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ソードアート・オンラインーツインズー

作者:相宮心
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SAO編-白百合の刃-
  SAO27-白黒ヒーロー

「ごめんくださ~い」
「徴税なら帰ってください!」
「うわぁっ」

 教会の正面にある大きな二枚扉をゆっくりと開けたら、怒声が響き鳴ったのに対して驚いてしまった。

「……なにがしたいの?」
「私に聞かないで」

 ドウセツさん、そんなくだらないと思わせるような冷たい目で見ないでください。私な~んにもしていませんよ~。
 
「なにしに……来たんですか?」

 訊ねられる。おそらく、怒声を発した女だろう。声でだいたいわかる。
 正面を向けると、一見して地味そうに見えるが、よく見れば可愛い顔立ちをしている紺色のロングヘアを束ねた三つ編み文学少女。おとなし目の深い緑色のセーターに、モノクロ柄のチェックスカートを着用しているなか、彼女は盾と片手槍を構えていて、私達を敵視していた。
 なら誤解を解こう。私達は敵ではないんだから。
 その先陣を切ったのはアスナだった。

「私達は教会に用があって……」
「徴税ですか?」
「いや、そうじゃ」
「貴女達も人ならどうして……!」
「まって話聞いて!?」

 どうやら彼女は、徴税しに来た『軍』と間違えているようだった。アスナが『軍』でないことを説明しようとするも、槍を構えた少女は怒りで聞き受け入れてくれなかった。確実に冷静さを失っていて、今にも私達に槍を突き刺しそうだ。

「違うんだ。俺達は徴税しに来たわけじゃない」

 兄がアスナの変わりに誤解を解こうとした。

「なにを言っているんで……す…………」

 槍を構えた彼女はアスナと同様に敵視していたが、兄と目が合うと急に勢いがなくなった。

「!?」

 そして急に、タコが茹で上がったように全身真っ赤っかになった。

「あ、ご、ごめちゃ、ごまみゃ、ご、ごご、ごほっ、や、ま、え、あ、あの、ほう、あわっ、あわわわわわわわわ」

 さらにテンパるを辞書を引いたかのように、槍を構えた少女はあたふたに奇妙な動きをして噛みまくる。誰がどう見ても完全に動揺しているのがわかる。心臓がバグバグが今にも聞こえてきそうな勢いだ。

「おい、大丈夫か?」

 兄は動揺し始めた彼女に近づこうとした。

「あ、いや、わ、わたくしくしだ、だだ、大丈夫なわけでごぢゃりまちゅるので! あ、はい大丈夫ですよ! 元気ですかーですよ! 1、2、3、4です! ダーダーダアアアアアア!」

 兄が近づいたことでより一層に混乱してしまった。どうしてそこまで動揺するのだ?
 うん、おかしい。兄だけ明確に反応が違う。なんでだ?
 まさか、兄に対して一目惚れしたのか? だったら兄のくせに生意気だ! というか、兄なんかに一目惚れするとか見る目あるの!? 顔立ちが良い方だけど一目惚れするようなイケメンじゃないよ?
 私もよくわからなくなってきた中、ドウセツは混乱している彼女に透き通るような声で話しかけた。

「……落ち着きなさいよ、“イチ”」

 ドウセツは槍を構えた少女の名前を呼んだ。そしてその名前に私は聞き覚えがあった。

「イチ?」
「貴女は知っているでしょ」
「いや、イチって……あの“イチ”?」
「わからないの? わからないのね」

 ドウセツの人を試すような煽る反応。私が思いつく“イチ”というプレイヤーは一人しか思いつかない。それが合っているなら、彼女が混乱しているのも理由がつくし、なによりも私達のことを知っている。

「イチ、深呼吸して!」
「ひゃ、ひゃい! って、キリカさんどうして!? あ、キリトさんまでいる!?」
「いいから深呼吸して落ち着きなさい!」
「は、はいいぃ!」

 無理矢理でもいいからイチを落ちつかせるために、勢いで指示を出した。
 間違いない。私が思い当たる“イチ”と一致した。混乱しながらも私と兄の名前を知っているし、何よりも動揺した時の噛みすぎる個性を持つプレイヤーはどこ探しても一人しかいない。そしてそんな彼女を知っているなら、攻略組の私達は誰もが知っている。

