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英雄伝説~西風の絶剣~

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第83話 鉄機隊

side:リィン


「レン!待ってくれ!」


 俺は暗闇の中でずっと探していたレンを見つけてその後を追う、だがどんなに走っても彼女に追いつくことが出来ない。


 それでも必死に走り続けて何とかレンに追いついた。


「レン……ようやく見つけたよ」
「……」
「遅くなってごめん、ずっと探していたんだ。さあ俺と帰ろう、これからはずっと君を守るよ。約束する」


 俺はレンに手を差し伸べてそう言った、そしてレンがこちらの振り返る。


「なっ……!」


 レンの顔は蒼白く目に眼球が無かった、真黒な空洞から血を流して俺を見つめる。


「嘘つき、何が俺が君を守る……よ。貴方は可愛い妹と綺麗な幼馴染を恋人にして楽しくやってるじゃない。私の事なんて忘れちゃったんでしょう?」
「俺は必至で君を……」
「言葉では何とでも言えるわ、でも貴方は私を見つけてくれなかった」


 レンはそう言うと消えてしまった。そして辺りを見渡すといつの間にか無数のレンに囲まれていた。


「嘘つき……嘘つき……」
「苦しかった……寂しかった……」
「貴方は所詮口だけ……何も守れない……」
「や、やめろ……」


 レンは俺を囲いそう言い続ける。


「嘘つき……嘘つき……」
「死ね……死んじゃえ……」
「偽善者……人殺し……」
「うわああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 俺は唯耳をふさいで声を荒げる事しかできなかった……


―――――――――

――――――

―――


「はっ!?」


 俺は目を覚ましてベットから起き上がった。ゆ、夢だったのか……


「リィン!」


 フィーの叫びが聞こえそちらを見る、すると目に映ったのは黒いフードで全身を覆い隠した何者かの振り下ろそうとしたナイフをフィーが抑えている光景だった。


「破甲拳!」


 敵だと瞬時に判断した俺は襲撃者の胸に破甲拳を打ち込んだ。


(なんだ、この感触は?)


 人間を殴った時に感じる感触ではないことに一瞬違和感を感じた、まるで鉄の鎧を殴ったような感触だった。


 だが今はそんな事を気にしている場合じゃない、俺は側に置いてあった太刀を拾い襲撃者に斬りかかる。


 襲撃者は直に立ち上がり煙幕玉を床に投げつけて視界を奪ってきた。そして素早く窓ガラスを割って外に逃げる。


「くそっ、逃げられた!フィー、皆を起こせ!」
「ヤー!」


 俺はフィーに仲間を起こすように指示して逃げた人物を追いかける。襲撃者はグランセルの建物の上を素早く飛び移り逃げていく、俺もそれに続いた。


「待て!」
「……」


 襲撃者は構わず逃げ続ける、俺は奴の右足と左足に投げナイフを投げつけた。投げたナイフは見事に突き刺さったのだが……


「なにっ……?」


 だが襲撃者はナイフが刺さっても痛がるそぶりも見せずに逃げ続ける。


「馬鹿な、足にも何か付けているのか!?」


 胸を攻撃した際の感触で上半身に何かを装備していると判断した俺は足を狙ったが出血してる様子もない、どうなっているんだ?


 襲撃者は街道へと逃げ込んだ。俺も後を追うが暗闇に聳え立つ木々の陰に奴を見失ってしまう。


「……くそっ、気配を感じない」


 奴からは全く気配を感じることが出来ずこれ以上深追いするのは危険と判断して街に戻った。そして駆けつけてくれた仲間達に何が起きたのかを報告した。


 当然このことは遊撃士協会や王国軍にも話が行き警戒態勢になった。俺達も起きて警戒をするが結局その後は朝まで何も起きなかった。


 その翌朝に改めてギルドにて襲撃者の事を話し合うのだった。


「じゃあ最初にフィーがそいつを見たのね」
「ん、そうだよ。殺気を感じて目を覚ましたらリィンに目掛けて何者かがナイフを突き立てようとしていたから止めたの」
「間一髪だったじゃない!もしフィーがいなかったらリィン君は殺されていたって事?」
「ああ、情けない話だがそうなっていた可能性があった。フィーには感謝しないとな」


