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癇癪持ちの老女が

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第一章

               癇癪持ちの老女が
 矢萩治子はかつては穏やかな女性だった、だが還暦を過ぎて息子達が家を出ると時折ではあるが癇癪を起こす様になった。
 面長の顔には皺があり短めにした髪の毛はかなり白くなっている、小さい目と唇にも年齢が感じられる。背は一六〇位で痩せている。
 これまでは穏やかだったがその顔は徐々にだ。
「険しくなってきてるわね、治子さん」
「そうなんだよな」 
 彼女の夫の善積は自分の姉の由里に話した、太ってがっしりした体格で大柄で白髪頭を角刈りにして太い眉と小さな一重の目と一文字の口を持っている。背は一七五位だ。
「これが」
「何か歳を取ってね」
「急にだよ」
「癇癪出て来たわね」
「ぼけた訳じゃないけれど定年でな」
「落ち着いたら」
「変に性格変わったな」
 七十過ぎだが年齢を感じさせずセットした長い黒髪と丸めの顔は若々しく小柄で動きもいい姉に話した。
「あいつも」
「どうしてかしらね」
「息子達も家を出てな」
「それで定年でずっとあなたと二人で」
「何かそこで弾みでな」
「癇癪の癖がついたのかしら」
「かもな、原因はわからないけれどな」
 こう姉に話した、彼女の家で。姉の夫もいるが今は何も言わない。
「家で二人きりで外に出ないで息子達もいなくてその分寂しくて」
「ストレス溜まってるのかしら」
「それか?ストレスか」
「だったらね」
 ここで由里は弟に言った。
「癒す何かをね」
「用意するか」
「それでだけれど」
 さらにだ、由里は話した。
「うちのハナが子供産んだから」
「ああ、白い柴犬の」
「今子供達の家族探してるけれど」
「うちにもか」
「一匹貰ってね」
「あいつの傍に置くか」
「そうしたらどう?犬や猫と一緒にいたらね」
 そうしたらとだ、由里は話した。
「ストレス解消になるし癒されるし」
「そうだな、あいつも癇癪なくすな」
「そう、だからね」
「それじゃあな」
 善積は姉の言葉に頷いた、そうしてだった。
 彼は一旦家に帰って妻と話してそのうえで実際に姉の家の子犬を一匹家族に迎えた、他の子達も近所のいい人達に迎えられ。 
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