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老いてもアイドル好き

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第一章

               老いてもアイドル好き
 麦沢義龍は八十歳になる、だが。
「ひい祖父ちゃんまたかよ」
「またコンサート行くの」
「そうして来るぞ」
 同居している曾孫達に白髪と皺だらけの顔で答えた。
「楽しくな」
「元気だな」
「しかも八十過ぎてアイドルって」
「普通じゃねえな」
「そうよね」
「普通じゃなくても好きだからな」 
 それ故にというのだ。
「わしはキャンディーズの頃からな」
「それ何だよ」
「聞いたことないわよ」
「アイドルか?」
「グループ?」
「わしが若い頃のな」
 こう曾孫達に話した。
「まあ五十年以上前か」
「って祖父ちゃん子供の頃か」
「その頃じゃない」
「大昔だろ」
「私達いないじゃない」
「その頃からでな」
 さらに言うのだった。
「今もじゃ」
「アイドル好きかよ」
「推しの娘もいて」
「グッズも買って握手会も出て」
「コンサートにも行くのね」
「そうじゃ、行くぞ」  
 笑顔での返事だった。
「今日もな」
「それで今日はどのグループだよ」
「どの人のところに行くのよ」
「ほっほっほ、今日はご当地アイドルじゃ」
 そちらだというのだ。
「最近チェックしておってのう」
「地元かよ」
「そっちなのね」
「アイドルなくしてじゃ」  
 義龍はこうも言った。
「まさにじゃ」
「ひい祖父ちゃんは生きていられない」
「そうだっていうのね」
「アイドルこそはじゃ」
 まさにというのだ。
「わしはない」
「やれやれだな」
「気持ちは若いわね」
「永遠に若いぞ」
 こうも言ってだった。
 コンサートに行って楽しんだ、そしてだった。
 家でそのコンサートのことを満面で話すが妻の佳織七十八になり白髪頭で穏やかな顔立ちの彼女はというと。 
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