 エステルの問いにフィーが起こった状況を話した。エステルの言う通りフィーがいなければ俺は殺されていた可能性がある。


「リィン、そなたは気配を感じなかったのか?」
「俺は全く感じなかった」
「ふむ、そういう訓練をしているリィンでも捕らえられないほどの気配の消し方……間違いなく達人だな」


 ラウラの問いに俺は情けなく感じながらも素直に答えた。


 戦場では寝ている際に襲撃を受ける事も珍しくないので気配や殺気を感じ取るための訓練を受けている、そんな俺が気が付けなかったのだから相手は気配を消す達人なのだろう。


「気配を全く感じなかった、殺気がまるで無かったんだ」
「わたしも本当に僅かな殺気を感じ取って起きたの。もし後1秒でも遅れてたら……」
「フィーにすら気配を直前まで感じさせないか、厄介だな」


 俺は気配を全く感じなかったとラウラに応える。普通人間である以上最低限の気配は感じるものだ、だがあの襲撃者にはそういったものを一切感じなかった。


 気配や危険を察知する能力は俺以上のフィーですら本当にギリギリのところで気が付いたようだ、あの襲撃者は気配を消すスキルだけなら団長やカシウスさんといった俺が知る強者達以上かもしれないな。


「でもどうしてリィン君やフィーを狙ったんだろう?まさかまた結社の仕業?」
「いやもしかしたら脅迫状を送った人間が雇った刺客かもしれねえぞ、ウロチョロ嗅ぎまわっている俺達を脅す為かもな」


 エステルは結社の仕業を考えたようだがアガットさんの言う事にも可能性があるな。


「先程届いた情報なんですが黒い装備で武装した集団がボースの方で複数見られたとシェラザードさんから報告がありました」
「えっ、シェラ姉が?」


 エルナンさんからシェラザードさんから情報を送ってもらったと聞いてエステルが笑みを浮かべた。どうやら無事に調査を進めれているみたいだな。


「でもその黒い装備をした集団って……」
「ええ、特務兵の残党である可能性があります。実際その集団が付けていた装備や武器は特務兵が使っていたものと一致しますから」


 クローゼさんは集団に覚えがあるらしくエルナンさんは答えを話した。


 特務兵……かつてクーデターを企てたリシャール大佐が率いた組織の事だ。リシャール大佐は捕まったが一部のメンバーが逃げ出して今も逃亡している。


「もしかしたらその特務兵が脅迫状の犯人なんじゃないかな?彼らからすれば帝国と仲良くしようとする条約なんて嫌なだけだと思うけど……」
「可能性はあるが断定はできないな、れっきとした証拠がない」
「うぅ……良い推理だと思ったんだけどなぁ」


 姉弟子は特務兵が犯人だと言ったがジンさんに証拠が無いと言われて落ち込んだ。確かに怪しいがこれに関しては容疑者が多すぎる、ジンさんの言う通り今の段階で決めつけるのは危険だ。


「じゃああたし達もボースに向かった方が良いのかしら?」
「いえ、陽動の可能性もあります。そちらの方は軍にお任せして私達はグランセルで警戒をしていた方が良いでしょう」


 エステルは自分達もボースに向かった方が良いのかと聞くとエルナンさんは陽動の可能性も考慮してここに残ってくれと返した。


「あ、あの~……」
「どうかされましたか?」


 そんな時だった、ギルドに若い女性が入ってきたんだ。格好からしてグランセルの市民だな。


「実はつい先ほど北町区の辺りで女性からこの手紙をギルドに届けてほしいと言われて……」
「手紙ですか?」


 女性は手紙を預かっていると言いエルナンさんに渡した。


「……これは」
「エルナンさん、何が書いてあるの?」
「実際に見てください」


 エルナンさんから渡された手紙をエステルは読み始める。


「えっと……『リィン・クラウゼルへ、貴方に決闘を申し込みますわ。今日中にグランセル城の地下にある遺跡に一人で来なさい。絶対に来なさい、いいですわね?』……これって果たし状じゃない!?」


