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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ

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X世、注意深く観察する。

X世、注意深く観察する。

 

 ——ガラガラ…… 

 

 自己紹介が終わり、近くの席の奴らと談笑していると、教室の前のドアが開かれる音が響いた。

 

 廊下から入って来たのは、入学式で俺達を先導した黒髪の先生だった。

 先生は教壇に立つと、俺達をざっと見回した。

 

「……よし、ホームルームを始めるぞ」

 

 先生の登場にクラスに緊張が走る。

 担任がどんな人かっていうのは、結構大事だったりするもんなぁ。

 

「私がこのDクラスの担任、茶柱佐枝だ。担当は日本史。……それと、この学園にはクラス替えはない。つまり、これから3年間私がお前達の担任で、周りの奴らは3年間を共にするクラスメイトだという事だな」

 

 茶柱先生は見た目通りクールビューティーな人のようだ。伝えるべきことをただ淡々と告げている。

 

 次に、先生は学校のルールについて説明を始めた。

 

「入学のしおりに書いてあったことだが、この学校は全寮制だ。卒業するか退学するまで外に出ることは許されない。また、外部との連絡も学校の許可がない限りは全面禁止。……たとえ親族であってもな」

 

(スマホが持ち込めないのも、この規則があるからだな)

 

 ここまでの話は入学前に聞かされているので、誰も驚いたりはしない。皆が驚くのはこの後の説明事項だった。

 

「次に、この学校の学生証端末を配布する。名前を呼ばれたら受け取りに来い。まず。綾小路清隆」

「……はい」

 

 綾小路君から、学籍番号順にどんどん配布されていく。

 

「沢田綱吉」

「あ、はいっ!」

 

 教卓に行き学生証端末を受け取る。

 学生証端末はスマホとそっくりな見た目をしていた。

 

「……よし、これで全員受け取ったな? ではその端末について説明する」

 

 全員が学生証を受け取ると、先生は詳しい説明を開始した。

 

「この学生証端末には、学校生活において必要な機能が沢山組み込まれている。お前らの身分証、そして学校内限定だが、スマホや携帯の代わりにメールや通話をこの端末で行える」

 

 先生の説明に、喜びの声を上げる者が数名現れた。

 

「よかったぁ〜、スマホ持ち込み禁止って聞いて辛かったんだよね〜」

「これで彼女ができても困んねぇな」

 

 結構大きな声だけど、そんな声など聞こえていないかのように、茶柱先生は淡々と説明を続ける。

 

「そして、1番重要な機能……ポイントシステムだ。この端末は、敷地内の全ての店での支払いに使用することができるんだが、その額に応じてそれぞれのPPプライベートポイントが差し引かれる。いわばクレジットカードのような物だ。……いや、おサイフケータイと言った方がお前達学生には分かりやすいかもしれんな」

 

 PPという聴き慣れない言葉に皆が顔をしかめる。そんな中、先程の自己紹介の提案をした平田君が皆を代表して質問をしてくれた。

 

「先生、PPって何ですか?」

「ふむ。PPとは、学園での色々な支払いに使えるポイントの事だ。すでにお前達の端末にも今月分の10万ポイントが支給されているはずだ。そして、このポイントで買えないものはない。敷地内でも、学校内でもな」

 

 茶柱先生の話を確かめるべく、全員が学生証端末を操作し始めた。端末内にPPの項目を見つけたのでそれをタップした。すると……

 

(わっ! 本当に10万ポイントある!)

 

『所持PP 100,000』と表示されたのだ。

 

「すげぇ、こんだけあれば何でも買えるんじゃね?」

「毎月10万ポイントも貰えるの!? さすがは国営ね!」

「ふふふっ、この学校に入学できたお前達だ。それだけポイントをやる価値が今はあるという事だな。……ちなみに、PPの付与は毎月1日と決まっている。」

 

 先生のこの発言に、クラスメイトからは歓声が沸いた。

 

「まじかよ! 太っ腹だなぁ!」

「ねぇねぇ、後でブティック行かない?」

 

 高校生に似つかわしくない程の小遣いの額。俺も普段だったら手放しに喜んだと思う。しかし、今の俺は頭の中ででぐるぐると回るリボーンの言葉と、女子、そして先生の言葉について考えるのに精一杯だった。

 

『今日一日、マンションに帰るまで気を抜くんじゃねぇぞ。常に周りを観察しておけよ』

『毎月10万ポイントも貰えるの!? さすがは国営ね!』

『ふふふっ、この学校に入学できたお前達だ。それだけのポイントをやる価値が今はあるという事だな。……ちなみに、PPの付与は毎月1日と決まっている』 

 

 女子生徒……確か軽井沢さんと言っていたな。軽井沢さんは毎月10万ポイントが貰えるのかと言っていた。なのに、茶柱先生は毎月1日に振り込まれるとしか言わなかった。

 

 普通なら、軽井沢さんの言葉に何か反応するもんじゃないか? 

 それに〝今は〟っていうのも気になる。

 

 つまり、来月に10万振り込まれる確約はないって事なんじゃないかな?

