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ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル

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出会えば死!?最後の四天王ゼブラとメロウコーラ
  第109話 食の時代の負の一面!?地獄の監獄ハニープリズン!

 
前書き
 ゼルダやってたら遅れました、申し訳ありません。原作では死季の森はモンスターシーズンですがここではマグマシーズンになってますのでお願いします。 

 
side:イッセー

 
 メルクに小猫ちゃんの包丁作りを任せた俺達は次の目的地であるハニープリズンに向かうことにしたのだが、流石に手ぶらだとゼブラ兄がキレるかもしれないので手土産の食材を集めている所だ。


「これだけ集まればまあいいだろう」
「こ、こんなに食べる人なの?ゼブラって人は……」


 俺は3日かけて皆と集めた食材の山を見て満足そうに頷くが隣にいるリアスさんが驚いた様子を見せる。


「ゼブラ兄は俺に負けず劣らずの大食いだからな、しかもここ数年は会っていないけど間違いなく強くなってるだろうからそれに比例して食事の量も増えているはずだ。正直これでも足りるかなって思ってるよ」
「凄い人なのね、ゼブラって人は……」
「でもイッセー、わたくし達はゼブラさんの事はちゃんと聞いたことがありませんわ。どのような方ですの?」


 俺がゼブラ兄は大食いだというとリアスさんはそう呟く。それに続けて朱乃がゼブラ兄の事を詳しく聞いてきた事が無いと言い俺にゼブラ兄がどんな人物か尋ねてきた。


「そうだな、一言で言うなら制御できない滅茶苦茶沸点の低い猛獣だな」
「も、猛獣ですの?」
「ああそうだ。これ以上は何も言えないから自分の目で確かめてくれ」
「どうしてだい?」
「ゼブラ兄は影口をされるのをもっとも嫌うから俺が皆に自分がいないところで余計な事を言ってたって知られたらマジでキレるだろうしな」
「うぅ……僕、なんだか会うのが怖くなってきましたぁ」


 朱乃に軽く特徴を言うと彼女は目を丸くして呟いた。俺は頷きつつもそれ以上は話さないというと祐斗が何故と聞いてきたので理由を話した。それを聞いたギャスパーは涙目になってゼブラ兄と会うのを怖がってしまった。


「まあ流石に出会った瞬間に殺しにはかかってこないさ、堂々としていればいい。その方がゼブラ兄は好感を持つだろう、多分」
「その多分が怖いんですけど……」


 俺の励ましに小猫ちゃんは苦笑しながらそう答えた。


 その後俺達は小猫ちゃんの食堂で夕食をとって各自休息を取っている。明日の朝出発だから本当はもう寝ないといけないんだけど俺は小猫ちゃんと一緒に食堂に残っていた。


「……うん、美味い!たった3日でここまで味を深めさせれるなんて小猫ちゃんは天才だな!」
「そ、そんなに褒められたら照れてしまいますよ」


 俺は小猫ちゃんの作っている未完成センチュリースープを飲んで笑みを浮かべた。前に飲んだモノより味が深まってるな!


「体感で50%は近づけたと思います」
「凄いな、この短期間でもう半分にまで行けたのか」


 メルク包丁を扱えるように修行したからかさらに速いペースでスープが完成に向かっているみたいだ。


「この調子なら直ぐに完全なセンチュリースープが出来るんじゃないか?」
「いえ、寧ろここからが本番ですね。今までは食材を合わせてあの味に近づけていましたが今度は必要のない食材を省いていかないといけません」
「そうか、ここからが大変だよな……」


 俺は思わず楽観的な事を言ってしまったが小猫ちゃんは首を横に振った。スープっていうのは唯食材を煮込むだけのように思えるが実は相当手間がかかる料理だ。しかもセンチュリースープともなればかなりの難易度になるだろう。


「でも私、必ず完全なセンチュリースープを作って見せますから!」


 小猫ちゃんは決して諦めないという強い決意を込めた目で俺にそう言った。


「……ああ、君なら出来るさ」


 俺は本当に運が良いと思う、まだ名も売れていない時に小猫ちゃんをコンビにできたのだから。


 この子の才能は本物だ、今に世界中が注目する事になるだろう。そうなれば俺なんかよりも遥かに有名になるはずだ。


 そして名が売れればそれを利用しようとする輩も現れるのが世の筋だ。


(もっと強くならねえとな、この子を守れるくらいにもっとだ……)