 エステルが呼んだ手紙の内容は俺にあてられた果たし状だった。


「絶対罠じゃん、これ書いた奴馬鹿だよ」
「うん、私でももう少し考えて書くぞ」


 あまりにもストレートすぎる果たし状にフィーとラウラが呆れた表情でそう言った。


「というかまたお前かよ」
「なんですか、その顔は?俺だって好きで指名されている訳じゃないんですけど」


 アガットさんに呆れた目で見られたので抗議した。


「でもどうするのこれ?多分結社だと思うけど絶対罠だよね?」
「うーん、普通なら全員で向かう所だけど下手に要求を断ったら何かしてくるかもしれないのよね」


 姉弟子はこの果たし状は結社が送ったものだという、まあその可能性は高いだろう。だがエステルの言う通り要求を呑まなかったら何か起こす可能性もある。


「それなら私が魔術で姿を見えないようにできます。それでリィンさん以外のメンバーを待機させて様子を伺うのはどうでしょうか?」
「えっ、そんなことが出来るの!?」


 エマの魔術の力にエステルが驚いた様子を見せる。仮に罠だとしてもこれなら対処できそうだな。


「はい。ただ私を含めて3人しか効果はありません」
「ならクラウゼルを含めた4人をそっちに向かわせて残りは……」
「大変だ!エルベ離宮近くの街道に魔獣の群れが……!軍も対応しているんだが見た事もない魔獣で強いんだ!遊撃士も手を貸してくれ!」
「あんですって!?」


 エマの4人までと言う言葉にアガットさんがメンバーを選出しようとする、だがそこに王国軍の兵士が一人現れて魔獣が出た上に苦戦しているから手を貸してほしいと言ってきた。


「時間がないな。リィン、俺達はこっちを対応するからお前はメンバーを選べ!」
「分かりました!」


 魔獣の群れは複数あるようでそれぞれが分かれて迎撃に向かうようだ。俺はジンさんの指示通りメンバーを選ぶ。


 俺は立候補したフィー、ラウラ、エマ、そして最後にクローゼさんを連れてグランセル城に向かった。


 クローゼさんが事情を話してくれたおかげでスムーズに許可が下りて地下に向かえるようになった。


「敵の正体が分からない以上この先は危険です、クローゼさんはここにいてください」
「……分かりました、どうかお気をつけて」


 敵の勢力や罠を考えるとクローゼさんも連れて行くのは危険すぎると判断した俺は彼女にそう伝えた。クローゼさんは素直に頷いて俺達の無事を祈る言葉を送ってくれる。


 そして俺はフィー、ラウラ、エマを連れて地下の遺跡に向かった。


「……またあそこに向かうのか」
「どうしたんですか、リィンさん?」
「いや、苦い敗北の思い出があってな」


 心配そうに顔を覗き込んできたエマに俺はそう答えるとフィーとラウラの顔も険しいモノになった。

 
 無理もない、二人も俺と同じでここには良い思い出はないからな。


「さて……遺跡についたはいいが誰もいないな」


 俺は一人で指定された場所に向かったがそこには誰もいなかった。エマの魔術でフィー、ラウラが姿を消して少し離れた場所にいてもらっている。


「来ましたわね、リィン・クラウゼル」


 誰かの声が聞こえると床に魔法陣が現れてそこから3人の女性が現れた。全員鎧を着こみ武器を構えた女騎士のような恰好をしている。


「お前達は……」
「初めまして、リィン・クラウゼル。わたくしは『鋼の聖女』に仕えし『鉄機隊』が筆頭隊士、『神速のデュバリィ』と申します」
「同じく鉄機隊が一人、『剛殻のアイネス』だ」
「『魔弓のエンネア』よ、宜しく」


 現れた三人は間違いなく強者だ、全員が油断ならない強さを持っている。


「……西風の旅団リィン・クラウゼルだ。果たし状を送ってきたのはお前達か?」
「その通りですわ、わたくしが貴方にその果たし状を送りましたの。でも流石は猟兵、平然と汚い手を使いやがりますわね」


 デュバリィと名乗った女は俺の背後に視線を向ける。


「そこにいるのは分かっていますわ、さっさと姿を見せなさい」


 デュバリィがそう言うとエマは魔術を解除して姿を現した、同時にフィーとラウラも姿を見せる。


「見抜かれていたみたいですね……ごめんなさい」
「エマのせいじゃない、あの三人は相当な手練れだ。見抜かれても仕方ない」


 エマが責任を感じているという表情を見せたので俺はフォローした。実際あの三人の目をかいくぐるのは無理そうだ、エマは悪くない。



「わたくし達を謀ろうとするなど10年は早いですわ。卑怯な戦い方ばかりする騎士道精神もない猟兵の考えそうな事などお見通しですのよ」
「誉め言葉として受け取っておくよ、まあお前も三人でリンチしようとしているんだから人のこと言えないんじゃないか?」
「そんなつもりはありませんわ!この二人は見届け人としていてもらうだけですので」