 

 でも……例えそうだとして、なんで先生はそれを説明しないんだ?

 

 それに、自己紹介の恥ずかしさで忘れてたけど、まだこのクラスを注意深く観察してなかった。注意深く周囲に気を配ってみよう。……ん?

 

「……それでは、今日のホームルームは以上だ。最後に、マンションの部屋にカリキュラムが置かれている。明日からの授業はそのカリキュラムに沿って行われるから、きちんと確認しておくように。では、解散」

 

 俺が周囲に気を配っている間に話が終わったようだ。解散を告げると、先生はスタスタと廊下に歩いて行ってしまった……

 

「よっしゃ! カラオケ行こうぜ!」

「先にカフェ行かない?」

 

 先生がいなくなると、クラスメイト達は放課後の過ごし方を話し合い始めた。

 一方俺は、先生に質問するべく廊下に飛び出ていた。

 

 (気になった事をそのままにするのはボスとしてありえねぇ、ってリボーンに言われた事があるからな……そのままにして帰ったらボコボコにされそうだ)

 

 小走りで廊下を進んで行くと、職員室に入ろうとする茶柱先生が見えた。

 

 職員室の入り口に着き、扉をノックしてから中に入る。

 

 俺が中に入ると2人の先生達から視線が集まった。

 

 茶柱先生のデスクを含め長方形になるように4つのデスクがくっ付けられている所を見ると、もう1人の先生は他の一年クラスの担任の先生なんだろうか。

 

「……沢田か。一体どうしたんだ?」

「すみません茶柱先生、一つ確認したい事があるんです」

「確認? ……なんだ?」

 

 俺が用件を言うと、茶柱先生や、もう1人の先生の視線が鋭くなった気がする。俺が何を質問するのか興味津々といった感じだ。

 

(少し質問しづらい空気だけど、聞かないわけにはいかないよな)

 

「聞きたいのはPPについてです」

「ほう?」

 

 茶柱先生はなぜか、少し嬉しそうに俺の質問を待っているように見える。

 

「PPは毎月10万振り込まれるわけじゃない……そうですよね?」

「……なぜ、そう思うんだ?」

 

 茶柱先生が少し口角を上げた。俺の考えが正しいって事なのかな?

 

「さっき、先生はこう言いましたよね?〝それだけポイントをやる価値が今はあるという事だ〟 って。それはつまり、来月も10万ポイントが入る価値が俺達にあるとは限らないって事じゃないですか?」

 

 俺の質問を聞き終えた先生は、クククと笑い始めた。

 

「ククク……よく気がついたな、沢田」

「! じゃあ、俺の考えは当たってるってことですか?」

「ああ。確かにお前の言う通りだ。来月に10万ポイントが振り込まれることはないだろう」

「……それは、どうしてなんですか?」

 

 俺の追求のする質問に、茶柱先生は笑いながら首を横に振った。

 

「残念。その理由を答えることは出来ない」

「! どうしてですか?」

「社会のルールだから……ってとこだな」

「社会のルール?」

「ククク……そうだ」

 

 茶柱先生の言った言葉を理解できないでいると、茶柱先生の隣に座った女性の先生が楽しそうに話に入って来た。

 

「も〜、佐枝ちゃ〜ん! そんなに意地悪しちゃだめよ〜?」

「星之宮……私は意地悪などしていないが?」

「いやいや〜、特・別・な沢田君に対してそんな塩対応しちゃダメでしょうに」

「何を言っている? 特・別・な沢田だからこそ特・別・扱いをしてはいけないんだろうが」

 

 ……? 先生方は何を言ってるんだろう?

 俺が特別? どういう意味だ?

 

 話について行けずに俺が困惑していると、星之宮と呼ばれていた先生が俺に声をかけてくれた。

 

「あっ、ごめんね〜沢田君。君本人は知らないもんね〜。あ、私はB組の担任の星之宮知恵です。よろしくね〜」

「えっ、あ、はい。よろしくお願いします……」

 

 ふわふわしてて、よく分からない人だなぁ……と思っていたら、星之宮先生が俺の耳元に顔を近づけた。

 

「……フフフ♪」

「! ……」

 

 耳元で発される言葉に、俺の超直感が反応する。

 

(星之宮先生の醸し出す雰囲気が、変わった……?)

 

「……君が特別である理由はね? 君がボンゴレの人間だからだよ。ね、ボンゴレⅩ世君♪」

「なっ!?」

 

 耳元で囁かれた言葉は、まさかの一言だった。

 

(な、なんで俺の正体を知ってるんだ?)