 まだ作業をするという小猫ちゃんと別れた俺はそんな事を考えていた。すると森の奥から何かを振るう音が聞こえて足を止める。


「なんだ?」


 明らかに獣が出すような音じゃない、少なくともこの辺りに生息している猛獣ではこんな音は出せない。


 気になった俺は森の奥に向かうとそこにはゼノヴィアがいてデュランダルを振っている姿が見えた。


「ゼノヴィア、何をしてるんだ。休めって言っただろう?」
「イッセーか。すまないな、休めと言われていてこんな事をしていて……ただジッとしてられなかったんだ。このデュランダルの輝きを見ていたらな」


 ゼノヴィアはそう言うとデュランダルを上に掲げる。その輝きは今まで以上のものだった。


「確かルキに研いでもらったんだよな、凄い輝きだ」
「ああ、ルキ殿の腕はやはり素晴らしい物だ。デュランダルも喜んでるよ」


 デュランダルはルキに研いでもらったことにより切れ味が数段増したらしい。


「でもどうしてデュランダルは最初ルキに触らせなかったんだ?」
「元々聖剣は資格が無ければ触れる事も出来ない、ルキ殿にはその資格があったのだろう。だがデュランダルは気難しい奴だからな、恐らく自信の無かったルキ殿が気に入らなかったのだろう」
「なるほど、剣の癖に結構頑固な奴なんだな」


 ゼノヴィアの説明に俺は呆れた視線をデュランダルに向けた。まあ研いでもらうなら腕だけでなく自信も持った超一流が良いって気持ちは分からなくもないが……


「だがどんなに剣が優れていても使い手が未熟では意味はない。私はあのアーサーという男を前に何もできなかった」
「ゼノヴィア……」


 ゼノヴィアは悔しそうにそう呟いた。グルメ界に出入りできる奴の相手が出来る人間なんて数える程しかいないだろう、でも同じ剣士として戦わずして負けを感じてしまった事が悔しいんだろうな。


「私は幼いころからずっと戦士として鍛錬を積んできた、故に強さこそが私の誇りだったんだ。でも戦う前から負けを感じたのは生まれて初めてだった、それが悔しくてたまらないんだ」


 そうか、デュランダルが強くなってかえって焦ってしまったんだな。ゼノヴィアは食ってるときは無邪気で素直だが戦いに関しては真面目な性格だからな。


「俺も付き合うよ、ゼノヴィア」
「えっ?」
「俺も気が昂っているんだ。だからその発散もかねて相手になるよ」
「……ふふっ、ならその気持ちは有難く受け取ろう」


 ゼノヴィアはそう言って構えを取る、俺もいつもの構えに入り……


「はぁっ!」
「ナイフ!」


 デュランダルとナイフを激突させた。その後森が半壊しないように意識しつつゼノヴィアと戦いを続けた。


「月牙天衝!」
「レッグナイフ!」


 巨大な斬撃がぶつかり合い激しい衝撃を生み出した。まさか多少加減しているとはいえレッグナイフを相殺されるとはな、パワーアップは伊達じゃないということか。


「はぁはぁ……」
「ここまでだな」


 だがその一撃でゼノヴィアは体力を使い切ってしまったのだろう、息を大きく切らしていた。


「さ、流石だなイッセー……私はこんなにも消耗しているというのにお前は息一つ切らしていないとは」
「俺も結構疲れたよ。特に最後のレッグナイフが相打ちになったのは驚いた」
「だが本気ではないのだろう?まったく……この世界は凄いな、私はあまりにも世界を知らな過ぎた」


 ゼノヴィアは地面に大の字で寝転ぶとそう呟いた。


「私は物心がついたころから教会の戦士として訓練を受けてきた、そしてデュランダルを受け継ぎエクソシストとして戦ってきた。だから自分で言うのもなんだがエリートとして自信を持っていたんだ。だがそれが井の中の蛙だったと思い知ったよ」
「まあエリートだと思うのも当然じゃないか?実際何の後付けも無しに自然にデュランダルに選ばれたし素質もあるしな。G×Gを知らなくともいずれは名を残すような剣士になってただろうしな」
「ふふっ、ありがとう。だが今はそんな事では満足できなくなってしまったよ」


 ゼノヴィアは夜空を見上げながら笑みを浮かべた。


「戦いこそが私の生きがいだったのに今では美味しい物を食べたくて仕方ないんだ。そしてもっと強くなりたい……今はそう思うよ。こんな私を主は呆れているだろうな、こんなにも俗っぽくなってしまうとは」
「……いや、そんなことはないんじゃないか?」
「えっ?」
「何かをしたい、何かをやり遂げたいって思うのは人間の本質だ、勿論してはいけないこともあるがお前が望んでいるのは生物として真っ当なモノだろう。それにお前は今まで神のために戦ってきたんだろう?それくらいの我儘許してくれるさ。もしそんな事も許してくれない神様なら俺が文句言ってやるよ」
「……ぷっ、あはは!主に文句を言うなどとは……イッセーらしいな」