「大丈夫ですか、イチさん」
「あ、はい。すみません、アスナさん……」

 無理矢理深呼吸したイチは落ち着きを取り戻し、アスナと普通に話しかけられるようになった。
 私としたことが、攻略組の一人が第一層『始まりの街』にある協会にいると微塵にも思わなかった。だからすぐイチだと判別することができなかった。
 私達と同じ攻略組の一人であり、『ソロ十六士』と呼ばれるソロプレイヤーの中でも強い十六人の一人、そして私とドウセツ達と共に裏五十五層のボーナスゲームに参加した『鋼の騎士』である。そして九月の頭くらいから、癖のあるソロプレイヤーと『ソロ十六士』の何名かで、少数ギルド『怒涛の快進撃』を設立。僅か数ヶ月のうちに血聖騎士団や聖竜連合に並ぶ強力ギルドの仲間入りを果たしている。
 おとなしい性格で動揺すると噛みまくるが、片手槍と盾を使用していて防御に特化しており、防御力だけならヒースクリフに続く鉄壁を持っている。
 トータル的に考えれば、ヒースクリフに並ぶくらいの有名人になってもおかしくはないわね。何気に癖のあるソロプレイヤーをまとめるカリスマ性もあるし、かなり頼れる実力と鉄壁もある。そんな彼女がなんでここにいるのだろう。

「あ、えっと……皆さんはどうしてここに?」
「それはこっちの台詞でもあるんだけど……人探しってところかな」
「人探しですか?」
「うん。アスナと」
「!?」

 私はイチに説明する前にイチは目を見開き始めた。

「え、あ、けっきょ、きょ、けこ、けっこしちゃんちゃでしゅか! おめひゃうめごちゃいまちゅ!もう、おちゃまんできちゃちゃゃ」

 そしてイチはまたも全身が真っ赤になり、手足をバタバタしながら噛みまくり始めた。誰がどう見てもなにかに対して混乱している様子で、なにかと勘違いしていた。
 …………イチの視線先には、兄と子供を抱えたアスナ……うん、だろうね。
 よく考えたら、事情を知らない人が男女と子供を組み合わせれば、どう見ても親子しか見えない。私だって事情は知らないとはいえど、二人の子供だと間違えてしまった。だからイチも、兄とアスナのがユイちゃんのという子供を産んだんだと勘違いして動揺し始めた。

「イチさん落ち着いて、そういうのじゃないから!」
「えっ……?」

 アスナは事の経緯をイチに話し始めた。



「すみませんでした…………」
「もう謝らなくていいから。謝ったら斬るわよ」
「あ、はい。ドウセツさんすみません!」
「謝っている」
「は、はい!」
「斬る」
「すみませんでした!」

 アスナがイチに事の経緯を軽く話した後、落ちついて話しをするために礼拝堂(れいはいどう)の右にある小部屋へ移した。

「ドウセツ……あんた、イチの性格をわかっていながらも煽っているよね」
「そうよ」
「そうよって……」

 いや、そこ認めちゃったら駄目でしょ。

「あの……イチさんの言うには、人を探してらっしゃると言うことでしたが……」

 向かい側のイチの隣に座っている、サーシャさんと言うメガネをかけた女性が首を傾けて伺ってくる。その説明役は代表として、アスナが話し始めた

「この子達、二十二層の異なる場所で迷子になって、記憶を失くしているみたいで……」
「まあ……」

 サーシャさんは口に手を添えて、大きな深緑色の瞳がメガネの奥で見開いた。

「装備も服以外はなんにもなくて、上層で暮らしたとは思えなくて……それで『はじまりの街』に保護者とか、この子達のことを知っている人がいるんじゃないかと思いまして探しに来ました。こちらに教会に子供達が集まって暮らしていると聞いたものですから……」

 イチは私達が軍ではないことをサーシャさんに告げた時の間、上は十四歳、下は十二歳の少年少女のプレイヤーを拝見できた。きっとここなら、スズナやユイちゃんのことをなにか知っていると思っていたが果たして……。

「そうだったのですか……」

 サーシャさんは両手でカップを包み込み、視線をテーブルに落として口にした。

「この教会には二十人くらいの小学生から中学生くらいの子供たちが暮らしています。多分、この街にいる子供プレイヤーは全員だと思います……」

 声は細く、けどはっきりした口調でサーシャさんは話し始めた。

「それくらいの子供達のほとんどはパニックを起こし、多かれ少なかれ精神的に問題になっていました。もちろん、ゲームに適応して街を出て行った子供もいるのですが、それは例外的なことだと思います」
「そうですよね……」

 するとイチが当時を振り返るように話しを始めた。

「わたしも当時は何がなんだかわからなくて混乱してしまいました。わかった……わかりたくなかったんですが、頭の中ではもう二度とお母さんお父さんには会えないんじゃないかと思い込んでしまい、ただ泣き叫んでいました。ここにいる子供達よりもちょっと年上だけど当時はとても耐えられなかったんです。いいえ、大人の方だってすぐに適応できないと思うのです」

