と、勝ちたいけど誰かに被害が及ぶのは許せない沢田。互いが別のやり方で同じゴールに向かっている時、2人の周りで何が起きるのか。だから勝負を挑んだんだ」

 

 ……この先生、意外に生徒のことをよく見てるんだな。

 だが、詮索されるのはごめんだ。

 

 俺は無言で席を立ち上がり、歌劇場の外に向かった。

 離れて行く俺に、茶柱先生が声をかけてきた。俺も思わず立ち止まってしまう。

 

「……綾小路。これから先、お前はどうするんだ?」

 

 その質問に、俺は肩を竦めて答える。

 

「……さぁ。とりあえず勝負には負けたので、沢田のサポートには戻りますよ」

「そうか……」

「……じゃあ、俺は部屋に戻りますよ」

 

 今度こそ出て行こうとすると、またも呼び止められてしまった。

 

「……待て、もう一つ言っておきたい事がある」

「……なんですか?」

 

 俺が聞き返すと、茶柱先生は少しだけ悲しそうな顔になった。

 

「……沢田もな。あいつなりに重たいものを抱えているんだよ」

「……沢田が?」

「ああ。それなのにあんなに笑顔で生きていけるんだ。私は心の底から、沢田の事をすごいと思うよ」

「……随分と沢田に肩入れしているんですね」

「ふっ、そうかもな」

 

 苦笑しながら肯定する茶柱先生だが、落ち着くと真剣な顔で俺を見つめてきた。

 

「ただ……だからこそお前には沢田が、沢田にはお前の力が必要だと思っている」

「……先生は、俺達が力を合わせる事を望んでいるんですか?」

「そうだな。そうなって欲しいと願っている」

「……無理だと思いますけどね」

「……だが、沢田と協力しないのなら、お前がDクラスを押し上げないといけないぞ? お前がここにいたいのならな」

「……考えときますよ」

 

 そう言って、今度こそ俺は歌劇場を後にした……

 

 

 —— 客船、デッキ ——

 

 歌劇場を後にした俺は、少し風に当たる為に客船のデッキへとやってきた。

 

(ここにいたいならAクラスを目指せ、か…… ん?)

 

 さっきのやり取りについて考えていると、デッキの手すりの所に誰かが立っている事に気がついた。

 

「……沢田」

「……綾小路君」

 

 そう、そこにいたのは沢田だった。

 沢田は、俺に気がつくとこちらに近寄ってきた。

 

「……俺を探してたのか?」

「うん。勝負の決着をつけようと思って」

「そうか」

 

 俺達はデッキの上の階にあるテラスに移動し、向かい合って席に座った。

 

 沢田を見据えながら、俺は自分のやった事を話し始めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 —— 特別試験、綾小路視点 ——

 

 初日、後にAクラスの拠点になる洞窟で葛城と戸塚を見た。

 その時、Aクラスのリーダーは戸塚だと確信した。

 

 今回の無人島試験は『攻めと守りの試験』。

 試験を構成する2つの部分。それはポイントを節約し、1週間クラスメイト全員で乗り切れるかどうかを測る守りの部分と、他クラスのリーダーをいかに把握するか。それを測られる攻めの部分。

 

 守りの部分では、各クラスそこまでの差は生まれない。勝つ為には攻めの部分が重要だ。

 Cクラスの龍園もそれを分かっていたんだろう。

 

 他クラスにやる気なしと判断させて、裏では虎視淡々と勝利に向けて動いている。

 

 俺が最初に動いたのは2日目の朝。

 伊吹がスパイであると睨んだ俺は奴のナップザックを調べた。

 

 そこでデジカメを見つけて、これでカードキーを撮影するつもりなんだと思った。

 で、龍園に見せるだけなら写真を撮る必要はない。つまり写真を残す必要があると言う事だ。

 写真が必要な理由は分からないが、念のために水をかけてデジカメは壊しておく事にした。

 

 なぜ写真を残すのか。その理由を知る為に、俺は他クラスの偵察に出る沢田達について行く事にした。

 

 姉妹校の獄寺に監視されてる感じもあったし、沢田の動きを見ておきたいのも理由の一つだ。

 