 俺はゼノヴィアに手を差し伸べる。


「そんなに焦らなくてもお前は強くなってるさ、グルメ細胞も無しにあんな過酷な環境を生きているんだぞ?」


 ルフェイのサポートや教会のスーツのお蔭でもあるがそれでも唯の人間であるゼノヴィアが俺達についてこられるのは彼女自身の心が強いからだ。


 そういう奴は必ず強くなれるって俺は思ってる。


「ありがとう、イッセー」


 ゼノヴィアは俺の手を掴み立ち上がってお礼を言ってきた。


「まあ焦る気持ちは分かるよ、もし不安な事があったりしたらいつでも相談に乗るぜ。俺達はダチだろう?」
「……友達か」
「うん?どうしたゼノヴィア?」
「いや、なんでもないさ」
「そうか?じゃあ帰ろうぜ」


 俺はそう言ってスイーツハウスに向かった。


「友達と言われて嬉しいのにどうして胸が痛むんだろうな……」


―――――――――

――――――

―――



 翌朝になり俺達はジェット機を待っている所だ。


「おっ、来たみたいだな」


 そしてジェット機が上空に現れて草原に降り立った、すると……


「祐斗く~ん!久しぶりだし~!」
「リンさん!?」


 なんとそこからリン姉が出てきて祐斗に抱き着いたんだ。


「リン姉、一体どうしているんだ?」
「実はウチ暫く有給を取ったし。だからイッセー達の修行に同行させてもらうから」
「えっ、そうなのか?」


 俺はリン姉がどうしてここにいるのかと尋ねると彼女は有休をとったと話す。


「所長ってばウチを働かせすぎだし!だからストライキしたの!ウチだって祐斗君と冒険したいし!」
「ああ、なるほど……」


 リン姉は優秀なフラグレンス使いだ、だからこそコロシアムという重要な場所を任されているのだがそんなところにばかりいては気も滅入るだろう。


「それにウチも少しは強くなっておきたいしね。イッセー達が美食會と戦うなら足手まといにはなりたくないし」
「まあそういうことなら歓迎するよ。なあ祐斗」
「うん、僕もリンさんと一緒で嬉しいですよ」


 俺は祐斗にそう言うと彼も笑みを浮かべて頷いた。


「本当!ウチも嬉しいし!」
「あっ!こら!祐斗君に抱き着かないでよ!」


 祐斗に抱き着くリン姉にティナが噛みついた。まあ拒む理由もないし寧ろリン姉が付いてきてくれるなら頼もしいな、煩くはなりそうだけど。


 リン姉とティナの喧嘩を抑えつつも俺達はジェット機に乗り込んで目的の場所に向かった。


「そういえば今ゼブラって人がいるのはハニープリズンってところなんだよね?普通の監獄とは違うの?」
「ああ、ハニープリズンはG×Gの中でも特に重い罪を犯した『A級食犯』にされたものがぶち込まれる3つの刑務所の一つだ」
「3つの刑務所ですか?」


 イリナがハニープリズンの事を聞いてきたので俺は簡単な説明を始める。アーシアが3つの刑務所と言う言葉に首を傾げた。


「ああ、この世界には脱出不能と言われる3つの刑務所が陸海空に存在するんだ。一つ目は上空一万メートルに浮かぶ『スカイプリズン』、二つ目が深海2千メートルに沈む『プリズンサブマリーン』、そして三つ目が『死季の森』にあるハニープリズンだ」
「その空と海の二つが脱出不能なのは分かるが3つ目はハニープリズン……陸の監獄だよな?陸なら逃げれる可能性もあるんじゃねえのか?」
「それはこれから行く場所を見れば嫌でも分かりますよ」


 アザゼル先生がそんな質問をしてきたが俺は実際に見て見ればどうして逃げられないのか分かると返した。


 そして俺達は目的地である死季の森の入り口である『黄泉への門』に着いたのだが……


「なんだ!?この熱さは!?」
「ま、まるで火山みたいだわ!」


 ゼノヴィアは辺りの異常な熱さに驚きリアスさんは火山みたいだと話す。


「そりゃ熱いだろうな、この門の先はマグマで溢れているんだから」
「マグマ!?そりゃ熱い訳だわ!」
「そっか、これが死季の森の特徴なんだね」


 俺の言葉にティナは驚いたようにそう言いリン姉が納得した様子を見せる。


「リンさんは何か知っているんですか?」
「うん、ウチもIGOの関係者だからIGOが関係してる施設やそのあたりの場所の情報も持ってるし。んで死季の森は月ごとに危険な環境に変わっていくって聞いてるんだ」