 今はヒースクリフと並べる程の鉄壁を持つ攻略組かつ、『怒涛の快進撃』のギルドリーダーでもデスゲーム化してしまったSAOの初め頃はベッドに包まって泣いていることだってあるんだ。それもそうだよね。イチの言った通り、当たり前のようにいた両親に、当然会えなくなってしまうし、関わって来た人達とも会えなくなってしまうんだから、精神が持たないのも無理はない。大人だって無理なことが子供に耐えられるはずがない。
 
「サーシャさんは、ゲームが始まってから子供の面倒を?」

 アスナの質問にサーシャは首を振って答える。

「いいえ、最初からではありません。ゲーム開始から一ヶ月くらいはゲームクリアを目指そうと思いまして、フィールドでレベル上げしていたんです。そんなある日、一人の子供を見かけてしまって、その子を放っておけずに連れてきて宿屋で一緒に暮らし始めました。その時、私はそんな子供達が他にもいると思い始め、いても立ってもいられなくなって、街中を回っては独りぼっちの子供にかけるようなことを始めたら……二十人くらいの子供達が集まり、気がついたらこんなことになっていたんです」

 サーシャさんは強ばりながら言い。私達を見移してして、言い続けた。

「イチさんや皆さんみたいに、上層で戦っていらっしゃる方々もいるのに、私は……」
「そ、そんなことないです!」

 イチはサーシャさんが言うことを悟り、勢い良く立ち上がって声を張り上げて発言する。

「さ、サーシャさんは立派に戦っています! 子供さん達のことを失わないように、守ろうと一緒に暮らしているじゃないですか! 立派に戦っています! けして逃げているわけじゃありません!」

 顔が若干赤くなりつつも、噛みそうで噛まない発言するものの、イチが張り上げた声はありのままの意思を響き渡らせる強いものを感じさせられた。

「そうだよ、サーシャさん。立派に戦ってる……俺なんかより」
「キリトさんも立派に戦っています!」
「うおっ!?」

 まさか自分が言われるとは思わず、イチの声量と共に驚いてしまった。
 ……そうだよ、その通りだよ。

「そうだよ、兄。俺なんかとか比較して自虐するようなこと言わないの」
「わ、悪かった……ごめん」

 それを言っちゃったら……私も、私なんかよりもって比較して自己嫌悪になっちゃうんだよ。それでも兄は頑張っているじゃない。兄のことを非難する人はいるかもしれないけど、私達は誰も兄のしたことを責めないよ。

「いぇ、いえええええ、だいじょようゆでちゃやら」

 イチは全身が真っ赤になるように噛みまくりながらブンブンと取れてしまうくらいに首を振って着席。

「いいんです、気にしてませんから」

 サーシャさんはニッコリと笑って、眠るユイちゃんとスズナを心配そうに見つめて口にした。

「私、子供達と暮らすのはとっても楽しいんです。だから私達、二年間はずっと毎日一エリアずつ、全ての建物を見て回って、困っている子供がいないか調べているんです。お二方の小さい子供が残されていれば気づくはずですが……残念ですけど、『はじまりの街』で暮らしていた子ではないと思います」
「そっかぁ……」
「申し訳ありません、アスナさん」

 手掛かりはなし、か…………仕方ないね。
 となれば、可能性として、スズナとユイちゃんは親、あるいは親族の方とはぐれてしまった。おそらく下層で一緒に暮らしていると思う。ただ、それだったらスズナやユイちゃんの情報が流れてもおかしくはないのに……そういった情報がない。
 振り出しに戻るどこか、深く謎が深まるわね……。

「話し逸らすようになるけど、どうして攻略組の一人でギルドリーダーがここにいるのかしら?」
「ふぇ? え、えっと……」

 唐突ではないものの、イチはドウセツの発言に少々戸惑ってしまう。

「その……ゲームが始まって半年後のことです。ふと皆さんが集結しました『はじまりの街』のことが気になってしまい、思わず足を運びました。そこでたまたま一緒にお子さんと歩くサーシャさんと会いまして事情を聞きました。そして思わずわたしも子供達のために手伝いたいと思いまして、わがまま承知でわたしも手伝うことにしたんです」
「そう」
「あ、はい……」

 ドウセツは淡々としながらも納得したようで、これ以上聞かなった。
 ゲームが始まって半年後、結構早くから支援していたのか。それでもヒースクリフ並の鉄壁を持つんだからすごいわね、ほんと。