 そして、その偵察で分かったのは龍園は無線機を持っていると言う事と、BクラスにもCクラスの奴が1人混じっているという事。

 

 つまり、龍園の狙っているのはBとDクラスのリーダー。Aクラスのリーダーは知る必要がない、もしくはすでに知っているかのどっちかだ。

 

 現時点で、俺が把握しているのはAクラスのリーダーだけ。

 だが、Bクラスとは協力関係を取り付けたから実質残った敵はCクラスのみ。

 

 そこで俺はCクラスだけに目標を絞る事にした。

 

 3日目、体調不良の堀北をリタイアさせてリーダーを変える作戦を考えついた。

 

 後は沢田に勝つ方法を考えないといけない。沢田も同じ結論に辿り着くのは間違い無いはずだ。

 だとすれば、沢田に勝つ為には沢田よりも早く作戦を遂行しつつ、沢田の行動を封じる事が大切だ。

 

 沢田の足止め方法はすぐに思いついた。

 クラスメイトの誰かを危険な目に合わせれば、沢田の性格上放っておくことなどできないはず。

 

 そして、肝心の足止め方法を考える為に俺は森の中を隅々と調べ始めた。その結果森の最深部にある崖を見つけた。

 崖下には小さい砂浜。そして崖壁には浅瀬に生息する貝がくっついている。

 

 その事から分かるのは、ここは干潮になると砂浜が現れるが満潮になると完全に海に沈むという事。

 そして位置的に、砂浜に落ちたとすれば抜け出す為には崖を登るか反対方向の浜辺に泳いでいくしか無い。

 

 これはいい足止めになると思った。

 干潮の時に誰かを砂浜に落とし、それを沢田に告げれば確実に沢田は助けに向かうだろう。

 

 しかし、崖の深さはだいたい15mもある。普通に落とせば確実に死んでしまう。

 

(……死なれてしまうのは困るな)

 

 崖から離れて森の中を歩きながら、どうやって安全に砂浜に人間を下ろすか。その方法を考えていた。

 

 そしてその時。俺は潜伏している龍園に出会ったんだ……

 

 

 —— 特別試験3日目。午後、森の最深部 ——

 

「……龍園」

「……ちっ。さすがにうろつきすぎたか」

 

 俺に気づいた龍園は、舌打ちをすると潜んでいた茂みから出てきた。

 そして俺に近づきながら拳を鳴らしている。

 

「……おい腰巾着。俺の姿を見られたからには、リタイアするしか道はないぜ?」

「……殴る気か?」

「ああ、痛い思いをしたく無いなら早めに気絶した方がいいぞ」

 

 どうやら龍園は俺を気絶させてリタイアさせるつもりのようだ。

 俺はこの状況を回避しつつ、龍園を上手く使う方法を思いついた。

 

「待て龍園。取引をしないか?」

「あ? 取引だ?」

 

 龍園が足を止めた。どうやら話を聞く気があるらしい。

 

「もし俺を見逃してくれるなら、須藤を退学させようとした時にお前の邪魔をした沢田に報復する機会を作るぞ?」

「! ほう、報復か」

 

 龍園はニヤリと笑った。

 思った通り、須藤の事件の結末に不満を残したままの様だ。浜辺での堀北との会話からそうじゃないかと思っていた。

 

「そうだ。後、この試験終了までお前の手伝いをしようじゃないか」

「……わからんな。あのパシリとお前は仲間だろう? なぜ仲間を売る?」

「……少しの間でいいから、沢田をDクラスから引き離したいんだ」

「……ほ〜?」

「とにかく沢田の足止めをしてくれればそれでいい」

 

 龍園は考え込み始めた。

 正直、普通なら怪しい理由の俺の提案を受け入れたりはしないだろうが、今の状況なら可能性はある。

 

 髭が伸び放題で薄汚れたジャージを着た龍園の姿。これは他クラスにバレない様に必死で潜伏している証拠だ。それなのに、わざわざ危険を犯して森で何かを散策していたという事は、危険を犯してでも見つけたい何かがあるんだろう。

 