 小猫ちゃんはリン姉に何か知ってるのかと尋ねると彼女は頷いて説明を始めた。


「この世界にも春夏秋冬があってそれらが四季と呼ばれているのは知ってるよね?この死季の森は獣・溶・霧・凍の四つの死の季節に変化するの」
「物騒な並びですわね……」


 朱乃は困ったような顔でそう呟く。実際にグルメ界に負けないくらい過酷な場所としても有名だからな。


「まずは9月から11月までの『霧季』―――1メートル先の視界もきかないほどの濃霧が漂う『ミストシーズン』って呼ばれてるんだ。この濃霧は猛毒で1呼吸で呼吸困難になって2呼吸で意識障害に、3呼吸で心停止になるほど強力だし」
「しかも濃霧は引火する、調べたことはないが悪魔もイチコロだろうな」
「ううっ、その時期には絶対に近づきたくないわね……」


 俺の捕捉にリアスさんは顔を青くしてそう呟く。俺もその時期に死季の森には近づきたくないな。


「次に12月から2月までは『凍季』―――マイナス200度のブリザードがすべてを凍らせる『フリーズシーズン』、この猛吹雪は三か月は決してやまないんだって」
「僕達もアイスヘルという極寒地獄を味わったけど死季の森も相当だね……」


 かつて体験した極寒地獄を思い出して祐斗は額に汗を流していた。祐斗からしてもアイスヘルはかなり苦い思い出があるだろうからな。


「そして3月から5月までが『獣季』―――数百万頭の凶暴な猛獣が目覚める『モンスターシーズン』、平均捕獲レベル60の猛獣がそこらかしこを埋め尽くす姿はまさに地獄らしいよ」
「捕獲レベル60ですかぁ!?しかもそれが数百万頭も……この世の地獄ですぅ!」


 その想像をしたのかギャスパーは泣きながら俺の背中によじ登ってきた。捕獲レベル60の猛獣がそんなにもいたら俺でも顔を青くするな。


「最後に現在、6月から8月は『溶季』―――一面に溶岩が吹き出す『マグマシーズン』、地上の気温も70度を超えて空気の熱だけで皮膚が火傷を起こすらしいわ」
「なるほど、こんな危険地帯に刑務所があるならそりゃ脱出は不可能だな」


 アザゼル先生は俺の言葉の意味が分かったように頷いた。まあそれだけじゃないんだけどな。


「ハニープリズンはこの森の先にある、この後は砂漠に向かうし熱さに慣れるなら丁度いいんじゃないか?」
「熱さと暑さじゃ違うでしょ……まあ四の五の言っていても仕方ないし行きましょうか……」


 俺の言葉にリアスさんがげんなりした様子でそう言うが先に進まなければゼブラ兄には会えないので渋々歩き始めた。


『おいイッセー、俺に会いに来て手ぶらとは舐めてんのか?』
「っ!?」


 俺は急に耳に響くように聞こえたゼブラ兄の声に思わず足を止めてしまった。


「イッセー先輩、どうしたんですか?」
「なにかあったんですか?」


 隣にいた小猫ちゃんとアーシアが心配そうな顔で俺を見ていた。皆には聞こえていないのか、そうなると……


「おい、ゼブラ兄!聞こえているのか!?今からそっちに会いに行くからな!ちゃんと食料も持っていくから楽しみにしておけよな!」


 俺は全力でそう叫んだ。この様子じゃゼブラ兄は俺達が来たことを既に分かっているな。


「イッセー君、そんな急に声を上げてどうしたの?」
「まさかお化けでもいるんじゃないでしょうね?」
「違うし。多分ゼブラが『音弾』を飛ばしたんでしょ?」


 急に大声を出した俺を祐斗やティナが驚いた様子で何があったというが事情を知るリン姉だけが正解を言い当てた。


「ああ、リン姉の言う通りあれはゼブラ兄の音弾だな。この距離まで届かせるとは予想通りパワーアップしているな」
「ねえイッセー、音弾ってなんなの?」
「あっ、そうか。皆は知らないよな……」


 俺は事情を知らない他の皆に説明をする。


「ゼブラ兄は声……つまり音を操るんだけど自身の声を音速にして直接俺の耳に送ったんだ」
「えっ、声を音速にしてですって!?」
「流石最後の四天王……規格外の能力ですわね」
「こんなのゼブラ兄の数ある技のほんの一部に過ぎないさ。実際に会えばその恐ろしさは分かるよ」


 俺の説明にリアスさんや朱乃はまだ見ぬ最後の四天王の力を感じているようだ。


「おいおい、いいのかイッセー?ゼブラって奴は蔭口が嫌いなんだろう?」
「ゼブラ兄には俺達の声が聞こえていますよ。音弾を飛ばしてきたって事は俺達が来たことを察したって事ですからね」
「はあ?ハニープリズンはそんなに近いのか?何も見えないぞ」
「まだまだ数十㎞はありますよ。ゼブラ兄の耳には近場で喋ってるように聞こえているでしょう」
「マジかよ……」