「イチさんが手伝ってくれているおかげで、充実した生活が送られています。贅沢はできませんけどね」
「なにしているんだ?」

 兄の言葉にイチはビクッと反応しちゃうが、落ち着いて話した。

「たまにわたしが稼いだ半分のコルはここに提供しているんです。お金があれば子供達の食事や服などの心配ごとはいりませんが…………最近、ちょっと」

 イチのおっとりした声が厳しくなって、口を開いて続けようとした時だった。

「先生! イチ姉ちゃん! 大変だ!!」

 数人の子供達がドアをバンッと開き、雪崩込むように入ってきた。

「こら、お客様に失礼じゃないの!」
「それどこじゃないよ、サーシャ先生!」
「ど、どうしたの? 何があったの?」

 イチは落ち着いて目に浮かんだツンツン逆立てた短髪の赤毛の少年の話を聞こうとする。

「ギン兄達が、軍のやつらに捕まっちゃったよ!!」
「え……ええぇ!?」

 イチは話を聞いたらアワワと口を開いてパニクるも、すぐに落ち着いた表情に戻った。

「しょ、しょうでしゅ、ばしゅはどこでちゅか!」
「イチ姉落ち着いて!」

 と、思っていたけど、ポーカーフェイスになっていただけで内心はかなり動揺していた。その証拠に噛みまくっているのが証明されている。

「場所は?」

 サーシャさんは険しい表情で少年の話を訊ねた。なんでも少年の話によれば、東五区の道具屋の空き地で、約十人の『軍』が通路をブロックしていると、コッタと言う子供だけが逃げられたと言うこと。
 ギンという人が捕まったとなると……『軍』に人質を取られていることになるのかな。それは見過ごせないわね。

「よし、行くわ!」
『…………』
「えっ、ちょっと、なんでみんな黙っているの!? 別に変なこと言ってないでしょ!」
「変なことだから黙るのよ」
 
 グサッと、ドウセツの言葉がストレートに刺されたが、なんとか耐え抜いた。へ、変じゃないもん!

「ねぇ、キリカちゃん……状況わかっているの?」
「なにって……アスナもわかることでしょ。子供達が悪い大人達に捕まっている。そうだよね、少年」
「あぁ、そうだ!」

 赤髪の少年は頷いた。

「だったら、やることも簡単だよ。子供達を助けて悪い大人をこらしめる」

 アスナに自分がやることを伝え終えたら、サーシャさんに視線を向け、動向をお願いした。

「すみません、私も一緒に行きますので案内お願いできますか?」
「キリカさん……ありがとうございます。お気持ちに甘えさせていただきます」

 サーシャさんは深くお辞儀したら、私はドウセツ達の方へと向き返った。

「じゃあ、そういうわけだから……」
「誰も行かないとは言ってねぇぞ」

 兄は落ち着いた口調で口にして、立ち上がった。

「キリカちゃん、わたしも行くよ」
「アスナ……」
「さっき驚いたのはあまりにも決断が早すぎるし、なによりもキリカちゃんらし過ぎたから」
「……私は助けを求めたら、手を指し伸ばすだけだよ」

 ユイちゃんを抱っこしてアスナも立ち上がった。

「お人好しも大概ね……」
「悪かったわね、お人好しで」
「そうよ。悪いわ」
「はいはい。でも、私を止める気はないでしょ?」
「そうね…………止める気なんてあったら精神的に疲れるわ」
「酷いなぁ……」
「一緒に行くだけでもありがたいと思いなさい」
「ありがと」
「うん」

 ドウセツもなんだかんだ言いながら、スズナを抱っこして立ち上がった。

「皆さん……本当にありがとうございます」

 また深く、サーシャさんはお辞儀をすると、メガネをグッと押し上げて言った。

「それじゃ、すみませんけど……走ります。行きましょう!」

 教会から飛び出て、一直線に走り出すサーシャさんの跡を私達は追う。
 その後ろには……。

「み、皆さん! 駄目です! も、戻ってください!」

 教会にいたであろう、子供全員が私達の跡を追ってきていた。それをイチがなんとかして止めようとするも、子供達は止まることはなかった。
 サーシャさんも後ろを見て確認するが、追い返す気はなかった。
 子供達も囚われた仲間を黙って待っていられないようで、思わず衝動的に助けに行く姿を見て、思わず笑ってしまう。

「子供もついて来ちゃったか……」
「もういいんじゃない……止めるだけ無駄よ」
「それもそうだね」
「そしてキリカの残念な姿をお披露目する」
「そこにドウセツが加入してふざけないでよね」

 狙うつもりはないが、子供達にかっこ悪い姿は見せたくないので、心して悪い大人退治を心がけよう。
  東六区の市街地に入り、裏通りを抜け、店先や民家、庭など経由して行くうちに細い路地へ差し掛かった。およそ十人の灰緑と黒鉄で装備された者は間違いなく『軍』の人達だとわかった。
 サーシャさんは躊躇せず路地に駆け込み足を止める。