 俺の挑発にデュバリィという女性は怒ってそう言った。沸点は低いようだな。


「そなた達の目的は何だ、リィンを殺すつもりなのか?だとすれば私も黙ってみてはおれんぞ」
「ふん、アルゼイドの人間などに応える義理はありませんわ」


 ラウラが一歩前に出てそう言うとデュバリィはアルゼイドの人間とは話すことはないと言った。


「デュバリィといったか?そなた、アルゼイドと何か関係があるのか?」
「アルゼイドの人間が気に入らないだけですわ、傍流の剣技を得意げに振るう愚かな集団などに……」
「傍流だと?」


 デュバリィに傍流だと言われたラウラの瞳が鋭くなる。


「傍流とはどういうことだ?」
「傍流は傍流ですわ、無知とは幸せですのね」
「ラウラ、もういいじゃん。こんな失礼な奴にまともに話し合う気なんてないよ。全員やっつけて捕まえちゃおう」


 なおもラウラを馬鹿にするデュバリィにフィーが軽くキレた様子を見せる。優しいフィーが親友を馬鹿にされて怒らないわけがないからな。


「あらあら、殺気立ってるわね」
「筆頭が言い過ぎたからだろう、謝った方が良いんじゃないか?」
「貴方達はどちらの味方ですの!」


 エンネアという女性は頬に手を当てて困ったようにそう呟き、アイネスという女性は呆れた様子でデュバリィにそう話す。


「……それでお前達は何がしたいんだ、脅迫状を出したのはお前らか?俺を殺したいのか?それもお前らのボスの指示か?」
「質問攻めは止めなさい!それにあんな下劣な男がわたくし達のボスなどあり得ませんわ!わたくしが仕えるのがこの世でただ一人のお方『鋼の聖女』ことアリアンロード様だけですわ!」


 俺はブルブランやヴァルターの起こした事件の時のように指示を出している存在、つまりこいつらのボスや脅迫状などについて聞いてみた。


 まあ普通なら敵である俺達に情報を答える訳が無いのだがデュバリィは心外と言わんばかりに表情を歪ませた。


「アリアンロード……確か結社って執行者の上の最高幹部がいるんだよね?つまりそいつがリベールで事件を起こしている執行者達を陰で操ってる人って事?」
「そこのおチビ!マスターは悪戯に人を傷つけるお方じゃありませんの!知らない人間が好き勝手言わないでほしいものですわ!」
「そんなこと言われてもわたしその人のこと知らないし……勝手に怒って馬鹿みたい」


 フィーはアリアンロードという名の人物がこのリベールで事件を起こしている執行者たちのボスなのかと予想するがデュバリィは更に怒ってしまう。そんな彼女をフィーは呆れた様子でそう呟いた。


「リィン・クラウゼル、わたし達は結社に属しているが執行者ではない。蛇の使徒の一人であるアリアンロード様ことマスターが率いる鉄機隊に属しているだけだ」
「だから私達はマスターの指示でしか動かないの。今回の計画を進めている蛇の使徒はマスター以外の人間だから私達がその者の指示で動きはしない」
「……つまり貴方たちは今回事件を起こしている結社のメンバーとは関係ないアリアンロードという方の指示で私達に接触してきたという事ですか?」


 アイネスとエンネアがデュバリィの代わりに自分達の目的を話す。エマは今回リベールで事件を起こしている首謀者と鉄機隊のマスターは違う人物なのかと言う。


「ちょっと貴方達!筆頭である私を置いて話しを進ませないでくださいまし!」
「デュバリィ、貴方に任せていたら話が進まないわ」
「マスターを待たせる気か?」
「うっ……申し訳ありませんわ」


 二人に噛みつくデュバリィだったがマスターと聞くとさっきの怒りが嘘のようになくなってしまい落ち着いた様子を見せる。


「コホン……つまり私達の目的はリィン・クラウゼル、貴方の実力を測るためですわ!」
「俺の?」
「ええ、忌々しいですがマスターは貴方に強い興味を持っていますの。故に貴方の実力を確かめたいと言われたのでわたくし達が来たというわけですわ」
「なるほど……」