 アザゼル先生はこの距離で俺達の会話を聞いているゼブラ兄に驚いていた。


「さあ、モタモタしてたらゼブラ兄の機嫌を損ねちまう。さっさとハニープリズンに向かおうぜ!」


 ゼブラ兄が俺達の事を察したなら急いだほうがよさそうだな。俺はそう思い仲間と共に死季の森に突入した。


―――――――――

――――――

―――


「熱いね……」
「肌が焼けそうだわ……」


 イリナやリアスさんは灼熱の熱さに苦しんでいる。以前BBコーンを調理する際に火山に行ったことがあるがあれ以上の熱さだ。
 

 アーシアやティナ達にはルフェイの保護魔法、以前ゲットしたマグマラットの皮で作った耐火服を着てもらっているがそれでもこの熱さはキツイだろうな。


「イッセー君、熱すぎるから私イッセー君の腕に抱き着いてもいいかな?」
「はぁ?なんでそうなるんだよ、逆に熱くなるだけだろう?」
「えへへ、イッセー君への愛の熱でマグマの熱さを上回る作戦だよ」


 イリナはそう言うと俺の返事を待たずに腕に抱き着いてきた。ただでさえピッチリしたスーツなのにそんなにくっ付かれたら……


「わ、私もイッセーさんへの愛でマグマの熱さを克服します!」
「アーシアまで……」


 負けじとアーシアも俺の腕に抱き着いてきた。最近G×Gの栄養満点な食材を食べているからか成長しているアーシアの胸が俺の腕を挟むから気が気でない。


「あらあら、この熱さに負けないくらいアツアツですわね」
「もう、何をやってるんですか。程々にしておいてくださいね」


 朱乃と小猫ちゃんが余裕そうにそう呟く。


「祐斗君、聞いた?あの作戦私もやっていいかな?」
「えっ?」
「ウチだって祐斗君への愛じゃアンタに負けてないし!」


 それを見ていたティナとリン姉が祐斗の腕に抱き着いた。


「こいつら、よくもまあこんな場所でイチャつけるよなぁ」
「まあアザゼル先生は相手がいないからどんな場所でもあんなことできませんよね」
「ですぅ」
「ワン」
「うるせーよ!」


 アザゼル先生はそう言ったルフェイと同意して頷いたギャスパーとテリーにツッコミを入れる。


「……」


 その時だった、背後から何か視線を感じた俺が後ろを見るとゼノヴィアが複雑そうな顔で俺を見ていた。


「ゼノヴィア、どうかしたのか?」
「えっ……ああ、いやなんでもないぞ。ちょっと熱さで頭がボーっとしてしまったようだ」
「そうなのか?体調が悪いなら無理はするなよ」
「勿論だ。もし気分が悪くなったら直ぐに打ち上げるさ」


 ゼノヴィアはそう言うと俺達の前に言ってしまった。何か様子がおかしかったがもしかしてまだデュランダルを完全に扱いきれていないことを気にしているのか?


(とにかくゼノヴィアのことはよく見ておかないといけないな)


 俺はゼノヴィアに注意しておこうと思い決意をする。


『おいイッセー、そいつらが食材か?美味そうには見えねえがな』
「はぁっ!?」


 そんな時だった、俺の耳にゼブラ兄の声が聞こえてとんでもない事を言ってきたんだ。


「いやいやいや!そんなわけ無いだろう!?どう見ても皆唯の人間だろう!?いや一部は違うんだけど……と、とにかく皆は食材じゃない!手に持ってないだけで見えないけどちゃんとした食材だ!」


 俺はそう叫ぶが返答は帰ってこなかった。くそっ、おちょくられているのか?いやゼブラ兄ならマジに思えてしまうのが怖い。


「どうしたの、イッセー君?ゼブラさんがまた何か言ってきたの?」
「いや……皆を食材かって聞いてきた」
「ええっ!?」
「いや、流石に冗談だよ」


 イリナが甘えながらそう聞いてきたので素直に言うとリアスさん達は大層驚いた顔をした。


 そりゃそうだ、自分達を食材扱いされれば普通に驚く。ギャスパーなんて泡を吹いて倒れかけてしまった。


「ちょっとゼブラ!イッセーをからかうのは止めるし!……なんですって!?」


 リン姉がゼブラ兄に注意の声を上げるが何故か怒りだした。


「どうしたの、リンさん?」
「ゼブラの奴ウチの事『誰だてめェ』って言ってきたし!一応顔見知りでしょうが!」
「あはは……」


 リン姉の怒りを鎮めるのは祐斗に任せて俺達はさらに先を進んでいく。


「あっ、皆見て!あの一番先にある崖の下!蜂の巣があるわ!」


 リアスさんは道の終わりにある崖の先に大きな蜂の巣がぶら下がっているのを見て声を上げた。


「もしかしてあれがハニープリズンですか?名前の通り蜂の巣みたいな形ですね!」
「ウチも初めて見るし。もっと恐ろしい見た目を想像してたけど……意外と可愛い見た目だね」
「見た目は可愛くてもあそこは紛れもない地獄だぜ。なにせこの世界でもトップクラスにヤバイ事をした奴らを纏めて閉じ込めているんだからな」