「子供達を返してください!」

 硬い声でサーシャさんは発すると、『軍』のプレイヤーは振り向き、ニヤリッと笑みを浮かべて言った。

「お、叔母さんの登場だぜ」
「子供達を返してください? ハンッ、人聞きの悪いこと言うなって。返してやるよ、ちょっと社会常識ってやつを教えてやったらな」

 子供を人質に取る人が社会常識って……これまたわかりやすい悪い大人達ね。十分人聞き悪いわよ。

「そうそう。市民には納税の義務があるのだからな」

 ワハハハ、と『軍』のプレイヤーは笑い声を上げると、周りの『軍』のプレイヤー達も笑いだした。

「うざいわね……」

 ボソッとドウセツは呟いた。こればかりは……『軍』にはフォロー出来ない。そもそも悪い大人達にフォローするつもりなんてないけど。あ、ドウセツがあまりにも酷いことしなければ例外にしようかな。

「ギン! ケイン! ミナ! そこにいるの!?」

 サーシャさんは固く拳をブルブルと握り震えながら、軍達の向こう側にいる少年少女に呼びかける。

「先生! 助けて……!」

 すぐに怯えきった少女は答えた。

「お金なんていいから、全部渡してしまいなさい!」

 サーシャさんは子供達の身を守るために指示をする。しかし少女はしぼり出すような声で言った。

「先生……だめなんだ……!」
「どうして!」

 その疑問を答えるように道を塞ぐ男の一人が、ひきつるように笑いながら発した。

「あんたら、ずいぶんと納金を滞納しているからな、金だけじゃ足りないよな?」
「装備も置いてってもらわないといけねぇなぁー。防具だけじゃなく、何から何まで全部脱ぐんだな」

 軍達は一斉に下卑(げひ)……卑猥(ひわい)に近いような笑い声を上げた。
 あ、うん……こうなると怒り通り越して同情するわね。

「あの……キリカさん」

 後ろからイチが寄って来て、ボソボソっと声をかけて来た。

「あ、あの人達は……なにがしたいんですか?」
「今言ったことは裸になれって言うことじゃない?」
「え、えぇぇっ!? そ、そんな、サーシャさんにそんなことは駄目ですよ! わたしが身代わりに……」
「おそらく、ここにいる女の子全員に言っていると思うから身代わりは無理」
「そ、そんなぁ……っ!」

 貴女、一流の中に入る攻略組の一人なんでしょ? いや、彼女の性格上、あわわわってパニクるのがイチらしいと言うか……それで本当に兄を打ちのめしたヒースクリフ並の鉄壁を持つと言われているんだから。ほんとすごいよ。
 『軍』は金も目当てだろうとは思っているけど、あの発言だと女も狙っている。それは『軍』でも徴税隊でもない。例えるなら…………時代劇に出てくる、悪大官とその部下達って言うべきだろう。
 と言うことで、時代劇のお約束通りに……退場されてもらうことしましょう。

「邪魔よ」

 目の前にいる男達は漆黒の名の元に、黒色の閃光と風を切るような音が鳴り響き、後ろに飛ばされてしまった。
 周囲、いや全員がそれに驚いていた。『軍』も、サーシャさんも、イチも、アスナも兄でさえも、そしていつの間にかスズナを抱いていた私も驚きを隠せないでいた。
 街区圏内は犯罪防止が働いているため、プレイヤーにダメージを与えることや殺すことも出来ない。『軍』はそれを利用して、『ブロック』と言う通路を塞いで閉じ込め、『ボックス』と言う、直接数人で取り囲むことで相手を動かなくさせる悪質な方法で子供達を人質にしていた
 それをドウセツは“居合い”で意図も簡単に正面から『ブロック』と『ボックス』を一蹴したのだ。
 私は悟った。私の出番はないなと言うことを……。
 そして私は『軍』に同情するんだろうと、悟ってしまった。
 ドウセツは周囲の反応など気にせず、子供達、十代前半の少年二人と少女一人の所へ近寄った。



「装備戻してもいいわよ」

 少年少女は固まって身を寄せ合って目を丸く見つめていた。

「あんなの気にしなくていいから。お姉ちゃんの話を聞きなさい。ね?」

 そう言うと子供達は頷き、防具を拾いウィンドウを操作した。

「おい……オイオイオイ! なんだ、お前は!」

 今になって我に返ったようで、『軍』の一人が喚きながら言ってきた。

「『軍』の任務を妨害するのか!!」
「軍?」

 私は『軍』と名乗る無個性なプレイヤーの顔をわざと見比べるように見る。

「………誰のこと言っているのかしら?」
「は?」
「私には子供を誘拐するバカで無能で、見るに耐えられず背けたくなるような気持ち悪いロリコン集団の間違いでしょ? ここに『軍』なんていないわ」
「こ、この……っ!」