 俺はデュバリィの何故かドヤ顔を浮かべ言うその言葉に溜息を吐く。また変な奴に目を付けられたのか……


「リィン・クラウゼル!貴方なにを面倒くさそうな顔をしてやがりますの!マスターに目をかけてもらえるなど名誉以外の何物でもないというのに!」
「だから俺はお前達のマスターの事なんて知らないんだって……」


 デュバリィは余程そのマスターを慕っているようで俺が嫌な顔をしたことを抗議してきた。だが結社に属している時点で猟兵とそう大差ないだろうが……


「まあいいですわ、これ以上マスターを待たせるわけにはいきませんの。私と戦いなさい!」
「……どのみち結社の関係者だろう?捕まえて情報を吐かせてやる」


 剣を突きつけてきたデュバリィ、俺も太刀を抜いて戦闘を始めようとするが……


「待て、リィン。私達もやらせてもらうぞ」
「ん、見てるだけなんてごめんだね」


 フィーとラウラが俺の前に出た。


「貴方達には用はありませんわ!そこをどきなさい!」
「断る。そなた達の目的がリィンだと分かれば黙ってみている筋合いはない」
「リィンはわたしとラウラが守る。もう見てるだけなんて事はしない」


 デュバリィは二人に用はないというが二人は決して譲らなかった。


「ふふっ、良い殺気だな」
「ええ、ただの若い雛鳥かと思っていたけど実際は私達を食い殺そうとする獅子だったわけね」


 デュバリィの前にアイネスとエンネアが武器を構えて躍り出た。


「貴方達、今回は……」
「デュバリィ、確かに今回は筆頭であるお前に任せるとは言った。だがこの二人は決して譲らないぞ?」
「私達全員で相手にしてもいいけど今回のマスターの依頼は個々の実力を把握する事……この子達のデータも取っておけば後で役立つと思うわよ」
「……仕方ないですわね、マスターを待たせるわけにはいきませんし」


 デュバリィはそう言うと懐から何か紙のような物を取り出した。それを地面に置くと3つの魔法陣が現れる。


「なんの真似だ?」
「これは貴方達雛鳥に与えるための試練ですわ。今からわたくし達はこの魔法陣で一人ずつ違う場所に向かうので好きな相手を選んで入りなさい」
「ただし入れるのは一人だけだ。つまり一対一での戦いになる」
「逃げてもいいのよ?その時はマスターに試す価値もない人物だったと報告するだけだから」


 デュバリィ、アイネス、エンネアはそう言うとそれぞれが魔法陣に入って姿を消した。


「……あそこまで言われては逃げられないな」
「そうだね、舐められたらお終いだよ」


 ここで逃げてしまったら西風の旅団の名に泥を塗ってしまう、本当にヤバいのなら逃げるが戦いもしないで逃げるつもりはない。


 フィーの言う通り舐められてしまうと『俺達に手を出しても問題ない』と馬鹿な連中が調子づいて厄介ごとに巻き込まれてしまうかもしれないからな。


「ならリィン、デュバリィという女性は私にやらせてほしい」


 ラウラが俺にデュバリィと戦いたいと話す、その目には決意が込められていた。


 アルゼイド流を傍流などと言われてしまえばその剣術を信じて剣を打ち込んできたラウラは到底無視できないだろう。


「……分かった。ならフィーはどうする?」
「そうだね……わたしはアイネスとかいったハルバート使いと戦うよ。ちょっと試してみたいことがあるし」
「なら俺はエンネアという弓使いか」


 フィーはアイネスと戦うというので俺はエンネアと戦うことにした。


「エマ、相手は達人だ。達人との戦闘経験がない君では分が重い」
「ええ、分かっています。私はギルドに戻ってエルナンさんにこのことを報告します」
「ああ、頼んだぞ」


 エマではあの三人とは戦えないからな、ギルドに言って応援を呼んできてもらおう。


「皆さん、どうか無事に帰ってきてください!」


 エマはそう言って地下遺跡の入り口に向かっていった。


「二人とも、相手はかなりのやり手だ。油断はするな」
「勿論だ、決して油断などしない。私の修行の成果を見せてやる」
「ん、負けるつもりもないし油断するつもりもない。二人も気を付けてね」


 俺達はお互いに激励を送ると奴らが消えていった魔法陣の上にそれぞれ立つ。そして光に包まれて俺達の姿はその場から消えた。

 
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