 ルフェイとリン姉はハニープリズンの見た目が想像より怖くないというが俺には感じるぞ、あそこから漂う夥しい血の匂いをな……


「皆に注意しておくがあそこは本来関係者以外絶対に立ち入り禁止だ、あそこで見た事は口外しない事。後ティナは撮影もNGだ、流石に俺でも庇いきれないからな」
「分かったわ、カメラはルフェイちゃんの魔法で預かっておいてもらう事にする」
「ああ、そうしてくれ」


 俺は皆に注意をしてハニープリズンの真上に向かった。


「穴が開いているわね」
「そこがハニープリズンの入り口だ。エレベーターが上がってくるぞ」


 リアスさんが大きな穴を指差して俺はそこがエレベーターだと答える。するとそこから地面が上がってきて屈強な肉体と恐ろしい顔をした男が現れた。


「ひっ、地獄の鬼ですぅ!」
「こらギャスパー!ごめんなさい、私の眷属が失礼を……」
「いえいえ構いません。慣れていますので」


 ギャスパーが失礼な事を言ったのでリアスさんが男性に謝る。男性は丁寧な口調で気にしていないと答えた。


「初めまして、イッセーです。今日はゼブラ兄を引き取りに来たのですが……」
「お待ちしておりました、美食屋イッセー殿。私はハニープリズン副所長であるオーバンと申します。話は全て会長から伺っております、所長がお待ちですのでどうぞこちらへ」


 オーバンと名乗った男性の指示通りエレベーターに乗ると下降を始める。


「皆様、こちらがハニープリズンの入り口でございます」
「えっ……きゃああああっ!?」


 外の光景を見たリアスさんが声を荒げたが無理はない、俺だってビビった。何故ならそこには俺たちなど蟻にしか思えないほどの大きさを持つ猛獣がいて目を合わせてしまったからだ。


「な、なんなのあの怪獣は!?」
「あれは『処刑獣』、このハニープリズンで飼っている猛獣達です。大抵の囚人はこの光景を見て脱獄を諦めますがね」
「無理もねぇ、あの首の長い恐竜みたいな奴はグローサウルス、捕獲レベル57の猛獣だ。そんなレベルの奴を手懐けるとはな」
「すべてここの責任者であるラブ所長が手懐けた猛獣です。あの方がいて初めてここは世界でも名高い監獄となるのです」


 あんな強い猛獣達を手懐けるとはそのラブ所長っていう人物は相当な強者だな。


「変わりはないか?チェパリー」
「ええ、副所長。囚人が20人ほど攻撃を受けたようですが今は大人しくしていますよ」
「そうか、ゼブラは」
「ゼブラも機嫌が良いのか相当大人しいですね。寧ろ所長の方が……」
「そうか……」


 受付のこれまた怖そうな顔をした人物と話すオーバンさん、話の内容的にここの署長さんは今機嫌が悪いみたいだな。


「オーバンさん、そのラブ所長って人は何故機嫌が悪いんですか?」
「実は所長は会長に説得された今でもゼブラの出所には反対されていまして……」
「そうですか、まあゼブラ兄のやったことを考えたら当然ですよね」
「……」


 親父が説得して漸く出す許可を出したみたいだからな、その署長さんの気持ちも分からなくもないが俺達の目的の為二もゼブラ兄を出さないといけないからな。


 ただどうしてオーバンさんは苦い顔をしたんだ?