 

 俺が驚きと警戒で星之宮先生を睨んでいると、茶柱先生が驚いたように俺に話しかけて来た。

 

「なんだ沢田。お前聞かされていないのか? この高校とボンゴレは繋がりがあるんだぞ?」

「え? あ、それは聞かされましたけど……」

「安心しろ。お前の在籍する学年の担任は全員その事を聞かされている」

「ええっ!? そうなんですか!? え、じゃあ茶柱先生も?」

 

 俺の質問に茶柱先生が頷いて答える。

 

「もちろん。私はお前の担任だからな」

「ええ……」

「安心しろ。特別扱いして甘やかさないように、お前の家庭教師から頼まれているからな。他の生徒達と同じように扱うさ」

「……そうですか(伝えておいてよ、リボーン!)」

 

 なんか驚きすぎて疲れてしまった……

 

(聞きたい事は聞き出せないみたいだし、もう帰ろう)

 

 そう思って職員室から出ようとしたその時。茶柱先生が声をかけて来た。

 

「沢田」

「……はい?」

「クラスで一番早くポイントの事を確認しに来た褒美だ。ヒントをやろう」

「ヒント、ですか?」

 

 茶柱先生は、ニヤっと笑いながら、話を続けた。

 

「そうだ。……沢田、この学校はな。実力至上主義なんだよ」

「実力、至上主義?」

「そうだ。……ヒントは終わりだ。後は自分で考えるんだな」

 

 そう言った茶柱先生は、デスクワークを再開するのか、引き出しから書類を取り出し始めた。

 

「……失礼します」

 

 職員室から出た俺はそのまま教室に戻った。

 皆もう帰ったらしく、教室には誰もいなかった。

 

(俺も帰るか……)

 

 自分の机から鞄を取り、学生寮のマンションへと向かった。

 

 

 —— 学生寮・男子用マンション ——

 

 敷地内に建てられたマンション。これがこの学校の学生寮らしい。

 

(はぇ〜。こんな良いマンションで3年間も暮らすのか……)

 

 あまりの豪華っぷりに申し訳なさを感じながらエレベーターに乗り込む。

 

 「え〜っと、俺の部屋は……えっ!? 最上階ぃ!?」

 

 なんと俺の部屋は最上階だった。しかも角部屋……一年で住んでいい部屋なのか?

 

 最上階に着き、エレベーターを降りた。俺の部屋は最上階の角部屋だ。

 ……角部屋かよ!?

 

 俺の部屋がある奥に進んで行くと、途中の部屋から見覚えのある男子生徒が出て来た。

 

「……ん?」

(あ、この人入学式で挨拶してた。……生徒会長だよな?)

 

「……こんばんは」

「ああ。……君は新入生じゃなかったかな?」

「え? あ、はい。そうです」

「……君の部屋はこの階ではないと思うが?」

 

 生徒会長さんは怪訝な眼差しで俺を見てくる。

 

「あ、いえ! 僕も驚いたんですけど、この階の角部屋が僕の部屋らしくて」

「! そうか、あの部屋は君のなのか。……君、名前は?」

「あ、沢田綱吉と言います」

「沢田か……覚えておこう。それでは失礼する」

「はい……」

 

 生徒会長は俺を避けてエレベーターに向かって行った。

 

(……なんか、強そうなオーラが出てる人だな)

 

 只者ではなさそうな気配を感じた。あれが生徒会長って、この学校は何なんだろうか。

 

 その時、茶柱先生の言っていたヒントを思い出した。

 

『沢田、この学校はな。実力至上主義なんだよ』

 

 ……まさか、腕っぷしの強さとか、戦闘の実力で生徒の能力を測るとか、そんな事はないだろうなぁ。

 

 あはは! ないよ、ないない! ……ないよね?

 

 嫌な想像を振り払いながら自分の部屋を目指す。

 しかし。隣の部屋のドアを過ぎた時、少し違和感を覚えてしまった。

 

(? なんかここだけ部屋同士の距離遠くない? 他の階もこうなのかな。角部屋だとこうなるのか?)

 

 最上階の角部屋に着いた。ここが俺の3年間暮らす部屋だ。学生証端末をかざすと、ロックが解除された音がする。ドアノブを回し、中に入ると少し長めの廊下が広がっていた。

 

 廊下には3つの扉が設置されていて、1つはトイレ。1つはお風呂だった。一番奥のドアはリビングに繋がっているようだ。

 

「ただいま〜」

 

 リビングには、ベッド。勉強デスク。ダイニングテーブルが一つずつ置かれている。そして、あらかじめ送っておいた荷物が綺麗に並ばされていた。

 

「へ〜、すっごいいい部屋だなぁ……ぶっ!?」

「ちゃおっす!」

 

 リビングを見回していると、隣の部屋と繋がっている方の壁に俺の腰くらいの高さの居抜き空間が広がっていて、そこでリボーンが優雅にコーヒーを飲んでいた。

 

「なんだよこの空間! ……あっ、隣の部屋と不自然な距離があったのはこの部屋があるからか!」

「お〜、その通りだぞ。俺の言う通り、ちゃんと周囲を観察しながら初日を過ごしたみたいだな」

 

 リボーンが居抜き空間から出て来て、勉強デスクに乗っかった。

 

「よし。なら、お前が学校で引っかかった事と今日あった出来事を報告しろ」

「う、うん」

 

 勉強用の椅子に腰掛け、リボーンに今日あったことや感じた事を全て報告したのだった……

 

  
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