 だから、この状況においては俺の提案は龍園にとっても都合がいいはずだ。沢田を殴る事でストレス解消を、俺を使って探し物を見つけ出す可能性の向上が見込めるからな。

 

 そして、龍園は俺と沢田を堀北の腰巾着と須藤のパシリだと思っている。

 そんな奴らが足を引っ張りあっているのだから、Cクラスの勝利に影響が出るとは思わないだろう。

 

「……いいだろう。お前の提案を聞いてやる」

「そうか。じゃあまず頼みたい事があるんだが……」

 

 龍園が俺の提案を受け入れた。

 俺はすぐに沢田の足止めをする為の作戦を龍園に話して聞かせた。 

 

 6日目の午前中に、Dクラスから誰か2人を森の最深部に誘導する。

 龍園はその人物を気絶させて、崖下の砂浜におろして欲しいと。

 

 ありがたいことに、安全に砂浜に落とす方法は龍園が考えてくれた。

 

「Cクラスが買ったマットレスが2つ砂浜に残っている。それを崖下に敷けば落下の衝撃は緩和できるだろう。マットレスは、夜中に水上バイクに水に浮かぶ足場を繋いで運べばいい。Bクラスに行かせてる金田に手伝わせよう」

 

 との提案をしてきた。俺はその案を採用し、更に安全にする為に落とす時の角度や速度を計算しておく事にした。

 

 4日目には伊吹が騒いでいたが、おそらく何かしらの行動を沢田と仲のいい姉妹校の女子に阻止されたんだろう。その後は1日特に動きはなく、5日目も何事もなく過ぎて行った。やった事と言えば、龍園の手伝うフリをして森を散策しただけだ。

 

 そして、運命の6日目が来た。

 

 まず俺が行ったのは、沢田と仲間の分断だ。

 

 最初に獄寺を浜辺のほうに誘導する。これは沢田との接触及び俺の監視の阻止の為だ。池と須藤に3日間昼飯を奢る事を条件に遂行してもらった。

 

 次にクロームとか言う女子の誘導だ。平田に「もっと他クラスとの交流を積極的に行うべき」とか、「沢田いわく人見知りだからこちらからガンガン行った方がいいらしいぞ」とか助言をしておいた。責任感の強い平田なら放っておかないだろうし、平田が動けば軽井沢を筆頭に数名の女子も一緒に動く。これでクロームは動きづらくなっただろう。

 

 そして、俺は伊吹の隠している無線機を使い、龍園に落とす時の細かい指示を伝えてから佐倉と櫛田に「沢田が呼んでいたぞ」と言って森の最深部へと誘導した。この2人にした理由は、堀北を除いた女子で一番沢田を信頼している2人だからだ。

 

 数十分後。龍園から準備完了と無線機で連絡が入った。

 それを受けて、正午に拠点に帰ってきた沢田に声をかけた。

 

 当然、沢田は怒りに満ちた顔で2人を助けに向かった。

 

 ここまでは俺の計画通り。

 これで2時間くらいは時間が稼げたはずだ。

 

 森の最深部には往復で40分はかかる。砂浜から助け出すのと、龍園をどうにかするのにも時間がかかるからだいたい2時間はかかるだろうという計算だ。

 

 沢田がいなくなり、俺は次なる作戦を結構する。

 

 一度教師用施設に行ってから、伊吹、山内、池、堀北、そして松下という女子を連れて川に向かう。

 

「よ〜し、魚捕まえるぞ!」

 

 池が張り切って魚釣りの準備をする中、俺は小声で堀北に話しかけた。

 

「……堀北。カードキーを見せてくれないか?」

「え? ……いいわよ」

「サンキュー」

 

 堀北からカードを受け取り、こっそりと確認をする。

 だが実際には後ろから伊吹がこちらをこっそりと見ている事が分かっていた。

 これで伊吹には堀北がDクラスのリーダーだと分かっただろう。

 後は伊吹にカードキーを盗ませるだけ……

 

(……今思えば、堀北がすんなりカードキーを渡してくれたのはおかしかったな)

 

 堀北にカードキーを返し、背中に手を回して山内に合図を送る。

 