「ねえイッセー、そのゼブラって人は一体何をしてここに入れられたの?」


 近くにいたリアスさんがゼブラ兄がハニープリズンに入れられた経緯を聞いてきた。


「そうだな、簡単に言うと食べ過ぎたからなんだ」
「食べ過ぎた?食材を……って事?もしかしてとても貴重な食材を独り占めしていたとか?」
「それくらいならまだ可愛いんだけどな、ゼブラ兄は……」
「食べさせてくれぇぇぇぇぇっ!」
「なんだ?」


 急に叫び声が聞こえたので話を中断する、そして前を見てみると広い空間があり囚人服を着た人間たちが食事をしているのが見えた。


「オーバンさん、あれは囚人たちですか?」
「ええ、彼らは巷で食を貪りつくした重罪人たちです、彼らには『奪食のフルコース』を受けてもらっています」
「奪食……?」


 リアスさんが彼らは囚人なのかと聞くとオーバンさんは頷き奪食のフルコースという言葉を話した。それを聞いた小猫ちゃんが首を傾げる。


「このグルメ時代において最も幸せなのはなんでしょうか?」
「それは美味しい物を食べる事だな」
「その通りです。では反対に不幸なのは?」
「それは……美味しい物を食べられない事?」
「ええ、食を奪う……それこそが奪食のフルコースなのです」


 オーバンさんの質問にゼノヴィアが答える、そして今度は逆の質問をするとイリナが不安そうに答えてオーバンさんが頷いた。


「あのおかっぱ頭の男を見てください」
「なんなんだ、このケーキわぁあ!!全然甘くねぇじゃねえかぁ!!どーなってんだここの飯はぁ!!」


 オーバンさんが指を刺した方にはおかっぱで眉毛の太い男がケーキを食べながら怒号を上げる光景だった。


「あっ、あたしアイツを知ってるわ!有名な詐欺師よ!あたしの局でもあいつの事を取り上げたわ!」
「はい、奴は通称『食い逃げのノリ介』と呼ばれているグルメ詐欺師です。これまで多くの高級料理店で無銭飲食を繰り返しその被害総額が2兆円を超えたとんでもない男ですよ」
「に、二兆円……この世界の食材の価値を知ってると納得の重罪人ですわね」


 ティナはあの男を知っていたらしくオーバンさんが詳しい説明をしてくれた。その犯罪を聞いた朱乃はこの世界の食材の価値を知ってるからこそ男の罪の重さを理解して冷や汗を流していた。


「でもなんであの男はケーキ食ってんのに甘くないって叫んでんだ?そういうケーキなのか?」
「いえあのケーキにはちゃんと砂糖を使っていますよ。奴だけが甘さを感じないんです」
「どういう事だし?」
「奴は大の甘党で知られていますから奴の味覚から甘さを感じる機能を奪ったんです。奴はこれから先一生甘いものを食べてもその美味しさを味わう事はありません」
「大好物を奪われる……まさに食の苦しみだな」


 アザゼル先生はノリ介が叫んでいる理由を聞くとオーバンさんは普通に砂糖を使った甘いケーキだと答えノリ介だけが甘さを感じないという。


 それを聞いたリン姉が首を傾げるがオーバンさんは甘さを感じる味覚を奪ったと答える。それを聞いた俺は大好物を奪われる苦しみを与えるグルメ刑務所を流石だと思った。


「やべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇカタツムリが欲しい!あああぁぁぁぁぁ!!」
「ふえっ、なんですか!?」
「こ、怖いですぅ……」


 ノリ介の近くにいた男が急に叫び出してアーシアとギャスパーが怯えてしまった。


「あの男は?」
「彼は麻薬食材の密売、そして使用の常習犯『リック』です。一匹で国を滅ぼすと言われている隔離生物『ドラッグまいまい』の養殖もしていた重罪人です」
「ドラッグまいまい!?そんな危険生物を隠れて養殖していたのか!ここにぶち込まれたのも納得だな」


 俺はドラッグまいまいの事を聞いて驚愕した。麻薬食材の中でもトップクラスにヤバいのがドラッグまいまいだ、そんなものを養殖していたならハニープリズンにぶち込まれて当然だ。


 実はIGOはD×Dにこういった麻薬食材がばら撒かれていないか凄く警戒しているんだ。ドラッグまいまいなど魔王クラスでも虜にしてしまいかねん、そんなものをばら撒かれたらD×Dが滅んでしまう。


 だからサーゼクスさんやアザゼル先生たちと協力して麻薬食材を感知する魔法陣や装置の開発を急いでいる。まあアザゼル先生はここにいるんだけど開発は良いのか?


 俺はこっそりそれについて聞いてみたがもう自分がいなくても進められる段階まで行ったと答えた。やはり科学者としては優秀だよな、この人は……


「リックはドラッグまいまいを使用していたので脳内の麻薬受容体を麻痺させて快感神経を遮断させています。ドラッグの禁断症状は出るので彼は死ぬまで苦しみ続けるでしょう」
「自業自得とはいええげつないな……」