 何故、彼らは憤りを立てているのかしらね? 自分の立場を考えればわかることなのに。いや、わかっていないわね、バカだから。
 憤りを覚える『軍』もとい気持ち悪いバカなロリコン集団。そんな中、押し留めて近づいてきたのは、一際重武装の大男だった。

「あんた、見ない顔だけど解放軍に楯突くと、どうなるかわかっているんだろうな?」
「どうなるの?」
「クク、二度と我々に逆らえないようにしてやるのさ」
「それで?」
「表に出るのが恥ずかしいくなるくらいに俺達が教えてあげるのさ。逆らってしまう恐怖っていうやつをな!」
「それで?」
「そ、それで?」
「それで? 他にないの?」
「あ、あるに決まっている! お前が逆らったせいで、お前に関係する人物にも教えてやるんだよ」
「それで?」
「は……?」
「な、何が言いたいんだ、貴様は!」

 押し込めた苛立ちを放つように叫び上げた。

「その程度のくせにずいぶんと小物以下の分際で偉そうな態度を取っているわね」
「なん、だと!?」
「私からしてみれば、子供を人質にして、カツアゲと脅迫しているような犯罪者しか見えなかったわロリコン集団。底辺な存在なのになんでそんな上から目線で偉そうな態度を取っているのか理解不能。それには理由があるかと思えばその程度しか考えていない。本当に気持ち悪い。今貴方達と会話したことを忘れたいわね。それじゃあ、永遠に私の前に現れないで」

 私は子供達を連れて、サーシャさんの元へ歩き出す。
 そして私の予想通りの展開があるとしたら、『軍』は怒りの限界を超え、キレ始めるだろう。

『き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』

 大人数がハモると更に声量が増すのね。いらない知識がまた増えた。
 予想通り。私の発言でブチ切れたようで怒りを露にしていた。大男が腰から大ぶりのブロードソードを引き抜く。これも予想通りで、言葉で枯れないから実力行使で黙らせようとする。これ以上のわかりやすさったらないわね。

「その暴言……聞き捨てられねぇからな! 軍に楯突くことを思い知らさぶへっ!!」

 言い終わらないうちに、居合いで一気に刀を引き抜き一閃。ダメージを与えずに、彼の心にダメージを与えた。

「良いこと教えてあげる」

 誰よりも、サーシャさんよりも、キリカよりも先に私が動いたのはそういう性分だから認めるしかない。ただ、私はキリカのような人を助ける善人ではない。それでも私が決めたことだから、それから逃げたくはない。
 私は子供を人質に取るような人には罰を下したくなった。それだけの理由で、私はカタナを抜こう。

「私に勝てる可能性なんて、何一つないわよ」
「この、このっぐばはぁっ!」

『軍』のプレイヤーは次々と攻撃してくるけど、正直弱いので居合いの放つ剣閃で容赦なく蹴散らした。

「この女っ……おい、お前ら、こいつをなんとかしろ!!」

 ブロック役のプレイヤーも。武器を抜いて襲いかかって来た。この程度のプレイヤーなら大人数でも切り抜けられる、が。

「ごはっ!?」

 気がついたらアスナも参加。細剣を手に取り、ニ、三人ほど突き飛ばした。

「ドウセツ、わたしにもやらせて」

 その表情は、過去によく見た狂戦士を思わせるような顔。だけど自暴自棄のような雰囲気ではなかった。
 単純に『軍』のやり方に対して怒りを抱き、我慢し切れずに成敗を下したいわけね。

「私だけでも十分よ」
「それでもやらせて」
「あっそ、だったら後ろは任せるわ」
「わかった」



 ……想像して見ようかな? 大和撫子が氷の悪魔になった瞬間はどれほど恐怖を感じるだろうか。寒気がするだけでは済まされず、凍えるような恐怖で身動きできない感じなんだろうか? どっちにしろ『軍』は災難な目に合っているのは事実として認められてしまっている。今まさに『軍』はドウセツの居合いだけでなすすべもなくやられていく。さらにアスナも参加し、殺意に似た怒りを力に変えた細剣に『軍』の連中は手も足も出なかった。いや出す暇も無いだろう。
『軍』の皆さん…………相手が悪すぎた。
 あのドウセツに言葉も力でも勝とうとする時点で、敗北が決定しているようなものだ。そもそも時代劇の悪代官とその仲間達みたいなことをしている時点でフラグは立っている。そのことを気づいていれば氷の悪魔にやられないで済めたはずだ。
 おまけにアスナも参加しているんだから阿鼻叫喚。そのアスナも、昔の私に似た鋭い目付きで怒りを力に変えているんだから、並大抵の強さがないとアスナを止めることはできないだろう。
 それ抜きにしても、『閃光』の二つ名を持つアスナと、それに対する『漆黒』の二つ名を持つドウセツが攻略組でもない『軍』に負けるわけがないわね。
 私が捕らわれている子供達を助けようとしたけど、それはドウセツがすでに救出しているし、『軍』のおしおきもアスナ抜きにしてもできているので私や兄、イチが参加するまでもない。