「おい堀北。お前最近、沢田と仲良いよなぁ。もしかしてできてんのか?」

「……意味のわからない戯言は言わないでくれるかしら? 不愉快だわ」

「ちぇっ、冗談も分かんねぇのか? そんなに硬い堀北には〜おりゃっ!」

『!』

 

 全員が山内に驚愕の視線を向ける。山内が川辺にいる堀北の頭に急に泥を被せたからだ。

 

(まぁ実際には、佐倉の連絡先を対価に俺が山内に頼んだことなんだがな)

 

「……ふんっ!」

「うわぁぁっ!」

 

 泥をかけてきた山内に、堀北が見事な一本背負いを決めた。

 綺麗な弧を描いて川に落ちる山内。

 

 落下地点に大きな岩があったから、それとなくフォローして山内の頭蓋骨の破壊を防いだ。

 

「堀北。やりすぎだろ」

「……これでも制裁が甘いくらいよ。……私は髪を洗いに戻るわ」

 

 そう言って、堀北は泥まみれの髪を洗いに拠点へと帰って行った。

 

『……』

 

 残された俺達の間にはお通夜みたいな空気が流れている。

 そして、この隙に伊吹がこっそりと抜け出すのを確認。

 

「……俺も戻るわ」

「はっ? おい、魚どうすんだよ」

「堀北の様子を見てくるから。後は頼んだ」

 

 文句を言う池達をあしらい、俺は拠点に戻った。

 

 拠点に戻ると、午前中に森を俳諧していた女子達がシャワー室に列を作っている。

 俺の予想通り、堀北はシャワー室を使えなかったようだ。そして伊吹の姿もない。

 

 数十分後。堀北が拠点に帰ってきた。顔色が悪い。体調不良の中冷水で体を洗い、さらに伊吹にカードキーを盗まれているのだから当たり前か。

 

 その姿を確認して、俺は次の段階に進もうとした。

 だが、その必要がなくなったらしい。

 

「どこにもいないよ!?」

「え。まじ?」

 

 女子達が伊吹が消えたと騒いでいるのだ。

 

(ぼや騒ぎを起こして抜け出しやすい状況を作ってやるつもりだったが、強硬手段に出たか。まぁいい。それなら最終段階に移るだけだ)

 

 俺は堀北に話しかけようと、先程まで堀北がいた場所に目を向けるが……堀北の姿はもうなかった。

 

(……伊吹を追いかけたようだな)

 

 そう気づいた俺は森の中に向かって走り始めたのだが、それと同時に雨も降り始めた。

 

 急ごう。目的地は伊吹と最初に遭遇した場所だ。

 

 

 ——しかし。堀北はそこにもいなかった。

 周辺を探してみても、堀北の姿は見えなかった。

 カードキーだけが無造作に地面に投げられている。

 

(……どこに行ったんだ? 雨も降り出したし、体調もそろそろ限界のはずだぞ。……まさか、途中で諦めてリタイアしたのか?)

 

 その事に思い至った俺は、カードキーを回収して今度は教師用施設に向かった。

 

 

 

 〜道中、森の途中にて〜

 

「……」

「……はぁ……はぁ」

 

 教師用施設に向かう道中で、倒れている堀北を発見した。

 

(伊吹を見つけられずに体調の限界を迎え、リタイアするべく教師用施設に向かったが途中で倒れたか)

 

 ため息を1つ吐き、倒れている堀北を抱えて教師用施設へと歩き始めた。

 

 ……沢田、これでチェックメイトだ。

 

 

 

 

 —— 6日目午後。教師用施設 ——

 

「……ん? 綾小路か。堀北を抱えてどうしたんだ?」

「……堀北のリタイアをお願いします」

「分かった。堀北はそこに寝かせろ」

 

 茶柱先生に言われて、救護室のような簡易ベッドに堀北を寝かせる。

 堀北を寝かせた俺は、茶柱先生に再度話しかけた。

 

「茶柱先生」

「なんだ? まだ何か用か?」

「はい。リーダーの変更をするので新しいカードキーを下さい」

 

 そう言いながら俺は堀北の名が記載されているカードキーを先生に差し出した。

 

「ほう……」

 

 茶柱先生はカードーキーを受け取ると、カードキーをスポットと同じ様な機械に通し始めた。

 

(これで俺の勝ちだな……)

 

 ——そう確信した次の瞬間。茶柱先生にカードキーを返されてしまった。

 

 

「……ダメだ」

「……は?」

「堀北のリタイアは認めるが、カードキーの再発行は認められない」

「……意味がわかりません」

 

(カードキーを提出しているのに、新しいカードキーをもらえないとはどういう事だ?)