 俺はこれから先永遠に苦しみ続けるリックに自業自得とはいえ憐れみを感じた。


「あちらはグルメ山賊のリーダーである『バイダン』、これまでに20人の美食屋を殺し食材を奪った凶悪犯です。隣にいるのはグルメ食材密漁グループのヘッド『ジョイマル』、今までに17種1600頭もの保護動物を乱獲した重罪人です」
「流石ハニープリズン、有名な犯罪者ばかりだな。だが俺の予想より優しいんだな、だってあいつら大好物は奪われても普通のモノを食べれてるじゃないか」
「彼らは個々ではまだ軽い方の犯罪者ですから。しかしこれは前菜です、フルコースが進めば刑は重くなっていきます」


 俺達は先を進みながらオーバンさんに奪食のフルコースについて説明してもらった。


「より重い罪を犯した罪人は次のスープに向かいます。そこでは尋常ではないほど不味い食事やとんでもなく臭い食材、死なない程度に苦しむ毒料理などが出されます。しかしそれでも食べられるだけマシです、魚料理に進めば食事は出なくなり水だけ……肉料理に進めば水すら与えられなくなります」
「つまり最終的には餓死するって事ですか?」
「ええ、そうなりますね。まあそれでもグルメ細胞を持っていて生き永らえる者もいますが……」


 刑の重さに俺達は深刻な顔をしてしまう、何も食べられないなんて俺にとっては死刑も同じだな。寧ろ直にでも死ねない分苦痛はそっちの方が大きいだろう。


「それでも死なない罪人は自分が調理される番になります。食材のように切り分けられて煮込まれて焼かれ最後にはハニープリズンから死季の森に落とされ確実な死を迎えます」
「……」
「これがグルメ刑務所『ハニープリズン』なのです」


 オーバンさんの話を聞いて俺達は顔を青くしてしまった。グルメ刑務所は数多くあるがここまで苛烈な事をするのはハニープリズンを含めた世界3大グルメ刑務所だけだろうな。


「私はこれでも料理人の端くれです、お客さんに美味しい食事を楽しんでもらうのが料理人の使命……でもここはその真逆です、食を奪う場所……それがハニープリズンなんですね」


 小猫ちゃんの言う通りここは食を奪う場所だ。誰もが美味いグルメを楽しめる輝かしい今の時代の影ともいえる裏側……それがハニープリズンなんだ。


 すべての人間が犯罪をしたくてするとは思っていない、だがここにいれられた奴らは間違いなく悪意を持って犯罪を犯した連中だ。


「皆、思う事は色々あるだろうがそう難しく考えなくてもいい、大事なのは食材に感謝し決められたルールを守って食事を楽しむことだ。それさえ守ってればこんな所には入れられたりしないさ」
「ふふっ、そうね。わたし達は今まで通りルールを守って食事を楽しみましょう」
『はい!』


 俺とリアスさんの言葉に全員が頷いた。ルールがあるからこそ秩序が出来てそれを破る者に罰が与えられるのは当然の事だ、だが実際にこうやってその現場を見ないと危機感が出ないものだ。


 最初は皆を刑務所に連れてくるのは気が引けたが結果的には連れてきてよかったと思うよ。こういう裏側を知らなければルールを守る大切さも分かりにくいからな。


「皆さん着きました、ここが所長室です」
「大きな扉ですね!」
「ああ、巨人が通るような扉だな」
「やっぱりハニープリズンの所長さんだから屈強な体格をしている人なのかしら?」
「もしかしたらメルクさんのような人かもしれませんね」


 所長室の扉の大きさに小猫ちゃんが驚き俺は巨人が通るのかと思ってしまった。リアスさんはハニープリズンの署長は屈強な体格の持ち主なのかと言い祐斗はメルクさんのような大男かもしれないと話す。


 確かにこの扉の大きさならそれもあり得るな。


「所長、イッセー殿とそのご一行をお連れ致しました」


 オーバンさんがそう言うと扉が開き誰かが出てきた、いよいよ所長と対面か。


「……あれ?いない?」


 扉が開いたが誰も出てこなかった。どうしたんだ?


「あのイッセー先輩、扉の下を見てください」
「下……?」


 小猫ちゃんにそう言われた俺は目線を下げた、そこには……


「失礼ね、あちしをあんな大男と一緒にしないでちょうだい」
「えっ……えええぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 蜂のような恰好をした小さな女性がそこに立っていたんだ、いや小っちゃいな!?

 
 

 
後書き
 小猫です。まさかハニープリズンの署長さんがあんな可愛らしい女性だとは思いませんでしたね。まあ能力はかなり凶悪なんですけど……


 とにかくこれでゼブラさんに会えますね、最後の四天王は一体どんな方なんでしょうか……ってええっ!?どうしてイッセー先輩とバトルする事になってるんですかァ!?


 次回第110話『最後の四天王登場!イッセーVSゼブラ、兄弟喧嘩勃発!』で会いましょうね。


 次回も美味しくいただきます……にゃん。 
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