「私達の出番ないね」
「だな」

 私達、双子の父親は正義ヒーローと言わんばかりに、悪い大人たちをこらしめている母親を眺めていた。その結果、数人の『軍』プレイヤーは虚脱して転がっているか、気絶していたり寝転んでいたり、残りのはリーダーを見捨て逃げ出していた。
 十二分にも悪い大人達をこらしめた二人の母親は武器を鞘に収めて振り返る。
 それに対し、私はスズナを抱いたまま近くに寄る。兄はアスナのところへ行った。

「お疲れさま」
「悪いわね。貴女の変わりに動いて」
「いや、別にいいよ。ドウセツが優しいの、知っているし」
「別に優しくはないわ……」

 またまた、そんなこと言っちゃって。びっくりしたけど、ドウセツが子供達のために動いたってこと、わかっているよ。
 アスナにも声をかけようと、顔を向ける。
 清々しい表情をしているドウセツと違って、アスナの表情は沈んでいた。元気がないというか、やってしまった感が漂う……。

「兄ー、アスナどうしちゃったの?」
「いや、それが……」
「キリトちゃん……わたし、やり過ぎちゃったかも……」
「あぁ……」

 サーシャさんと子供達に視線を向ける。映っていたものはポカーンと口を開いる。言葉を詰まられるのはまだしも、完全に絶句していた。
 確かにアスナはやりすぎたかもしれない。『軍』に同情させるほど、アスナが『軍』に対して容赦なく成敗していた。子供達からすれば、ヒーローが悪を倒すというよりは、もの凄く強い悪が悪を倒している方がイメージしてしまったかもしれない。
 アスナは自分の行動には後悔してはいないと思うが、その結果子供達を怯えてしまったと思うと罪悪感を抱き、表情が浮かばなくなるだろう。

「だから言ったのに……私だけで十分だって」
「でも……」

 ドウセツは例え子供達が助かれば、怯えても構わないと思っている様子。
 それでも子供達は助かったんだから、私は誇ってもいいと思うんだけど……。
 
「み、皆さん凄いですよ!」

 突如、一人大きな声で発する。
 大きな声を出していたのはイチだった。

「二人のお姉さん達のおかげでギンさん、ケインさん、ミナさんは無事に助かりました! わたし達を救ってくれたお姉さん達に…………ば、バンザーイ! バンザーイ!」

 不器用ながらもイチは空気を変えようとして、アスナとドウセツを慰めていた。アスナとドウセツは子供達の味方であり、ヒーローだった。そうであるようになんとかしようと頑張って声を張り上げていた。
 すると、赤毛の少年がアスナに近寄り瞳を輝かせながら口にした。

「す、すげぇ……」
「えっ?」
「すげぇよ姉ちゃん! 初めて見たよ、あんなの!」

 少年の発する言葉に続いて、ミナと言う少女はドウセツを見つめて発した。

「お姉さんありがとう……綺麗でかっこよかった……」
「そ、そう……」

 慣れない言葉を受けたドウセツは戸惑い、私達双子に助けを求める視線を送った。

「このお姉ちゃん達はな、無茶苦茶強いんだぞ」

 ユイちゃんを抱いたまま、兄はニヤニヤ笑いながら赤毛の少年の髪をワシャワシャとかき撫でた。

「どうやら怯えてないようだよ、アスナ」
「キリカちゃん……」
「だからさ、沈んだ表情しないで……笑ったらどうかな?」
「え、う……うん」

 アスナは唾を飲み込んでから、

「え、えへへ」

 困ったように笑うと、「ワーッ」と子供達は歓声を上げて一斉に近寄っては飛びついて来た。

「サーシャさん泣かないで喜んでください」
「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……っ」

 サーシャさんはイチさんに宥めながら両目に涙を溜めて泣いていた。そして笑った。

「ありがとうございます。本来ならわたしが助けるべきなのに……なにもできませんでした」
「いいよいいよ、私も今回は何もできなかったし、助けようとした気持ちはあったのはわかるからお礼はいらない。お礼を言うならドウセツに言ったら?」
「だったら今すぐ助けてくれない?」

 少年少女に抱きつけられているドウセツは、対応がよくわかっていないのか、オロオロしていた。その戸惑い具合は、氷の悪魔とは程遠くて、可愛らしいと思った。

「クスッ……ドウセツさんって、いつもクールで怖い方だと思っていましたが、そんな表情するんですね」
「笑ってないで助けなさいよ」
「すみません。子供達はドウセツさんに懐いているので頑張ってください」
「そうそう。今回のヒーローはドウセツなんだから、ドウセツがなんとかしなさい」