 

 俺のその疑問は、茶柱先生によってすぐに解消された。

 

「このカードキーは、今はもうカードキーではない」

「……はい?」

「簡単に言えば、カードキーとしての機能を失っているんだよ」

 

 それはおかしい。

 

「このカードキーは今も堀北の名前を表示しています。それに起動中のランプも点灯していますよね。一体何の機能が失われていると?」

「……カードキーにおいて一番重要な機能だよ」

 

 そう言って、茶柱先生は俺の前にスポットと同じ様な機械を置いてそこにカードキーを通した。

 しかし……何も反応をしない。

 

「……まさか」

「そうだ。このカードキーはス・ポ・ッ・ト・を・専・有・す・る・機・能・だけが失われているんだ」

「……つまり、これは偽物って事ですか?」

「そうだな。本物は、4日目に再発行されているからな」

「!」

 

 ……という事は、本物のカードキーは今、沢田が持っているのか?

 俺がやる事を予想し、俺が動く前に先に作戦を遂行していたのか?

 そもそもどうやって機能を一部だけ破壊した?

 

 そんな事で頭の中が一杯になっていると、茶柱先生は更に続けた。

 

「カードキーを再発行してもリーダーの変更は認められない。だが、たった今リーダーがリタイアをした。これでリーダー変更が認められる事になる。そして、リーダーの登録はカードキーと腕時計があればどこでもできる。つまり……」

 

 ——ピロン。

 

 

 電子音が茶柱先生の言葉を遮る。

 茶柱先生がPCを確認をすると、先生はフッと笑った。

 そして、PCのディスプレイを動かして俺に見せる。

 

 俺に向けられたディスプレイには、

 

『Dクラスリーダー登録 SAWADA TSUNAYOSHI』と書かれていた……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 俺の話が終わると、沢田はゆっくりと口を開いた。

 

「なるほど……で、勝敗なんだけど」

「お前の勝ち……だろ」

「……それでいいの?」

「? そりゃそうだろう。Dクラスが勝てたのは、お前がリーダー変更をしたからだからな」

 

 俺がそう言うと、沢田は首を横に振った。

 

「いや、俺は完全に君に勝ったとは思えないな」

「……どうしてだ」

「……龍園君が失格になったからだよ」

「……」

「龍園君が失格になったのは、綾小路君が先生を森の最深部に呼んでいたからだよね?」

「……よく分かったな」

「……龍園君に佐倉さんが捕まった時、茶柱先生の姿が見えたよ」

「……そうか、本当に変に勘の働く奴だな」

 

 そして、沢田は真剣な顔で俺の顔を見た。その時の沢田の目には、どこか悲しさが感じ取れた。

 

「……俺に勝ちたかったはずなのに、どうして龍園君を売ったの?」

「……」

「俺の足止めをする為に、龍園君を使って桔梗ちゃんと佐倉さんを罠に嵌めた。……でもさ、どうやって龍園君を仲間に引き入れたの?」

「……仲間に引き入れた訳じゃない」

「……え?」

 

 俺は沢田の顔をしっかりと見つめ返し、告げた。

 

「沢田。俺には仲間や友達なんていない。お前の事も一度だって友達や仲間だと思った事はない」

「……そっか」

 

 沢田の顔が悲しそうに歪んだ気がした。

 

「……この世界では勝つ事が全て。どんな過程を辿ろうと、最終的に俺が勝ってればそれでいい。お前も堀北も、そして龍園も、俺に取っては都合のいい道具に過ぎないんだよ」

「……」

 

 俺の言葉に沢田が完全に俯いた。

 

(……さすがに呆れられたか。まぁしょうがないな)

 

