同じ曲を三ヶ月
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第一章
同じ曲を三ヶ月
水谷麻美の姉琴美は天才ピアニストと呼ばれている、コンクールに出れば優勝で通っている芸術大学でも将来を渇望されている。
麻美もピアノをしている、だが。
「まあお姉ちゃんはお姉ちゃんだ」
「それであんたはあんたよ」
「色々言われてるみたいだな」
「気にしたら負けよ」
両親は彼女にこう言うのだった。
「あんたはあんた」
「そのまま頑張っていけ」
別に贔屓はせず良識もある両親だからこう言った、二人共面長で切れ長の大人しい感じの目で楚々とした雰囲気で姉妹は外見は似ていた。
だが一六三程の背の麻美に対して琴美は五センチ程高くスタイルもよく黒髪はさらさらで長く同じ黒髪でもやや癖がある麻美よりもだった。
姉は奇麗と言われ尚更だった。
「お父さんもお母さんも何も言わないけれど」
「あんたとしてはなの」
「お姉さんが気になるのね」
「どうしても」
「お姉ちゃんも何も言わないのよ」
通っている高校の友人達にも話した、尚高校では部活には入らずピアノ教室に所属して活動している。そちらでは評判になっている。
「泰然自若で」
「我が道を往く」
「そんな人よね、お姉さんって」
「あくまで自分のピアノが大事で」
「あんたを馬鹿にしたりとかはしないのね」
「普段も仲悪くないし」
ピアノを除いてもというのだ。
「困苦ルールの前は頑張る様に言ってくれるし」
「いいぽ姉さん?」
「そうよね」
「それじゃあ」
「けれどやっぱりどんな曲も凄いレベルで弾いて練習の時も凄いから」
妹としてそうした姉を見ていてというのだ。
「いつもね」
「負けてる」
「そう思うのね」
「そしてそれが辛い」
「そういうことね」
「ええ、一曲だけでもね」
麻美は心から言った。
「お姉ちゃんに勝てないまでも」
「同じ位弾けたら」
「そう思うのね」
「そうなのね」
「そう思ってるわ」
切実な思いだった、だが。
どんな曲もかなりのレベルで演奏して見せる姉を目指して色々な曲を練習してコンクールでも演奏したがやはり勝てないと思った、これが天才かと思うだけだった。
だがその彼女を見て通っているピアノ教室の先生である森田美佑もう六十になり白くなってきた髪の毛を整えた眼鏡が印象的なきりっとした顔立ちで小柄な彼女が言ってきた。
「三ヶ月後のコンクールで演奏する曲を決めましょう」
「それをですか」
「今からね、そして三ヶ月の間ずっとよ」
こう麻美に言うのだった。
「その曲だけをよ」
「練習するんですか」
「ええ、何があってもね」
「その曲だけをですか」
「他の曲はね」
それこそというのだ。
「これまでは貴女はコンクール用の曲をメインに練習して」
「他の曲も演奏していました」
「そうだったわね」
「そうでした」
「それをね」
「三ヶ月の間ですか」
「もうね」
「その曲だけをですか」
「練習の間はね、それで見る楽譜もね」
これもというのだ。
「この曲だけにして」
「読んでいくんですか」
「そうしましょう、もう一曲だけに」
「三ヶ月ですか」
「集中しましょう」
「そうすればですか」
「貴女一曲だけでもよね」
麻美にだ、先生として尋ねた。
「言ってたわね」
「お姉ちゃんに並びたいです」
「並ばないわ、勝てるわ」
「お姉ちゃんにですか」
天才と言われている彼女にとだ、麻美は思わず問い返した。
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