 私とイチは笑みを浮かべ、ドウセツを見守った。
 温かい空気が広がっている時、ヒヤッとするような冷たさと鈴の音が響いた。

「みんなの……」
「ユイ、どうした?」
「みんなの、みんなの……こころが……こころ……が……」

 一瞬空気をガラッと変える冷気の正体を探ってみると、それはユイちゃんだった。いつの間にか目を覚ましたユイちゃんは、兄に抱かれたまま空に視線を向け、右手いっぱいに伸ばしている。

「空?」

 私はその方向に視線を移したが何もない青くすんだ空だった。
 するとユイちゃんはニ、三度瞬きして、キョトンとした表情を浮かべる。

「ユイちゃん……何か、思い出したの?」

 慌ててアスナは寄ってユイちゃんの手をギュッと握る。
 ユイちゃんは眉を寄せ、何かを思い出すように苦しみ、顔をしかめては俯き、声が漏れるように言った。

「……あたし……あたし、ここには……いなかった……。ずっと、ひとりで、くらいところにいた……」

 その刹那。

「うあ……あ……あああああ!!」

 顔を上げて、細い喉から高いノイズのような悲鳴を上げた。
 ザザッと聞きなれないノイズが耳に響き、硬直した体のあちこちが崩壊するように激しく振動した。
 思わぬところで急激に苦しみだすユイちゃん。あまりにも突然で、あまりにも現実味がなく理解が追いつかない。対処する方法が思いつかない時だった。
 柔らかい風が吹き、音となり響きかせた。
 それはまさしく空気をガラッと変わる温かさ。

「声……?」
「ドウセツ、スズナが!」

 一瞬空気をガラッと変える暖気の正体は、スズナだった。
 私の腕に抱かれながら、目を閉じながら幼い子供とは思えない高い音色で歌っている。

「ああああ……ああ……あ…………」

 スズナが歌う曲は知らなかったが、どこか懐かしくて温かい、まるで子守唄のようだった。その歌声は柔らかい風のように吹き響きかせ、聴く人達に心を満たしていた。

「あ……ね…………ち……」

 ユイちゃんも悲鳴が徐々に消えて、安心したように安らぎ、スヤスヤと眠りについた。
 ユイちゃんが健やかに眠ると同時にスズナの歌声もピタリと止まり、まぶたを開けて起き始めた。

「スズナ……今のは」
「……わからない。でも、ユイが苦しんでいたから……」

 スズナはいつもと同様に表情は淡々としている。そして顔を見上げてドウセツに話しかけた。

「お母様……『旧ユニークスキル』持っているんだね……カッコイイ、お母様」
「なに?」
「旧ユニーク、スキル……え、きゅ、旧!?」

『旧ユニークスキル』
 私達の知らない言葉を前から知っているかのように、スズナの口からスラスラと言葉にしていた。
 今日、ドウセツがスキルを使ったのは『ユニークスキル』とも呼ばれる『居合い』だけだ。
 ドウセツしか持っていない『居合い』スキル。SAOではヒースクリフに続いて二番目に公表された唯一無二の固有スキル保持者だけあって、ドウセツの『居合い』スキルも『ユニークスキル』と称することになった。
 でも実際は『ユニークスキル』というカテゴリではなく、『旧ユニークスキル』というものなのか?
 どうしてスズナがその言葉を口にした? なんでドウセツの『居合い』スキルが『旧ユニークスキル』なの? そもそも『旧ユニークスキル』ってなに?

「あぅ……おやすみな……」

 言い終わらないうちにスズナも眠りについた。

「どう言うことかしら……」

 スズナとユイちゃんの両親を探しにやって来た、第一層『はじまりの街』
 まさか謎のキーワードが浮かんでくるとは思わなかった。
 突然ユイちゃんが苦しんだこと、ユイちゃんの苦しみを安らげたスズナの歌、そしてスズナの口から出た『旧ユニークスキル』
 私達が思っている以上に、二人は特別かもしれない。
 そして思ってしまう。だけど口にするのはまだ早い。
 二人はプレイヤーでもNPCでもない、特別な存在だと思ってしまうから。 
 

 
後書き
SAOツインズ追加
イチ
この話から登場するオリキャラ。どうやら矛盾という言葉が好きみたいなのか、またも矛盾の盾を象徴ようなキャラです。後に矛を象徴するような正反対のキャラが出てきます。ここで出したのは後の展開に必要だったと思うから。(書き方次第ではそこまで必要じゃないかもしれんww) 
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