 そう思っていたが、俺の想像とは裏腹に沢田は微笑みながら顔を上げた。

 

「……そっか。綾小路君は迷っているんだね」

「! ……急になんだよ」

「俺の事を友達や仲間だと思った事はないって言ってたけど……それは嘘だよ」

「……なんでそう思うんだ?」

「本当に俺達の事を道具だとしか思ってないなら、俺に勝負なんて挑まないもん」

「!」

「俺の考え方が理解できないって言ってたけど、本当は理解したかったんじゃない? だから自分と俺のやり方を比較しようとしたんでしょ」

「……」

「勝負を挑んできた時から思ってたけど、綾小路君だって友達や仲間と力を合わせて問題解決を目指してるじゃない? 君と俺の違いは、協力者の捉え方と扱い方だけだ。だから、どちらかの考えにまとまる事もそう難しい事じゃないと思う。……普通なら」

 

 沢田は不自然に最後に言葉を付け足した。

 

「……普通なら? どう言う意味だ」

「いや、綾小路君ってさ。よく分からないけど普通の高校生じゃないよね」

「……」

「あ、気を悪くしたらごめん。でも俺は間違いなくそう思ってるんだ」

「……そうか。なら俺も言わせてもらうが、お前もまともな高校生じゃないだろ?」

「あはは、ひどいなぁ〜」

「……お互い様だ」

「……でもさ、そんな俺達でも何度もぶつかれば分かり合えると思うんだよ」

「……分かり合えるだと?」

「うん、お互いに大事にするものが違うならぶつかるのは当たり前だよ」

「……沢田。お前、龍園や俺のやり方を認めると言うのか?」

 

 俺がそう問うと、沢田はきっぱりと拒絶した。

 

「いや、認められないよ。絶対に」

「……じゃあ、なんでぶつかり合えば分かり合えるとか言ったんだ?」

「簡単だよ。ぶつかり合っていれば、いつか君は俺の考え方を認めてくれる。そう確信してる」

「……確信か。根拠でもあるのかよ」

「ううん、只の直感だよ?」

「……は?」

 

 真顔で勘だと言いのける沢田。やはりこいつはまともな高校生ではない。

 

「ただの勘で、よくそんな自信満々になれるよな」

「う〜ん、俺の勘もだけど。綾小路君の事を信じているからかな?」

「信じる? お前を裏切る様な方法を取ったのにか?」

「……まぁ、正直すごい腹が立ったよ」

「だろうな……」

「……でも、佐倉さん達が怪我をしてなかったことや、マッチポンプとはいえ龍園君の事を先生に話してくれた事。そこに、今までに感じていた君の優しさが確かに感じられたんだ」

「……」

「……それで思ったんだよ。やっぱり、綾小路君は悪い奴じゃないんだ。きっと今回の行動も、何かに迷っていてその答えを見つけたいからだって」

「……」

「……だから、俺は君の事を信じるよ。いつか必ず分かってくれるって。俺と同じ方向を向いてくれるって」

「……また、俺はお前の許せないやり方を選ぶかもしれないぞ?」

「うん、でも大丈夫。次からは事前に俺が止めるから。友達の悪事は友達が止めないとね」

「……」

「あ、でもあんまりひどい事しようとしたらデコピンだよ?」

 

 そう言って朗らかに笑う沢田。

 

(……沢田。よくもそう簡単に人を信じられるな。お前の考え方では、世界に蔓延る深い闇に飲まれてしまうぞ)

 

 だが……なぜだろうか。

 

「……バカか? 俺はお前の事を一度も友達だと思った事はないと言っただろう」

「それでもいいよ? 俺が友達だと思っていて、君が俺を避けてないんだから。事実上の友達と言っても過言ではないでしょ」

「……沢田、やっぱりお前バカだな」

「あはは。ポジティブって言ってくれる?」

 

 俺の性格を知ってもなお、こうして変わらずに接して友達だと言う沢田。

 そんなお前の行く末が更に気になってしまうんだ。

 

 ……いつか、お前があの場所の存在を知った時。

 お前の近くにいれば、俺が心から求めているものが分かるかもしれないな。



読んでいただきありがとうございます♪
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